2025年11月25日

財務・経営戦略を聞く /JFEHD副社長/寺畑 雅史氏/通期 実力ベース 事業利益1900億円確保/米関税影響低減、印JSWに期待

――国内外ともに厳しい環境が続き、低収益を余儀なくされている。通期の連結事業利益予想は前回並みとしたが、棚卸資産評価差等除く実力ベースは下方修正した。

「首都圏の大型再開発案件の後倒しなど建設業の不振が昨年以降常態化している。大手ゼネコンは大型物件の既契約を抱え、新しい建築案件も出ているが、建設費の上昇や人手不足から鉄鋼需要の大きな回復は望みにくい。造船業界が建造能力の倍増を表明するなど製造業に前向きな変化もみられるが、短期のうちに需要に結びつくことではない。米国の関税引上げによる自動車分野の影響は緩和されているが、アジアの自動車市場は低調に推移し、自動車生産の上振れの余地は大きくはない。通年の国内自動車生産は前年と同レベルとみている。今回、通期の実力ベースの連結事業利益予想を1900億円と前回から100億円下方修正したが、厳しい事業環境の中で利益を確保するための取り組みを強化していく」

――米国の関税影響が緩和し、粗鋼生産や利益の減少予想を修正した。

「期初に粗鋼生産が前年比で約100万トン減ると予想し、そのうち50万トンを米国の関税影響として織り込んだが、今回粗鋼の減少幅を約50万トンに見直し、そのうち米関税影響は3分の1程度と予想している。そのうち3割程度の影響はすでに発現しているとみられ、残りを下期に受ける見込みだ。金額ベースでは米関税影響を期初に120億円としたが、半分程度に減る見通し。懸念されるのは鉄鋼派生製品に対する関税引上げと対象拡大。建設機械なども含まれ、間接輸出の需要の減少につながりかねない」

――2025年度上期の鉄鋼事業のセグメント利益は53億円の損失、実力ベースで427億円と前年同期比448億円減少した。輸出環境の悪化によるスプレッドの悪化が主な要因だが。

「前年度の上期は原料価格が23年下期に上がった後の下がり局面となり、原料炭価格の反映の時期差があって利益にプラスに作用した。今年度はそのプラス分の利益が剥落している。25年度上期は対前年で円高となり輸出採算が悪化し、鋼材市況低下の影響も受けた。近年に設備投資を進め、減価償却費が上がり、金利の上昇やその他経費が積み重なり、全社として収益は低くなっている。一方でグループ会社は特に海外でインドのJSWスチールが改善した」

――鉄鋼事業の通期利益予想は実力で900億円と前回から100億円下方修正した。

「スプレッドは上期との比較で下期にさらに少し悪化する。円安に傾く分は増えるが、鋼材市況の悪化や国内のスプレッドの低下がマイナスに効く。エンジは下期に若干改善する見通し。海外は米国のCSIの収益は輸入スラブで受ける関税影響もあり、想定したほどは戻ってこない。米国の経済政策がどうなるか、しばらく様子見だが、来年は上向くと期待している。メキシコのCGLのNJSMは今のところ米関税影響は限定的だ。米関税影響の意味では日本から直接輸出しているシームレス鋼管は米国の経済停滞やプロジェクトの停滞で需要が落ちている。インドの鉄鋼市場は税制改正を踏まえた買い控えもあり、7―9月期はよくなかった。JSWの粗鋼生産は過去最高となり、10ー12月は高炉改修でさほど伸びない見込みだが、来年は一過性要因が除かれ期待できる。インドは経済成長率が高く、世界の中でも市場は安定している」

――JFEエンジニアリングとJFE商事は一定の利益を維持している。

「JFEエンジの受注は高い水準を維持し、上期に126億円と前年同期比37億円の増益となったが、JFE商事の利益は219億円と5億円減少した。素材のトレードの事業環境が悪化しており、とりわけ米国の建材市場がトランプ政権の政策で改善するとみていたが、需要が伸びず、鋼材市況など想定を下回る水準が続いている。利下げなど政策の進行によって建設市場が上向いてくることを期待している。米国は人口増など安定して伸びていく市場であり、政治の舵取り次第で状況は改善するとみている」

――韓国と欧州による日本などの熱延材に対するADの影響は。

「韓国向けはお客様と相談しながら一定量の供給は継続している。世界全体が保護主義に向かい、輸出で海外市場を捉えるのはより難しくなっていく。海外の成長市場でインサイダーとしてどう事業戦略を築いていくかが、より重要になっている」

――インドで電磁鋼板戦略を着々と進めているが、もうひとつの最重要地域である米国での投資の考えは。

「インドのJSWとの方向性電磁鋼板の合弁事業のJ2ESと買収してグループ化したJ2ESナーシクの取り組みは順調に進んでいる。米国でも何ができるか考えているが、ニューコアとも相談しながら、高付加価値品を軸に海外事業戦略の具体案を固めていく」

――倉敷地区の革新電気炉導入に向けて鉄スクラップの集荷が重要になる。対策の進捗は。

「品質の高いスクラップが必要になり、お客様との循環スキームをしっかりと築いていくことは重要だ。安定的な購買に向けて、リサイクル企業やスクラップ取扱商社としっかり連携していく。JFE商事は鉄スクラップの事業を強みとしており、期待するところは大きい。すでに建設が開始された倉敷の革新電気炉は直接還元鉄も原料に使用する。UAEのエムスチールとの直接還元鉄の製造に向けた合弁事業は事業化調査の段階だが、今後、建設が決定し、還元鉄製造が開始されれば革新電気炉の原料として活用したいと考えている。革新電気炉では自動車用鋼板や厚板など高級鋼を製造できるよう研究開発を進めている」

――JFEエンジのモノパイル工場の状況は。

「今年度に初受注を見込んでおり、来年度にフル生産化を期待している。政府のエネルギー政策の中で洋上風力の位置付けは大きく、政府にもしっかりと進めていただきたいと思っている。国内でサプライチェーンを構築し、洋上風力の発電設備を増やしていく動きを進めてほしい」

――27年度の最終の中期計画目標の達成に向けて取り組んでいくこととは。

「JFEエンジは、カーボンニュートラルの実現に向けて、得意分野のLNGをはじめ、水素やアンモニアのパイプラインやプラント建設でもメインプレーヤーとなれるよう受注していく。JFE商事は米国や豪州で建材市場のインサイダーとなる手を打ち、電磁鋼板も米国、インド、アジア、欧州など拠点を展開している。鉄鋼事業は来年度に向けて厳しい事業環境が続くのであれば、もう一段の対策を考える必要がある。現中期計画で高炉の休止を織り込んでいるが、下工程やグループ会社についてもそれぞれ製品や事業、地域の中でどういう設備体制とするか考えていく。大和工業、ヨドコウとの連携も具体策について検討を進めている。自社だけでできることは限られており、グループ会社、さらに同業他社と一緒に最適解を考え、実行に移していく」(植木 美知也)









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