2025年8月27日
財務・経営戦略を聞く/JFEHD副社長/寺畑 雅史氏/インド需要確保へ投資増/内需減にアライアンスで対応
――住宅着工戸数が対前年で2ケタ減るなど建設分野はじめ国内需要が厳しさを増している。
「比較的安定しているのは自動車と造船だが、自動車は完成車輸出の約2割が北米向けであり、米国の関税政策の影響が変動要素となる。造船は受注残が3年分あり安定はしているが、人手不足で建造ピッチが制限される課題は変わらず、鋼材需要のさらなるプラスは望みにくい。産業機械は中国向けなど輸出市場の不振が続く。建設機械は輸出の約3割が北米向けであり、関税影響が懸念される。建設関連は、土木の予算の水準は高いが単価で割り戻すと鋼材の使用量は以前ほどではなく、人手不足の影響も受けている。建築は大型再開発の遅れがみられ、建設分野の低迷は注視する必要がある」
「海外分野については、中国は自国の景気が低調な中でも粗鋼の高生産を続けており、大量の鋼材が海外に流れている構図に変化はない。結果として東南アジアの市場が低迷している。インドは4月から鋼板輸入への暫定セーフガード措置を発動したが、行き場を失った中国の鋼材が日本に向かうリスクもある。足元輸入材はやや減っているが、日本の需要が減っているためであり、輸入の水準としては高いままだ。こうした状況下、先般、政府よりニッケル系ステンレス・溶融亜鉛メッキ鋼板のAD調査開始が告知された。当社は賛同する立場だ」
――厳しい市場の中で4―6月期の連結事業利益は162億円と前年同期を大きく下回り、鉄鋼事業のセグメント利益は121億円の損失となった。
「粗鋼生産が528万トンと前年同期比で20万トン減少した。スプレッドは、為替の円高による輸出採算の悪化が大きく響いた。2024年度第1四半期は23年度第4四半期から原料炭価格が下がり、プラスに作用したが、25年度第1四半期は原料炭価格がさほど下がらず、原料物価変動の販価反映時期差がマイナスに影響し、棚卸資産評価差等もマイナスとなった。鉄鋼事業の棚卸資産評価差等除く実力ベースの利益は169億円と約200億円減少し、減益幅の約半数は販価反映時期差で、数量減も影響した」
――鉄鋼事業の利益は第1四半期より第2四半期、上期より下期に改善する見通しだ。
「第2四半期の実力の利益は211億円を予想している。コスト削減効果に加え、棚卸資産評価差損が縮小する。下期の利益予想は620億円と上期予想の380億円から改善する。粗鋼生産は1030万トンと上期(1070万トン)より数量は減るが、洋上風力向けの厚板や電磁鋼板など高付加価値品の拡販効果で数量減による減益分を取り戻す。グループ会社の下期の利益は上期比で120億円増える見通し。建設需要が不振のJFE条鋼やマンガン価格が低下したJFEミネラルなどは厳しい状況が続くが、海外の出資先は改善する見込みだ」
――米国の熱延コイル市況はアジアより2倍ほど高く、インドも鋼材市況が上がり、両国の事業会社の収益が改善している。
「米国の鋼材市況が上昇したことで、CSIが恩恵を受けている。ただ、熱延市況は頭打ちの様相もあり、また、関税導入影響でCSIはスラブの仕入れ価格が上がっている。鋼材市況の水準は他の地域に比べ高いが、米国の景気動向にやや不透明感があり、よくみておかなければいけない」
「インドは経済の成長率が高く、鉄鋼市場は安定して成長している。通商措置によって4月以降、鋼材市況が上がっている。出資先のJSWスチールの1―6月の利益は24年度通期の実績を上回った。当社の連結の利益は半期で100億円程度となり、下期はさらに期待できる」
――2025年度の単独粗鋼生産予想は前年比95万トン減の2100万トンと前回予想から変えていない。米国の対日相互関税は固まったが、市場への影響の見通しに変化は。
「粗鋼が約100万トン減る予想のうち50万トンは米国の関税政策による影響とみており、その大半が自動車の輸出関連と想定している。対日相互関税は15%に引き下げられたが、それによる影響はなお見通せず、リスクは残っている。米国の関税措置による直接・間接的な鋼材需要の変動リスクや韓国をはじめとする対日AD提訴による影響もあり、市場の先行きを厳しく見ざるを得ない」
