2026年4月28日
鉄鋼新経営 厳しさ増す市場に対応/東京製鉄社長/奈良 暢明氏/低CO2鋼材 収益に貢献/条鋼・鋼板 出荷量「戻す」
――2026年3月期決算は前期比で減収減益となった。
「前期は国内建築向け鋼材需要が低迷するとともに、中国製鋼材の輸入数量も多く、厳しい市場環境となった。また26年1―3月期においては中東情勢が変化し、鉄スクラップをはじめ、電力などの購入コストが大幅に上昇。電力原単位の削減など各工場で変動費の引き下げに取り組んだものの、営業損益ベースで9億5000万円弱の赤字に転落した」
――今期は営業損益ベースで14期ぶりの赤字転落を予想する。
「原料価格と電力料金が急激に上昇し、顧客に背景を説明しつつ製品値上げに取り組んでいるが、これが完遂した場合においても収支トントンを想定している。4月契約分と5月契約分で製品値上げを実施したが、値上げ前の契約残が残っており、鉄スクラップ購入価格水準との見合いにおいて、26年4―9月期は営業赤字を余儀なくされる。一方、低CO2鋼材『ほぼゼロ』の販売と、上げと下げのデマンドレスポンス(DR)対応が営業損益にプラスに効いてきており、今期はさらに増えるだろう。社会的ニーズである環境への貢献が利益に結び付いている証左であり、さらに追求していきたい。当期純損益ベースでは遊休地の一部や投資有価証券の売却を検討する」
――条鋼類、厚板の状況は。
「条鋼類は前期における数量の落ち込みが大きく、回復させる。厚板は受発注システム『とうてつくん』に『荷ぞろい予定日表示機能』を追加したほか、九州工場の保管ヤードを改造し、受注が増えても短納期をキープする体制を整えており、顧客の評価が高まってきたと思う」
――今期の鋼材出荷数量は前期比30万5000トン増を計画する。
「条鋼類も鋼板類も増加する見通しだ。『増やす』というよりは『戻す』イメージだ。条鋼類はメーカー値上げの動きを受けて、顧客から先行手配とみられる動きが出てきている。人手不足の影響で建築工事の進捗が遅くなっているため、建築用鋼材の出荷が落ち込んでいるものの、首都圏の再開発や大阪のIR、データセンターなど各地で大型案件が計画されており、ベースとなる建築需要が急激にしぼんでいると思えず、今後の出件に期待している。鋼板類は国内外でカーボンニュートラル(CN)が加速している状況もあり、『ほぼゼロ』を含めた当社製品の受注増に繋がっている。トヨタ自動車に当社の鋼板が採用されるに至るなど、新しい分野の顧客が関心を高めてくれている」
――コスト削減の取り組みを。
「主原料価格に加えて、電力や燃料エネルギーのコスト動向に注視している。足元の原油やLNGの価格をベースにした場合、電力は今後1割弱上がるとみられる。引き続き全社のコスト削減計画『V・TokyoSteel(東京製鉄)』を推進しており、物価高や高コスト環境下において大きな効果をあげている。計画を着実に実行したことで、損益悪化をある程度の水準にとどめることができている」
――4月1日付で営業を中心に社員の配置を大きく変えている。
「営業スタッフの配置を変えた。営業スタッフは以前から顧客の信頼を得てきていたし、CNの流れもあって裾野が広がり、新しい顧客が増えていた。ただ、国内鋼材需要がシュリンクするなど市場環境が大きく変化しており、新しい視点でビジネスを考え、状況にマッチした販売の在り方を全社販売一体で模索していきたい。厳しい状況の中で4月契約分と5月契約分ではしっかりとした販売ができており、値上げの背景について顧客に説明できていると思う」。
――設備投資は。
「設備投資額は前期が200億円となり、今期は290億円を計画している。今期のうち、岡山工場の連続溶融亜鉛めっきライン改造・冷延コイル生産に係る工事は100億円プラスアルファを見込む。岡山では27年度初頭での冷延コイルの製造・販売を目指しており、計画どおり進捗している。ライン改造工事に伴い、26年12月から27年3月までめっきラインの操業を停止する。顧客へのアナウンスを開始しており、デリバリー面などで影響が出ないよう取り組んでいる。このほか老朽更新やコストダウン、新規顧客拡大を実現する品質向上に関する投資を予定する」
――鉄スクラップについてはどうか。
「日本は電炉メーカーの生産が低水準にとどまる中、内需で使われて輸出が減っている米国産に代わり、日本産に注目が集まっていることから、国内価格は輸出価格に影響される状況は変わらないだろう。各工場の購買とともに、26年6月までに香川県高松市に開設を予定する高松サテライトヤード(SY)を含めてSYをより活用し、集荷を促進する。屋内からのカメラ画像検収機能やAI検収機能の導入も進めていきたい。また東京湾岸SYから宇都宮工場までの鉄スクラップ輸送手段として鉄道を活用することで、輸送に伴うCO2排出削減を実現する」
