2022年3月29日

三井物産 金属事業戦略を聞く/宇野元明代取専務/既存強化で損益分岐低く/大和工業・ニューコア連携し低炭素化

三井物産は金属関連事業の収益基盤を強化する。今期は価格上昇を受けて好業績となる見込みだが、鉄鋼製品、鉄鋼原料、非鉄金属、地上資源それぞれで既存事業を強化し、新たな社会的要請にも応える。安定供給責任と低炭素時代への貢献にともに取り組むという金属管掌の宇野元明専務に方針を聞いた。

――金属関連で今年度は好業績を見込む。

「鉄鋼製品も金属資源も商品市況、鋼材の値上がりもあったが、諸先輩が作ったプラットフォームを基盤に、事業ポートフォリオの良質化に取り組んだ結果、アップサイドを取り込むことができた」

――今年戦力に加わったのは。

「(豪鉄鉱山)サウスフランクは生産を開始した。(同)ローブリバーも新鉱区の開発を決めているし、(出資先)ヴァーレもダムの事故で生産が落ちていたが順次増えてきているので、2030年に向けて鉄鉱石は手を打てている」

――原料炭は。

「(モザンビークの炭鉱、インフラ一貫計画)モアティーズ・ナカラからも撤退し、今は豪州の生産性の向上だ。原料炭は必要な分野なのでしっかり取り組んでいく。積極的に新しいものを買って行くポジションではないが、既存事業の良質化に取り組む。安定供給の責任と低炭素時代に向けての貢献、両面をしっかり取り組んでいく方針だ」

――原料炭のBMCはパートナーが変わる。

「事業ポートフォリオ見直しの中で検討する。売りありきではない」



――銅鉱山事業も収益貢献が大きい。

「銅はチリでコジャワシを買い増し、カセロネスは撤退ということで、事業ポートフォリオ強化の手を打っている。アングロ・アメリカン・スールは引き続きコスト低減と、(事業パートナーである)コデルコが持つ隣接アンディーナ銅鉱山とのシナジー最大化、ロスブロンセス銅鉱山の坑内掘り開発の検証を進め、事業の良質化を目指す。コジャワシも増産計画があり、ヴァーレも将来的には銅の権益は増やしていくと認識している。引き続き既存事業を強化していくと共に、新規投資の機会も追及していく方針だ」

――ニッケルは比コーラルベイから撤退した。

「ポートフォリオの見直しでこのような形となった。住友金属鉱山としっかり話をしている。ニッケルは必要な商品なので引き続き取り組んでいく方針は変わっていない」

――ヴァーレ経由の権益が主体。

「あとはタガニートは引き続き。住友金属鉱山といい機会があればご一緒することも考えたい」

――アルミ事業は。

「ブラジルのアルミ製錬事業で水力発電由来のアルブラスを活用し、低炭素社会に貢献できればいい」

――電池材は。

「今の物流に加えて、上流のリチウム、この辺に投融資も絡めて取り組んでいきたい」

「鉄鋼製品もモビリティー、インフラ、エネルギー、流通という事業群の整理をして既存事業、関係会社の強化を図ってきてアップサイドを取れる形になった。モビリティーは(ホットスタンプの)ゲシュタンプやアメリカの(サービスセンター)スチールテクノロジーズ、さらに(中国のサービスセンター)宝井事業等の事業群だ。ゲシュタンプはヨーロッパ、アメリカ、中国に展開している。昨年度は自動車生産減少に加えて、リストラを含めた構造改革で収益的に苦労したが、その効果が出てきた。スチールテックはM&Aで少しずつプラットフォームを拡充しており、今回の市況上昇の恩恵を受けることができた。インフラは大和工業とやっているタイの(電炉)SYS、ショーボンド社と取組むインフラメンテナンス事業のグローバル展開に注力している。それぞれの領域で事業群の整理が進んだ。国内では三井物産スチール(MBS)、日鉄物産、エムエム建材、それぞれの分野でしっかり取り組んでいる。日鉄物産も最高益。MBSも最高益を目指している。引き続き既存事業の強化でさらに損益分岐を下げるような努力と次の新しい一手を打っていくことが課題だ」

――資源高やグリーンフレーションなど市場の変化がある。

「中国が粗鋼10億トンで継続、あるいは少しずつ減っていくが、それ以外の地域が増え19億トンが20億トンに向かう流れだ。グローバルに見て需要は堅調だ。一方、中長期的に供給はヴァーレも生産が回復してくる予定だし、電炉化も進んでくるとすれば、今の鉄鉱石の価格はある程度落ち着いてくる」

