2025年10月28日
鉄鋼新経営 描き挑む成長のビジョン/東京製鉄社長/奈良 暢明氏/低CO2鋼材の採用着実に/全社横断的にコスト削減策実行
――2025年4―9月期決算は前期同期比で減収減益となった。
「建設分野の人手不足による施工能力減少の影響などによって国内需要が低迷したことから、鋼材出荷数量が減少し、とくに条鋼類の落ち込みが大きかった。これに対して、製造コスト引き下げなどに全社一丸で取り組んできたが、減収減益になった。岡山工場の設備トラブルで、損益計算書に設備の復旧関連費用として、4億9800万円の操業休止損失を計上した」
――大幅減収減益となる26年3月期の通期業績予想の考え方を。
「25年10月契約分で角形鋼管と溶融亜鉛めっきコイルを除く品種で販売価格を引き下げたこともあり、下期は上期に比べてメタルスプレッドが縮小し、利益水準は低くなるとみている。今秋に入って建設関連の案件が増え始めており、条鋼類の販売増が期待されるほか、環境貢献の視点から鋼板類を主体に電炉鋼材へのニーズが高まっていることから、しっかり捕捉する。コストダウンにも引き続き注力していきたい」
――鋼板類はどうか。
「中国から高水準の輸出が続いており、国内資源循環で生産拡大を目指す当社は、輸入材の動向を数量、価格ともに注視する。10月契約分での販価引き下げは輸入価格を意識して設定したもので、当社が示した販価が市況の底入れ価格を示し、底打ちに繋がればと思う」
「電炉鋼材への関心が高く、当社製品への問い合わせが増えており、例えば鋼板類ではコイルセンターや流通各社が、需要家に当社製品を紹介していただくケースがみられる。需要家と信頼関係を築くコイルセンターが、加工に係る技術やノウハウを織り込んだ形できめ細かい提案を行うことは強力なバックアップで、採用に至るまでのスピードが高まっていることから、協働を実感している」
――厚板はどうか。
「当社厚板製品への品質に対する評価は高いが、デリバリーの改善を求める声があった。これに応えるべく、厚板を製造する九州工場では厚板倉庫の作業効率化を図る搬送設備を導入した。また25年5月から、受発注システム『とうてつ君』の『荷揃い予定日表示機能』を活用し、生産や出荷の進捗状況がオーダー単位で日々更新される「見える化」を実現させており、デリバリー機能を高めたことで、当社製厚板をさらに普及させていきたい」
――条鋼類の状況を。
「建設向け受注状況をみていると、7―9月を底に需要が出てきている。市中在庫の水準が低く、年内から年明け以降の新規案件で発注がみられ、荷動きは着実に回復するだろう。25年11月契約分で販価を据え置いたことで、10月契約分の出直し価格の意義が浸透してきたと思う。マーケットの雰囲気に前向きな変化がみられる」
――販売価格方針は。
「市場に見合った販価を設定し、需要に見合った生産に徹するという基本を貫いていく。鋼板類では、海外動向の影響が大きく、保護主義が広がっており、各国の施策によって中国メーカーによる数量、価格の対応を注視する。」
――設備投資計画を。
「今期は190億円を計画する。鋼板類について、27年度初頭で冷延コイルの製造・販売を目指す岡山工場の溶融亜鉛めっきライン改造は、計画どおり進捗している。このほか、高い品質の鋼板製品を安定供給するための投資を計画する。各工場で老朽更新が必要な設備もあり、最新技術も盛り込んだ形で行う」
「需要家への安定供給責任を果たすとともに、生産トラブルによるコスト発生を防ぐため、再発防止に取り組む。設備の稼働状態をチェックし、異常を感知するためのセンサーの設置を増やし、故障が起きる前の予兆を見逃さないようにする。ただ万が一、生産トラブルが発生した場合においてもその影響をミニマイズするべく、長期停止リスクを生産設備ごとに掌握してアセスメントすることで、設備の早期復旧に必要な予備品を確保したり、設備更新を検討する」
――コスト削減の取り組みはどうか。
「24年度下期から、全社のコスト削減計画『V・TokyoSteel(東京製鉄)』を推進している。鋼材出荷数量を維持しながらコストダウンを実現することに照準を合わせる。製造コストにおいて、とくに変動費の引き下げがターゲットになる。工場では歩留まり向上や電力使用原単位低減などはこれまでも行ってきたが、初めての試みとしては、生産部門だけでなく、管理部門や購買部門、販売部門など全社横断的に取り組んでいる点であり、一斉にチャレンジしている。各工場の目標や進捗状況などを見える化しており、お互いを高め合いながら、意欲的に取り組んでいると感じている」
――新技術、新商品の開発については。
「アップサイクル(鉄スクラップの高度利用による高付加価値製品への再生)に磨きをかける技術開発や製造方法の実現を常に意識をしながら、開発を推進している」
――鉄スクラップの集荷促進策を。