――通期の実力の連結事業利益予想は2000億円と前年比363億円減。前回予想を据え置き、下期は上期より利益は改善するが、鉄鋼事業はなお厳しい状況が続く。
「棚卸資産評価差等を除いた鉄鋼事業の実力損益は1000億円と前年から373億円減少する予想だ。数量は減るが、その分を高付加価値品の拡販でカバーしていく。前年に比べ為替が円高に振れ、輸出採算が大きく悪化し、スプレッドが430億円のマイナスとなるのが大きい。原料物価変動の販価反映時差もマイナスに作用する。グループ会社は280億円改善するが多くがJSWとCSI。東南アジアのグループ会社は収益が大きく悪化した前年より改善するが、市場が低調なために利益の水準は低位にとどまる。原料権益からの利益は原料価格が低いために大きくは効いてこない。鋼材市況の停滞が継続しているが、諸物価の上昇分については一定程度、お客様のご理解をいただき改善しており、スプレッドをしっかりと確保していく」
――JFEエンジニアリングの前回利益予想200億円、JFE商事の同500億円は変更なく、堅調に推移する見通し
「JFEエンジはWaste to Resourceやカーボンニュートラル分野で受注を増やしている。洋上風力ラウンド2が遅れているが、モノパイルを年度内に造り始めたいと考えている。JFE商事は北米の鋼材市況の上昇がプラスに効いている。北米の建築分野の需要が上向いてくれば上振れが期待できる。電磁鋼板の加工事業は北米、アジアともに順調だ」
――年間配当予想を1株80円で前回から据え置いた。
「下限配当として打ち出しており、安定配当を継続する。そのためにもしっかりと収益を出すことに全力を挙げていく」
――JSWと折半出資で持つインドの方向性電磁鋼板(GO)の製造拠点、J2ESとJ2ESナシークの能力拡張を決めた。
「インドでは今後、電力需要の大幅増加が見込まれており、発電所、変電所、データセンターに欠かせない方向性電磁鋼板(GO)の需要は高まっていく。世界のGO市場は年率約5%で増えるが、インドのGOの需要量は年率7%程度成長し、2030年には現在の年30万トンから約50万トンに増えると予想される。需要を捕捉するためにJ2ESの生産能力を27年に2倍の10万トン、ナシークの能力を28年から30年にかけて5倍の25万トンに増やす。合計で30年に35万トンの能力を持ち、インドの需要の7割程度のシェアを取りたい。J2ESは日本の技術を投入してトップグレードの製品を製造する。独ティッセンクルップの事業会社で本年に買収したJ2ESナシークは現在の技術をベースとした製品を製造していく。インドはGO需要の大部分を輸入に頼っているが、JSWとともに上工程から一貫してインド国内で製造したGOをインドのお客様に供給していく。2拠点合計の能力拡張投資約1200億円を当社とJSWが5割ずつ拠出するが、当社の第8次中期経営計画で見込む海外投資4000億円の第一弾となる。今後もJSWといろいろと検討しており、よい案件があれば投資を計画していきたい」
――米国のパートナーのニューコアは政府の政策にどう対応している。同社との協業に進展は。
「ニューコアは政策の行く末を見据えてなにをすべきか検討しているところと思う。当社としても米国での事業戦略を検討しており、ニューコアの戦略と合致すれば一緒に取り組むことになる」
――大和工業、淀川製鋼所とのアライアンスの進捗は。JMUの株式の一部譲渡で今治造船と合意したが、今後も市場への対応に向けて同業他社との提携を進めることに。
「大和工業、淀川製鋼所とは検討を進めている段階だ。国内の建材需要が大幅に落ち込み、長期的にも人口減などで低迷が続くため、互いによく考えていきたい。自社だけでは対応できない課題についてアライアンスで取り組んでいくことになる。JMUについても、日本の造船業として強くなるには今治造船さんの関与を増やしていただくのがよいと判断した。事業をどう育てていくか。撤退するものも含めてやるべきことにしっかり取り組み、収益につなげていくことが肝要だ」(植木 美知也)