――「ほぼゼロ」の販売状況を。
「累計販売数量は2万2000トンまで増えている。CN加速による市場環境変化や、採用するメリットなどをアピールするため、流通を対象とするプレゼンテーションを全国で開催しており、東京と大阪開催分では延べ1000人以上に実施している。同時に顧客との協働が着実に増えており、昇降機専業メーカーのフジテックがエレベーターのカゴのフレームや床材、重りのフレームなどの主要部材に採用し、アーキテクト・ディベロッパーは賃貸住宅業界で初めて標準仕様化を決めている。27年3月期からはプライム市場に上場する時価総額3兆円以上の企業に対して、スコープ3を含めた気候関連情報の開示が義務化される。製造時のCO2排出量が少ない素材への注目はより集まるだろう」
――「ほぼゼロ」採用や自動車向けについては。
「『ほぼゼロ』は特定の分野に限らず、建設業と製造業で新規受注、リピート受注が増えている。自動車分野はトヨタ自動車向けを中心に高い品質、高精度のデリバリーを維持するなど、しっかり対応していきたい」
――「ほぼゼロ」のCO2削減方法において、トラッキング付非化石証書以外の使用での挑戦も進んでいる。
「25年度においては供給過剰時に電力を調達する上げDR由来の環境価値に大部分を切り替えている。全国4工場に設置する太陽光発電設備の能力を増強するとともに、農地に設置する太陽光発電設備の電力を用いて『ほぼゼロ』を生産するスキームも構築し、中・長期的な販売増を視野にオフサイトPPAを拡大するなどクリーン電力の調達も手掛けていく」
――欧州向けグリーンスチールブランド「enso(エンソ)」を含めた、輸出対応については。
「欧州で炭素国境調整措置(CBAM)が発令されたことも含め、鋼材価格が大幅に上昇している。鋼板を手掛ける当社への問い合わせや引き合いが増えてきており、『enso』を用いてニーズを捕捉する。米国はトランプ政権による関税措置が講じられているが、同国内の鋼材価格が高値で推移し、米国向け輸出も引き合いがある」(濱坂浩司)
「前期は国内建築向け鋼材需要が低迷するとともに、中国製鋼材の輸入数量も多く、厳しい市場環境となった。また26年1―3月期においては中東情勢が変化し、鉄スクラップをはじめ、電力などの購入コストが大幅に上昇。電力原単位の削減など各工場で変動費の引き下げに取り組んだものの、営業損益ベースで9億5000万円弱の赤字に転落した」
――今期は営業損益ベースで14期ぶりの赤字転落を予想する。
「原料価格と電力料金が急激に上昇し、顧客に背景を説明しつつ製品値上げに取り組んでいるが、これが完遂した場合においても収支トントンを想定している。4月契約分と5月契約分で製品値上げを実施したが、値上げ前の契約残が残っており、鉄スクラップ購入価格水準との見合いにおいて、26年4―9月期は営業赤字を余儀なくされる。一方、低CO2鋼材『ほぼゼロ』の販売と、上げと下げのデマンドレスポンス(DR)対応が営業損益にプラスに効いてきており、今期はさらに増えるだろう。社会的ニーズである環境への貢献が利益に結び付いている証左であり、さらに追求していきたい。当期純損益ベースでは遊休地の一部や投資有価証券の売却を検討する」
――条鋼類、厚板の状況は。
「条鋼類は前期における数量の落ち込みが大きく、回復させる。厚板は受発注システム『とうてつくん』に『荷ぞろい予定日表示機能』を追加したほか、九州工場の保管ヤードを改造し、受注が増えても短納期をキープする体制を整えており、顧客の評価が高まってきたと思う」
――今期の鋼材出荷数量は前期比30万5000トン増を計画する。
「条鋼類も鋼板類も増加する見通しだ。『増やす』というよりは『戻す』イメージだ。条鋼類はメーカー値上げの動きを受けて、顧客から先行手配とみられる動きが出てきている。人手不足の影響で建築工事の進捗が遅くなっているため、建築用鋼材の出荷が落ち込んでいるものの、首都圏の再開発や大阪のIR、データセンターなど各地で大型案件が計画されており、ベースとなる建築需要が急激にしぼんでいると思えず、今後の出件に期待している。鋼板類は国内外でカーボンニュートラル(CN)が加速している状況もあり、『ほぼゼロ』を含めた当社製品の受注増に繋がっている。トヨタ自動車に当社の鋼板が採用されるに至るなど、新しい分野の顧客が関心を高めてくれている」