「名古屋サテライトヤード、関西サテライトヤードは鉄スクラップディーラーの認知度が高まっており、開設前に描いたイメージどおりに進んでいる。25年6月に開設した東京湾岸サテライトヤードも好調なスタートを切っており、活用方法については検討を重ねていく。鉄スクラップの輸出が最も多い地域において、当社購買の考え方、価格を示すことに意義があり、名古屋、関西と同様、徐々に浸透すると期待している。現時点において、3つのサテライトヤードの集荷数量を合計すると、1工場分に匹敵する」
――鉄スクラップ市況動向をどうみるか。
「中国からの半製品輸出が増えており、アジアを含めた国際市況上伸の重しになる。足元の円安水準下で、日本国内の市況はドルベースで割安感がある。ドルベースでの輸出価格を意識しながら、当社の購買価格を調整している状況にある」
――低CO2鋼材「ほぼゼロ」の販売状況と、電炉鋼材普及に向けた取り組みを。
「国内外から、累計で今後の見込みを含め約1万6000トン分を成約している。在庫する流通が増えており、新規での購入やリピート購入、サンプルトライを始めている需要家も着実に増えている。25年度から岡山工場で中国電力との協働で新たな上げDR(デマンドレスポンス)を開始した。中国電力から再生可能エネルギーであることの証明を受けることで、実質再エネ・CO2フリーの電気による生産を実現する。電炉メーカーによるDRに対する期待は大きく、『ほぼゼロ』は非化石証書使用と並行して、上げDRを積極活用する。電炉鋼材の普及については、千代田鋼鉄工業をはじめとする各社との協働も進んでいる。グリーンEV鋼板事業推進室では、グリーンEV鋼板を25年までに量産・供給する目標に向けて邁進している」
――電炉鋼材が浸透する市場環境にあるか。
「制度として、CO2排出についての開示が進む動きがある。時価総額3兆円以上の東証プライム上場企業は、27年3月期からサステナビリティ情報の開示が義務付けられ、スコープ3(企業の直接的排出以外の、サプライチェーン全体で発生する間接的な温室効果ガス排出量)の開示が始まる。対象企業は少ないものの、スコープ3を開示する際には子会社や取引先などデータを収集する範囲が相当広くなり、CO2排出の流れを把握する動きは地球環境保全にとって歓迎すべきことで、我々も貢献したい。一方、一定の床面積を有する建物についてライフサイクルのCO2排出を報告する制度を導入する検討が進んでいるとされる。最終的にCO2排出量が少ない鋼材が求められる流れに変化するとみている。引き続き当社も直接排出するスコープ1の削減にも取り組み、低CO2鋼材を供給する」
――小林幸子さんのCSuO起用効果を。
「予想以上に反響が大きく、『インパクトがある』と高い評価を聞くことが多い。色々な方が鉄に目を向ける契機になれば嬉しい」
(濱坂浩司)
「建設分野の人手不足による施工能力減少の影響などによって国内需要が低迷したことから、鋼材出荷数量が減少し、とくに条鋼類の落ち込みが大きかった。これに対して、製造コスト引き下げなどに全社一丸で取り組んできたが、減収減益になった。岡山工場の設備トラブルで、損益計算書に設備の復旧関連費用として、4億9800万円の操業休止損失を計上した」
――大幅減収減益となる26年3月期の通期業績予想の考え方を。
「25年10月契約分で角形鋼管と溶融亜鉛めっきコイルを除く品種で販売価格を引き下げたこともあり、下期は上期に比べてメタルスプレッドが縮小し、利益水準は低くなるとみている。今秋に入って建設関連の案件が増え始めており、条鋼類の販売増が期待されるほか、環境貢献の視点から鋼板類を主体に電炉鋼材へのニーズが高まっていることから、しっかり捕捉する。コストダウンにも引き続き注力していきたい」
――鋼板類はどうか。
「中国から高水準の輸出が続いており、国内資源循環で生産拡大を目指す当社は、輸入材の動向を数量、価格ともに注視する。10月契約分での販価引き下げは輸入価格を意識して設定したもので、当社が示した販価が市況の底入れ価格を示し、底打ちに繋がればと思う」
「電炉鋼材への関心が高く、当社製品への問い合わせが増えており、例えば鋼板類ではコイルセンターや流通各社が、需要家に当社製品を紹介していただくケースがみられる。需要家と信頼関係を築くコイルセンターが、加工に係る技術やノウハウを織り込んだ形できめ細かい提案を行うことは強力なバックアップで、採用に至るまでのスピードが高まっていることから、協働を実感している」
――厚板はどうか。「当社厚板製品への品質に対する評価は高いが、デリバリーの改善を求める声があった。これに応えるべく、厚板を製造する九州工場では厚板倉庫の作業効率化を図る搬送設備を導入した。また25年5月から、受発注システム『とうてつ君』の『荷揃い予定日表示機能』を活用し、生産や出荷の進捗状況がオーダー単位で日々更新される「見える化」を実現させており、デリバリー機能を高めたことで、当社製厚板をさらに普及させていきたい」
――条鋼類の状況を。
「建設向け受注状況をみていると、7―9月を底に需要が出てきている。市中在庫の水準が低く、年内から年明け以降の新規案件で発注がみられ、荷動きは着実に回復するだろう。25年11月契約分で販価を据え置いたことで、10月契約分の出直し価格の意義が浸透してきたと思う。マーケットの雰囲気に前向きな変化がみられる」
