金属盗対策法が6月1日に完全施行された。昨年9月から犯行に使われる可能性のある用具の所持規制が先行して始まったが、太陽光発電所に敷設されたケーブルなどの盗難被害は後を絶たない。今回の完全施行で金属盗の防止に期待がかかるが、いくつか課題も見えてきた。
「金属盗は昔からあるが、最近は神社の銅板屋根や公共の場に設置されている銅像まで被害にあうようになった」。江戸時代の伝統を受け継ぐ鋳物産業が盛んな富山県高岡市。非鉄原料流通で鋳物やエクステリアなどの金属製品を販売する竹中製作所の竹中伸行社長は警戒を強める。
警察庁によると2024年の全国の金属盗被害状況は認知件数で2万件を上回った。20年の時点では5400件。4年間で4倍近くに急増したことになる。被害額は140億円に上り窃盗全体の2割を占める。24年にはさいたま市内の中学校からケーブルが盗まれた。停電で給食の調理ができず短縮授業を余儀なくされるなど市民生活への影響が急速に広がり始めた。
事態を重く見た警察庁は金属盗防止目的の新法「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」、いわゆる金属盗対策法を25年6月に成立させ公布した。同年9月1日には先行して犯行に使用可能な用具の所持などの規制を開始。盗難防止の周知活動を並行しながら今年6月1日の完全施行を迎えた。
新法は最も被害の多い銅が対象で、銅スクラップを購入する事業者は管轄の公安委員会に「特定金属くず買受業」の届け出を行う必要がある。届け出書類は管轄する警察署の生活安全課に提出する。
届け出には3カ月間の経過措置が設定されているため、事業者は8月31日までに届け出なければならない。届け出しないまま9月以降に銅スクラップを購入すると「法律上は違法状態になる」(警察庁)。無届け営業には6カ月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性がある。
届け出の経過措置があるのは既存の事業者だ。新規でヤードを立ち上げ銅スクラップを購入する場合は、営業の前日までに届け出をする。同じ公安委員会の管轄内に複数の事業所がある場合は、一つの事業所の所在地を管轄する警察署に書類を提出すればよい。
銅スクラップの購入事業を廃止した時や届け出事項に変更があった際も届け出が必要だ。盗品買い取りや周辺環境の汚染などが問題となる不適正ヤードの一部は事業所を移転するケースが散見される。移転が法の抜け道にならないよう所在地変更は営業廃止届け出と営業開始届け出で対応する。
届け出した後は公衆の見やすい場所に「氏名又は名称」「営業所の名称」「公安委員会」「届出番号」を表示する。明瞭に判読できる大きさと書体であれば様式は問わないため手書きでも問題はない。ウェブサイトを開設している事業者はウェブサイト上でも表示が求められる。
注意を要するのは経過措置があるのは届け出のみという点だ。届け出と同様に義務化された本人確認や取引記録の作成、3年間保存などには猶予期間はない。6月1日の開始時から法律に従って対応していなければならない。
本人確認は個人の運転免許証や在留カード、マイナンバーカードなどの顔写真付き本人確認資料を提出してもらう。法人は個人と同様に取引担当者の本人確認に加え、登記事項証明書や印鑑登録証明書の提示を受ける方法などが代表例として紹介されている。
銅スクラップを持ち込む者が委託された運送業者などで、その場で代金の受け渡しを行わない場合は運送業者の本人確認は不要。だが委託元の本人確認は別途必要だ。
同じ相手との2回目以降の取引で代金の支払いを口座振り込みで行う場合は本人確認は必要ない。ただし、「現金支払いの場合は知人でも本人確認が必要になる」と宮城県警察本部生活安全企画課は説明する。
金属盗対策法の柱は買い受け業者の届け出制と本人確認および取引記録などの保存だが、その本人確認で現場が困惑する事例が出ている。
6月に入って関東地区で行われた説明会では「取引先の上場企業で個人情報保護法の観点から免許証の提出を拒まれている」として警察に対応を求める声が上がったもよう。今回の法律で義務が生じるのは買い受け業者側。売り主側に協力義務がないのが原因だ。
「判断に迷ったら管轄の警察に相談してほしい」。今冬に北陸地区で開催された説明会では警察庁の担当者が出席者にこう呼びかけた。そして新法施行から1カ月半が経過。買い受け業者の疑問は尽きず「警察に問い合わせても明確な回答を得られない」と複数の原料問屋から不満の声がもれる。
一方で用具の所持規制が始まった25年の金属盗認知件数は前年から5000件減った。法律が抑止力になったのか現時点で判断はできないが、「不適正ヤードを撲滅し犯罪を防止するために業界として協力していく必要がある」と竹中製作所の竹中社長は話す。
