2025年9月11日

人財戦略を聞く/高炉編/JFEスチール/常務執行役員 人財戦略本部長/池田 渉氏/鉄で育て成長分野に配置/協力会社含め操業現場サポート

JFEスチールは2024年4月に人財戦略本部を新設、同10月に人事賃金制度を刷新した。「人財戦略2035ビジョン」、第8次中期経営計画の「主要人財戦略」を策定。中期でJFEグループで800億円の人材投資を掲げた。採用、育成、将来の人的資本形成など戦略を池田渉常務執行役員・人財戦略本部長に聞いた。

――人財戦略は。

「人財戦略2035ビジョンは3つの要素で1つ目は経営戦略実行のための人材ポートフォリオの実現、2つ目は働きたい・働き続けたい会社の実現、3つ目はサステナブルな事業遂行の担保だ。今回コンセプトを『会社と社員の成長サイクルを同期化し、ともに成長する企業文化』とした。働きやすい・働き続けたい環境を整備し、機会を付与して成長を後押ししたい。社員の活躍が会社の成長、生産性向上、イノベーションにつながり、企業価値が向上するサイクルをつくりたい」

――人材ポートフォリオの実現とは。

「当社の経営戦略(ビジョン)の骨子は2つ。1つ目はカーボンニュートラルトップランナーになること。2つ目は強靭な国内製鉄事業を基盤に海外鉄鋼事業や新規事業に果敢に挑戦し新たな成長を遂げることだ。これまでとは異なる人材ポートフォリオを構築する必要がある。国内製鉄事業の競争力強化を進めながら、成長・重点分野への人材配置を進めたい。新規事業も全く鉄と関係ないことをやるわけではないため、キャリア採用の強化とともに、鉄で人材を育てて成長・重点分野に人を配置することも強化したい。海外留学の拡充はもちろん、事業拠点への駐在も含めて、若い時から経験できるようにしたい」

――働きたい・働き続けたい会社とは。

「エンゲージメント向上とDEI(多様性・公平性・包摂性)推進の両輪で、社員が生き生きと能力を最大発揮して活躍するよう人材に投資する。23年度から経営陣で議論して、働きがいの向上を重要な経営課題と改めて位置付けた。24年度からは『リフューチャー・プロジェクト』を立ち上げて全社展開している。若年層のエンゲージメントのスコアが低かったため、23年度から役員・部長クラスがいろいろな階層と対話を始めた。24年度は社長と副社長が各地区に30回以上回って対話を行った。対話では詰所など職場の厚生施設が古いと声も出たので、職場環境の整備に予算を付けるようにした。人事制度も昨年度改定し、意欲を持ってチャレンジした人や能力のある人を年齢や勤続に関係なく評価して処遇する仕組みを作った。製鉄所は指揮命令系統がはっきりした強い縦組織のため、下から上に物を言いにくい傾向があるが、社員の本音を把握するためにも心理的安全性を高めて社員がもっと声を出せるようにしたい。作業改善提案や創意工夫につながればいい。企業文化を含めて変えたい」

――サステナブルな事業遂行の担保とは。

「生産性向上が必要だ。少子高齢化が進み、製造業離れも考えると、人が集まらなくて操業できない事態にもなりかねない。それを避けるため、特に現業職の領域において自動化や遠隔監視化などのDXを推進し、生産年齢人口減少以上の要員のスリム化を図りたい。人員確保は製鉄所内の協力会社の方が特に厳しいため、製鉄所全体を見渡して協力会社の領域も含めて生産性向上に取り組む」

――初任給を上げた。

「初任給が企業選びの大事な要素の一つになっている。今の学生は30万円を一つの基準で考え、30万円未満の企業を選択肢に入れない学生もいる。一番大事なのは魅力ある会社にすることで、人財戦略を実行し中長期的な採用力強化につなげるが、短期的にも初任給あるいは新たな切り口での施策を進める必要がある。当社の総合職の新入社員の出身大学は関東が多いが、配属は基幹拠点の西日本製鉄所が多い。親の近くに住みたかったり、共働きで転勤に忌避感が強くなったりしていることに対応できないため、西日本での採用を強化する必要がある。現業職も一緒だ。現業職は以前は工業高校出身の男性がほとんどだったが、多様性と労働力確保の観点で近年は女性の採用を積極的に推進している。労働力確保の観点では外国人の活用も特に現業職の分野で必要になってくる。鉄鋼業も特定技能外国人制度の対象になった。当社はまだ制度を利用していないが、製鉄所内の協力会社では制度を利用した外国人の雇用が徐々に進んでいる。協力会社をバックアップする観点で、言葉、居所、食事に加え、安全研修まで含めたサポートもJFEグループとして行えるようにしたい」

「エンゲージメント向上のためには負荷の高い業務の改革も進めなければならない。製鉄所の工場長は夜中の呼び出しもあるので女性には難しいという意見があったが、今の若手に聞くと、共働きが多いことや精神的・肉体的にも性別に関係なく夜中の呼び出しは厳しいという意見が多い。仕組みを変えていけるように、ある職場でトライアルで突発の深夜・休日対応の当番制を開始したが、とても評判が良く、社内展開も検討している。同時に交替勤務者への権限移譲もやっていく必要がある」

(正清 俊夫)



本紙では少子高齢化、人材獲得競争激化への対応を重要な経営課題と捉え、人財戦略の取り組みを随時掲載します。







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