2025年12月1日
Hibot(ハイボット、本社=東京都品川区、ミケレ・グアラニエリCEO)は過酷な環境下での使用を可能にするロボット技術に特化して開発を進める、東京科学大学(旧東京工業大学)発のベンチャー企業。NBKマーケティング(本社=東京都港区、岡本英一郎社長)は機械要素の開発・製造を主体とするメーカーである鍋屋バイテック(本社=岐阜県関市)のグループ会社。両社は点検作業の自動化・省人化を基軸に事業を展開しており、NBKマーケティングはハイボットの多関節蛇型ロボット「フロートアーム」を用いた点検サービスを2025年1月から代理店として開始し、製鉄や電力などにおける現場の定期修繕で採用を目指している。グアラニエリCEOと岡本社長に国内におけるメンテナンス現場の現状、これからの事業展開などを聞いた。
――両社の生い立ちから。
グアラニエリ「イタリア・ヴェローナ大学で制御工学を学び、コンピューターサイエンスの学位を取得した後、蛇型ロボットの開発など真に役に立つ技術開発に携わっていた東京工業大学(現東京科学大学)の広瀬茂男教授(現同大名誉教授)の下で学ぶため、文部科学省の奨学金を受けて01年に来日した。機械・航空宇宙工学の修士号と博士号を取得しながら、04年に東工大でハイボットを設立。多関節蛇型ロボット『フロートアーム』、産業用ボイラー検査システム『スクウィッド』、AI(人工知能)プラットフォーム『ハイボックス』をはじめ送電線の自動点検、補修ロボットなども手掛けている。NBKマーケティングさんは当社の『フロートアーム』を用いた点検サービスを国内で展開しており、海外では他企業と組んで需要家に提案し、採用を働きかけている」
岡本「親会社は鍋屋バイテックで、創業後460年以上の歴史を持つ。LiLz(本社=沖縄県宜野湾市)が開発した工場設備の計器点検を自動化するシステム『リルズゲージ』、ugo(本社=東京都千代田区)の自律型点検ロボット『ユーゴーミニ』、防爆対応スマートグラスとともに、『フロートアーム』を活用した点検サービスを実施している。家族ぐるみで親しくしているハーモニック・ドライブ・システムズ(本社=東京都品川区)の長井啓会長から、ハイボットさんを紹介していただいた。初めてお会いした際、ミケレさんも山本猛COOも魅力的な方で、一緒にビジネスをしたいと感じたのを覚えている。ちなみに『フロートアーム』には精密歯車のハーモニックドライブが採用されている」
過酷な環境を安全に
――両社ともに点検作業を軸に事業を展開している。
グアラニエリ「学生時代から『人の役に立つ機械をつくり、人々を救いたい』という思いを持ち続けていたが、国内外で多くの方がメンテナンス作業時に命を失っている現状を知り、プラント設備の点検作業など危険と隣り合わせの日常業務をロボットの活用で支援するべく、取り組んでいる。点検はメンテナンスの最初に行う作業であり、ロボットへの切り替えが比較的容易である。繰り返しになるが、『人の役に立つ機械をつくり、人々を救いたい』という信条に基づき、職場環境の改善ではなく、人員削減を目的としている場合、どのような顧客であっても依頼を断っている。最先端技術の産業への応用を通じて各種現場の課題を解決し、人々を助けるロボットを創造するのが使命であり、この挑戦を続けている」
岡本「高校時代に鍋屋バイテックの鋳物作業に従事したことがある。想像以上に厳しい労働環境であり、過酷な作業を自動化できないかと考えてきたことが、当社のミッションにつながっている。コロナ禍に出合った『リルズゲージ』を取り扱うに至り、日本国内では労働人口の減少でメンテナンス人材が不足し、設備インフラの維持が難しいことを知った。働き方改革もあって人手不足が深刻化する中、点検作業の自動化が重要テーマであり、作業現場の課題を解決できるビジネスを展開することが当社のモチベーションで、経営の基軸になっている」
――日本では人口減少、少子高齢化で人手不足が深刻化している。
