2022年2月25日

財務・経営戦略を聞く 日本製鉄副社長 森高弘氏 マージン管理 最大の課題 実力ベース 利益確保 外部影響を最小限化

――自動車の減産が続いているが、足元の需要動向と生産への影響は。

「第3四半期から第4四半期にかけて建築は若干落ちているが、土木は国土強靱化を背景に堅調が続いている。製造業は若干増え、鋼材消費は第3四半期とほぼ同水準で推移している。半導体などのサプライチェーンの混乱による自動車の減産影響を年度内に取り戻す計画だったが、今もまだ減産を継続している。当社の2021年度予想の単独鋼材出荷量は需要減と大分地区の生産トラブルと合わせて昨年11月の前回予想より60万トン下方修正し、250億円ほど影響が出る。大半が自動車を中心とする需要の減少影響である」

――海外市場はどうか。

「鋼材需要は一時的に調整局面にある。中国は第3四半期から第4四半期にかけて不動産関連の懸念が拡大し、電力供給不足や新型コロナの感染再拡大、物流混乱があって景気が減速している。ASEANも、経済全体がシュリンクしているわけではないが、コロナの影響で物流の混乱や人手不足が生じ、建設や製造業ともに需要は弱めだ。米国は個人消費が強く、住宅も堅調で自動車需要も強いが自動車は供給サイドの問題で生産が減り、鋼材需要にはつながっていない。米国は物価上昇と利上げ観測の影響を注視する必要がある。一方、海外市況は、原料コストの上昇と将来需要増への期待感から2月の春節以降反転・上昇の兆しを見せており、春先からさらに上昇するとみている」

――21年度のマージン改善を前回予想から100億円上方修正した。販売価格改善が進展したが、前回予想と中身は異なるようだが。

「前回想定では、国内販売価格は保守的に織り込んでおり、原料価格を厳しめに織り込んでいたため、今回、国内のマージンは大きく改善した。一方、国際鋼材市況は高止まりを想定していたがその後下落したため、輸出マージンは大きく打たれ、結果としてマージン全体としては前回予想より100億円増にとどまる見通し。また、上期と下期の比較でもマージンは100億円改善する。ポイントは、紐付き向けのマージンを拡大し、国際市況の下落や下期の原料炭価格の上昇があってもトータルのマージンでは100億円改善している点だ」

――第3四半期(10―12月)の連結事業利益が2659億円と出荷量が減る中で第2四半期を上回った。

「生産・出荷量が若干減少し、原料価格が上がり、輸出市況が下落した中で第2四半期より収益が改善できたのは、ひも付き販売価格の是正が大きく、マージン全体を押し上げた。加えて海外、国内ともにグループ会社が高水準の利益を継続している。在庫評価差の一過性の増益要因もあって高収益を実現できた。第4四半期は利益が縮小するが、名古屋製鉄所の高炉改修、在庫評価益の減少、固定費の期末集中など一過性の影響が大きい。実力ベースの利益はそれほど変わらず、第3四半期を100億円下回る程度となる」

――世界で収益力が最も高い韓国POSCOの利益を第3四半期、2021暦年合計ともに上回った。

「層の厚い海外事業や国内のグループ会社を含めた総合力でPOSCOの収益を凌駕したいと考えてきたが、ようやく実現できた。ただ、単体の利益はなかなか届かず、すぐにキャッチアップできるほど近くにはいない。中長期計画での構造対策の効果を今後約1000億円予定し、設備の新鋭化や注文構成の高度化、DXの効果を見込み、さらに操業諸元や変動費の改善などで単体の利益でも中期的にキャッチアップしていくことを目指す」

――22年度の鉄鋼市場をどう見通すか。

「世界的にはコロナ禍からの回復による経済成長に伴い、鋼材需要が増える見込みだ。中国は春の全人代や秋の共産党大会に向けて何らかの経済対策を行うとみている。日本国内は多少時間はかかるが、自動車などのサプライチェーンの混乱からの回復により製造業中心に特に下期にかけて需要は回復するとみている。建築については再開発の案件が進展し、土木は国土強靱化関係が高水準で推移する。一方で供給側をみると中国の供給政策は簡単に変わるものではなく、需給はタイト感が維持される。鋼材市況は春先から上昇し、下期に向けて需要回復を背景にかなり高い水準で推移するだろう。グリーンフレーションで物価は上昇し、原料も引き続き高値圏で推移するだろう。主原料のみならずトータルの外部コストのマージンコントロールが22年度の最大の課題となる」

――22年度の経営課題の主なポイントは。

「製造については名古屋製鉄所の第3高炉の改修工事が6月初めまで続く。国内の高炉の保有数を15基から11基まで減らしている中で名古屋の改修を粛々と行い、予定通り立ち上げることが大事だ。ゼロ番地である設備操業の安定化を常にしっかり行う。販売面はマージンコントールとひも付き契約の商慣習見直しの定着に注力する。さらに構造改革の効果の早期発揮に加え、国内のグループ会社もマージンを確保し実力の収益を維持・向上する。リスク要因は高水準で大きく変動する原料価格と、同じく変動する鋼材市況だが、収益を上げるために外部影響をミニマイズできる体質への改善を着実に進めてきている。22年度以降の連結事業利益の目線として、実力ベースで最低6000億円以上を出し続ける考えだ」

――継続する販価是正の考え方について。

「3点、考える必要がある。まずはコスト競争力を高めること。原料や資機材の価格が上がれば国際鋼材市況はいずれ上がる。しかしそこには時間差があり、コスト競争力がない企業は収益的に大きな打撃を受ける。当社は昨年に抜本的なコスト削減対策を断行し、損益分岐点を下げており、今後もこうした取り組みを続けていく。もう一つは国際市況の変動の影響を受けにくい電磁鋼板やハイテン鋼など高付加価値品の比率を上げていくことであり、品種構成の高度化を進める。最後は、マージンを維持できるよう最大限努力した上で自助努力を超える部分についてはサプライチェーン全体での負担をひも付き、店売り含めてお願いしていく。この3点はすでに取り組んでおり、不断に続けていく」

――商慣習の見直しに取り組み、受注・出荷前の価格決定に向けた交渉を3月末までに紐付き需要家と終える予定だが。

「受注・出荷前に価格を確定させる『交渉時期の前倒し』も『環境変化を迅速に捉えた上で受注前に価格を確定させ、経営上の見通しを立てやすくする』ことが目的で、お客様にとっても当社にとっても合理的で妥当なものだと多くのお客様にご賛同いただいている。足元変動する需給動向・原料・資材価格・市況への対応策の一つとして『契約期間の短縮』についても、お客様毎に異なる事情などを踏まえながら個別にご提案・協議し、多くのお客様にご賛同いただいている。こうした商慣行の見直しを含め、4月以降の価格について、現時点で交渉はほぼ決着している」

――タイの大手電炉の買収を決め、グローバル展開を進めた。

「現地調査を行った結果、品質やデリバリーの面がネックとなり、今は半分程度の稼働率しか確保できていないが、まずは当社の技術と知見で品質・コスト・デリバリーを改善し、300万トンの能力をフルに活用できるようにし汎用ホットマーケットの成長を捕捉する。将来的にはさらなるグレードアップ、カーボンニュートラルの面での活用も視野に入れている。GスチールとGJスチールを加えた当社のグローバル粗鋼は6600万トンとなる。インド・米国での拡張など現在計画化されているものを実施すれば約9000万トンとなる。9000万トンまでは計画化されているということ。グローバル粗鋼1億トンに向け、さらにグローバル戦略を深化させていきたい」(植木 美知也)

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