2025年9月12日
人財戦略を聞く/学術編/京都大学大学院 工学研究科 材料工学専攻教授/宇田哲也氏/寄付講座、学び直しにも/修士の青田買い課題、博士号優遇を
京都大学と三菱マテリアルが行ってきた非鉄製錬学の寄付講座が本年度で第3期、9年目を迎えた。学生や社会人向けに基礎理論を教育し、産学連携の取り組みとして持続的に成果を上げている。一方で大学や学生を取り巻く環境は、時代とともに大きく変わってきた。非鉄製錬学講座を担当する京都大学大学院工学研究科材料工学専攻の宇田哲也教授に人材育成や昨今の進学・就職事情を聞いた。
――寄付講座の活動について。
「2017年4月からの第1期は白紙スタートで不安もあったが非常に好評で、第2期は若いスタッフの献身のおかげで、プログラムを拡大して内容的にも充実させることができた。ここまで産学連携事業がうまくいったのも、三菱マテリアル側が『業界のために』と一言だけ仰って、一任して下さったからだろう。もともと非鉄製錬業界とは資源素材学会などでつながりがあり、古くは公害対策などに取り組んできた長年の信頼関係もあった」
――社会人向けウェブ講座の成果。
「これまで約180人が卒業し、非鉄製錬関係者のほか大学の助教、政府機関職員、民間企業といった方々を毎年30人まで受け入れてきた。第2期で学生向けに好評だった安全無機化学実験講座を、第3期からは社会人向けに行うなど、内容を充実させている」
――育成を目指す人材はどんなタイプか。
「一つは最先端の研究や新プロジェクトをけん引するリーダーとなれる人材の育成を目指している。そういう人材は、さらに次世代への教育を担う人材にもなっていく。もう一つは製造現場を動かして改善させていく人材だが、本講座はその学び直しの場となることも狙いだ。大きな製鉄所や製錬所を動かすには専門知識が不可欠だ。ここで学んだことをそしゃくしてそれぞれで再構築して、次にその知識が受け継がれることを願っている」
――宇田先生の材料工学教室からの就職先は。
「修士課程修了者の就職は鉄鋼・非鉄業界と、機械・重工業界の材料系が半分くらいを占める。ただ、最近は学生の就職活動の時期が極端に早まり、修士課程1年目の夏前から始まっている。就職情報産業のセミナーやキャリアフェア、インターン制度を利用した説明会などで青田買いが過熱している。少子化という根本的な社会問題があるので、これからもっと拍車が掛かるだろう。鉄鋼・非鉄企業はまだそこまで前倒しではないが、引っ張られている部分もある。昔は教授が就職先を紹介することもあったが、今は皆無だ」
――大学側としても憂慮している。
「民間企業に人材が青田買いされているので、国策で引き上げを目指している博士課程への進学率も上がっていない。これは日本国内の事情だが、博士号を取得した人材をもっと欧米並みに優遇してほしいと思う。約15年前は博士号取得者をお断りする企業も多く、それに比べると今は良くなったが、まだまだ十分ではない。博士課程では研究に没頭し、論理スキルを磨くと同時に、多くの場合で産学連携にたずさわり社会経験も積んでいるので、企業側が修士課程修了者を青田買いするより、博士号取得者を雇用するメリットはあると思う」
――非鉄製錬学の最新の研究テーマはどういうものか。
「都市鉱山からのリサイクルとして、廃リチウムイオン電池からコバルトやリチウムの回収、銅製錬ではスラグに散逸する有価成分の抑制などのプロセスを考えている。特に銅製錬に入ったコバルトは資源回収ができていない。相場変動で採算は変わってくるが、アカデミアとしてはそういう情勢に左右されず、この現状を何とかする提案ができればと思っている」
「あとは専門的な材料工学の原理の話として、ナノレベルの反応やエネルギー効率のシュミレーションは機械学習やスパコンの発達で進み、顕微鏡で見れる1―10ミクロン以上も分かるようになっているが、その中間のメゾスコピック領域とそれよりやや大きい領域は計算と観察が及ばず、想像の世界。そこが非鉄製錬学の現在のフロンティアだと思うので、これから次世代の若い研究者には解明を目指してもらいたいと思っている」
――業界の人材育成のための提言などあれば。
「日本の非鉄製錬の技術は世界的にもハイレベルだと思うが、欧州では主要生産国が参加した横断的な教育機関が作られ、エンジニアの育成プログラムが実践されている点においては、世界より一歩先行している。日本でも将来を担う人材育成を目指して京都大学の寄付講座も取り組んでいくが、一つの案としては新しい高専をその教育機関として活用できないだろうか。大学とは補完的な人材育成が期待できる一方で、今の全国の高専には材料工学系のコース、特に製錬に関する教育を有するコースはとても少ない。最近は新設の高専の話も聞くので、材料工学系ができればニーズはかなり高いだろう。もしできれば、われわれも何らかの形で貢献したいと考えている」(桐山 太志)
