2017年9月27日

ステンレスの巨人・青山集団 新戦略で世界へ【下】 品質でもトップ目指す

「2012年の当局の調査で中国市場に出回っている食品用ステンレスの23%が不合格だった。食品安全市場は管理監督が不足し、基準を満たさないステンレスが多い」

青山控股集団の中核子会社、青拓集団の周傑副総裁は福建省福安の自社工場で7月中旬に開かれた食品接触材料ステンレス法規応用技術国際会議で「ステンレスの応用を正確に導かなければならない」と訴えた。

民営ステンレス企業は安価な200系(マンガン系)製品の販売で勢力を伸ばし、品質を置き去りにしてきた面がある。とりわけ食品用の製品について問題視され、対策の必要に迫られている。

青拓集団は年産能力400万トンとグループの3分の2を占める最大の拠点。製鋼と熱延、冷延の設備を持ち、300系(ニッケル系)と200系を半量ずつ生産している。まだ少量の400系(クロム系)は青拓集団だけでいずれ100万トン生産する計画だ。

「青山集団は東南アジアや欧州など世界20数カ国にステンレス製品を輸出している。製品の品質を向上させ、需要家に良い製品を提供したいと考えている」(周副総裁)。高品質化を図り、国内だけでなく海外でも評価を高めたい意向だ。

04年にわずか10万トンだった粗鋼生産量は16年に585万トンに増加。17年は上期に減産したにも関わらず、600万トンと過去最高を見込む。国内2位で国有の太原鋼鉄集団はステンレス粗鋼を16年の412万トンから17年に450万トンに増やす計画だがほぼ目いっぱい。3位は民営の北海誠海不銹鋼211万トン、4位は国有の宝鋼不銹鋼154万トン。

量で群を抜く青山集団は質でもトップを目指す。研究開発に資金を投じ、ヘッドハンティングで開発時間を短縮する。ステンレス事業再編中の宝鋼には高級幹部クラスにも声を掛け、青拓集団研究院長の江来珠氏は最近まで宝鋼の高級技術者だった。

「四川省の大手民営ステンレス企業から最近移ってきた」(若手技術者)。川上・川下各層で転職組がチャンスをつかもうと力を振るう。受け入れる青拓集団も工場敷地内の社員用住居周辺に球技場や映画館を建て、家族と快適に暮らせる環境を整えている。

■さらに先へ

質は追うが、量の対応も怠らない。青拓集団は冷延専業メーカーと手を結び、広大な工場敷地内に合弁の冷延工場を建設。青拓集団が合弁冷延工場に熱延材を効率よく供給し、冷延専業は製造した冷延材を自社ブランドで製造・販売するウィンウィンを築く。

冷延専業の甬金科技との合弁工場は年産能力30万トンの第1期に加え、現在20万トンの第2期工場を建設中。同じく冷延専業の宏旺実業の合弁は第1期50万トンと第2期60万トンが稼働。甬金と宏旺の各合弁工場の合計能力を第1期80万トンから第2期以降で200万トンに拡大する構想を持つ。

青拓集団の生産能力は製鋼460万トン、熱延400万トン、冷延280万トン。「熱延はフル操業だが、能力拡張の計画はない」(熱延工場幹部)。当面は冷延の能力補充に投資を傾け、宝鋼とオウトクンプ合弁の閉鎖した上海クルップ・ステンレスから購入した冷延設備(年産30万トン)は年内稼働の予定だ。

青山集団のもう一つ重要拠点、広青金属科技(広東省陽江)は製鋼能力200万トンのみだが、近く熱延ミルを導入する。臨海部の立地を生かし、需要の多い華南地区を攻める。高炉を持ち、ニッケル銑鉄(NPI)から一貫で製造しているが、全国的にステンレスが余剰となった4―6月期に「ステンレスの生産を一時止め、高炉の生産を普通鋼に変えた」(青拓集団関係者)。民営ならではの柔軟な対応が持ち味だ。

高速鉄道や地下鉄、都市配管など政府が多額を投じるインフラ整備などで中国のステンレス需要は増え続ける。17年1―6月期のステンレスの国内見掛消費量は917万トンと前年同期比3・4%増え、上半期の最高を記録。ステンレスの粗鋼生産は1226万トンと4・2%増加した。

工業情報化省が策定した5カ年の鉄鋼産業調整昇級計画(16―20年)にステンレスの開発強化が盛り込まれた。拡大する需要や政府方針を追い風にステンレス企業の投資は勢いを増す。民営による粗鋼能力は16年に540万トン以上増え、17年には冷延能力が600万トン増える。

国有も手をこまねいてはいない。宝鋼は上海のステンレス工場を06年に閉鎖し、子会社の徳盛不銹鋼(福建省)と冷延専業の寧波宝新不銹鋼(浙江省)でステンレス鋼板を製造。上工程の行方が話題に上っていたが、NPIから一貫の年産能力380万トンのステンレス工場を山東省の臨海部に民営の山東鑫海科技と合弁で建設する計画を7月にまとめた。粗鋼能力は徳盛と合わせて600万トンほどに増え、青山集団に迫る。

普通鋼と異なり、ステンレス産業は能力拡張が続き、競争が熾烈化する。先頭を走る青山集団は独自開発の低コスト製造法と大規模生産、冷延専業との協業、製品開発、海外展開と多くの強みに磨きをかけ、他を引き離しにかかる。

(植木 美知也)

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