2015年11月9日

無電柱化で成長戦略 ■衆議院議員 小池 百合子氏 防災面で高い必要性

衆議院議員 小池百合子氏
新たな電線需要創出も 推進法来夏成立見込む

「無電柱化を推進する市区町村長の会」がこのほど、新たに設立された。電線を地中化するという無電柱化の取り組みは、古くから進めてはいたものの、先進国で100%近く達成している都市が多い半面、日本は一けた台にとどまるなど、無電柱の取り組みは遅れをとってきた。従来は景観の観点から取り上げられることの多かった無電柱化だが、阪神・淡路大震災、東日本大震災という大きな災害を経て、防災・安全の観点から、無電柱化の必要性が高まっている。2020年には東京オリンピックが開催されるということも、追い風の一つとなる状況だ。無電柱化推進が成長戦略につながり、新たな電線需要を創出することに対しても期待感が高まる。そこで、自由民主党で無電柱化小委員会委員長を務め、かねてより無電柱の取り組みを進めてきた小池百合子・衆議院議員に、無電柱化推進法案に関する考え方や今後の取り組み・方針などについて聞いた。

――北は北海道から南は九州・沖縄までの各自治体が集まり、無電柱化を進める市区町村長の会が発足した。

「日本の道路は総延長で120万キロメートルに達するが、そのうちの9割以上が市区町村道路に当たる。国道、都道府県道、市区町村道とそれぞれがタテ割。約1700の自治体がある中で、200を超す市区村長の方々の賛同を得て推進する会が設立されたことは、真に無電柱化を進めていく上で、大変なパワーになると思う」

――超党派の国会議員も設立総会に出席していた。無電柱化の推進法は、前国会では成立に至らなかったが、今後の取り組み・見通しとしては。

「先般の国会では安全保障法制の関係で、審議そのものに入ることができなかった。(次期)通常国会で議員立法は、閣法の審議が終わってからになる。よって、(成立は)来年の夏くらいと見通している。一方で、国交省や関係省庁がともに連携し、電線を地中化する際に浅層がどこまでなら大丈夫なのか、被覆がどれくらいなら安全性が保たれるのか、という試験をつくばで行っており、これら試験をさらに進める。議員立法の成立如何にかかわらず、安全性や工法の確認は進めていかなければならない。安全な無電柱化の手法確立は進んでいく。現場を持っている市区町村長は、市区町村長会設立によって、国会との連携が確実になった。法案成立までは、どの地域でどう進めるかを練っていただける時間になるのではないか。より安い工法があるということで、待ちになってしまうと困るが、より安価で安全な方法での試験調査が確実になれば、無電柱化の工事の進捗が加速することだろう」

――無電柱化推進法のポイントは。

「議員立法の要は、新しい電柱は立てないという原則だ。ある意味エッジの効いた立法で、成立すれば効果は大きい。これは基本的に成長戦略に位置付けられる。これまではあまりにも無意識に電柱があった。市区町村長の皆さんが立ち上がり、より住民の皆さんへの訴えが身近なものとなる。家の前の道路がよりきれいになり、安心できるものになるということは、理論を超えた効果になるだろう。国会戦術もあるが、基本的には(与野党の)合意があり、委員会で全会一致で持っていけるという自信はある」

――無電柱化が進むと、経済的な波及効果も期待できるのか。

「この前の無電柱化展でも気付いたのだが、どこに、どういう線が埋まっているかを示す釘のようなものがある。データを入れておくと、何が埋まっているかすぐにわかるという。今後無電柱化を進めれば、いろんなビジネスチャンス、イノベーションが生まれると思う。これまでの架空線は、空中に電力線をぶら下げ、被覆の技術が進んだ。地中化になれば新たなビジネスを生み、それは新たな成長戦略になる」

――東日本大震災に伴う原発稼働停止後、電力会社の設備投資が冷え込んでいるが。

「海外の無電柱化は進んでいるが、基本的に事業者が負担している。日本の場合、これまでのように国、地方、事業者が3分の1づつが負担する形で進めていくのが、無電柱化を進めていく上で必要かと思っている。本来なら、無電柱化はもっと前から取り組んでいくべきであった。今日の現状を招いているのは、日本が「とりあえず」と電力の早期供給にとらわれているうちに、電柱が林立する国になってしまった。国民も怒らないといけない」

――まずは新規の電柱は作らないということがスタートラインになるのか。

「当然だ。まずそこからはじめる。イノベーションが進めば、高コストで高止まりしていたことも改善する。競争も取り入れるべきだ。日本人はおとなしい。皆どうしてこうした現状を怒らないのか不思議だ。今のように歩きにくい道、自転車にしても、歩行者にしても、通行することが阻害され、ベビーカー一つとっても、スラロームのような状態が求められる」

――2020年に東京オリンピックが開催される。これは無電柱化の大きな契機になるのか。

「一つのモメンタムになるだろう。一方で、石垣(沖縄)など、台風銀座とされるような地域でまず進めることも大切だ。これまでも、台風や大雨による災害で停電している。電力会社は停電した際に、(電柱があった方が)どこが切れているかがわかりやすい、という言い方をされるが、本末転倒ではないだろうか。ぶら下がっているから切れるのであって、ぶら下がっていなければそもそも切れない。発想が一方的だ。頭の切り替えが必要なのではと思う。こうした結果、日本は恥ずかしい状況になっており、ガラパゴス化しているのではないか。逆説的に見れば、ガラパゴスであればあるほど、新たなビジネスチャンスがあり、ニュービジネスにつながっていく。メーカーとしても、新たなものづくり技術の開発が進んでいくだろう」

――無電柱化は美観、景観の観点からの議論が多かったが、成長戦略の一つになっていくのか。

「景観だけを言っているのでは、なかなか無電柱化が進まない。キーワードの一つとして、防災の観点から必要だ」

――景観、防災、国土強靭化などの文脈においてのとらえ方が重要になってくると。

「まさに今がチャンスだ。あとは国民の意識を高めていくことになるだろう」

――今月10日を、無電柱の日と制定した。

「11月10日を、無電柱の日と定めることを議員立法法案にも盛り込んだ。市区町村長の会とはいろいろと連携しながら、国の立場、地方の立場、事業者の立場、それぞれで幅広く進めていきたい」

――無電柱化の最大の課題としては何になるのか。

「やはりコスト。また人件費の高騰。従来は深いところに埋めていた共同溝や電力共同溝など、深さの必然性が試験の結果、浅くすることができれば、より工期を短縮することが可能になる。そうなれば人件費削減にもつながるし、いろいろ工夫のしどころがある。まずは無電柱化を進める覚悟を決めないといけない。改めて、無電柱化を推進する市区町村長の会が設立された意義は非常に大きい」

(大倉 浩行)



こいけ・ゆりこ=1952年兵庫県芦屋市生まれ、76年カイロ大学文学部社会学科を卒業。アラビア語通訳を務め、テレビ東京系経済番組「ワールド・ビジネスサテライト」のキャスターとして活躍。92年に政界へ転身し、参議院議員1期、衆議院議員8期連続当選。03年に環境大臣に就任。04年に内閣府特命担当大臣(沖縄・北方対策)を兼任。元内閣総理大臣補佐官(国家安全保障問題担当)。07年には女性初の防衛大臣を務める。環境相時代には、「クールビズ」を仕掛け、現在は無電柱化の推進に力を注ぐ。近著として、松原隆一郎・東京大学大学院総合文化研究科教授とともに、「無電柱革命」(PHP新書)を上梓。自民党では、無電柱化小委員会の委員長として、無電柱化の旗振り役を務めてきた。

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