2023年8月30日

財務・経営戦略を聞く/JFEHD副社長/寺畑雅史氏/鋼材利益1万円射程圏に/市場見定め電磁鋼板増強

――第1四半期の棚卸資産評価差等除く実力の連結事業利益は大幅な増益となった。

「棚卸資産評価差等を除く前の連結事業利益は848億円と前年同期比318億円減少したが、昨年は原料炭の価格が高騰したことで多額の一過性の利益があった。今期原料価格は比較的安定して推移しており、一過性のプラス90億円を除いた実力の利益は758億円と前年同期の6億円から大きく改善した。生産・販売量は若干減っているが、販価・原料(マージン)で1200億円ほどプラスとなった。これまで確保しきれていなかった原燃料など諸物価やエキストラの改善で国内の販価を維持した」

――下期の単独粗鋼生産は1230万トンと上期並みを予想。海外市場は不安定だが内需、海外市況ともにそう変わらない想定か。

「2023年度の国内自動車生産計画は900万台を超える想定で昨年の810万台から増える見通しであり、自動車生産の回復は続くが、建築は一部再開発案件で後ろ倒しの話が聞かれる。中小建築が低迷し、鋼材の需要が伸び悩んでいる。土木は資機材価格の高騰と人手不足で予算執行が遅れている。建築・土木ともにタイミングが後ろにずれているものの需要の腰が折れるような兆候が見えているわけではないので注視していく」

「中国経済の動向が気になる。粗鋼減産の動きがみられるが不動産中心に景気が鈍く、鉄鋼需要の回復は年明け以降になるとみている。東南アジアは中国材の影響を受けているがロシア材が入らず、インド材の輸入も増えていないので鋼材市況は一程度保たれている。秋以降需要期に入るので中国の鋼材輸出が自制されてくれば状況は少し上向くのではないか。米国は鉄鋼市場において利上げの影響などによるリセッションが懸念されたが持ちこたえそう。海外市場は上期より少しよくなるとみているが数量が横ばいでも鋼材市況が上期並みであれば原料価格が下がっている分、マージンは増える。鋼材輸出について数量を追わない方針は変わらない」

――通期の実力の連結事業利益予想を3150億円と前回見通しから350億円上方修正した。鋼材トン当たり利益は中期計画の当初目標の1万円を固め、中計最終年の24年度にさらに上を目指す。

「鋼材のスプレッドが大幅に改善する。構造改革効果の残り450億円のうち23年度に200億円、24年に250億円が効いてくるので鋼材トン当たり利益1万円は射程圏にあり、24年度に1万1000円以上をターゲットに据えている。24年度に利益をさらに引き上げ、その利益の水準を踏まえて25年度からの次期中期計画で取り組むべきことをしっかりと打ち出していくことが重要になる」

――鉄のグループ会社の収益状況は。

「資源系のグループ会社は原料価格の下落を受けて減益となっている。鋼材系は市況がやや下がり安定しているため、業績は昨年ほどではないが、いずれも大幅な増減はみられない。海外は出資先の自動車用鋼板製造拠点のタイのJSGTとインドネシアのJSGIは通貨安の影響を受けて厳しかった昨年からは改善している。北米事業の収益は昨年ほどではないが安定している。中国のGJSSは一定の利益を確保しているが日系自動車の生産の減少は気がかりだ。出資先のインドのJSWスチールの業績は大幅に改善している。JSWとは方向性電磁鋼板の製造販売会社の設立を決めた。電力インフラ関連のプロジェクトは多く、生産体制の拡充を順次図っていく」

――JFEエンジニアリング、JFE商事とも通期利益予想を前回から変えていない。

「JFEエンジは250億円で前年から116億円増える見通しだ。受注環境はよく、環境プラントや橋梁などの案件が堅調で海外でもアジアの環境プラント関連など高い水準で推移する見通しだ。中期計画目標の350億円に向けて引き続き受注に努め、収益拡大を目指す。JFE商事は米国市場が好調だった昨年と比べると今年は減益となるが、それでも480億円と中期計画目標の400億円を上回る高い利益を確保する見込み。米国の鋼製薄板建材製造販売会社のセムコ買収などの施策により、収益力は向上してきている」

――無方向性電磁鋼板の能力を追加で増強するが、電動化の潮流からみてさらに増強が必要になるのでは。

「電磁鋼板の第1期能力増強の新ラインが24年度に立ち上がる。電動化が前倒しで進みそうなので状況に応じて次の増強を考える。能力増強を決める際に世界のどのマーケットを見据えるかが重要になる。自動車の電動化が急速に広がる中国は自国で電磁鋼板を供給しているので市場の大きい米国などを見据え、また日系の自動車メーカーの動向を注視して電磁鋼板の増強計画を定めていく」

――グリーン鋼材「JGreeX(ジェイグリークス)」が海運8社のドライバルク船に採用された。大単重厚鋼板のJテラ・プレートも洋上風力発電用のモノパイルに初めて採用されるなどCN関連の製品ビジネスが具体化している。

「海運8社にジェイグリークスを販売するが、当社もユーザーとなって一部コストを負担する。CO2削減のコストをサプライチェーン全体で吸収するスキームを示し、需要家の皆様が考えるきっかけにしてもらえればと思っている。当社の持つ技術で次世代燃料船など燃費のよい船舶の製造に役立つとともに低CO2という新たな価値を付加した鋼材をミックスすることで社会により貢献していく。ジェイグリークスは製造分野に加え建築関係でもニーズがあり、対応していきたい」 ――9月16日をめどに東日本製鉄所京浜地区の上工程を休止する。

「これまで大きなトラブルもなく、上工程休止に向けた作業を進めることができている。上工程の現業職は約1000人ほどだが、雇用を確保する方針のもと、全社員と面談を重ね、時間をかけながら再配置を決め、退職を選んだ社員については再就職の支援も行っている。協力会社についても行政と連携して対応に取り組んでいる。西日本製鉄所だけでなく、カーボンニュートラルに向けた試験電炉など上工程の試験設備がこれから多く建設される千葉地区や生産設備を増強する仙台製造所に異動する社員も多い。製鉄所の跡地について川崎市から出された方針を受けて当社としての考えを9月に公表する。先導エリアは水素などカーボンニュートラルエネルギー拠点や高次元の物流拠点などを構想し、後背地のエリアについては土地売却・土地賃貸・事業利用の観点で先を見据えながらいろいろと考えていく。南渡田地区については一部エリアについて事業パートナーが決まり、水江地区はJFEエンジを中心にリサイクル拠点を建設する」

――少し早いが次期中期計画の重要テーマは。

「一つはCNの取り組みをより具体的に進めていくこと。もう一つは成長戦略だが、国内は量から質への転換を継続して進めることになる。一方で海外中心にどう拡大戦略を考えていくかが重要なポイントになるが、やはり量を追うのではなく、高付加価値品市場の獲得にシフトしていく。海外でのソリューションビジネスもより具体的に進むだろう。国内各地区の高炉の操業状態を東京本社で把握できるようにしているが、インドなど海外の製鉄所についても同じようなことは可能だ。技術を供与するということではなく、操業管理を支援するあるいは当社の管理手法で対応することも考えられるだろう。JFEエンジも遠隔地の廃棄物焼却プラントなどを横浜本社で集中管理している。グループ内にもヒントがいろいろとあり、活用していく」(植木 美知也)

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