2023年10月20日

鉄鋼新経営 新たな成長に向けて 日本製鋼所社長 松尾敏夫氏 10年後売上高5000億円照準 IM本部新設、未来へ種蒔き

――取り巻く環境から。

「産業機械事業において世界でプラスチック需要は底堅く、原料・ペレットを製造する造粒機は受注が相次ぎ、フィルム・シート製造装置も堅調だ。一方、プラスチック成形機は中国経済の減速、欧米の金融引き締めなどの影響を受けている。素形材・エンジニアリング事業の素形材はロシア・ウクライナ情勢で世界各国がエネルギー安全保障に注力しており、カーボンニュートラル(CN)実現に向けて再生可能エネルギーへのシフトが進む中、火力発電でも当社の得意とする、高温・高圧で発電効率が良い案件向けで需要が好調に推移している。仏国と英国で新設する原子力発電所向け大型鋳鍛鋼部材の受注も好調で、原子力ルネッサンスの頃ほどではないが、ここ数年では高水準となっている。その他の一般鋳鍛鋼品の需要も底堅い」

――収益状況を。

「4―6月期は収益が悪化した前年同期の反動影響もあり、大幅な増収増益となった。コスト増大で調達価格が上昇した分の販売価格への転嫁が追い付いておらず、この効果は期を追うごとに収益に反映され、さらなる収益改善が期待できる」

――現行中期経営計画「JGP2025」で掲げる目標に対して連結売上高、受注高はすでに超過達成した。

「一定の成長を果たすことができたが、受注数量は想定を上回り、とくに産業機械事業は当社の生産能力を超える事態に陥っている。一部の工程は外注せざるを得ず、限界利益が下がっている。産業機械事業は主力の広島製作所(広島市安芸区)の樹脂機械の生産能力増強、大型機の組み立て能力向上を目的として、10月に竣工する第9と、第10の組立工場、新機械工場を新設し、それぞれの能力を引き上げる。次期中計期間内ではさらなる追加の投資も検討していきたい」

――名機製作所(愛知県大府市)は。

「大型の射出成形機の組み立てなどを手掛けている。車両用連結器など鉄道製品の生産を広島から移管する予定だ。次期中計ではプラスチック関連機器分野と、それ以外の産業機械分野で分けて考える。プラスチック関連機器分野は広島と名機、産業機械分野は名機と横浜製作所(横浜市金沢区)で行っており、それぞれコラボレーションを推進している」

――23年3月に工場が竣工したポーランド現地法人の状況を。

「射出成形機の組立生産・販売を手掛けているが、ビジネスチャンスが増え、順調だ。当社の主力は電動機で、油圧機が大半を占める欧州市場で省エネルギーのメリットをアピールしている。現地生産を始めたことでコスト面や納期面などのネックも解消されている」

――日本製鋼所M&E(北海道室蘭市)はどうか。

「『原子力ルネッサンス』時代に投資した基幹設備が老朽化してきているが、損益悪化が続いてメンテナンス投資のタイミングを失っていた。現中計で掲げる『素形材・エンジニアリング事業の定常的な黒字化』が受注増で達成できる状況になり、設備リフレッシュを検討する。また室蘭市や周辺エリアは人口が減少し、人材確保が困難になっている。給与を上げ、福利厚生を充実させて、働き甲斐のある職場を創生しながら、ダイバーシティ&インクルージョン、人的資本経営を一段と強化する」

――次期中計「JGP2028」の骨子を。

「当社は10年後に5000億円規模を連結売上高の目標に掲げており、次期中計は中間年という位置付けになる。現中計では連結売上高、受注高の計画を前倒しで達成しているが、営業利益は未達の見込み。コストアップ分を製品販価に反映させ、生産能力不足に伴うネックを解消することで、営業利益率は上昇させていきたい。広島を中心とする設備増強、室蘭の設備メンテナンス、技術開発費や人件費の増額で固定費負担が増えるものの、現状を上回る営業利益の確保を目指していく」

「JSWグループの連結売上高は2000億円規模で推移していた。現中計で3000億円を目指し、10年後に5000億円に照準を合わせており、従来の1・5倍、2倍以上になれば考え方が変わってくる。CSR(企業の社会的責任)、ESG(環境・社会・企業統治)、ガバナンス構築など経営課題を解決するためにはコーポレート機能を強くしなければならない。コーポレート人材を増強することで、各事業部の方針を取りまとめる機能から、成長戦略を立てて実行する強力な機能にシフトしていく」

――4月にイノベーションマネジメント(IM)本部を新設した。

「IM本部は未来への投資を行う組織であり、既存事業とは異なる、新しい付加価値やコア技術を生み出すという意気込みで取り組んでいる。当社製品は開発着手から市場投入まで長い期間を要し、この目に見えない参入障壁が技術力の高い製品を作り上げてきた。足元で新しい研究テーマは少ない。IM本部を構成する総勢120人のスタッフには未来への種を蒔いてほしいと伝えている。新しいチャレンジは若手のモチベーションアップや人材確保にも繋がる」

――IoT(モノのインターネット)、DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用についてはどうか。

「DX化を推進する一環として、各事業部や製作所で異なっていた基幹システムを統合する。これによって経営数値を見える化でき、状況をスピーディに掌握し、経営のスピード化を図る。このほか電子決済や図面管理、営業ツールの新システムも導入。検査データのDX化で転記による誤記などを回避する。売上高に占めるIT関連投資の割合は1%程度に引き上げている」

――CN対応は。

「自社のCN対応について、広島で最も新しい第8組立工場の屋根に太陽光発電パネルを搭載しており、広島でこれから建設する工場には太陽光パネルを設置していく。また、室蘭では加熱炉からのCO2排出量を減らすため、使う燃料について重油の割合を減らして天然ガスを増やすほか、水素やアンモニアへの代替のための工業炉開発検証プロジェクトに参画している。また当社は、採用した顧客がCO2排出削減に繋がる製品を多く有する。拡販することによって、CN社会実現に貢献していきたい」

――室蘭で行っているJX金属、月島機械とのコラボレーションは。

「JX金属とは共同出資会社・室蘭銅合金が順調に技術を確立し、優れたチタン銅合金が出来ている。月島機械とは今後も良好な協力関係をキープする」

――フィンランドのパトリア社と、日本国内での装輪装甲車(AMVWAPC)生産についてライセンス契約を締結した。

「防衛省が陸上自衛隊の次期装輪装甲車にパトリア社製を選び、パトリア社は日本で生産するためのアライアンス先を探していた。当社が兵器の国産化を目的に創業した経緯や、生産能力などを踏まえて、パトリア社から『一緒にやりたい』という話があって合意に至り、契約を締結した」(濱坂浩司)

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