グアラニエリ「過酷で危険な現場で作業するには高い経験値が必要だが、定年退職など高齢化に伴って熟練者が年々減少している。この分野に新たに入ってくる人も少なく、人手不足が大きな問題。その一方で、橋梁や下水道管など公共インフラの老朽化対策が喫緊の課題になり、民間企業でも製造設備などの老朽更新が進む中、人手に頼らず、操作性の高いツールが求められている」
岡本「現場点検など比較的単純な作業であっても、ロボティクス技術を導入すれば最先端の仕事として捉えられ、若者の関心を引き、雇用にもプラスに作用する。最新技術を導入するにあたっては仕事がなくなると恐れる現場作業員がおり、『ロボットを活用することで、単純作業ではなく、よりレベルの高い仕事に就いてもらう』という経営者の意図を理解してもらう必要がある」
作業員の声を重要視
――会社設立時と現在では経営環境は変化しているか。
グアラニエリ「会社を設立した当初は、需要家がわれわれの提案の実現可能性に疑問を感じていたが、AIやIoT(モノのインターネット)など技術が進展したことによって、困り事を解決してくれるという信頼性が高まっている。『フロートアーム』は世界に類似製品がない。このような新しい技術に対し、海外の企業はアグレッシブに採用する傾向にあるが、日本企業はどちらかと言えば実績を重視して慎重姿勢が目立つ。当社製品の採用実績は海外企業が7割以上を占める」
岡本「点検の基本は五感と言われ、自動化する際も五感を落とし込む技術でなければならないと感じた。このため、カメラで撮影した画像を見て計器の状態を確認する『リルズゲージ』からスタートした。事業を進めるうちに他のニーズもキャッチし、取り扱いに向けて準備を始めている。すべてが現場にあり、現場作業員にヒアリングして技術を開発したり、扱う商材を決めることは重要である」
――ハイボットは特許製品を多く生み出している。製品開発の肝になる考え方を。
グアラニエリ「まず製品開発に着手する前は操作性とコストを両立できるかを検証する。技術者は機能を盛り込みたがる傾向にあるが、複雑構造では操作性が悪かったり、設置や設定などに時間を要するケースがあり、また要するコストが大きくなれば需要家が採用をためらう。実際に自信を持って開発したものの、操作性が悪く、点検現場では役に立たなかったケースも見られた。岡本さんが言ったように現場が大事で、作業員の要望を反映して防じんや防水など使用条件に合った仕様を作り、必要な機能のみを付加するタイプを開発してきたが、まだ現場に学ぶべきことは多い」
――ハイボットの研究開発(R&D)についての取り組みは。
グアラニエリ「現在、日本とドイツ、米国に拠点を設置している。本社を置く日本のスタッフは合計53人で、ドイツは3人、米国は2人。R&D部門は本社にあり、プロトタイプ(試作品)を製作するまでのR&Dスタッフは15人。その他20人のスタッフが実機製作に携わっている。大学や研究機関との連携も進めており、政府の研究開発プロジェクトにも携わっている。ドイツは欧州のハブ拠点としてアフターサービスやメンテナンスを手掛けているが、今後、大手需要家向けで特殊技術を開発する必要があり、将来的にR&D部門の設置を検討している」
――NBKマーケティングは協業パートナー、扱う製品をどのような基準で選んでいるか。
岡本「製品の良し悪しを短期間で判断することは難しいが、その製品が現場を支援できるかどうかを見極めることはできる。何をやるかよりも、誰とやるかがより重要であり、グローバル化に熱心に取り組み、日本初の技術や製品を世界に展開する意欲的な企業とパートナーシップを結びたい。当社は『リルズゲージ』を米国で展開し、ハイボットさんは欧米に拠点を置く。メーカーと商社で業態は異なるものの、ハイボットさんとは共通する点が多い」
グアラニエリ「世界では『メード・イン・ジャパン』のブランドイメージが大きな効果を表す」
