「電炉は高炉に比べて製鋼過程でのCO2排出量が少なく、脱炭素社会に適した製造法として注目されているが、鋼材として一度役割を終えた鉄スクラップを資源化して再生産することで資源循環型社会の形成に大きく貢献している産業であることも強調したい。国内では高炉の電炉化で今後、電炉鋼生産の増加が見込まれる。ただ高炉製品を電炉で製造するためには不純物が少なく、高品位な鉄スクラップを使用しなければならない。普通鋼電炉業界の生産品種は、比較的低品位のスクラップを使用・消費することが可能であり、資源再利用という点で今後も一定以上の役割を果たしていくだろう」
――異形棒鋼などは社会インフラ構築に欠かせない重要資材とされている。電炉鋼をメインで使用する国内建設市場の至近10年の動きと、足元の環境は。
「今回のインタビューを受けるにあたって、貴社が80周年の節目で実施した、当時の明賀孝仁・普通鋼電炉工業会会長インタビュー記事を読んだが、当時2015年度の鉄筋用小棒国内向け出荷数量は対前年7・7%減の758万トンという数字が紹介されており、足元の需要と比較して、この10年の内需の縮小幅の大きさに改めてショックを感じている。普電工の試算によると、25年度は史上初めて600万トンを割り込んで588万トン程度になるだろうとみていたが、実績は579万トンと当初予想を下回った。国内小棒需要は15年度実績と比べた場合、至近10年で約24%、約180万トンが失われたことになる。とくに22年度以降の3年間で約100万トンと大幅な需要減になっており、コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻、働き方改革法案施行などが急速かつ大幅に減っている主な要因だと思われる。中でもコロナ禍からの需要回復期である24年度に働き方改革法案が施行されたことで、建設業界の施工能力が大きく制約された影響が大きい。建築プロジェクトの立ち上げ計画をもとに将来の需要を予測すると、24―26年度上期までが需要の端境期と考えていたが、働き方改革法案施行の影響でさらに下押ししたようだ。26年度上期も厳しい需要が続くとみている」
――26年度は、普通鋼電炉業界にとってどのような経営環境になるか。「需要面では上期まで需要低迷状態が続き、下期は緩やかに回復基調に入ると考えているが、イラン紛争によるホルムズ海峡封鎖など中東情勢は先が読めず、この影響が長期化する場合にはガソリンなどの生活資材に加えて、建築資材関係の供給もストップすることで工事が滞り、建設需要そのものが失われる可能性もある。一日も早い紛争解決を望んでいる。コスト面では25年度半ばから鉄スクラップ市場価格が急速に上昇してきているが、足元の円安レベルが続く限り、鉄スクラップの高止まり状態は続きそうだ。トランプ政権による鉄鋼に対する関税措置の影響で米国の粗鋼生産とくに電炉鋼が増えており、米国産鉄スクラップの輸出量が減少していることから、特にアジア各国向けのこれに代替する形で日本のスクラップ輸出は堅調。結果的に鉄スクラップ価格が為替に連動しやすい環境になり、円安になれば即時に鉄スクラップ納入単価上昇という流れになっている。円高に振れる要因は見当たらず、当面は鉄スクラップ価格の高止まりが続くと考えざるを得ない、合同製鉄ではすでに顧客にコストアップによる値上げのお願いを始めているが、理解を得るべく引き続き努力する」
――普通鋼電炉業界が抱える課題を。
「最大の課題は国内建設需要の縮小が止まらないことにあるが、人口減少や少子高齢化で今後も需要が先細ることは避けられないとしても、近年の大幅な需要減少は適切な対策を講じれば緩和できたのではないか。公共事業も流札が相次いでおり、政府には人材不足対策も含め、建設需要の拡大に繋がる具体的な対策を検討いただければ幸いだ。原材料については高止まりする鉄スクラップ価格が大きな問題。国内の需給だけでなく、為替レートや海外需給などの外的要因に影響される構造は改善しなければならず、輸出を制限するなど国内で資源をより循環できるよう業界のテーマとして議論していきたい。電気料金は短期的には化石燃料価格に連動するため、国際的な原油・ガス動向に左右されるが、AI利用拡大や、これに伴うデータセンターの建設ブームによる将来の電力不足問題への対応を考える必要がある。各電力会社は今後の需要増加に備えてインフラ整備を進めており、これに係るコストを電気料金に転嫁する方針で、基本料金が右肩上がりになっている。電力需要増への対応は重要ではあるが、電力各社にはこれまで継続的な大口安定ユーザーであった普通鋼電炉業界に対して安定的な電力供給とともに、急激なコストアップにならないよう配慮してもらいたい。原子力発電所の再稼動も求めていく」
