2016年4月13日

【第2回】非鉄戦略 課題と展望 ■伸銅品 数量維持・底上げ重要 市場ニーズ捉え戦略を

伸銅業界は高付加価値戦略と数量の維持・底上げという、日本の素材産業にほぼ共通する中長期的課題に直面する。とりわけ、数量を維持していくという部分は今後の国内伸銅メーカーにとって重要だ。近年の国内生産量の漸減傾向を見ても、内需だけでは需要がまだ減少方向に進む公算が大きい。内需の減少分を補うだけの海外需要を取り込んでいくためには、高機能・高品質を売りとしながら、いかにコスト競争力のある商材を増やせるかがかぎになる。

高付加価値戦略の位置づけ

日本の素材産業は高機能と高品質が強みといわれるが、伸銅品でもそれは変わらない。そのことを明確に示す一例が、最先端機器の代表格であるモバイル端末分野だ。

初期の携帯電話から折り畳み式、スマートフォンへと機器の進化を支えた部材には、フレキシブルプリント基板用の銅箔やマイクロコネクター用の高強度な特殊銅合金条など、日系メーカーの伸銅品が多く使われている。

こうした先端分野の伸銅品は、エリア的に日系メーカーの競合となる中国や韓国のメーカーと、いまだ技術力の差がある。

例えば一般的な銅合金で最も高機能なベリリウム銅は、中国でも10社以上が製造しているといわれ、日系メーカーが圧倒的に強い圧延銅箔は「中国でも厚さ10ミクロンくらいのものができると言っているメーカーが出てきた」(大手伸銅メーカー幹部)。しかし、いずれにしても「先端分野で実際に使える品質レベルではない」(同)のが現状だ。

スマホでも、中国などの廉価版では安かろう悪かろうという部分があるが、それでも重要部品に使われる素材は日本から仕入れるものが少なくない。近年はアジア系スマホメーカーも高機能化の流れがあり、むしろ日系メーカーへの引き合いは増えているという。

高付加価値分野における日系企業のポジションは、少なくとも今後数年で引きずり降ろされることはないように見える。ただ、素材が進化し続けても、需要家に求められなければ意味がない。

このため強度、導電率、加工性、薄さなどでどこまで特性を高めるかという観点に加え、顧客が求める最低限の特性を出せる素材を、収益率を最大化しながらいかに低コストで提供できるか――という戦略がこれまで以上に重要になる。

需要見極めた戦略、海外展開でも重要に

最先端の高付加価値分野は個別に見れば収益性が高い半面、少量多品種の生産になるため工場の操業度は悪くなる。多くの設備と人員を抱える伸銅業において、固定費を吸収し企業収益を最大化するには、比較的汎用性がある商品で一定のボリュームを維持することも不可欠だ。

国内で需要のパイが小さくなるなか、伸銅業全体を盛り上げるにはアジアを中心とした成長市場を取りたいところ。ただ、海外の汎用品市場は完全に価格競争の世界であり、数量だけを目的に真正面から戦えば採算性と両立しない。

日系メーカーが狙うべきは、ボリュームゾーンでも一定の機能と品質が求められる中・高品位な分野だろう。需要地に在庫倉庫を構え、スリットやめっきで付加価値をつけ、短納期供給できる体制も海外で戦うための基本インフラになる。

例えば自動車。国内伸銅メーカーは日系自動車メーカーの海外工場向けに輸出するものはあっても、アジアの欧州系工場向けなどは少ない。安全性が求められる自動車は、大量生産と同時に機能性、品質安定性が要求される日本が得意とする分野。海外の自動車は、使う銅合金やめっき方法など基本的な設計思想が異なるが、ニーズをはっきり汲み取れば技術的には対応できる部分が少なくない。

また、ボリューム戦略でも高付加価値戦略と同様、必要な機能とコストのバランスを見極めることが重要になる。こうした観点で、既存の合金を別の用途に展開し、競争力のある市場を見出すことも有益だろう。自動車や半導体用の既存合金を、近年需要が増す電子機器などの放熱用部材に展開する取り組みなども直近見られる。

新興国市場での伸銅品を含む銅需要の拡大は、ここにきて若干の足踏み感はあるが、まだまだ伸びるとみられる。その成長分の一部でも取り込めれば、内需の落ち込みをカバーできる可能性はある。

2020年の東京五輪開催までは、建築や通信・インフラ環境の整備などが伸銅品の内需を支えるとみられるが、その後については厳しい見方をする向きが多い。伸銅各社は20年以降を見据え、中長期的視点で事業を続けられる事業の基礎を数年で築いておく必要がある。

スポンサーリンク