岡本「ハイボットさんも『メード・イン・ジャパン』ブランドのイメージアップに一役買っているのでは(笑)。ミケレさんは出身国・イタリアのクラフトマンシップとインテリジェンス、信頼性の高い日本発技術がうまく融合し、魅力的な製品になっている。『フロートアーム』は唯一無二の製品で、ニーズを先取りしている。ハイボットさんをはじめ優れた技術を持つ日本企業は多く、技術や製品はIoTやAIなどに関連している。ターゲットは現場だが、それぞれの企業でリテラシーが異なる。橋渡しを担う商社として技術や製品を深く理解し、需要家の視点に立ち、専門用語を使わず、分かりやすいプレゼンテーションを心掛けている。採用実績は徐々に増えていき、ある水準を超えると爆発的に伸びる」
――両社ともに社会的役割が大きい。
グアラニエリ「『フロートアーム』は福島第一原子力発電所の廃炉作業における経験をもとに開発しており、廃炉作業に貢献している姿に感動した。しっかりニーズを捉えた製品は世界をより良くするケイパビリティー(能力)を有する。最初はロボットを作っていたが、今は新しい世界を作っていると自負している。安全かつサステナブルな方法で、当社が世界を変えているという意識を強く持っている」
岡本「25年1月に埼玉県で、下水道管の破損による道路の陥没事故が発生した。埼玉県だけでなく、日本全国で配管の老朽化が問題になっている。ハイボットさんの『フロートアーム』は外側から、また産業用ボイラー検査システム『スクイッド』は内側からそれぞれ配管を点検できる。配管の老朽化対策は全国で急務になっており、狭くて暗く、難易度の高い配管の点検作業を自動化できる技術を有することは、大きな社会貢献につながる」
グアラニエリ「国内外の原子力発電関連施設で点検の自動化ニーズが伸長しており、当社製品への問い合わせも増えている。『フロートアーム』は3カ月にわたって、福島第一原発の廃炉作業に従事した。必要なすべての箇所を点検し、応急措置も十分にできることを確認している。原発など大型プラントでトラブルが発生した場合、復旧に係るコストは莫大になる。日常の点検を通じて必要があれば予防措置を講じることでコストを抑制でき、需要家にはメリットがある」
岡本「当社もベンチャーで、点検が必要な現場を変えるというモチベーションで仕事に臨んでいる。人手不足など深刻化する社会問題に手を打つビジネスを展開し、需要家との関係も深い。当社が優れた技術や製品を提供することで、少しでも日本経済を元気にできればというマインドセットで経営している」
点検軸に新たな挑戦
――事業展開における次のテーマを。
グアラニエリ「超高圧送電線の自動メンテナンスを検討している。イタリアではすでに実証試験を行い、良好な結果を得ている。また航空機の点検にも参入する。翼などを対象とし、コンピューター上で再現するデジタルツイン技術を用いて、航空機の安全性を短時間で容易にマネジメントできるようにしたい。中・長期的にはデジタルプラットフォーマ―へと進化を遂げる。現在、『ハイボックス』を提供している。これは当社が提供するロボットソリューションをシームレスに統合できるよう設計したデジタルプラットフォームであり、ロボットが現場で取得したデータや情報を管理するための包括的ツール。例えば、当社が各地域の需要家に提供したロボットを通じて収集したデータをハイボックスに蓄積する。その膨大なデータを他の需要家にどのように活用するかはAIのアルゴリズムマシンが行い、トラブル発生が予測される危険箇所などを即座に教えてくれる。データを蓄積すればするほど、AIのディープラーニングが加速する。この効果が大きい。データは需要家から使用許可を得たもので精度や信頼性が高く、当社のみが独占的に使用するため、市場には出てこない。製造などの現場で収集した独自のデータを独占的に活用し、需要家のパフォーマンス向上を実現する」
岡本「点検の困り事は当社に相談できる体制を構築する。その一環として、『点検・COM』という会員制のプラットフォームを作る計画だ。今後も点検を軸に事業を拡大する」
(濱坂 浩司)
鉄鋼業現場 点検自動化に挑む/Hibot ミケレ・グアラニエリCEO×NBKマーケティング 岡本英一郎社長