――販売価格方針は。
「市場に見合った販価を設定し、需要に見合った生産に徹するという基本を貫いていく。鋼板類では、海外動向の影響が大きく、保護主義が広がっており、各国の施策によって中国メーカーによる数量、価格の対応を注視する。」
――設備投資計画を。
「今期は190億円を計画する。鋼板類について、27年度初頭で冷延コイルの製造・販売を目指す岡山工場の溶融亜鉛めっきライン改造は、計画どおり進捗している。このほか、高い品質の鋼板製品を安定供給するための投資を計画する。各工場で老朽更新が必要な設備もあり、最新技術も盛り込んだ形で行う」
「需要家への安定供給責任を果たすとともに、生産トラブルによるコスト発生を防ぐため、再発防止に取り組む。設備の稼働状態をチェックし、異常を感知するためのセンサーの設置を増やし、故障が起きる前の予兆を見逃さないようにする。ただ万が一、生産トラブルが発生した場合においてもその影響をミニマイズするべく、長期停止リスクを生産設備ごとに掌握してアセスメントすることで、設備の早期復旧に必要な予備品を確保したり、設備更新を検討する」
――コスト削減の取り組みはどうか。
「24年度下期から、全社のコスト削減計画『V・TokyoSteel(東京製鉄)』を推進している。鋼材出荷数量を維持しながらコストダウンを実現することに照準を合わせる。製造コストにおいて、とくに変動費の引き下げがターゲットになる。工場では歩留まり向上や電力使用原単位低減などはこれまでも行ってきたが、初めての試みとしては、生産部門だけでなく、管理部門や購買部門、販売部門など全社横断的に取り組んでいる点であり、一斉にチャレンジしている。各工場の目標や進捗状況などを見える化しており、お互いを高め合いながら、意欲的に取り組んでいると感じている」
――新技術、新商品の開発については。
「アップサイクル(鉄スクラップの高度利用による高付加価値製品への再生)に磨きをかける技術開発や製造方法の実現を常に意識をしながら、開発を推進している」
――鉄スクラップの集荷促進策を。
「名古屋サテライトヤード、関西サテライトヤードは鉄スクラップディーラーの認知度が高まっており、開設前に描いたイメージどおりに進んでいる。25年6月に開設した東京湾岸サテライトヤードも好調なスタートを切っており、活用方法については検討を重ねていく。鉄スクラップの輸出が最も多い地域において、当社購買の考え方、価格を示すことに意義があり、名古屋、関西と同様、徐々に浸透すると期待している。現時点において、3つのサテライトヤードの集荷数量を合計すると、1工場分に匹敵する」
――鉄スクラップ市況動向をどうみるか。「中国からの半製品輸出が増えており、アジアを含めた国際市況上伸の重しになる。足元の円安水準下で、日本国内の市況はドルベースで割安感がある。ドルベースでの輸出価格を意識しながら、当社の購買価格を調整している状況にある」
――低CO2鋼材「ほぼゼロ」の販売状況と、電炉鋼材普及に向けた取り組みを。
「国内外から、累計で今後の見込みを含め約1万6000トン分を成約している。在庫する流通が増えており、新規での購入やリピート購入、サンプルトライを始めている需要家も着実に増えている。25年度から岡山工場で中国電力との協働で新たな上げDR(デマンドレスポンス)を開始した。中国電力から再生可能エネルギーであることの証明を受けることで、実質再エネ・CO2フリーの電気による生産を実現する。電炉メーカーによるDRに対する期待は大きく、『ほぼゼロ』は非化石証書使用と並行して、上げDRを積極活用する。電炉鋼材の普及については、千代田鋼鉄工業をはじめとする各社との協働も進んでいる。グリーンEV鋼板事業推進室では、グリーンEV鋼板を25年までに量産・供給する目標に向けて邁進している」
――電炉鋼材が浸透する市場環境にあるか。
「制度として、CO2排出についての開示が進む動きがある。時価総額3兆円以上の東証プライム上場企業は、27年3月期からサステナビリティ情報の開示が義務付けられ、スコープ3(企業の直接的排出以外の、サプライチェーン全体で発生する間接的な温室効果ガス排出量)の開示が始まる。対象企業は少ないものの、スコープ3を開示する際には子会社や取引先などデータを収集する範囲が相当広くなり、CO2排出の流れを把握する動きは地球環境保全にとって歓迎すべきことで、我々も貢献したい。一方、一定の床面積を有する建物についてライフサイクルのCO2排出を報告する制度を導入する検討が進んでいるとされる。最終的にCO2排出量が少ない鋼材が求められる流れに変化するとみている。引き続き当社も直接排出するスコープ1の削減にも取り組み、低CO2鋼材を供給する」
――小林幸子さんのCSuO起用効果を。
「予想以上に反響が大きく、『インパクトがある』と高い評価を聞くことが多い。色々な方が鉄に目を向ける契機になれば嬉しい」
(濱坂浩司)












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