2020年11月26日

三井物産スチールの新・経営戦略 宇都宮悟社長 人材育成を徹底強化

――三井物産スチール(MBS)に三井物産(MBK)鉄鋼製品本部の全トレーディング事業を10月1日付で集約した。

「唯一、MBKに残っていたエネルギー・輸送インフラ関連ビジネスのトレーディング機能をMBSに移管した。MBSとMBKの役割分担を明確化し、プロフェッショナル人材の育成を含めた攻めの効率経営を目指す。国内鋼材需要が縮小し、鉄鋼メーカーが設備調整を進めるなど鉄鋼業の構造改革が加速する中、MBSは鉄鋼流通としての機能をさらに強化して、将来を見据えた新たな成長戦略を描いていく」

――MBKから移管したのは「エネルギー・輸送インフラ鋼材事業部」の油井管室、ラインパイプ・厚板貿易室、輸送インフラ室(軌条)と三井物産スティールトレード(MST)事業の一部。

「MBSとしては、事業移管も踏まえて、まず国内外のインフラ関連ビジネスの拡大を図る。『プロジェクト資材部門』と『インフラ商品部門』を統合し、『インフラ・産業資材部門』を新設した。新部門は輸送インフラ部(軌条)、プロジェクト資材部、ブリキ・薄板貿易部、鋼管・薄板部、厚板部で構成。国内についてはMBKの4支店(北海道・東北・中国・九州)に配置するスチール・コーディネーターとの連携を強化し、顧客との関係強化とビジネス拡大を追求。海外では、既存インフラの老朽化対策、長寿化を図るIMR(インスペクション・メインテナンス・リペア)事業などを展開していく。併せて油井資材部、鋼管・厚板貿易部で構成する『エネルギー資材部門』を新設し、MBKのエネルギー鋼材ビジネスを継承・発展させていく。MSTは清算する予定で、10月1日付けでMBSに一部を業務移管し、社員もほとんど移ってきた。鋼管輸出の特殊なスキルを発揮してもらう」

――「エネルギー資材部門」の組織・機能を。

「油井資材部がオイル・ガス用の油井管ビジネスを継承し、鋼管・厚板貿易部はラインパイプ、海洋構造物用の厚板、MST事業の一部などの貿易を引き継ぐ」

――輸送インフラ部は。

「MBKが扱っていた軌条輸出がメーンとなる。ブラジルやオーストラリアの資源会社、北米・ロシアの鉄道会社、インドのメトロなどMBKの金属資源本部、プロジェクト本部関連のビジネスが強みで、新興国の市場開拓も積極展開する」

――IMR事業について。

「循環型社会をテーマに電炉事業とインフラ長寿命化に寄与するメンテナンス、リペア事業を展開する。構造物の総合メンテナンス企業であるショーボンド・ホールディングスとの合弁会社をタイに設立する。まずはアジアでビジネスモデルを立ち上げ、北米などに幅広く横展開していきたい」

――組織・陣容は。

「MBSは約50人増の340人体制となった。グループ会社のセイケイ、新三興鋼管、MSSステンレスセンターを含めた連結取扱高は3500億円強、取扱量は350万トン規模になる。連結経営の観点から営業だけでなく内部統制も含めてグループ内の経営・事業効率化を図っていく」

――振り返ると、MBKの国内鉄鋼製品事業の販売力強化と経営効率化を目的に鉄鋼製品本部の国内事業とグループ会社を経営統合してMBSが発足したのは2008年4月だった。

「その後、国内外市場の垣根が低くなる中で、鉄鋼製品本部から自動車鋼板、条鋼・形鋼、ステンレス・特殊鋼、棒線、厚板、造船鋼材、ブリキ、薄板、電磁鋼板などの国内・貿易ビジネスを段階的に移管してきた。エネルギー鋼材は、MBKのプロジェクト本部や金属資源本部との関連性が強いということで残していたが、世の中が大きく変わり、事業領域のボーダーレス化も進んできた。一方でMBSとMBKを跨ぐ複数のタスクフォースが同時並行で走る中、MBSの中堅・若手が自然体でMBKとの交流を深めており、経営計画やデジタルトランスフォーメーション(DX)などのテーマでも議論を重ねている。コロナ影響は一部であるが、TeamsなどWEB会議ツールも活用し、融合が急速に進んでいる。MBSには財務、経理、法務などのコーポレート機能があり、トレーディングをMBSにまとめることで効率化が図れる。名実ともに『一丸経営』を加速できる」