Hibot(ハイボット、本社=東京都品川区、ミケレ・グアラニエリCEO)は過酷な環境下での使用を可能にするロボット技術に特化して開発を進める、東京科学大学(旧東京工業大学)発のベンチャー企業。NBKマーケティング(本社=東京都港区、岡本英一郎社長)は機械要素の開発・製造を主体とするメーカーである鍋屋バイテック(本社=岐阜県関市)のグループ会社。両社は点検作業の自動化・省人化を基軸に事業を展開しており、NBKマーケティングはハイボットの多関節蛇型ロボット「フロートアーム」を用いた点検サービスを2025年1月から代理店として開始し、製鉄や電力などにおける現場の定期修繕で採用を目指している。グアラニエリCEOと岡本社長に国内におけるメンテナンス現場の現状、これからの事業展開などを聞いた。
――両社の生い立ちから。
グアラニエリ「イタリア・ヴェローナ大学で制御工学を学び、コンピューターサイエンスの学位を取得した後、蛇型ロボットの開発など真に役に立つ技術開発に携わっていた東京工業大学(現東京科学大学)の広瀬茂男教授(現同大名誉教授)の下で学ぶため、文部科学省の奨学金を受けて01年に来日した。機械・航空宇宙工学の修士号と博士号を取得しながら、04年に東工大でハイボットを設立。多関節蛇型ロボット『フロートアーム』、産業用ボイラー検査システム『スクウィッド』、AI(人工知能)プラットフォーム『ハイボックス』をはじめ送電線の自動点検、補修ロボットなども手掛けている。NBKマーケティングさんは当社の『フロートアーム』を用いた点検サービスを国内で展開しており、海外では他企業と組んで需要家に提案し、採用を働きかけている」
岡本「親会社は鍋屋バイテックで、創業後460年以上の歴史を持つ。LiLz(本社=沖縄県宜野湾市)が開発した工場設備の計器点検を自動化するシステム『リルズゲージ』、ugo(本社=東京都千代田区)の自律型点検ロボット『ユーゴーミニ』、防爆対応スマートグラスとともに、『フロートアーム』を活用した点検サービスを実施している。家族ぐるみで親しくしているハーモニック・ドライブ・システムズ(本社=東京都品川区)の長井啓会長から、ハイボットさんを紹介していただいた。初めてお会いした際、ミケレさんも山本猛COOも魅力的な方で、一緒にビジネスをしたいと感じたのを覚えている。ちなみに『フロートアーム』には精密歯車のハーモニックドライブが採用されている」
過酷な環境を安全に
――両社ともに点検作業を軸に事業を展開している。
グアラニエリ「学生時代から『人の役に立つ機械をつくり、人々を救いたい』という思いを持ち続けていたが、国内外で多くの方がメンテナンス作業時に命を失っている現状を知り、プラント設備の点検作業など危険と隣り合わせの日常業務をロボットの活用で支援するべく、取り組んでいる。点検はメンテナンスの最初に行う作業であり、ロボットへの切り替えが比較的容易である。繰り返しになるが、『人の役に立つ機械をつくり、人々を救いたい』という信条に基づき、職場環境の改善ではなく、人員削減を目的としている場合、どのような顧客であっても依頼を断っている。最先端技術の産業への応用を通じて各種現場の課題を解決し、人々を助けるロボットを創造するのが使命であり、この挑戦を続けている」
岡本「高校時代に鍋屋バイテックの鋳物作業に従事したことがある。想像以上に厳しい労働環境であり、過酷な作業を自動化できないかと考えてきたことが、当社のミッションにつながっている。コロナ禍に出合った『リルズゲージ』を取り扱うに至り、日本国内では労働人口の減少でメンテナンス人材が不足し、設備インフラの維持が難しいことを知った。働き方改革もあって人手不足が深刻化する中、点検作業の自動化が重要テーマであり、作業現場の課題を解決できるビジネスを展開することが当社のモチベーションで、経営の基軸になっている」
――日本では人口減少、少子高齢化で人手不足が深刻化している。
