2016年8月3日

財界トップインタビュー 「世界経済と鉄鋼業」(中) 日本経済団体連合会副会長(三井物産代表取締役会長)飯島彰己氏 生産性向上へ官民連携

――世界経済全体を見渡すと。

「資源価格の下落、人民元の切り下げ、シリアからの難民問題などを含めて不透明感が強まる一方、新興国経済が減速し、先進国も回復が遅れている。直近でも、ブラッセルやパリ、ニースでのテロ、トルコではクーデター未遂などにより政情不安が広がり、米国でも人種問題等を背景とする事件が続いている。英国のEU離脱は金融市場の混乱を招いており、米国は大統領選挙を控えて政治停滞期に入った。世界経済はひとつの踊り場にある」

――テロやクーデターは日本企業のビジネスにも影響がある。 「日本政府から情報提供を受けながら、各企業が、社員の安全維持・管理対策を講じる必要がある。われわれ総合商社はBCP(事業継続計画)に鑑み、渡航禁止という判断は難しく、ケースバイケースで安全対策を徹底している」

――三井物産の管理体制は。

「安全対策室を人事総務部内に設置し、専門家が24時間体制で外務省や各種機関と連係しながら情報交換し、最善策を打ち出している。足元、緊迫する事態が続いているが、従来以上に本機能を強化していく必要があると考えている」

――ところで日本経済は停滞が続いているが、何が不足しているのか。

「企業マインドが相当改善され、ほぼ完全雇用にあるにもかかわらず、日本経済が停滞している背景には二つの問題がある。一つ目は、過去の経済発展の結果として、いわゆる基礎的なニーズが充足されているため、新しい需要創出が難しくなっている点。先進国共通の構造的な現象であり、三井物産の社内には『発展ゆえの停滞』と表現している人もいるが、この課題は政策では解消しにくい。二つ目は、人手不足が経済成長の制約要因となりつつある点。特に建設業界では深刻な人手不足が続いている。この課題を解決するには、新たな労働力をどのように確保するかという問題の他に、日本全体で生産性を上げていく取り組みを実行していく必要がある。安倍政権が打ち出した『日本再興戦略2016』でもサービス業の生産性向上に言及しているが、これは10年来の課題であり、なかなか進んでいない。官民が連携して知恵を絞るプロセスが必要だろう」

――潜在成長率の低下も指摘されている。

「少子高齢化が進んでいることに加え、設備投資の軸足が海外にシフトし続けた結果、潜在成長率が低下し、日本経済は自力で成長する力が弱まっている。これから人口減が加速する中で、サプライサイドの生産性向上を図り、潜在成長率を高めていかない限り、経済は活性化しない。TPP(環太平洋経済連携協定)が、人材や新しいビジネスモデルを呼び込むチャンスになる」

――TPPへの期待を。

「これまでの経済連携協定に比べて、範囲が圧倒的に広く、これほど自由化率の高い協定はない。米国の大統領候補者が思惑含みの発言を繰り返しているが、世界経済の成長を促す起爆剤、日本の成長戦略の柱でもある。早期批准され、発効することを望んでいる」

――商社は日本経済の成長に貢献してきた。

「明治の建国期には、生糸や石炭の輸出を担うことで外貨を稼ぎ、それを資金として先進国の技術や設備機械を導入して、繊維や化学などの産業育成に貢献してきた。高度成長期には、原燃料確保と輸出製品販路の開拓を行うなど、成長した日本産業のニーズに応え、重化学工業や情報産業等の発展に寄与してきた。総合商社の歴史を振り返ると、時代の要請に合わせて業態を変革させ、国づくりに貢献してきた。これからもそういう存在でありたい」

――地方創生、日本再興に向けて、商社機能の発揮が期待されているが、三井物産としてのアプローチは。

「地方創生という視点では、従来、経営企画部にあった一組織を国内ビジネス推進部として拡大し、支社支店に若手社員も投入して、彼らに対する教育を兼ねながら、ビジネス創造に取り組んでいる。一方、イノベーション推進室では、AIやロボティクス、IoT、ビッグデータなどを活用しながら日本の産業の強みをどのように生かせるか、グローバル展開できるかという視点で投融資案件の創造に注力している」

――地球益という観点では。

「過去に日本国内で行ったような、各種の産業を育成、支援し、国内の市場が成熟すると各産業のグローバル展開をサポートするというプロセスを、現在、新興国で展開している。資源を開発して運び、販路を開拓することで外貨を稼ぎ、新たな産業を育成する。例えば、モザンビークでガス開発プロジェクトを興し、発電事業を立ち上げ、社会インフラ整備に結びつけている。さらにアンモニアなどの化学品を製造し、そのアンモニアを使って農業を効率化するというバリューチェーンを産み出している。海外諸国への貢献によって地球益を創出することは、日本への貢献にもつながる。『日本のために世界に尽くす』とスローガン的にいっているが、日本企業のビジネスチャンスが大きく広がり、外交活動に好影響をもたらす。それが新たなビジネスチャンスとしてさらに広がっていく。この好循環を各国・地域の状況に応じながら繰り返していくことが、世界の貧富の差の解消、そして平和につながると確信している」

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