2018年6月20日

JFEグループの新中期経営計画 ■JFEホールディングス 林田英治社長 単独粗鋼 年3000万トン体制へ

――第5次中期経営計画(2015―17年度)はROE(株主資本利益率)10%超を最終年度目標に掲げたが、7・6%と未達に終わった。

「JFEスチールがROS(売上高経常利益率)10%の目標に対して17年度実績が7・3%にとどまった。中計前半は中国の過剰生産によって市場環境が悪化し、原油価格下落によるエネルギー関連需要の低迷も響いた。加えて、コークス炉などの一貫製造プロセス上のボトルネック、設備・操業トラブルなどで生産・出荷が伸びなかった。JFEエンジニアリングは300億円の経常利益目標を掲げたが、17年度は193億円にとどまった。受注高が過去最高の5000億円を記録するなど営業力は高まってきたが、未経験分野で追加コストが発生するなど施工管理面での実力不足が明らかになった。JFE商事は300億円の経常利益目標に対して17年度実績が330億円となり、唯一超過達成した。コイルセンターなど事業会社の構造改革が進展して赤字会社が減った。ジャパン・マリンユナイテッドも最終年度に大幅な赤字を計上した」

――第6次中計(18―20年度)を4月に始動させた。まず事業環境認識を。

「自動車の軽量化・EV化ニーズが高まり、AIなどのデータサイエンス技術が急激に進歩するなど経営環境は大きく変化している。国内人口減少、保護貿易主義、中東情勢などリスクも顕在化している。一方で自動車分野では高機能材のニーズが拡大し、新興国における成長が続くなどビジネスチャンスも広がっている」

――新中計のメーンテーマは。

「『将来の更なる飛躍に向け、グループの総合力を最大化する』ことに注力する。最先端技術、先進IT、グループ連携、多様な人材力などを最大限に活用し、成長分野に戦略的に取り組んでいく」

――JFEスチール・JFEエンジニアリング・JFE商事のグループ共通施策の一つ目に「最先端技術により社会ニーズに同期化し、成長戦略を推進する」ことを挙げている。

「高度化・多様化する社会ニーズに応える新商品・新技術を開発し、持続的成長のチャンスを広げていく。JFEスチールでいえば自動車軽量化を実現する超ハイテン鋼板、EV普及を促す高機能電磁鋼板などを商品化・拡販していく。JFEエンジニアリングは、東南アジアなど新興国における社会インフラ整備ニーズに応えて橋梁、廃棄物発電や水処理プラントなどを提供する。JFE商事は、得意とする電磁鋼板、強みを持つ自動車鋼板のグローバル加工・物流ネットワークを強化し、EV化に伴う新たなサプライチェーンに存在感を発揮できるよう商社機能を磨いていく」

――二つ目が「国内収益基盤整備と製造実力の強化」。

「将来の成長チャンスを捉えるため9000億円を投じて、国内の収益基盤を強化する。JFEスチールは、競争優位の源泉である西日本製鉄所のコスト競争力を徹底的に強化し、能力増強や高級鋼の開発を通じた収益拡大策も推し進める。JFEエンジニアリングは、従来型のEPC(設計・調達・建設)に加えて、O&M(オペレーション&メンテナンス)なども含む『運営型事業』を強化・拡大する。横浜本社内に『グローバルリモートセンター』を開設し、廃棄物発電プラント、太陽光発電設備、水処理プラントなどの遠隔監視サービス業務を受託する体制を整えた。JFEエンジニアリングは狩猟型産業だが、このような農耕型の収益を全体の2―3割に引き上げていきたい。JFE商事は、安全性向上、機能強化、生産・物流効率アップなどの観点で国内事業会社の収益基盤を再構築。RPAなど先進ITを活用してバックオフィスの業務効率化を急ぎ、最大の経営資源となる中核人材の育成を加速する」

――三つ目は「海外事業の推進と収益拡大」。

「前中計までに投資した海外プロジェクトの確実な立ち上げによる収益貢献の拡大に重点を置く。加えて1000億円規模の新規事業投資を計画しており、グループの成長戦略に合致する案件があれば枠を超えて実施していく」

――財務目標はROE10%、Debt/EBITDA3倍程度(同3・4倍)。

「DEレシオ(負債資本倍率)が0・5倍台で安定しており、バランスシートは、ノーマルな姿に近づいてきている。今中計では収益力とキャッシュフローにこだわるためDebt/EBITDA倍率を目標に設定。事業会社の運転資金管理指標としてキャッシュ・コンバージョン・サイクルを新たに取り入れた」