グアラニエリ「過酷で危険な現場で作業するには高い経験値が必要だが、定年退職など高齢化に伴って熟練者が年々減少している。この分野に新たに入ってくる人も少なく、人手不足が大きな問題。その一方で、橋梁や下水道管など公共インフラの老朽化対策が喫緊の課題になり、民間企業でも製造設備などの老朽更新が進む中、人手に頼らず、操作性の高いツールが求められている」
岡本「現場点検など比較的単純な作業であっても、ロボティクス技術を導入すれば最先端の仕事として捉えられ、若者の関心を引き、雇用にもプラスに作用する。最新技術を導入するにあたっては仕事がなくなると恐れる現場作業員がおり、『ロボットを活用することで、単純作業ではなく、よりレベルの高い仕事に就いてもらう』という経営者の意図を理解してもらう必要がある」
作業員の声を重要視
――会社設立時と現在では経営環境は変化しているか。
グアラニエリ「会社を設立した当初は、需要家がわれわれの提案の実現可能性に疑問を感じていたが、AIやIoT(モノのインターネット)など技術が進展したことによって、困り事を解決してくれるという信頼性が高まっている。『フロートアーム』は世界に類似製品がない。このような新しい技術に対し、海外の企業はアグレッシブに採用する傾向にあるが、日本企業はどちらかと言えば実績を重視して慎重姿勢が目立つ。当社製品の採用実績は海外企業が7割以上を占める」

多関節蛇型ロボット「フロートアーム」を用いた作業の様子
岡本「点検の基本は五感と言われ、自動化する際も五感を落とし込む技術でなければならないと感じた。このため、カメラで撮影した画像を見て計器の状態を確認する『リルズゲージ』からスタートした。事業を進めるうちに他のニーズもキャッチし、取り扱いに向けて準備を始めている。すべてが現場にあり、現場作業員にヒアリングして技術を開発したり、扱う商材を決めることは重要である」
――ハイボットは特許製品を多く生み出している。製品開発の肝になる考え方を。
グアラニエリ「まず製品開発に着手する前は操作性とコストを両立できるかを検証する。技術者は機能を盛り込みたがる傾向にあるが、複雑構造では操作性が悪かったり、設置や設定などに時間を要するケースがあり、また要するコストが大きくなれば需要家が採用をためらう。実際に自信を持って開発したものの、操作性が悪く、点検現場では役に立たなかったケースも見られた。岡本さんが言ったように現場が大事で、作業員の要望を反映して防じんや防水など使用条件に合った仕様を作り、必要な機能のみを付加するタイプを開発してきたが、まだ現場に学ぶべきことは多い」
――ハイボットの研究開発(R&D)についての取り組みは。
グアラニエリ「現在、日本とドイツ、米国に拠点を設置している。本社を置く日本のスタッフは合計53人で、ドイツは3人、米国は2人。R&D部門は本社にあり、プロトタイプ(試作品)を製作するまでのR&Dスタッフは15人。その他20人のスタッフが実機製作に携わっている。大学や研究機関との連携も進めており、政府の研究開発プロジェクトにも携わっている。ドイツは欧州のハブ拠点としてアフターサービスやメンテナンスを手掛けているが、今後、大手需要家向けで特殊技術を開発する必要があり、将来的にR&D部門の設置を検討している」
――NBKマーケティングは協業パートナー、扱う製品をどのような基準で選んでいるか。
岡本「製品の良し悪しを短期間で判断することは難しいが、その製品が現場を支援できるかどうかを見極めることはできる。何をやるかよりも、誰とやるかがより重要であり、グローバル化に熱心に取り組み、日本初の技術や製品を世界に展開する意欲的な企業とパートナーシップを結びたい。当社は『リルズゲージ』を米国で展開し、ハイボットさんは欧米に拠点を置く。メーカーと商社で業態は異なるものの、ハイボットさんとは共通する点が多い」
グアラニエリ「世界では『メード・イン・ジャパン』のブランドイメージが大きな効果を表す」