「物流についても輸送燃料費、人件費の上昇によって単価がアップしている。足元は鋼材の荷動きが全体的に悪く、物流量が落ちていることから、この分野では働き方改革法案の影響はまだ顕著に出ていないが、物流量の回復に伴って、ある閾値を超えた途端に顕在化するはずで時期を逃がさず、先手を打つような対策が必要。労務費は物価上昇もあり、近年で継続的な賃上げを行った結果、他産業との賃金格差は以前よりも縮小してきている。ただ、依然として人材確保には苦労しており、とくに夜勤を含めた交代勤務に従事する生産現場人材の新規雇用は容易ではない。自動化などの省力化対策を講じると同時に、十分な人材を確保するべく継続的な給与改善は進めていかざるを得ない」
――普電工で注力している活動は。
「『安全は全てに優先する』という基本理念のもと、労働災害の未然防止に資する安全活動を実施している。労働安全委員会を拡大整備することによって、類似事故の未然防止と安全衛生水準のさらなる向上を目指す。カーボンニュートラル(CN)の達成に向けて、鉄スクラップの有効活用がより重要になることから、資源循環型社会の形成により一層貢献できるよう対応を講じる。『非化石電力鋼材のカーボンフットプリント算定ガイドライン』に準拠し、製造プロセスにおいて電力起因のCO2排出量を削減することで、CNな鋼材の製造を目指す。鉄スクラップ過積載問題への対処にも注力した結果、大幅に減少している。高齢者雇用問題ではアンケート調査を行っており、結果を取りまとめ、円滑に雇用できるようにする」
――26年度単年度にフォーカスすると。「26年度の課題は2つで中東情勢と。下期回復シナリオが想定どおりに進むかどうかである。26年度下期から、中・小規模建築案件を含めて建設関連需要が上向き始めると言われるが、人手不足という構造的課題を抱えたまま、シナリオどおりに進むかが鍵。中東情勢次第で全ての条件がゼロクリアされる可能性もあり、これからの数カ月は目が離せない」
――中・長期的なマーケットの見通しは。
「25年度の建設関連需要は色々な条件が重なって、想定以上に落ち込んだとみており、これを発射台に低下し続ける可能性は高くない。人口減少や少子高齢化によって長期的に需要が縮小するのは間違いないが、これから先は盛り返す時期が訪れると思う。足元よりは減るだろうが、15年度以降の10年で小棒需要は約30%減ったが、10年後でさらに30%減少して400万トン以下になることは考えにくい。生産能力は足元のシフトを前提にすれば各メーカーの稼働率は概ね60%前後ではないか。電炉は需要変動に対応して柔軟に生産量をコントロールできる特徴があるが、需要のこれ以上の落ち込みに伴う固定費負担増はすでに耐えられない段階に来ている。鉄スクラップ動向も不安要因が多い。繰り返しになるが、米国の輸出量が減少していることから、鉄スクラップの国際需給はタイト化し、しばらくアジア市場向けを中心として日本産鉄スクラップの引き合いが強い状況が続くと思われ、円安状態が続けば国内価格は構造的に高止まりするだろう。28年度以降は高炉の新電炉稼働で国内需給はタイト化が一層進み、価格を押し上げる要因になるだろう」
――普通鋼電炉メーカーが対処する施策は。
「需要の低迷やコストの高止まりという厳しい状況が想定されるが、各社の2025年度決算ではまだ黒字を確保できている。将来を見据え、コストダウンや生産体制の合理化などの自助努力を進めることが求められる」
「建設需要が縮小しているといえ、この状況下で建設サプライチェーンにいるゼネコン各社は大幅に収益を拡大しており、コストアップ分を製品価格に確実に転嫁できれば十分収益は確保できる分野だと思う。建設業界は材料メーカーと、使用する側であるゼネコンや施主の力関係に大きな差があり、今後この構造、商慣習をいかに是正していくか、いけるのかが大きなテーマ。適正取引という観点からも、何かできることはないのか継続してスタディしていきたい」
――普通鋼電炉業界に入る方にメッセージを
「普通鋼電炉業界は資源再利用、循環型社会の確立という観点で、一度廃棄された鉄スクラップに再び命を吹き込み、付加価値をもった製品に作り替えるという重要な役割を持つ。また、国内のインフラ建設に欠かせない資材を提供する社会的使命をもった産業であり、胸を張って誇りを持って従事できる。事業環境がさらに厳しくなることが考えられるが、異なった視点でみれば、この状況を乗り越えるために新しいことを試す機会が多いとも言え、実力のある者は力を大いにふるえる分野だと思うし、是非挑戦してほしい」(濱坂浩司)





















