2018年7月6日

第4次産業革命への挑戦 商社編 ■神鋼商事 森地高文社長 車体軽量化で提案型ビジネス RPA全社展開、創造的な仕事を

――第4次産業革命で商社ビジネスも転換を迫られている。自動車産業の構造転換についての認識から。

「世界の自動車生産は中国市場の急拡大によって9500万台を超えてきたが、生産自体は緩やかに増え続けるとみている。EV(電気自動車)への関心が高まっているが、ガソリン車は燃費が向上し、HV(ハイブリッドカー)、PHV(プラグインハイブリッドカー)の技術開発も進んでいるので、すべてがEVやFCV(燃料電池車)に置き換わることはない。どちらかというと内燃機関車の伸びが大きいだろう。ただ中国、イギリス、フランスなどは政府が主導しており、想定以上のスピードでEV化・FCV化が進展する可能性がある」

――神戸製鋼所は総合金属素材メーカーでもあり、ビジネスチャンスが広がる。

「内燃機関車、新エネルギー車のいずれも車体軽量化ニーズは高まる方向にあり、神戸製鋼が得意とするハイテン鋼板、アルミパネルともに需要が拡大している。グループ中核商社として、16カ国18社、11事業会社、5事務所の海外拠点を活用し、先行してグローバル事業環境を整備。商品知識を磨き、現地事業拠点を拡充するなど商社機能を強化し、提案型のビジネスを広げていく」

――自動車はマルチマテリアル化も進む。

「鉄鋼、非鉄金属、溶材の各本部が入手してくる情報に差異があり、足し合わせると全体が見えてくる。本部間の人事ローテーションに着手、海外現法・事務所間の連携も強化して情報を一元管理し、ビジネスチャンスを確実に捕捉していく」

――自動車用の鋼板、アルミパネルは需給がひっ迫している。

「新エネルギー車は電池を搭載するため重くなり、安全装置や自動運転など電子制御機能も複雑化している。アルミパネルのニーズは非常に強く、伸銅品の需要も伸びている。半導体装置用のアルミ厚板の需要も増えており、ニーズに応えきれない状況が続いている。自動車生産が急拡大し、欧州系の自動車・部品メーカーとの取引も拡大している中国では、現地のアルミパネル調達先を開拓し、安定供給に努めている」

――産業構造転換が進む中、持続的成長には神戸製鋼グループ以外の取引拡大も不可欠。

「全体の仕入れ先の3割、販売先の4割が神戸製鋼で、各分野では鉄鋼、溶材が仕入で7割前後、鉄鋼原料が販売で9割を占める。一方、非鉄、機械・情報が仕入れ、販売ともに半分以下で、この文化を生かしていきたい。非鉄金属本部のアプローチで新たな商流が生まれた一例として、日新製鋼との中国銅めっき鋼板合弁があり、自動車のブレーキチューブ用素材を生産している。仕入れ先を増やすことでトレードを拡充し、事業投資先を広げ、神戸製鋼グループの収益拡大につながるという好循環を広げていきたい」

――一方、働き方改革も時代の要請。

「全社アンケートを初めて実施した。役員から新入社員までを対象に、外部専門企業に依頼して、職場の雰囲気、社内の風通し、休暇の取りやすさなど92の項目についての意識調査を行った。その結果、『話しやすい雰囲気はある』『安定志向で変化への対応が遅い』といった社員のさまざまな思いを確認できた。残念ながら、『経営ビジョン』が若手になるほど浸透していないことも分かった。結果を分析し、職場にフィードバックするとともに、改善すべき点を明確化し、経営の責任として確実に対策を実施する。フレックスタイムの導入の検討、業務効率化などを進めつつ、社内活性化を図り、持続的成長に向けてグループ社員のベクトルを一つにしていく」

――業務効率化のための高度ITの活用が急速に広がっている。

「連結人員1627人、単体526人(うち一般職148人)の体制で、営業5本部が事業を拡大しており、業務効率化は喫緊の経営課題となっている。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入に向けて、非鉄金属本部の139の業務で検証した結果、受発注やデータ入力など約6割の業務で効率化の効果が確認できた。RPAを全社展開し、貴重な人材をより創造的な仕事にシフトしていく」

――経営課題としては、神戸製鋼グループの信頼回復も大きなテーマ。

「神戸製鋼の品質保証問題では多くの方々にご迷惑をおかけしている。営業の最前線だけに問題の深刻さを肌で感じている。グループ中核商社として、安定供給や情報提供などキメ細かな対応を積み重ねていくことで信頼を回復していきたい」

――収益力の底上げも課題。前期は連結売上高が前期比21%増の9295億円、経常利益は64%増の86億円、純利益は84%増の54億円だった。

「利益率がまだまだ低い。単体の経常利益は50億円で、連単倍率は1・7倍。トレードを拡大しながら、投資収益、事業収益をさらに拡大し、ポートフォリオを組み替えていく」

――鉄鋼ではメキシコの線材加工事業、インドの厚板加工事業は黒字化が視野に入ってきた。鉄鋼原料のアプローチは。

「マレーシアの合金鉄合弁はフル操業に近づいており、トレード・事業収益に寄与し始めている。主原料では、石炭における神戸製鋼との役割分担を鉄鉱石に横展開し、ビジネスチャンスを広げていく」

(谷藤 真澄)

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