岡本「ハイボットさんも『メード・イン・ジャパン』ブランドのイメージアップに一役買っているのでは(笑)。ミケレさんは出身国・イタリアのクラフトマンシップとインテリジェンス、信頼性の高い日本発技術がうまく融合し、魅力的な製品になっている。『フロートアーム』は唯一無二の製品で、ニーズを先取りしている。ハイボットさんをはじめ優れた技術を持つ日本企業は多く、技術や製品はIoTやAIなどに関連している。ターゲットは現場だが、それぞれの企業でリテラシーが異なる。橋渡しを担う商社として技術や製品を深く理解し、需要家の視点に立ち、専門用語を使わず、分かりやすいプレゼンテーションを心掛けている。採用実績は徐々に増えていき、ある水準を超えると爆発的に伸びる」
――両社ともに社会的役割が大きい。
グアラニエリ「『フロートアーム』は福島第一原子力発電所の廃炉作業における経験をもとに開発しており、廃炉作業に貢献している姿に感動した。しっかりニーズを捉えた製品は世界をより良くするケイパビリティー(能力)を有する。最初はロボットを作っていたが、今は新しい世界を作っていると自負している。安全かつサステナブルな方法で、当社が世界を変えているという意識を強く持っている」
岡本「25年1月に埼玉県で、下水道管の破損による道路の陥没事故が発生した。埼玉県だけでなく、日本全国で配管の老朽化が問題になっている。ハイボットさんの『フロートアーム』は外側から、また産業用ボイラー検査システム『スクイッド』は内側からそれぞれ配管を点検できる。配管の老朽化対策は全国で急務になっており、狭くて暗く、難易度の高い配管の点検作業を自動化できる技術を有することは、大きな社会貢献につながる」
グアラニエリ「国内外の原子力発電関連施設で点検の自動化ニーズが伸長しており、当社製品への問い合わせも増えている。『フロートアーム』は3カ月にわたって、福島第一原発の廃炉作業に従事した。必要なすべての箇所を点検し、応急措置も十分にできることを確認している。原発など大型プラントでトラブルが発生した場合、復旧に係るコストは莫大になる。日常の点検を通じて必要があれば予防措置を講じることでコストを抑制でき、需要家にはメリットがある」
岡本「当社もベンチャーで、点検が必要な現場を変えるというモチベーションで仕事に臨んでいる。人手不足など深刻化する社会問題に手を打つビジネスを展開し、需要家との関係も深い。当社が優れた技術や製品を提供することで、少しでも日本経済を元気にできればというマインドセットで経営している」
点検軸に新たな挑戦
――事業展開における次のテーマを。
グアラニエリ「超高圧送電線の自動メンテナンスを検討している。イタリアではすでに実証試験を行い、良好な結果を得ている。また航空機の点検にも参入する。翼などを対象とし、コンピューター上で再現するデジタルツイン技術を用いて、航空機の安全性を短時間で容易にマネジメントできるようにしたい。中・長期的にはデジタルプラットフォーマ―へと進化を遂げる。現在、『ハイボックス』を提供している。これは当社が提供するロボットソリューションをシームレスに統合できるよう設計したデジタルプラットフォームであり、ロボットが現場で取得したデータや情報を管理するための包括的ツール。例えば、当社が各地域の需要家に提供したロボットを通じて収集したデータをハイボックスに蓄積する。その膨大なデータを他の需要家にどのように活用するかはAIのアルゴリズムマシンが行い、トラブル発生が予測される危険箇所などを即座に教えてくれる。データを蓄積すればするほど、AIのディープラーニングが加速する。この効果が大きい。データは需要家から使用許可を得たもので精度や信頼性が高く、当社のみが独占的に使用するため、市場には出てこない。製造などの現場で収集した独自のデータを独占的に活用し、需要家のパフォーマンス向上を実現する」
岡本「点検の困り事は当社に相談できる体制を構築する。その一環として、『点検・COM』という会員制のプラットフォームを作る計画だ。今後も点検を軸に事業を拡大する」
(濱坂 浩司)












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