(増田 正則)

「金属盗は昔からあるが、最近は神社の銅板屋根や公共の場に設置されている銅像まで被害にあうようになった」。江戸時代の伝統を受け継ぐ鋳物産業が盛んな富山県高岡市。非鉄原料流通で鋳物やエクステリアなどの金属製品を販売する竹中製作所の竹中伸行社長は警戒を強める。
警察庁によると2024年の全国の金属盗被害状況は認知件数で2万件を上回った。20年の時点では5400件。4年間で4倍近くに急増したことになる。被害額は140億円に上り窃盗全体の2割を占める。24年にはさいたま市内の中学校からケーブルが盗まれた。停電で給食の調理ができず短縮授業を余儀なくされるなど市民生活への影響が急速に広がり始めた。
事態を重く見た警察庁は金属盗防止目的の新法「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」、いわゆる金属盗対策法を25年6月に成立させ公布した。同年9月1日には先行して犯行に使用可能な用具の所持などの規制を開始。盗難防止の周知活動を並行しながら今年6月1日の完全施行を迎えた。
新法は最も被害の多い銅が対象で、銅スクラップを購入する事業者は管轄の公安委員会に「特定金属くず買受業」の届け出を行う必要がある。届け出書類は管轄する警察署の生活安全課に提出する。
届け出には3カ月間の経過措置が設定されているため、事業者は8月31日までに届け出なければならない。届け出しないまま9月以降に銅スクラップを購入すると「法律上は違法状態になる」(警察庁)。無届け営業には6カ月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性がある。
届け出の経過措置があるのは既存の事業者だ。新規でヤードを立ち上げ銅スクラップを購入する場合は、営業の前日までに届け出をする。同じ公安委員会の管轄内に複数の事業所がある場合は、一つの事業所の所在地を管轄する警察署に書類を提出すればよい。
銅スクラップの購入事業を廃止した時や届け出事項に変更があった際も届け出が必要だ。盗品買い取りや周辺環境の汚染などが問題となる不適正ヤードの一部は事業所を移転するケースが散見される。移転が法の抜け道にならないよう所在地変更は営業廃止届け出と営業開始届け出で対応する。
届け出した後は公衆の見やすい場所に「氏名又は名称」「営業所の名称」「公安委員会」「届出番号」を表示する。明瞭に判読できる大きさと書体であれば様式は問わないため手書きでも問題はない。ウェブサイトを開設している事業者はウェブサイト上でも表示が求められる。
注意を要するのは経過措置があるのは届け出のみという点だ。届け出と同様に義務化された本人確認や取引記録の作成、3年間保存などには猶予期間はない。6月1日の開始時から法律に従って対応していなければならない。
本人確認は個人の運転免許証や在留カード、マイナンバーカードなどの顔写真付き本人確認資料を提出してもらう。法人は個人と同様に取引担当者の本人確認に加え、登記事項証明書や印鑑登録証明書の提示を受ける方法などが代表例として紹介されている。
銅スクラップを持ち込む者が委託された運送業者などで、その場で代金の受け渡しを行わない場合は運送業者の本人確認は不要。だが委託元の本人確認は別途必要だ。
同じ相手との2回目以降の取引で代金の支払いを口座振り込みで行う場合は本人確認は必要ない。ただし、「現金支払いの場合は知人でも本人確認が必要になる」と宮城県警察本部生活安全企画課は説明する。
金属盗対策法の柱は買い受け業者の届け出制と本人確認および取引記録などの保存だが、その本人確認で現場が困惑する事例が出ている。
6月に入って関東地区で行われた説明会では「取引先の上場企業で個人情報保護法の観点から免許証の提出を拒まれている」として警察に対応を求める声が上がったもよう。今回の法律で義務が生じるのは買い受け業者側。売り主側に協力義務がないのが原因だ。
「判断に迷ったら管轄の警察に相談してほしい」。今冬に北陸地区で開催された説明会では警察庁の担当者が出席者にこう呼びかけた。そして新法施行から1カ月半が経過。買い受け業者の疑問は尽きず「警察に問い合わせても明確な回答を得られない」と複数の原料問屋から不満の声がもれる。
一方で用具の所持規制が始まった25年の金属盗認知件数は前年から5000件減った。法律が抑止力になったのか現時点で判断はできないが、「不適正ヤードを撲滅し犯罪を防止するために業界として協力していく必要がある」と竹中製作所の竹中社長は話す。
(増田 正則)









