2025年9月16日

人財戦略を聞く/高炉編/日本製鉄/執行役員/三好 忠滿氏/人と企業 成長サイクル/周囲が理解、男性の育休取得率77%

日本製鉄は国内事業の実力強化とともに、米USスチール買収やインドの大規模投資など海外成長戦略を展開し、実現する人材を確保・強化する。企業がグローバルに成長し続けることが、優秀な人材を惹き付け成長させるという三好忠滿執行役員に戦略を聞いた。

――人材戦略を。

「人的資本戦略の遂行には、企業がグローバルで成長し続けていくことが大事だ。魅力に感じて優秀な人が集い、切磋琢磨し人も育つ。人的資本の強化につながる施策を打つが、それと企業の成長が良いサイクルで好回転する。次期中長期の経営計画の策定検討に入っている。『1億トン・1兆円』ビジョンの早期実現を目指して国内事業の強化とグローバル事業の展開を並行して進めており、カーボンニュートラルの推進なども含めて経営課題はますます高度化・多様化する。一方で労働人口は減少し、流動化も進む。難しくなる課題を解くべく、多様な人材に生き生きと活躍してもらう。人材の確保と活躍推進、生産性の向上、人材の育成と3つの柱を据えて人材競争力の強化を推進している。3つが掛け算で効く。企業の認知・魅力度の向上に取り組みつつ、多様な人材の採用を強化している。人材育成に資する戦略的な配置や異動も強化する。グローバル人材の育成では英語力を強化し、海外のプロジェクトに積極的に人材を派遣している。上司と部下の対話は大事だ。アサインメント・コミットメント(仕事の割り当てと責任)の対話を充実させている。やりがいや誇りを高めエンゲージメントを向上させる。4月に業務刷新・効率化推進プロジェクトを新設した。鉄鋼業界で勝ち残るためにも無駄を省いて生産性を上げる。DXの推進も継続する。短期間で解決方法を示して次期中長期計画にも織り込む。足元からやれることはやる。多様で力ある人材が高い生産性を発揮して難易度の高い経営課題に取り組む」

――具体策は。

「新卒採用ではインターンシップに毎年約700人の学生が参加している。応募者数はその数倍に上る。これは企業としての魅力や成長性が学生に広く認知されている表れで、次世代人材の獲得に向けた重要な取り組みだ。採用ソースの多様化はまずキャリア採用だ。新人を5年、10年かけて一人前にすることが大事なのは変わらないが、グローバルに急速に厚みも幅も増しつつ事業展開している背景から、社会でさまざまな経験をした人のキャリア採用に一昨年から力を入れている。アルムナイ採用も一昨年開始した。外で経験を積み再び当社で活躍してもらう。研究でポストドクターの採用もやっている。女性活躍の観点では、採用実績校の女性在籍比率と同等水準の比率(文系40―45%、技術系15%程度)で新卒を採っている。現場の操業整備系採用の10%強は女性だ。現場の班長に女性も就いている。外国人は毎年若干名だが採用している。グローバルで言うと、現地スタッフを事業会社の幹部に登用したり、駐在員の権限の一部も委譲しつつある。ASEANインドの現地スタッフで部長や部長候補を対象とした優秀層の研修も日本で行っている。一昨年から社内公募もやっている。社内起業もKAMAMESHIが第1号だ。人への投資で、従業員の処遇を製造業トップの水準に一気に回帰させた。一流の処遇で一流の仕事をしてもらう。シニアの活用でいち早く鉄鋼業は2021年に65歳まで定年延長した。仕事と育児、介護、家庭が両立できる制度は充実させ一通りそろっている。うまく活用できるような運用に取り組んでいる。上司や周囲の理解が大きい。男性の育児休業の取得率が21年度は25%くらいだったが24年度は77%まで上昇。出産、育児、介護休業に理解がないとハラスメントにもつながる。女性のライフイベントに寄り添う個別の施策も大事だ。女性が少なかったので、過渡期に丁寧な施策は要る。上級管理職はまだ少ないので社外のメンターをトライアルで導入したり、上司や周囲に女性活躍推進の必要性を理解させる研修を行っている。操業整備系中心に女性のシャワー、トイレなどを整備・充実化している。16年の大分をはじめ24時間対応できる保育所を主要な製鉄所に作った」

――女性管理職も増えた。

「起点の20年に対比して最低でも2倍と言った目標は超えた。積極的に女性採用を開始した以降に入社した女性が管理職世代に差し掛かり、今後は着実に増える。採用も増やし離職率も下がった結果管理職に昇格している」

――今後は。

「6月にUSスチールの買収を完了した。日本を基軸に米国、インド、ASEANと4極の事業推進体制を加速する局面だ。国内外を広く深くカバーする成長戦略の実現には、人材競争力の強化は最重要な経営課題の一つだ。不断に取り組んでいる。未曽有の鉄鋼業の厳しい競争を勝ち抜いて生き残るためにも、国内製鉄業の操業技術力、設備技術力、商品技術力、現場力や総合的な高い実力を構築して、圧倒的なコスト・商品競争力を実現する。国内で実力を磨いて海外拠点に展開することでグローバル成長を実現する。人的資本は極めて大事な経営課題なので一層推進して持続的な企業価値の向上を目指す」

(正清 俊夫)











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