――収益目標は連結経常利益2800億円(同2163億円)。

「従来の最終年度の到達目標ではなく、3年間を通して安定的に達成すべき利益水準の期間平均値として設定。つまり3年間で8400億円を稼ぎ出す。今期予想は2200億円で、これから上積みできないと2年目、3年目は相当高い目標となる」

――純利益目標は平均2000億円(同1446億円)。

「株主を含むステークホルダーをはじめとする外部へのコミットメントとして設定した。配当性向を前中計目標の25―30%程度から30%程度に引き上げる」

――JFEスチールは平均2200億円(同1988億円)の経常利益目標を掲げる。

「今期予想は1600億円であり、2、3年目の積み上げがカギを握る。今期は安定生産と販売価格の改善がメインテーマとなる。主原料価格上昇などを踏まえたトン2万円の値上げは、前下期末で1万8000円と未達であり、今上期中に完全に浸透させる。加えて合金鉄や物流コストなどが上昇しており、追加対応も検討している」



――前中計は粗鋼生産量(単独)が2850万トン前後にとどまった。数量回復の道筋は。

「07年度は3050万トンを生産し、当時は3300万トン体制を目指していた。設備老朽化による問題が表面化し、プロダクトミックスの高度化もあって生産量が落ち込んでいる。前中計で国内設備更新・増強に7800億円を投じ、今中計で8500億円を追加投入する。今期は粗鋼生産量を2900万トンに引き上げる。プロダクトミックスをさらに高度化させつつ、最終20年度末には年率3000万トンの安定生産体制を確立する」

――設備投資のポイントは。

「西日本製鉄所への重点投資を推し進める。倉敷地区の連続鋳造設備新設など能力増強・パフォーマンス最大化を図る。安価原料使用など上工程を中心とした革新的な生産プロセスの技術開発・導入も急ぐ。基幹システムリフレッシュの効果を段階的に引き出し、AI、IoTなど先進ITを活用して、人と設備の生産性向上を図り、競争力を徹底的に強化。3年間で1050億円、トン当たり約3500円のコスト削減を実施する。下工程の能力増強もテーマとなる。自動車鋼板はライン増強による超ハイテンの供給能力拡大を図る。EV化でニーズが高まる無方向性電磁鋼板は倉敷のタンデムミルのパワーアップなどで対応し、方向性電磁鋼板はライン増設も含めて検討していく」

――この10年間で国内需要は8000万トンから6000万トンに縮小してきた。

「10年先の内需5000万トンを覚悟した上での生産体制の再構築は第7次中計の大きな課題になってくるだろう」

――技術力強化策のテーマは。

「自動車、インフラ建材、エネルギーの重点3分野を中心とした商品開発、環境プロセス技術、先進IT技術の活用をテーマに前中計比1割増の1100億円の研究開発費を投入する」

――海外事業戦略について。

「ニューコアとのメキシコ自動車鋼板合弁、中国の鉄粉、UAEのラインパイプ、ミャンマーの薄板建材などの新規プロジェクトの収益化を確実なものとする。インドのJSWスチール、ベトナムのFHSなど出資先の鉄源を活用した市場開拓も推進する。中東やアフリカ市場におけるリローラーへの技術・資金提供による垂直分業型の需要開拓はテーマとなっている」

――高炉一貫メーカーにとっては冷鉄源の有効活用が将来の競争力を大きく左右する。

「高炉・転炉によるスクラップの使用拡大が最優先課題。電炉で高級鋼板を製造する革新的技術も関心がある。国内は電気料金が高いので難しいが、ニューコアとも連携しながら可能性を追求したい」

――JFEエンジニアリングは平均300億円の経常利益を目標に掲げる。

「運営型事業の拡大とプロジェクトの管理強化によって収益力を高めつつ、20年度に向けて受注額を6000億円規模に引き上げていく。買収した独スタンダードケッセル、新設したミャンマーの鋼構造物製作拠点、インドやフィリピンの設計機能などの効果を引き出し、グローバルエンジニアリング体制も強化していく」

――JFE商事は経常利益目標が平均350億円。

「トレードと事業の両輪による安定収益基盤を確立する。日本、米国、中国、ASEANのグローバル4極体制の拠点間連携、グループ間連携を強化し、JFEグループ中核商社としての存在感を高めていく。次の成長に向けた攻めの戦略的投資も推進する」

(谷藤 真澄)

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