――電炉とも連携を強化する。

「大和工業とはタイSYS、ニューコアとはアメリカスチールテクノロジーズに取組んでいる。低炭素化に向けて大和工業、ニューコアとの連携を強化したい」

――金属リサイクルの豪シムズもある。

「スクラップではエムエム建材もあるし、シムズも上場会社だが当社は筆頭で17%弱だ。我々のグローバルネットワークとの連携、関係会社、自己名義のトレーディングも強化していく。非鉄では三井物産メタルズで銅やアルミのスクラップをやっている。循環社会に対しての貢献は継続・強化していきたい。さらに還元鉄だ。当社、神戸製鋼所、同社傘下のミドレックスとヴァーレの4社でどういった形で貢献できるのか協議している。低炭素化に向けた冷鉄源も注力分野だ。電池、冷鉄源、それと既存の鉄鉱石・銅・原料炭はしっかりやる。昔から安定供給の基盤をつくる使命を持ってやっている。結果として今期は花開いた。新しい分野も世の中に貢献する使命感を持って取り組む。水素も全社的に取り組んでいるので、そういった社内連携もできる。グリーン・スチールにまだ正しい方程式はないので、社内のガスや水素とかこの辺の連携を入れながら業界に貢献したい」

――米中対立などで昔の米ソのように供給網が分断されるのか。

「我々はどちらにも対応できるように、それぞれでサプライチェーンに刺さっていく。中国にしても、欧米はお金をどんどん張っている。偏ることなく、サプライチェーンを欠かすことなく貢献できるような体制を作っていきたい。」

――脱炭素など次世代技術でスタートアップ含めて連携は。

「ベンチャー投資している部門もあるのでいいものがあればやってはいるが、確立した技術はこれからだ。将来的な水素還元も視野に、神戸製鋼所・ミドレックスとヴァーレとの取り組みに優先順位を置いてやっている」



――非鉄の製品、加工は。

「三井物産メタルズが製品でしっかり物流に刺さって、収益もそれなりに上げている」

――マルチマテリアルで鉄と非鉄の区分けもなくなっていくのか。

「もちろん。ゲシュタンプにしてもスチールテックにしても世の中の流れに沿って取り扱いしていかなくてはならないし、昔みたいに鉄は鉄とか非鉄は非鉄しかやらないということではなく連携してしっかりやっていくことが大事だ」

――大掛かりな組織の組み換えは。

「今時点で組織をいじることは考えていないが、冷鉄源からグリーン・スチールまでのサプライチェーンをみると、金属資源本部・鉄鋼製品本部で連携して取組んでいくことが重要だと思っている。グリーン・スチールからさかのぼり、さらに水素とかリニューアブルとなると社内の他本部が保有するアセットを活用した総合力発揮が尚更必要だ」

――鋼管ビジネスのスタンスは。

「今度はCCS(炭素の回収・貯留)等、従来とは異なるニーズが出てくる。これまで取り組んできたオイル・ガス業界で得られたノウハウを生かせると思っている。全社ではCCSプロジェクトに参画している部署もあり、社内連携での貢献にもなる」

――モビリティーは。

「インドで東元電機と一緒にモーター工場を建設している。9月に立ち上がる。中国では電池のリサイクルを格林美と一緒にやっているので、その辺もしっかりやっていきたい。EV化では軽量化が求められるとすればゲシュタンプのホットスタンピングでも貢献できる」

――インフラは。

「コロナで思ったほどは進んでいないが、ショーボントとタイでメンテナンス事業を開始した。今後グローバル展開を進めていくにあたっては、インフラが老朽化しているアメリカに取組んでいきたい。リニューアブルに戻ると、北拓とやっている洋上風力のメンテナンス。IMRといっているが、インスペクション・メンテナンス・リペア、これもしっかりできるといい」

――中期計画は来年の利益目標を超過見込みだが、見直しは。

「来期は改めて事業計画を作っていく」

――以前は鉄鋼製品で200億円と言っていたが新たな目標は。

「これから議論だが、個人的には今期追い風があったとすれば200が平時で出せるようになるのがいいと思う。アップサイドが出るときはしっかり取れる形になっていることが大事だ。来期が終われば次の中期経営計画に差し掛かるので、その時に新たな目標を議論していくことになる」

――金属資源の収益規模のあるべき姿は。

「価格をどう置くかによる。鉄鉱石の価格がこのまま中長期的にいくとは考えていないので、ある程度収斂されていくと思う。アップサイドを取れるときはその基盤があるという整理だ」



――MBSの成長戦略は。

「機能をさらに増していくことだ。MBSは三井物産の鉄鋼の流通を担う。高付加価値鋼板のグローバル加工ネットワーク等、しっかり機能を発揮できるところを強化していく。人の交流も含めて、MBSの人を三井物産の海外拠点に何人も配置したり、徐々に一体化している。三井物産本体とよく連携して総合力を発揮していく」

――三井物産の鉱山事業が炭素ネットゼロになるのは。

「自社の排出量から、事業を通じて実現した削減貢献量を差し引いたGHG(温室効果ガス)インパクトを、30年までに20年3月期から半減し、2050年にネットゼロエミッションを実現するという全社方針をフォローする。我々としても目標に向かってやっていく」(谷藤 真澄、正清 俊夫、玉光 宏)