「比較的安定しているのは自動車と造船だが、自動車は完成車輸出の約2割が北米向けであり、米国の関税政策の影響が変動要素となる。造船は受注残が3年分あり安定はしているが、人手不足で建造ピッチが制限される課題は変わらず、鋼材需要のさらなるプラスは望みにくい。産業機械は中国向けなど輸出市場の不振が続く。建設機械は輸出の約3割が北米向けであり、関税影響が懸念される。建設関連は、土木の予算の水準は高いが単価で割り戻すと鋼材の使用量は以前ほどではなく、人手不足の影響も受けている。建築は大型再開発の遅れがみられ、建設分野の低迷は注視する必要がある」
「海外分野については、中国は自国の景気が低調な中でも粗鋼の高生産を続けており、大量の鋼材が海外に流れている構図に変化はない。結果として東南アジアの市場が低迷している。インドは4月から鋼板輸入への暫定セーフガード措置を発動したが、行き場を失った中国の鋼材が日本に向かうリスクもある。足元輸入材はやや減っているが、日本の需要が減っているためであり、輸入の水準としては高いままだ。こうした状況下、先般、政府よりニッケル系ステンレス・溶融亜鉛メッキ鋼板のAD調査開始が告知された。当社は賛同する立場だ」
――厳しい市場の中で4―6月期の連結事業利益は162億円と前年同期を大きく下回り、鉄鋼事業のセグメント利益は121億円の損失となった。
「粗鋼生産が528万トンと前年同期比で20万トン減少した。スプレッドは、為替の円高による輸出採算の悪化が大きく響いた。2024年度第1四半期は23年度第4四半期から原料炭価格が下がり、プラスに作用したが、25年度第1四半期は原料炭価格がさほど下がらず、原料物価変動の販価反映時期差がマイナスに影響し、棚卸資産評価差等もマイナスとなった。鉄鋼事業の棚卸資産評価差等除く実力ベースの利益は169億円と約200億円減少し、減益幅の約半数は販価反映時期差で、数量減も影響した」
――鉄鋼事業の利益は第1四半期より第2四半期、上期より下期に改善する見通しだ。「第2四半期の実力の利益は211億円を予想している。コスト削減効果に加え、棚卸資産評価差損が縮小する。下期の利益予想は620億円と上期予想の380億円から改善する。粗鋼生産は1030万トンと上期(1070万トン)より数量は減るが、洋上風力向けの厚板や電磁鋼板など高付加価値品の拡販効果で数量減による減益分を取り戻す。グループ会社の下期の利益は上期比で120億円増える見通し。建設需要が不振のJFE条鋼やマンガン価格が低下したJFEミネラルなどは厳しい状況が続くが、海外の出資先は改善する見込みだ」
――米国の熱延コイル市況はアジアより2倍ほど高く、インドも鋼材市況が上がり、両国の事業会社の収益が改善している。
「米国の鋼材市況が上昇したことで、CSIが恩恵を受けている。ただ、熱延市況は頭打ちの様相もあり、また、関税導入影響でCSIはスラブの仕入れ価格が上がっている。鋼材市況の水準は他の地域に比べ高いが、米国の景気動向にやや不透明感があり、よくみておかなければいけない」
「インドは経済の成長率が高く、鉄鋼市場は安定して成長している。通商措置によって4月以降、鋼材市況が上がっている。出資先のJSWスチールの1―6月の利益は24年度通期の実績を上回った。当社の連結の利益は半期で100億円程度となり、下期はさらに期待できる」
――2025年度の単独粗鋼生産予想は前年比95万トン減の2100万トンと前回予想から変えていない。米国の対日相互関税は固まったが、市場への影響の見通しに変化は。
「粗鋼が約100万トン減る予想のうち50万トンは米国の関税政策による影響とみており、その大半が自動車の輸出関連と想定している。対日相互関税は15%に引き下げられたが、それによる影響はなお見通せず、リスクは残っている。米国の関税措置による直接・間接的な鋼材需要の変動リスクや韓国をはじめとする対日AD提訴による影響もあり、市場の先行きを厳しく見ざるを得ない」
――通期の実力の連結事業利益予想は2000億円と前年比363億円減。前回予想を据え置き、下期は上期より利益は改善するが、鉄鋼事業はなお厳しい状況が続く。