――人材育成面でも効果的。

「そう、決定的なのは人材育成。MBSとして鋼材トレーディング全般を手掛けることで、事業領域を跨って瞬時に幅広い情報を共有できる。また適正を見極めながら、品種や担当を入れ変え、海外赴任、事業会社への出向などを柔軟に判断できる。プロフェッショナル人材を育成し、攻めの効率経営を加速する体制が整った」

――改めて鉄鋼製品のソースを確認したい。

「日本製鉄、日鉄ステンレス、JFEスチール、神戸製鋼所、山陽特殊製鋼、愛知製鋼、大同特殊鋼及び電炉各社などの製品を幅広く取り扱っている。数量ベースでは国内と輸出が半々。三井物産グループの鉄鋼商社として機能を発揮できる分野、地域は広大であり、軸足をマーケットに置いて国内外の市場を開拓し、需要を創出していく」

――日本製鉄とのビジネスは日鉄物産に事業譲渡したのでは。

「国内は大半の商売を譲渡したが、日鉄物産と一緒にやるケースもあるし、海外では単独の扱いが多く残る。例えば遠隔地の一部はMBSが仕入れから売りまで一貫して扱っている。電磁鋼板はオランダ、カナダのコイルセンター経由の海外大手重電メーカー向けの方向性ビジネスで重責を担っている。軌条も長年のビジネスを続けている。石油・ガス開発プロジェクト関連の油井管やラインパイプも扱っている」

――改めて国内戦略を。

「ポスト・コロナ時代には、需要・市場環境が大きく変わっていくだろう。MBKのスチール・コーディネーターとの連携を強化し、鉄流懇、三鉄会のメンバーとも情報交換しながら、ビジネスと機能を維持・強化していきたい」

――海外市場開拓は。

「ESG関連ビジネスがキーワードとなる。MBKの総合力、グローバルネットワークをフルに活用し、従来型のガス・油田開発、鉄道・鉱山開発に加えて、EVなどニューエナジー・ビークル、風力発電など再生可能エネルギー、社会インフラなどをターゲットに鉄鋼物流を創出していく」

――MBKの海外拠点を活用できる。

「米国のニューコア、ロシアのセベスタール、中国の宝武鋼鉄、インドのマヒンドラなどのビジネスパートナー、一部出資する大和工業の米国、タイ、中東、韓国拠点などのサプライソースを活用できる。自動車分野では、ホットプレス最大手のスペイン・ゲスタンプの本体と米国事業に出資し、世界15カ所以上で風力発電用タワーを製造するグループ会社にも出資している。英国で海洋構造物のメンテナンスや水道事業を展開するグローバル・エナジーにも出資している。ニューコア、大和工業とのネットワークを活かして電炉ビジネスにも深く関わっていきたい」

――ニューコアは自動車分野にも本格参入してきた。

「日系自動車向けでは三井物産グループへの期待は大きい」

――MBSの次の発展形は。

「三井物産の中計は『変革と成長』。鉄鋼業は構造転換期を迎えており、コロナ禍で世界経済は大きく変化する。正直申し上げて、今日現在、企業再編に関わるアイデアや案件があるわけではない。変化へ挑戦が不可欠であり、最終形と思ってはならない」

――改めて経営方針を。

「取引先とともにバリューアップし、成長を続けるため、提案力を磨いて機能の差別化も図り、なくてはならない存在になっていく。そのためにも商社の原点に立ち返り、サプライチェーンの効率化を図りつつ物流機能を先鋭化していく。人材育成を徹底強化する考えで、国内の事業会社や海外事業に送り込んで、経験を積ませてスペシャリストを育成。昇進・昇格を含めた人事制度もダイナミックに見直していく」

――利益計画について。

「MBKは中計最終年度の22年度に4000億円まで戻す計画であり、鉄鋼製品本部としては150-200億円をめざすことになる。新型コロナの影響もなしとは言えず、MBSは本年度、期初計画2割減の34億円程度にとどまりそう。日鉄物産に事業譲渡する前は純利益が60億円あったが、まずは50億円まで戻したい。PLのみならずROIC(投下資本利益率」の観点でも高みを目指していく」(谷藤 真澄)

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