2022年8月24日

鉄鋼業界で働く/特別企画/女性営業職座談会/飛鷹「後輩のロールモデルに」/伊串「“違い”が強みになれば」/小林「男女関係なく働ける業界へ」/樋口「さまざまな生き方認め合う」

鉄鋼業界で女性の活躍が少しずつ広がっている。まだまだ男性社会とも叫ばれる中、彼女たちは何を考え、何に悩みながら日々仕事にあたっているのか――。関西で国内営業を中心に担当するJFEスチール大阪支社の飛鷹友香さん、メタルワン大阪支社の伊串亜実さん、阪和興業大阪本社の小林紀子さん、大同興業大阪支店の樋口真衣さんの計4人を招いて座談会を開き、働く女性のリアルな声を聞いた。



――自己紹介を。

飛鷹「2016年に入社し、20年7月から大阪鋼板営業部薄板・缶用鋼板室で一般薄板を担当しています。店売りとひも付きの両方で、コイルセンターをはじめさまざまなお客さまを担当しています」

伊串「私は20年に入社し、現在3年目です。初配属先である大阪厚板課で、建機やフォークリフトのひも付きを担当しています。最近は造船も受け持つようになりました」

小林「08年入社で、勤続15年目です。1年半前に鋼板販売部鋼板販売課に配属され、北陸から中四国エリアで薄板全品種の店売りを担当しています。それまでは10年以上、ひも付きでフェンスメーカーや鋼材販売を行っていました」

樋口「07年入社で、15年から鉄鋼営業本部鉄鋼第四部ステンレス第2チームにて高合金を主に担当しています。チタンや海外からの仕入れなど幅広い業務に携わっています。現在の部署で息子を2人出産し、半年ずつ育児休暇を取得しました」



■業務と体調

――働いて感じる他部署と営業の違いは。

小林「2年目まで法務審査部で働いていたのですが、当時は社内がお客さんという感じでしたね。いろいろな要望を多くの社員から言われて、社内調整が大変でした。営業に異動してから、本当のお客さまと接せられるようになったと実感しました」

飛鷹「私も最初は製造所で生産管理をしていて、営業と工場をつなぐなど、社内の調整、社内向けの業務が多い感覚でした。製造所の稼働状況に影響されながらの業務ですが、営業は自分のペースで働くので、最初は自分で予定を立てるのが難しかったです。2年経って、少しずつ慣れてきたと感じています」

樋口「1年だけ営業経理を経験しましたが、1カ月の流れ、1日の予定がきっちりと決まっていました。営業は自分からアポイントを取って調整でき、社内外問わず多くの方とお話できるのがうれしいですね」

伊串「社内の調整役を経験したことで営業の強みとなっている点はありますか?」

小林「与信管理をしていたので、決算書が他の人より読めること。工場を見て、鉄の相場と在庫を見て数字の裏付けも何となくできますし、質問もしやすいので良かったです」

飛鷹「私は製造所で製造プロセスから製品出荷までの物の流れを知ることができて良かったですね」

――生理など女性特有の体調の乱れも。

小林「新型コロナウイルス感染拡大により各社で在宅勤務が導入され、特に女性は働きやすくなったのではないでしょうか。女性である以上、しんどい日はありますから。私は体調への理解を求めるため、辛い時は男性の先輩や上司に『今日は女の日なので無理です』とはっきりと伝えていますね。言わないと分からないと思うので。30歳くらいの頃は婦人科系の病気に悩まされ、車の中で休むこともありました」

飛鷹「最初に伝えた時、男性の先輩や上司は受け入れてくださいましたか?」

小林「そうですね。困った表情をされることはなかったです」

樋口「女性の事情に慣れていない方だと、特に気遣ってもらえる気がします。お互い気を遣って言わない方が『どうしたのかなぁ』と変な感じになるかも…」

伊串「初めはびっくりされるかもですが、言ってもらった方が管理職側も良いのかもしれません」

小林「生理休暇はありますけど1回も取ったことないですね」

全員「私もないです」

樋口「取得している方は本当に一部ですよね」

飛鷹「企業によって休暇制度はそれぞれだと思いますが、制度を自由に活用できる風土の構築は大事ですよね。そういった風土があれば、毎月の体調不良の際、使いやすいかもしれません」



■働きがい

――仕事を続けられている理由を。

小林「営業になってから、人と人をつなぐ仕事であることに働きがいを感じています」

樋口「周りの人間に恵まれていることが大きいですね。周囲の雰囲気が悪いと話しにくいですし」

飛鷹「本来は受注を増やすことが営業ならではの楽しさなのかなと思いますが、コロナ禍で異動してきてそれが難しい状況が続いているので、高炉メーカーの営業の働きがいって何だろう?と日々模索しています。今は小さなやりがいを少しずつ見つけながら、安定的に働けていることに感謝していますね」