本紙では少子高齢化、人材獲得競争激化への対応を重要な経営課題と捉え、人財戦略の取り組みを随時掲載します。
――寄付講座の活動について。
「2017年4月からの第1期は白紙スタートで不安もあったが非常に好評で、第2期は若いスタッフの献身のおかげで、プログラムを拡大して内容的にも充実させることができた。ここまで産学連携事業がうまくいったのも、三菱マテリアル側が『業界のために』と一言だけ仰って、一任して下さったからだろう。もともと非鉄製錬業界とは資源素材学会などでつながりがあり、古くは公害対策などに取り組んできた長年の信頼関係もあった」
――社会人向けウェブ講座の成果。
「これまで約180人が卒業し、非鉄製錬関係者のほか大学の助教、政府機関職員、民間企業といった方々を毎年30人まで受け入れてきた。第2期で学生向けに好評だった安全無機化学実験講座を、第3期からは社会人向けに行うなど、内容を充実させている」
――育成を目指す人材はどんなタイプか。
「一つは最先端の研究や新プロジェクトをけん引するリーダーとなれる人材の育成を目指している。そういう人材は、さらに次世代への教育を担う人材にもなっていく。もう一つは製造現場を動かして改善させていく人材だが、本講座はその学び直しの場となることも狙いだ。大きな製鉄所や製錬所を動かすには専門知識が不可欠だ。ここで学んだことをそしゃくしてそれぞれで再構築して、次にその知識が受け継がれることを願っている」
――宇田先生の材料工学教室からの就職先は。
「修士課程修了者の就職は鉄鋼・非鉄業界と、機械・重工業界の材料系が半分くらいを占める。ただ、最近は学生の就職活動の時期が極端に早まり、修士課程1年目の夏前から始まっている。就職情報産業のセミナーやキャリアフェア、インターン制度を利用した説明会などで青田買いが過熱している。少子化という根本的な社会問題があるので、これからもっと拍車が掛かるだろう。鉄鋼・非鉄企業はまだそこまで前倒しではないが、引っ張られている部分もある。昔は教授が就職先を紹介することもあったが、今は皆無だ」
――大学側としても憂慮している。
「民間企業に人材が青田買いされているので、国策で引き上げを目指している博士課程への進学率も上がっていない。これは日本国内の事情だが、博士号を取得した人材をもっと欧米並みに優遇してほしいと思う。約15年前は博士号取得者をお断りする企業も多く、それに比べると今は良くなったが、まだまだ十分ではない。博士課程では研究に没頭し、論理スキルを磨くと同時に、多くの場合で産学連携にたずさわり社会経験も積んでいるので、企業側が修士課程修了者を青田買いするより、博士号取得者を雇用するメリットはあると思う」
――非鉄製錬学の最新の研究テーマはどういうものか。
「都市鉱山からのリサイクルとして、廃リチウムイオン電池からコバルトやリチウムの回収、銅製錬ではスラグに散逸する有価成分の抑制などのプロセスを考えている。特に銅製錬に入ったコバルトは資源回収ができていない。相場変動で採算は変わってくるが、アカデミアとしてはそういう情勢に左右されず、この現状を何とかする提案ができればと思っている」
「あとは専門的な材料工学の原理の話として、ナノレベルの反応やエネルギー効率のシュミレーションは機械学習やスパコンの発達で進み、顕微鏡で見れる1―10ミクロン以上も分かるようになっているが、その中間のメゾスコピック領域とそれよりやや大きい領域は計算と観察が及ばず、想像の世界。そこが非鉄製錬学の現在のフロンティアだと思うので、これから次世代の若い研究者には解明を目指してもらいたいと思っている」
――業界の人材育成のための提言などあれば。
「日本の非鉄製錬の技術は世界的にもハイレベルだと思うが、欧州では主要生産国が参加した横断的な教育機関が作られ、エンジニアの育成プログラムが実践されている点においては、世界より一歩先行している。日本でも将来を担う人材育成を目指して京都大学の寄付講座も取り組んでいくが、一つの案としては新しい高専をその教育機関として活用できないだろうか。大学とは補完的な人材育成が期待できる一方で、今の全国の高専には材料工学系のコース、特に製錬に関する教育を有するコースはとても少ない。最近は新設の高専の話も聞くので、材料工学系ができればニーズはかなり高いだろう。もしできれば、われわれも何らかの形で貢献したいと考えている」(桐山 太志)
本紙では少子高齢化、人材獲得競争激化への対応を重要な経営課題と捉え、人財戦略の取り組みを随時掲載します。












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