――コスト削減の取り組みを。「主原料価格に加えて、電力や燃料エネルギーのコスト動向に注視している。足元の原油やLNGの価格をベースにした場合、電力は今後1割弱上がるとみられる。引き続き全社のコスト削減計画『V・TokyoSteel(東京製鉄)』を推進しており、物価高や高コスト環境下において大きな効果をあげている。計画を着実に実行したことで、損益悪化をある程度の水準にとどめることができている」
――4月1日付で営業を中心に社員の配置を大きく変えている。
「営業スタッフの配置を変えた。営業スタッフは以前から顧客の信頼を得てきていたし、CNの流れもあって裾野が広がり、新しい顧客が増えていた。ただ、国内鋼材需要がシュリンクするなど市場環境が大きく変化しており、新しい視点でビジネスを考え、状況にマッチした販売の在り方を全社販売一体で模索していきたい。厳しい状況の中で4月契約分と5月契約分ではしっかりとした販売ができており、値上げの背景について顧客に説明できていると思う」。
――設備投資は。
「設備投資額は前期が200億円となり、今期は290億円を計画している。今期のうち、岡山工場の連続溶融亜鉛めっきライン改造・冷延コイル生産に係る工事は100億円プラスアルファを見込む。岡山では27年度初頭での冷延コイルの製造・販売を目指しており、計画どおり進捗している。ライン改造工事に伴い、26年12月から27年3月までめっきラインの操業を停止する。顧客へのアナウンスを開始しており、デリバリー面などで影響が出ないよう取り組んでいる。このほか老朽更新やコストダウン、新規顧客拡大を実現する品質向上に関する投資を予定する」
――鉄スクラップについてはどうか。
「日本は電炉メーカーの生産が低水準にとどまる中、内需で使われて輸出が減っている米国産に代わり、日本産に注目が集まっていることから、国内価格は輸出価格に影響される状況は変わらないだろう。各工場の購買とともに、26年6月までに香川県高松市に開設を予定する高松サテライトヤード(SY)を含めてSYをより活用し、集荷を促進する。屋内からのカメラ画像検収機能やAI検収機能の導入も進めていきたい。また東京湾岸SYから宇都宮工場までの鉄スクラップ輸送手段として鉄道を活用することで、輸送に伴うCO2排出削減を実現する」
――「ほぼゼロ」の販売状況を。「累計販売数量は2万2000トンまで増えている。CN加速による市場環境変化や、採用するメリットなどをアピールするため、流通を対象とするプレゼンテーションを全国で開催しており、東京と大阪開催分では延べ1000人以上に実施している。同時に顧客との協働が着実に増えており、昇降機専業メーカーのフジテックがエレベーターのカゴのフレームや床材、重りのフレームなどの主要部材に採用し、アーキテクト・ディベロッパーは賃貸住宅業界で初めて標準仕様化を決めている。27年3月期からはプライム市場に上場する時価総額3兆円以上の企業に対して、スコープ3を含めた気候関連情報の開示が義務化される。製造時のCO2排出量が少ない素材への注目はより集まるだろう」
――「ほぼゼロ」採用や自動車向けについては。
「『ほぼゼロ』は特定の分野に限らず、建設業と製造業で新規受注、リピート受注が増えている。自動車分野はトヨタ自動車向けを中心に高い品質、高精度のデリバリーを維持するなど、しっかり対応していきたい」
――「ほぼゼロ」のCO2削減方法において、トラッキング付非化石証書以外の使用での挑戦も進んでいる。
「25年度においては供給過剰時に電力を調達する上げDR由来の環境価値に大部分を切り替えている。全国4工場に設置する太陽光発電設備の能力を増強するとともに、農地に設置する太陽光発電設備の電力を用いて『ほぼゼロ』を生産するスキームも構築し、中・長期的な販売増を視野にオフサイトPPAを拡大するなどクリーン電力の調達も手掛けていく」
――欧州向けグリーンスチールブランド「enso(エンソ)」を含めた、輸出対応については。
「欧州で炭素国境調整措置(CBAM)が発令されたことも含め、鋼材価格が大幅に上昇している。鋼板を手掛ける当社への問い合わせや引き合いが増えてきており、『enso』を用いてニーズを捕捉する。米国はトランプ政権による関税措置が講じられているが、同国内の鋼材価格が高値で推移し、米国向け輸出も引き合いがある」(濱坂浩司)














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