2020年6月2日

財務・経営戦略を聞く 日本製鉄副社長・宮本勝弘氏 コスト削減効果前倒し 生産設備構造改革 黒字化へ前進

――2019年度は過去最大の最終赤字を計上し、単独の営業損益は3年連続の赤字となった。新型コロナ収束後に目標とする「いかなる環境下でも単独営業損益黒字確保」をどのようにして達成するのか。

「元々、新型コロナ感染拡大の前に単独営業損益黒字化の道筋をつけていた。固定費を19年度比で2000億円引き下げる。中でも大きなコスト削減策は修繕費。ここ2―3年、修繕費を相当多くかけていた。生産体制の構造改革によって製鉄所の役割が明確になったので修繕費の掛け方をより効率的にし、選択と集中を進める。次に償却費で、本年2月発表の第3四半期決算の際に4つの製鉄所について減損を行い、償却費が下がる。また、投資計画に占める老朽更新規模の割合が増え、設備耐用年数内での修繕費の平準化を図っている。このような設備投資の内容や修繕費の掛け方を考慮し、20年度第1四半期から減価償却方法を定率法から定額法に変更する。償却費は定額化で500億円、減損計上で600億円と合計1100億円減る。修繕費中心に900億円減らし、合わせ技で固定費を2000億円圧縮する」

「変動費は操業改善や設備投資効果に加え、標準化やシステム化などを進め下げていく。2月の決算からコスト削減が100億円ほど上積みされたのは、変動費中心にコスト改善が順調に進んだため。20年度は500億円以上の変動費の削減に取り組む。固定費、変動費合計で2500億円の改善を行う」

――黒字化へのもう一つの大きな課題がひも付き価格の是正。

「ひも付き価格の是正は道半であり、確実に進めていくことが重要。一方、市況品のマージンは若干マイナスだ。さまざまな要因が重なり、19年度の単独の営業損益は1170億円の赤字となったが、固定費・変動費の改善で20年度に十分黒字になるとみていた。だが、新型コロナによって状況が変わった。生産量が相当落ちているので失う部分が大きい。4―6月期で粗鋼は約300万トン減る。都度高炉のバンキング(一時休止)など必要な施策は実施しているものの、すでに出銑比を落として減産しているので、CR(コークス比)が相当高い非効率な操業となっており、コスト影響は大きい。減産に伴う出荷数量減影響と合わせ、4―6月期で1000億円レベルの収益悪化となり、それが上期続くと2000億円に。大変厳しい状況だ」

――コスト削減の必要性がますます高まる。固定費、変動費の削減は20年度、早期に効いてくるのか。

「償却費はすぐに効いてくる。修繕費も年度の頭から効いてくる。生産量が落ち、生産を停止している生産ラインへの修繕費を減らすなど操業状態を見て落とせるものは落とす。キャッシュアウトを減らすために設備投資はいったん中止・延期が可能なものについては早急に検討・実施する」

――下期は単独営業損益の黒字化を望めるのか、あるいは下期のある時点での黒字化とみるのか。

「コロナ感染の状況次第だ。とはいえ世界の動きを見ても、ある程度経済を動かさなければならないということで需要産業の工場再開や操業度の向上などが見られ始めた。需要の回復次第だが、ある程度に戻るのであれば、ターゲットとして下期の黒字化を目指したい」

――生産設備構造対策によるコスト削減効果260億円を20年度に見込む。効果を前倒しで得ていくことは。

「生産設備構造対策による最終的なコスト削減効果が1000億円に積み上がるのは25年度頃だが、コロナをきっかけとした需要減については構造的影響が残る可能性があり、計画の前倒し実行が必要になってくる」

――減損前の事業利益のマイナス要因のうち、販価・構成・原料が1170億円と大きい。マイナス要因の改善には原料高が続く見通しの中で販価の是正がやはり重要に。

「分野によって対応が異なる。ひも付き分野には資源を相当投入しており、グローバルでも日本と同じレベルの鋼材を供給している。それだけにコストもかかっている。その点をお客様に理解していただかないと供給は継続できない。名古屋製鉄所を減損したことで分かるようにそれだけ利益が出ない状況になっている。お客様が必要とするサービスを継続していくためには、その価値に対応した価格をいただかないとやっていけない。市況品は事情が異なり、国内外の市況を見ながら販売や価格を考えていく」

――3年間で資産圧縮4000億円を計画しているが内容は。

「株式の売却が中心。それに土地が加わる。追加の資産売却は当然検討し、市場動向など時期を見極めながら実行に移す」

――急減する需要への対応として高炉6基の一時休止を決めた。需要動向によってさらに設備を止める必要は出てくるのか。

「高炉6基の休止によって生産量は能力で見ると3割減少するが、他の高炉も出銑比を落としており、実際の稼働率は6割程度になっている。出銑比を下げて生産を調整しているが、バンキングした方がコスト的にはメリットがある。今後、別の高炉でバンキングを行うかはお客様からの注文の積み上がり次第だ」

――自動車メーカーの業況は厳しい。自動車向けの鋼材はさらなる減産が必要になるのでは。

「自動車向けの需要は厳しいとみている。中国の自動車市場は回復しているが、日本国内は自動車メーカーによって生産対応は異なり、操業再開の兆しが見られる工場もある。いずれにしても状況は厳しく、情勢を見ていく」

