2019年1月9日

鉄鋼新経営―2020年以降を見据えて― ■新日鉄住金社長 進藤孝生氏 統合再編シナジー引出す

――今期連結事業利益は前期比21%増の3500億円となる見通し。

「鉄鋼業を取り巻く環境は総じて良好だったが、設備・操業トラブルに自然災害の影響が加わり、生産・出荷が計画を大きく下回った。国内需要は堅調で、特に薄板、特殊鋼棒線、厚板はタイト感が強い状況が続いたが、業績に十分反映することができなかった」

――「2020年中期経営計画」(18―20年度)で打ち出した成長戦略を相次ぎ具体化し、攻めの経営姿勢を鮮明にした。

「日新製鋼の完全子会社化、ステンレス薄板・鋼管の事業再編、スウェーデンのオバコ買収と山陽特殊製鋼子会社化などの特殊鋼事業強化、インドの一貫製鉄メーカー、エッサールの共同買収など中長期戦略に沿った構造的施策をタイムリーに経営判断することができた」

――新年を迎え、19年に取り組むべき課題は。

「安定生産の実現、適正マージン確保による収益基盤の立て直しが喫緊の課題だ」

――安定生産への取り組みは。

「安定操業は、社内で解決できる課題。18年は、課題がある工程や設備にエキスパートを投入し、重点的な支援策を実施した。その効果は出つつあるが、トラブルは解消せず、減産を余儀なくされた。操業・設備管理要員の世代交代が進む中、設備高度化による操業の複雑化、品種構成の高度化に伴う設備の過負荷等がトラブルの要因と分析している。こうした構造的な変化を踏まえた対策を徹底するため、全社エキスパートチームによる課題解決策の追求、新たな保全技術を導入した設備診断・点検手法の改善による予防保全を強化する」

――原料・資材費など製造コストの増加は続いている。

「適正マージンに関するお客様の理解は進んでいるが、主原料に加えて市況原料や資材費・物流費などのコストプッシュが続いている。高い機能を持つ鉄鋼製品を安定供給し続けるための、いわゆる再生産可能な価格の実現に向けて対話を続ける」

――中計では、つくる力の強化をテーマに掲げ、3年間で1兆7000億円の設備投資を計画する。

「事業環境の変化や技術の方向性を見定めながら、『設備』と『人』の再構築を推し進める。設備については、室蘭製鉄所の高炉改修、名古屋製鉄所のコークス炉改修の大規模投資を決定した。単純更新ではなく、高度ITを導入して安定生産の基盤を再構築する。八幡製鉄所の鉄源構造対策では、戸畑地区の新連鋳を19年度に立ち上げ、小倉地区の上工程を20年度末をめどに休止する。和歌山製鉄所は本年度末に待機高炉にスイッチする。君津製鉄所・東京地区の小径シームレス鋼管は20年5月をめどに和歌山・海南地区に集約する。一連の生産構造改革を確実に完遂し、競争力を強化する」

――事業投資は3年間6000億円の計画。

「エッサールの共同買収が完了すれば過去最大級のM&Aとなる。成長に資する追加の案件があれば、前向きに検討する」

――中計では売上高利益率10%への引き上げを目指している。

「今期は5・6%前後となる見通し。安定生産とマージン改善を推し進め、グループの統合再編シナジーを引き出していく」

――日新製鋼の完全子会社化の効果について。

「子会社化以降、シナジー最大化に向けて技術移転、最適生産の追求、営業面の連携などを推し進めてきた。完全子会社化することで、グループ一体運営をさらに強化し、よりスピーディに踏み込んだ施策を展開できる。子会社化時点で、年間200億円の効果を見込んでいたが、完全子会社化とステンレス鋼板・鋼管事業の統合・再編で、年間100億円程度の上積み効果を想定している」

――表面処理鋼板、薄板建材は設備集約のシナジーを追求できる。

「競争力ある製造ラインの活用を前提とした設備集約など生産体制の見直しやグループ事業の統合・再編等について機動的に対応していく」

――販売機能、商社機能については。

「一体運営するため営業戦略を共有し、商社機能もあるべきかたちに見直していく」

――ステンレス鋼板、鋼管の統合会社が4月にスタートする。

「日新製鋼の子会社化後、新日鉄住金ステンレスと3社で情報交換を進めてきた。ステンレス鋼板メーカーは年産150万トン規模となる。世界最先端の技術力を融合し、高機能品市場を狙っていく。生産集約によってコスト競争力も強化できる。M&Aによる海外戦略も可能性が大きく広がる。ステンレス鋼管メーカーは、自動車、プラントメーカーなど需要家がラップしており、効率化を追求しながら成長戦略を描いていける」