伊串「鉄鋼業界に限ったことではないですが、周囲の方々に支えられて、期待に応えるのが働きがいかなと思います。お客さまにファーストコールしてもらえるようになりたいという気持ちを大切にしています」

――悩んだことは。

伊串「あるお客さまの担当になったとき、若い女性が担当であることに苦言を呈されたと人づてに聞き、ショックを受けました。転職した方がいいのかと悩んでしまうほど」

小林「今の時代にもそんなことがあるんですか⁉」

樋口「営業になりたての2―3年目の頃、私も同じような経験をしました…」

伊串「時に私を飛ばして課長に先に相談されることもあり、悔しいけど、もっと頑張ろうと感じる瞬間でもあります」

小林「私も同じことがありましたね。課長がどうフォローしたかは分かりませんが。まだそんな方がいらっしゃるとは。私くらいの世代で最後だと思っていました」

伊串「同じことを経験されているんですね…。コロナでお客さまと顔もなかなか合わせられない状況の中、関係を築くのが大変でした。今は先方から相談してくださることもあり、良好な関係を築いているところです」

飛鷹「私は女性営業職に理解のあるお客さまを持たせていただいているので特に問題なく、今の話を聞いてびっくりしました。自分もどこかで言われているのかもしれないと思いました…」



■女性活躍推進

――女性を採用する動きが増えている。

小林「うちの会社も急激に増えています」

樋口「何人くらいですか?」

小林「入社した08年は、総合職約80人中、私だけが女性でした。今は総合職の約25%が女性社員で、毎年数人の女性が大阪に入っていますね」

樋口「私はたまたま女性営業職を5人採用した年に入社しましたが、残っているのは私だけですね。東名阪で1人です。現在は採用人数の20%以上が女性になるよう力を入れていると聞きました」

小林「急に増えるのもいいことですが、受け入れ態勢はどうなっているのか疑問ですね」

樋口「働きましょうと国が女性に対して提言している中で、制度が整っているかと思うとそうでもないと感じます。社内では『今度女性が入ってくるんだけど、どう接したらいい?』と男性の先輩や上司に聞かれることがあります。接し方は男女関係なくその方の性格によりますし、こういうことを聞かれると、まだまだ男性社会だなと感じますね」

小林「身構えている感じですよね」

樋口「女性だからと腫れ物に触るように接し、当たり障りのない仕事だけを割り振っていても、責任感が芽生えませんし良くないなと思います」

飛鷹「私が入社した16年以降、事務系総合職採用の約30―45%が女性だったので、製造所で女性を避けていたら仕事が成り立たない状態でした。なので女性だからと言った理由で嫌な思いをすることはなかったです。大阪支社に来てからは、技術系総合職の女性はいたものの、事務系総合職では女性第1号。どのお客さまを割り当てようかなど、最初はとても気遣われているのを感じて申し訳なく思いましたね。今は徐々に慣れてもらったと感じています。気を遣われる以上に区別されることはなかったです」

伊串「私は皆さんと違い、初配属の時点から女性の先輩がいました。とてもベテランの方で、100%真似するのは難しいなと感じていますが、性別うんぬんは関係なしに営業としての実力でお客さまからの信頼を勝ち取っておられる姿に憧れています」

――女性管理職を増やそうという動きも。

小林「周囲からの圧を感じていますね(笑)。同期の男性社員が今年から管理職になったんですよ」

樋口「管理部門では管理職に女性が就いていますが、営業はないですね。女性の営業が全然いないこともあって、『女性初の営業の管理職になるんだろうね!』と周囲に言われることがあります。積み重ねた実績を認めていただいてなれるのならうれしいけど、女性だから管理職にしよう、というのは違うと思いますね」

飛鷹「年次的に管理職については具体的にイメージできていませんが、1人の女性社員として、今後大阪支社の営業にやってくる後輩のロールモデルになりたいとは思っていますね。管理職にさせたい!という圧は感じていませんが、『この先どうなりたいの?』と周囲に聞かれることはよくあります。男性の管理職としかまだ接したことがなく、自分のロールモデルがいなくて道が見えないですね。管理職になることを目標の一つとして設定するのは良いことだと思います」

伊串「管理職を目指す以外の目標も良いと思いますが、その理由が『~な人生を歩みたい』と言った前向きな理由であれば良いと思います。消極的な理由の方もおられますよね。私も飛鷹さん同様に、女性のリーダー像がいなくてイメージできないです。女性だから管理職にするのではなく、女性に対してどういう人材育成を行っていくかが大切だと思います」

