2017年1月31日

●対談 鉄鋼・非鉄業界の展望と課題(第5回)■将来展望と課題■ 新日鉄住金相談役 友野宏氏/能力過剰問題に対応|住友金属鉱山会長 家守伸正氏/国内製錬所を維持

家守「世界の非鉄業界も成長産業であり、若い人に夢と希望を抱いて入ってきてほしい。非鉄資源は減耗資産であるが、日本は海底資源に恵まれている。JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)の深海底資源基礎調査、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)による次世代海洋資源調査技術研究開発計画など国家レベルの調査が進められているが、採掘開始には20年以上はかかるだろう。資源ナショナリズムが高まり、インドネシアのように現地製錬を要請されるケースも見受けられる。海底資源を採掘できるまで、陸上資源を海外から調達し続け、国内製錬所を維持しなければならない。海底資源が出始めた時に国内に製錬所がないということでは、資源のナショナルセキュリティ上、大きな問題が出てくる」

友野「鉄鋼資源は豊富だが、品位の低下は進む。日本は低品位原料の活用技術でも世界最先端を走り続ける必要がある。課題としては、中国を主とする世界的な能力過剰問題、地球環境問題への対応が必要となっている。能力過剰問題は、新たに設立されたグローバル・フォーラムなどで問題意識を共有し、各国間で対応等を議論していく。日本の鉄鋼業は、ハイエンド商品技術を磨きつつ、コモデティグレード商品のコスト競争力を高めていかなければならない。CO2排出量の低減に向けては、世界に誇る日本のエコプロセス技術を海外に展開していくことで地球環境に貢献できる。CO2排出量ゼロを目指す気迫で高炉の水素還元などプロセス革新にも取り組んでいく」

司会「家守会長、友野相談役ともに工学博士です」

家守「阪大大学院で冶金学を専攻し、工学博士号を取得して3月に課程を修了したが、正直、就職先はなかった。住友電工の副社長面接の直前まで行ったところで、住友金属鉱山が採用してくれるという話がきた。住友電工でも冶金のポジションはあったが、最終的に鉱山会社を選び、1980年9月に29歳で入社した。6年のハンディキャップを負っていたこともあり、入社後は自分と家族のためにがむしゃらに働いた。自分の努力次第で、会社が発展し、そのことが結果的に産業の成長や国民生活の向上、いずれ日本国の成長に寄与し、社会の成立に貢献することになると信じ、わき目もふらずに働いた」

友野「京大大学院の金属加工学で修士課程を修了して、71年4月に住友金属工業に入社した。留学のチャンスをもらい、79年にスイス連邦工科大学で工学博士号を取得した。家守さんとキャリアは異なるが、成長産業のプロセスイノベーションが加速した時代で、私も仕事を選ばなかった。誰もやりたがらない仕事を含め、目の前に来たテーマを解決していくと、上司がキッチリ見ていて、海外留学や海外出張などを含め、新しいチャンスをくれた」

司会「家守会長はドライブに一時、熱中。友野相談役はスキーの指導員資格を保持し、登山も本格派です」

家守「ドライブに最も熱中したのは、別子事業所のニッケル工場長に就任した40歳代後半。それまでは友野さんと同様、仕事を選ばなかった。泥まみれになって、人の倍は働いた。研究所ではなく、希望した現場勤務が続いたが、研究の力も落とさないため一年に一本は論文を書くノルマを自ら課していた。このため40歳台前半までは家族サービスもまったくできなかった。車にはそもそも興味がなかったが、入社5年後にメルボルンにある豪州連邦の研究機関に1年半留学した。豪州は広大で道路も整備されており、警察車両に出会うことも滅多にない。ここでドライブの楽しさに目覚めた。帰国後は技術者として山積みのテーマをこなすのに精一杯で、約10年間は休日のドライブどころでなかった。工場長になると、いかに工場を安全で効率的に運営するかが最大のテーマとなる。気持ちをリフレッシュさせることも必要となる。四国の道をすべて走破してやろうと思い立ち、4年間にわたってほぼ毎週末、高速道路や峠道へとドライブに出かけていた。安全運転を指導している工場長として交通事故は起こせないが、自由なドライブも楽しんでいた」

友野「入社前からスキーと山は好きだった。私も現場のエンジニアだったが、理論と現場で起きていることの橋渡しをしなければという思いで論文を書き続けていた。睡眠を削ってスキーと山登りも楽しんできた。役員になっても秘書の大反対を押しのけてスキーと山登りを続け、スキーの指導員資格も保持してきた。第一線を退いて時間ができたことから、昨年夏には念願のマッターホルンに登頂してきた」

司会「最後に80周年を迎えた産業新聞社への期待をお聞かせください」

友野「ファクトの裏にあることを整理して、報道してほしい。経営者、技術者ともに狭い世界で毎日のことに追われている。今回の対談でも発見することが多かったが、幅広い視点で取材をして、ヒントとなるような情報を発信しつづけてほしい」

家守「表面的なトレンドと実体との乖離を解析するなどの、何かが見えてくる分析記事や調査報道記事を読みたい。今回の対談のような、鉄と非鉄をまたぐ、斬新な企画が増えることも期待している」 (おわり)

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