2016年9月6日

財界トップインタビュー 「関西経済と鉄鋼業」(上) 関西経済連合会副会長(神戸製鋼所相談役)佐藤廣士氏 複眼型国土 官民一体で注力

――代表的産業の一つである家電の後退により、関西は経済地盤が沈下しているイメージが強い。まずマクロ経済動向から。

「関西のGRP(域内総生産)は日本全体の16%前後で大きく変化してはいない。1985年はGRPが約54兆円で、シェアは16・6%だった。直近で比較可能な2013年がGRP約80兆円で、シェアは15・6%。域内経済をけん引してきた繊維や家電などが生産拠点を海外にシフトし、第2次産業が39%から24%に低下。第3次産業は60%から76%に上昇している。産業構造は変化しているが、もともと創造力が旺盛で、商魂たくましい土地柄。モノづくり力はしっかり蓄積されており、研究・開発体制も一層充実してきている。大きく発展する潜在能力は高いと認識している」

――足元の景気動向は。

「日本全体の景気と同様、生産・消費がやや弱含んでいる。英国のEU離脱決定後の円高、相次ぐテロによる地政学的なリスクの高まりなどを背景に輸出額も減少基調にある。好調だったインバウンド需要は、高級品から化粧品や雑貨などコモデティーにシフトしつつあり、人数は増えているが、消費額が減少傾向にある。鉱工業生産も伸び率が鈍化している。会員企業のアンケート結果を見ても、円高に対する不安が高まっており、設備投資などへの悪影響が懸念される。政府には、行き過ぎた円高の是正など的確な経済対策の実行をお願いしたい」

――経済活性化に向けた、関経連の取り組みを。

「日本の持続的発展を実現するには、日本自体の成長力を高め、日本経済を底上げする必要がある。政府が進める『地方創生』や『一億総活躍社会』には、まさに日本の底力を高める施策が盛り込まれている。関経連は2012年に『2020年関西のありたき姿』の実現を目指して、『双発エンジンとして首都圏と並び日本をリードする』『アジア有数の中核都市圏になる』というビジョンを掲げた。そして3年ごとの中期目標を設定し、具体化してきている。現行の第2期(15―17年度)では『複眼型国土の形成』『健康・医療イノベーションの創出』『関西広域観光戦略の推進』『アジアでのビジネス機会創出』の4つを重点事業に位置付けて、具体的な活動を展開している」

――「複眼型国土の形成」の狙いを。

「リニア中央新幹線の大阪までの開業時期の前倒し、省庁の関西への移転などを通じた、首都圏と関西圏との複眼型でリスク分散型の国土形成を目指している。関西圏発のまったく新たな視点を政策に加えるとともに、自然災害やテロなどによる一極集中のリスクを低減する。リニアは全線整備促進のための政府の財政投融資活用の検討が始まり、北陸新幹線の金沢から敦賀、さらに大阪への延伸についても整備が加速する方向にある。文化庁の京都府への移転が決まり、消費者庁と総務省統計局についても、一部業務が徳島県、和歌山県に移転する。陸・海・空の交通物流インフラ整備に向け、各自治体や他の経済団体と一体となって取り組んでいる」

――港湾、空港ともに競争力強化策が奏功し始めている。

「国が主導する国際コンテナ戦略港湾政策の一つ、神戸港と大阪港の経営統合による阪神国際港湾が14年10月に発足した。その成果が早くも表れ、神戸港は15年にコンテナ取扱貨物量で名古屋港を抜いて、東京、横浜に次ぐ国内3位に返り咲いた。復活の背景には統合シナジーを全面に押し出した積極的な営業活動があったと聞いている。空港については、民間の関西エアポート株式会社による関西国際空港と大阪国際空港(伊丹空港)の一体運営が本年4月に開始された。新関西国際空港はインバウンド需要もあって大幅に収益を伸ばしている。神戸空港も含めた3空港の5本の滑走路を一体運営すれば、国内最大の空港となり、利便性の高さを一層強調できるはずで、議論が進むことを期待している。中国からのLCC(ローコストキャリア)の発着が増え、中国からの大型クルーズ船による観光客も増えている」

――高速道路網は一部寸断されたままだが。

「高速道路ミッシングリンクの解消に向けて、まず大阪湾岸道路西伸部14・5キロメートルの事業化が決まった。早ければ17年度に着工される。淀川左岸線延伸部も計画が進んでいる。関西は空港と港湾が充実しており、道路網を拡充して動線を結ぶことで、新たな経済効果を引き出せる」

――「健康・医療イノベーションの創出」とは。

「関西には島津製作所はじめ分析機器のトップメーカーが数多くある。兵庫県の播磨科学公園都市には大型放射光実験施設『SPring―8』があり、神戸市のポートアイランドの理化学研究所には『スーパーコンピューター京』もある。このように関西には高度な分析・解析、研究開発機能が集結している。これらを医療・製薬分野の高度化に生かさない手はないということで、本年2月に京都で開催した関西財界セミナーにおいて『世界トップクラスの健康・医療メガクラスターを目指す』ことを決定した。産官学による委員会を新設し、健康・医療の新産業創出に動き始めている。国の医薬品医療機器総合機構(PMDA)、日本医療研究開発機構(AMED)の出先機関が関西に新設され、新薬などの申請手続きも容易になった。ポートアイランドには300社を超える医療関連企業が進出している。iPS細胞を使った網膜移植治療などを行う『神戸アイセンター(仮称)』が来年竣工するなど、世界最先端の研究・開発体制がさらに拡充される。世界屈指のイノベーション・ポテンシャルを持っており、さまざまな連携や共同研究を通じて新しいビジネスが創出されると期待している」

――「関西広域観光戦略」について。

「『関東はひとつ』『関西はひとつひとつ』などと揶揄されることがあるが、奈良、京都、大阪、神戸は歴史、文化が大きく異なる。1つにまとめることは難しいかもしれないが、逆にそれが魅力となっている。全国でインバウンドによる経済効果が期待されているが、実は訪日外国人観光客の40%の人々が関西を訪れている。古都奈良、古都京都、法隆寺、紀伊山地、姫路城などの世界遺産が100キロメートル圏内にある。このような地域は世界を見渡してもめったにない。府県をまたいで楽しんでもらいたいと考え、関経連、関西広域連合、関西地域振興財団が中心となって『関西国際観光推進本部』を本年3月に新設した。関西を訪れる外国人旅行者は約800万人で、これを20年に向け1800万人に増やしたいと考えている。関経連と官民鉄道・空港10社が連携し、訪日外国人を対象とした『KANSAI ONE PASS』という周遊パスの試験販売も開始した。宿泊施設の拡充についても知恵を寄せ合っている。1兆円規模のインバウンドによる消費額を3兆円に拡大する構想を掲げている」

――「アジアでのビジネス機会創出」の狙いは。

「TPP発効を見据え、アジアとの関係の高度化を進めるのが狙い。アジア諸国が抱える様々な課題の解決に向けて、具体的なアクションプランを設定し、活動を開始している。例えば、日本が世界に誇る環境技術の発展途上国への移転を目指し、各国から視察団を受け入れているが、ごみ焼却炉や水処理などに高い関心が寄せられている」

(谷藤 真澄)