――各自の不安は。

飛鷹「先ほどと被りますが、特に支社は総合職の女性がおらず、ロールモデルがいないと感じています。初めて出会った女性営業職がグループ会社の商社の女性で、気になることがあれば『商社の営業の人だとこういう時どう動くの?』と質問したりしています」

伊串「男性の先輩は多いですが、男女それぞれ戦い方も事情も違いますしね。女性の営業職が少なくて漠然とした心細さがあります」

樋口「私が入社した当初は、同期の女性総合職の間で『客寄せパンダのような扱いを受けている気がする』と話し合っていました。でも、もし本当にそうだったとしても、かみ付きパンダになってやろう!とがむしゃらに働いたのを覚えています(笑)」

――女性活躍の理解を得るには。

樋口「女性だけが子供を育てる時代ではなくなりました。社内外問わず年上の男性は妻が専業主婦かパートという方が多く、家の中を全て任せてきたから仕事に没頭できる、今の地位があるということを感じてほしいです」

小林「子育てや家事は土日関係ないですしね」

樋口「奥さんに支えてもらっているということを、分かっている方と分かっていない方がいるように感じます。分かっている方は、子供が熱を出した時など、0から100まで言わずとも『どうぞ行ってきなさい!』と仰ってくださいます。会社や業界というより社会の問題ですね。先日、世界経済フォーラムが22年の男女平等度を順位付けた『ジェンダーギャップ指数』を発表し、日本は146カ国中116位、先進国で最下位だったのを思い出しました」

小林「ここまで国が多様化を進めようとする中で最下位とは…。男性の稼ぎで妻と子供を養える環境にあるからですかね」

樋口「どうなんでしょう。ママ友を見ていると、専業主婦もいますが、仕事をしているママと大変さは変わらないと感じます。経済的に働く必要がなくても働きたい女性もいると思いますし、いろんな生き方を認め合わないといけないと思いますね。何が正解とかないですから」



■多様性

――働き方について感じることを。

小林「女性は総合職と一般職で選択肢がありますが、男性はないですよね。希望の有無を問わず自動的に出世街道に乗せられるのも、問題だと思います。男性でも専門性を極めたい方はいると思いますし、生き辛い男性も多いはずです」

伊串「今の社会の動きは、男性の動きを女性が追いかけられるようサポートする態勢になっていると思うのですが、その逆はないですよね」

小林「開かれた社会じゃないなと感じます」

飛鷹「女性だけじゃなく男性も育休を取得していますが、さらに定着することで、男性がより家庭に参加しやすい風土になればと思います。男性の考えも変わっていく必要があると思いますね」

――今後の目標は。

小林「苦労してでも、できるところまで突っ走っていきたいですね。管理職になれたら、男女関係なく働ける職場にしていきたいです。一般職の女性で時短勤務や60代の方などがおり、働き方が多様になっていてすでにダイバーシティ化している部分もあるのですが、さらに長く働ける会社づくりに貢献したいです」

樋口「私は営業の仕事がとても楽しくて、管理職になったらと思うと複雑な気持ちもあるのですが、長い目で見たら上を目指したいですね。営業でいられる間にいろいろ勉強したいです。家族と相談しながら、仕事と家庭のバランスをうまく取っていきたいですね」

飛鷹「営業としてはまだ3年目なので、もっと成長できるよう目の前の課題に取り組みつつ、樋口さん同様、ライフワークバランスも大事にしていけたらなと思います」

伊串「まだ管理職について考える機会はないですが、学生時代に語学を学んでいたので、いつか海外営業や駐在員としても活躍するのが目標です」

――業界に期待したいことを。

小林「自分の目標と重複しますが、男女関係なく働ける業界になってほしいですね」

樋口「一つの会社でいろんな人が働き、みんなが働きやすく感じることが大切だと思います。まだまだ先ですが、EVが100%になる未来では働く環境がどう変わっているのか、気になりますね」

飛鷹「長く働きやすい業界が理想です。そのためにはグローバル人材の雇用も増やさないといけないでしょうし、ダイバーシティとしてそれ以前に女性が働いて当たり前な状態になっていなければと思いますね。このように女性を特別に取り上げる連載がなくなるような未来が理想です!」

伊串「今は女性がテーマになっていますが、皆さん人と違うものに焦点が当たりがちですよね。それが強みになればいいなと思います。今まで働いてきて、女性やグローバル人材などに対して保守的な考えも残っている業界だなと感じました。違いが違和感ではなく強みになれる業界を目指していけるといいなと思います」(芦田 彩)