――5月に追加で高炉休止を決めた室蘭製鉄所と八幡地区小倉はいずれも特殊鋼の製造拠点。半製品の融通など他社と連携して減産・供給対応する可能性は。

「小倉の高炉は元々、上期末に休止する予定であり、室蘭の高炉は8月から改修の予定だった。注文の積み上がりを見て決めたことであり、自社で供給対応が可能だ。今のところ、他社と半製品の融通などの話はない」

――改めて特殊鋼ビジネスのアプローチをどう考えているか。

「特殊鋼は足元需要が減少しているが、自動車や産業機械、工作機械など製造業を支える重要な製品。当社グループの山陽特殊製鋼、オバコ、マヒンドラ、室蘭製鉄所、小倉の連携を深め、強い特殊鋼メーカーにしていきたい」

――ステンレスのように特殊鋼の製造を一元化する「日鉄特殊鋼」を作り上げる考えは。

「まずは各社、各拠点でのソフトな連携をより強化する」

――新型コロナの影響で直接輸出は減る見通し。国内需要については内訳が土木建設向け、国内消費用の製造業向け、間接輸出用の製造業向けの各2000万トンとなっているが、これらは将来減る可能性があり、特に間接輸出の動向がポイントとなる。

「足元の状況から見て、それぞれの国が自国を守りにいくので輸入障壁は高くなっていく。直接輸出の状況は厳しい。間接輸出については、いろいろなお客様が国内に生産を残すと言っている。日本の産業の強みは日本に工場があることによって生み出される品質競争力であり、ベースは変わらないと思うが、間接輸出2000万トンを維持することは難しいと思う。1億トンレベルの粗鋼生産は難しくなっていく」

――攻めの施策について。今回、八幡地区で電磁鋼板の追加投資を決めた。

「電磁鋼板や高張力表面処理鋼板など最先端の製品の製造を強化する。これからも追加投資は行うが、経営状況が厳しいので資産売却をさらに進め、不要不急の投資を避けることでトータルの投資額は抑えることになる。投資の入れ替えも含めて考えていく」

――海外事業はインドのAM/NSインディアが目下最大の焦点。当初は汎用品の生産販売が中心となるようだが、この先どう収益を上げていくのか。

「2月まで堅調だったが、コロナ影響でインド全土のロックダウンで国内販売が急減したため、3月下旬からミニマム操業を行っている。1―3月の粗鋼生産は170万トンに減ったが、4月中旬から生産を回復している。ベースは汎用品の市場を押さえながら中級品、さらに上も狙い、製品構成を少しずつアップグレードしていく。東海岸にペレットの工場を持っているので、輸出含めて活用していく。3月に東部オディシャ州のタクラニ鉄鉱山の採掘権の優先取得権を獲得し、一貫で鋼材を造り、製品を出荷する体制を整える。加えて生産ライン、特に高炉を建設して上工程を増強する。一方でLNGの価格が下がり、LNGを活用した製造プロセスの競争力が上がっているのでプロセスのベストミックスを考えて競争力を上げていく」

――北米はマーケットが徐々に回復に向かい始めた。製造拠点の状況と今後の見通しは。

「自動車向けが中心のI/Nテック、I/Nコート、AM/NSカルバートは市場縮小の影響を受けたが環境は足元回復しつつある。市場の回復に従って生産を早期に戻せるよう取り組んでいる。ウィーリングニッポンスチールは建材向けが中心なのでこの間、新型コロナによる市場影響をさほど受けていない」

――中南米の拠点は他国より遅れて影響が出ているようだが。

「北米より先行きが厳しいとみている。ブラジルは自動車の生産停止期間が6月頃までと北米より長い。ウジミナスはまず小型高炉2基を4月からバンキングで止め、コストダウンの取り組みを進めているところだ」

――21年度からの次期中期計画のテーマは。

「よりコスト競争力が高く、スリムで強力な国内生産体制を作り上げることだ。海外はかなりいろいろなところに手を打ち、選択と集中もほぼできている。これから競争力を持つ拠点をさらに伸ばしていく考えだ」

――鋼材のグローバル生産能力は年9000万トンと世界トップクラス。どう維持し、拡大していくのか。

「マーケットを見ながら考える。日本国内は能力を減らすが、インドで能力を増やす計画がある。新型コロナも含めて世界経済の状況をよく見ながら決めていくことになる。ただ、能力増強を行うにしても新たに設備を増やすのではなく、既存設備の活用が中心になる」

――脱炭素社会のニーズが高まるなかで電炉プロセスへのアプローチは加速するのか。

「われわれが国内で作っている製造業向け・エネルギー分野向けの高級鋼材は、必要な高級スクラップを十分確保できないため、国内生産の全てを電炉化することは不可能。ただし電炉はオペレーションしやすく、足元のような時でも生産量をコントロールしやすい。鉄スクラップの需給を考えても高炉との組み合わせとして電炉の活用は選択肢として十分ありえる。北米は(還元鉄の)HBIをうまく活用しているので日本や海外でどう活用するか考えていきたい。AM/NSインディアには高炉、電炉、還元鉄と全てのプロセスがあるので知見を蓄積できる。瀬戸内製鉄所広畑地区で電炉を導入するし、グループ電炉もあり、ノウハウを持っている。レベルが高いところでいえば山陽特殊製鋼が電炉で特殊鋼を製造しており、このようなグループの総合力を生かしていきたい」

(植木 美知也)