「棚卸資産評価差等を除いた鉄鋼事業の実力損益は1000億円と前年から373億円減少する予想だ。数量は減るが、その分を高付加価値品の拡販でカバーしていく。前年に比べ為替が円高に振れ、輸出採算が大きく悪化し、スプレッドが430億円のマイナスとなるのが大きい。原料物価変動の販価反映時差もマイナスに作用する。グループ会社は280億円改善するが多くがJSWとCSI。東南アジアのグループ会社は収益が大きく悪化した前年より改善するが、市場が低調なために利益の水準は低位にとどまる。原料権益からの利益は原料価格が低いために大きくは効いてこない。鋼材市況の停滞が継続しているが、諸物価の上昇分については一定程度、お客様のご理解をいただき改善しており、スプレッドをしっかりと確保していく」
――JFEエンジニアリングの前回利益予想200億円、JFE商事の同500億円は変更なく、堅調に推移する見通し「JFEエンジはWaste to Resourceやカーボンニュートラル分野で受注を増やしている。洋上風力ラウンド2が遅れているが、モノパイルを年度内に造り始めたいと考えている。JFE商事は北米の鋼材市況の上昇がプラスに効いている。北米の建築分野の需要が上向いてくれば上振れが期待できる。電磁鋼板の加工事業は北米、アジアともに順調だ」
――年間配当予想を1株80円で前回から据え置いた。
「下限配当として打ち出しており、安定配当を継続する。そのためにもしっかりと収益を出すことに全力を挙げていく」
――JSWと折半出資で持つインドの方向性電磁鋼板(GO)の製造拠点、J2ESとJ2ESナシークの能力拡張を決めた。
「インドでは今後、電力需要の大幅増加が見込まれており、発電所、変電所、データセンターに欠かせない方向性電磁鋼板(GO)の需要は高まっていく。世界のGO市場は年率約5%で増えるが、インドのGOの需要量は年率7%程度成長し、2030年には現在の年30万トンから約50万トンに増えると予想される。需要を捕捉するためにJ2ESの生産能力を27年に2倍の10万トン、ナシークの能力を28年から30年にかけて5倍の25万トンに増やす。合計で30年に35万トンの能力を持ち、インドの需要の7割程度のシェアを取りたい。J2ESは日本の技術を投入してトップグレードの製品を製造する。独ティッセンクルップの事業会社で本年に買収したJ2ESナシークは現在の技術をベースとした製品を製造していく。インドはGO需要の大部分を輸入に頼っているが、JSWとともに上工程から一貫してインド国内で製造したGOをインドのお客様に供給していく。2拠点合計の能力拡張投資約1200億円を当社とJSWが5割ずつ拠出するが、当社の第8次中期経営計画で見込む海外投資4000億円の第一弾となる。今後もJSWといろいろと検討しており、よい案件があれば投資を計画していきたい」
――米国のパートナーのニューコアは政府の政策にどう対応している。同社との協業に進展は。
「ニューコアは政策の行く末を見据えてなにをすべきか検討しているところと思う。当社としても米国での事業戦略を検討しており、ニューコアの戦略と合致すれば一緒に取り組むことになる」
――大和工業、淀川製鋼所とのアライアンスの進捗は。JMUの株式の一部譲渡で今治造船と合意したが、今後も市場への対応に向けて同業他社との提携を進めることに。
「大和工業、淀川製鋼所とは検討を進めている段階だ。国内の建材需要が大幅に落ち込み、長期的にも人口減などで低迷が続くため、互いによく考えていきたい。自社だけでは対応できない課題についてアライアンスで取り組んでいくことになる。JMUについても、日本の造船業として強くなるには今治造船さんの関与を増やしていただくのがよいと判断した。事業をどう育てていくか。撤退するものも含めてやるべきことにしっかり取り組み、収益につなげていくことが肝要だ」(植木 美知也)












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