――特殊鋼事業はネットワークが大きく世界に広がる。

「山陽特殊製鋼の子会社化完了後、オバコを山特の完全子会社にする。室蘭製鉄所、八幡製鉄所・小倉地区、山特、欧州オバコ、印マヒンドラ・サンヨー・スペシャルスチールのグローバル体制が立ち上がる。特殊鋼戦略は、4月以降の新体制で検討を本格化する。オバコは17世紀に生産を開始した伝統ある特殊鋼メーカーだが、小さな本社を実現し、本社常駐者の3分の2が女性で、工場長を務めている女性もいる。経営管理面のシナジーも追求できる」



――日本、欧州、インドに高炉・電炉鉄源を持つグローバルメーカー、「日鉄特殊鋼」の準備が進む。

「そこまでの議論はまだ机上にも載っていないが、3社連携を強化し、シナジーを追求する」

――米国市場への足掛かりはこれから。

「検討する価値はある」

――エッサールは、粗鋼の年産能力1000万トンで高炉のほか、石炭還元のCOREX、ガス還元のMIDREXなど直接還元鉄プラントを保有し、1400万トン規模のペレット工場も操業。薄スラブ連鋳プロセスを持ち、サービスセンターも展開している。

「アルセロールミッタルが落札者に選定され、会社法裁判所と各国の独禁法当局の認可待ちとなっている。買収手続き完了後、合弁事業化する。インドは中国に続く経済成長国。人口成長が続き、一人当たりの鋼材消費量も増加の途上にあることから、巨大市場に発展する。ブラウンフィールドではあるが、過去最大級の投資規模で一貫製鉄所を運営するチャレンジングなプロジェクトであり、インド市場への大きな一歩となる」

――インドにおけるタタ・スチールとの合弁事業とのバランスは。

「タタとは自動車用の冷延鋼板の合弁事業が順調に進んでいる。大きく伸びる市場であり、両社との信頼関係を維持していく」

――中計では、「鉄を極める」方針を打ち出した。

「鉄の多様な特性と無限の可能性を追求し、時価総額を回復させる。時価総額は約2兆円で、世界鉄鋼会社の5―6番目だが、上位企業との差は大きくない。高収益の韓国POSCOを常にベンチマークしているが、生産・出荷の未達が減益を招いている。グローバル戦略は先行している。技術力も負けていない。アルミ、炭素繊維などマルチマテリアル化の手立ても幅広く持っている。鉄で培ってきた部品に対する知見を生かしてソリューションを提案していく」

――POSCOは国内2大製鉄所体制で、中国大手は最新鋭製鉄所に生産拠点をシフトしている。北海道から九州まで生産拠点が広がるメリットはあるが、コスト競争力を阻害しているのでは。

「『日本列島製鉄所』を『バーチャルワンミル』として運営することでコスト競争力を引き上げていく。将来のイメージの例を挙げると、システムを共通化し、製品に関するコードを統一する。カメラやセンサー等を活用して設備を3次元で画像処理し、本社のコントロールセンターにモニターを並べて集中管理する。所員にも、センサーを身につけてもらい、居場所を把握し脈拍などの体調を管理し、広大な所内での夜間の一人作業時の安全も確保する。少し時間はかかるが、未来の製鉄所を作り上げ、鉄を極めていく」

――4月には商号を変更する。本年は「日本製鉄」にとっても元年となる。

「70―80年間で世の中が変わるとの指摘がある。1945年に第2次世界大戦が終結し、新しい秩序が生まれた。それから70年以上を経過し、トランプ大統領が米国第一主義を実践し、英国のEU離脱が国民投票で決まるなど、明らかに異なる潮流が生まれている。自動車産業が転換期を迎え、マルチマテリアル化ニーズも急速に高まっている。『晴れているうちに屋根の補修』をというジョン・F・ケネディの言葉が伝えられている。間に合わなかったということがないよう、中計では『つくる力を鍛え、メガトレンドを捉え、鉄を極める』方針を打ち出し、日鉄ケミカル&マテリアルを先行して立ち上げた。日新製鋼、山陽特殊製鋼など新たなDNAを内包しつつ、日本発の製鉄会社として未来に向かって世界で成長を続けるため、商号を日本製鉄(にっぽんせいてつ)に変更する。偶然であるが、ポスト平成の新元号とともに、世界をリードする鉄鋼会社を目指す『日本製鉄グループ』をスタートさせる」

(谷藤 真澄)

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