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レアアース、ベトナム進出相次ぐ

中国以外の供給ソース/鉱山資源の活用視野に

日刊産業新聞 2010年04月21日

 希土類(レアアース)の分野で日本企業のベトナム進出が相次いでいる。昭和電工が5月に永久磁石用の希土類原料工場を稼働させるほか、中電レアアースも原料工場の建設を開始した。豊田通商や双日などの商社勢は鉱山開発に乗り出している。なぜベトナムなのか。その背景を探った。

 日本の製造業にとって、希土類の安定確保が最重要課題の一つになっている。ハイブリッドを含めた電気自動車や各種省エネ家電、産業機械などに使う重要部品の原材料となるからだ。

 しかし希土類原料は、世界生産の90%以上を占める中国に全量を依存している。その中国は希土類を戦略物資と位置付け、輸出数量を段階的に削減。輸出課税の導入なども併せて実施し毎年輸出規制を強めている。資源を握る中国の思惑で価格も大きく動く。  最近の金属ジスプロシウム高騰がその最たる例。電気自動車などに使うモーター材料のネオジム―鉄―ボロン系磁石には、磁石の性能を高めるための添加元素としてジスプロシウムを添加する。

 ただジスプロシウムは、中国の中でも南部の一地域に偏在。このため今後の需要増加を見越して中国の中間業者などが投機的に在庫を抱え込み、意図的に価格を引き上げている。この影響で足元の金属ジスプロシウム価格は昨年末からほぼ2倍に急騰している。

 自動車や家電など日本の基幹産業が今後も競争力を維持するためには、中国以外の安定供給ソースを確保しておく必要がある。

 そこで注目を集めるのがベトナム。昭和電工が5月から磁石の主成分となる金属ネオジム・プラセオジム(ジジム)と金属ジスプロシウムの製造工場を稼働させる。生産量は年800トン。中電レアアースも工場建設に着手。11年春から年200トン体制で生産する。

 原料にするのは、主に磁石の製造工程で発生する工程内スクラップ。磁石を研磨する最終工程で発生した切削くずや、成形、焼結、表面処理などの不良品などを使う。

 日本国内の工場からこうした工程内スクラップをベトナムに輸出して、昭和電工や中電レアアースなどの合金メーカーが金属原料として回収する。さらに磁石メーカーは東南アジアに最終の加工拠点がある。近隣のベトナムに再生工場を設置することで、これらの拠点で発生したスクラップを原料に使用できる。

 昭和電工は、ベトナム工場を稼働させるための準備が整いつつあるようだ。それを示すのが希土類スクラップの輸出統計。希土類含有スクラップを示すとみられる「その他希土化合物」によると、09年以降ベトナムへの輸出が急増しているのが分かる。

 それ以前は分離・精製や電解工程がある中国向け輸出が中心だった。しかし昭和電工が工場建設を本格化させた09年から対中輸出は激減した。昭和電工の工場稼働率が上がり、中電レアアースの工場も稼働を始めれば、対ベトナム向けの輸出は一段と増える

。  東南アジアに磁石の加工拠点がある以外、希土類鉱山があることもベトナムに原料工場を建設する理由だ。

 中国南部に国境を接するベトナムには、ジスプロシウムなどの中重希土が豊富な希土類資源が埋蔵している可能性がある。このため豊田通商や双日などの商社勢は、ベトナム北部の希土類鉱山開発をめざしている。

 日本政府の後押しもある。09年1月、日本とベトナムによる石炭・鉱物資源政策対話において、日本側から希土類鉱山周辺のインフラ整備調査の実施を表明。そしてベトナム側はその場で豊田通商と双日との鉱山共同開発に合意した。

 実際に鉱山開発が始まれば、11年以降年5000―6000トン規模の希土類が生産される可能性がある。これは日本の需要の20%に相当する。昭和電工や中電レアアースがベトナムに原料工場を建設するのは、鉱山資源も原料に活用することができるからだ。

 日系資本が参画する鉱山資源とスクラップを活用した希土類原料工場の存在。1年後のベトナムは日本の希土類原料の安定供給先として、中国と並ぶ重要な位置付けとなる。

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