2026年1月8日

非鉄新経営 厳しさ増す市場に対応/JX金属社長/林 陽一氏/レアメタル資源に照準/銅製錬の削減規模を検討中

JX金属は2025年3月に東京証券取引所プライム市場に上場した。半導体用スパッタリングターゲットなどトップシェアの先端素材製品群が成長エンジンとして機能しており株式市場では人気の銘柄となっている。一方で製錬事業は劣悪な買鉱条件に苦戦しており、目標に掲げるグリーンハイブリッド製錬への転換を急ぐ。今後の事業戦略をどのように描いているのか。林陽一社長にインタビューした。

――25年の振り返りから。

「3月19日に上場を果たした。社内外を含めた関係者の皆様全員にご協力いただいたことを感謝申し上げたい。9月には上場記念パーティを開催した。そのタイミングで当社の存在意義や価値観といった経営理念を『JX金属グループフィロソフィー』として発表し、これまで120年にわたる歴史の中で育まれてきた精神を具現化した」

「事業面では米国の関税問題のような大きな揺さぶりがあったものの、全体的には生成AIやデータセンター向けの材料を中心に主力製品の半導体ターゲットや磁性材料、結晶材料のインジウム・リン、タンタルキャパシタ粉、チタン銅などが非常に高い伸びを示した。一方のベース事業(資源・製錬・リサイクル)は価格の高止まりがプラスに働いたものの銅製錬の事業環境はTC/RC(溶錬費/精錬費)が歴史的な低水準に落ち込んでしまった」

「残念ながらビジネススタイルの異なる国の独自の政策に影響されて鉱山会社が非常に強いポジションを持ってきている。今後も状況は大きく変わらないため、当面の減産だけでなく将来的に今の規模をもう少し小さくして当初の方針通りリサイクルに大きく舵を切る。技術的なハードルは高いが、われわれが目指す方向性はこれしかない」

「今後も一定量の銅精鉱を調達するが、それには『マス』が必要だ。銅地金を販売する時にもマスがあった方が良いため、三菱マテリアルさんにパンパシフィック・カッパー(PPC)への参画を検討していただくことになった。製錬業界はお互いに協調できるところは協調した上で各社の強みを生かしながら事業を強化していく方向に動いている」

――協調領域と競争領域の考え方を。

「銅製錬でいえば同じLME(ロンドン金属取引所)グレードの電気銅を売っているので協調領域になる。ただしそこで価値を生み出す製錬技術などは競争領域だ。先端材料になると装置メーカーやわれわれのような金属素材メーカー、あるいは化学メーカーなどが組み合わさることで新しい技術が生み出されるのであれば、そこは協調領域だと考えている」

――26年はどのような年になりそうか。

「基本的な事業環境としては生成AIやデータサーバーの分野はまだまだ伸びていくと見ており、先端素材製品群を有するフォーカス事業のマーケット環境は悪くない。ベース事業は銅や貴金属、レアメタルの価格変動幅は大きいと思う。26年も非常に高いレンジで推移すると考えている」

――銅製錬はどの程度の削減規模を計画しているのか。

「具体的な規模は今まさに検討している。銅精鉱のボリュームを減らしながらリサイクル原料を増やすのは熱バランスの観点で非常に難しい。われわれの銅製錬は精鉱中の硫黄から出てくる熱を利用してリサイクル原料を溶解する環境に優しいプロセスだ。銅精鉱の量が減るとその分の熱量が減るので、リサイクル原料との最適なバランスを探している。熱バランスを最適化するための投資や技術的なブレークスルーも必要だ」

――リサイクル原料をどう調達する。

「3つある。既存の調達ルートで増やすのがまず1つ。買収した加イーサイクル・ソリューションズやもともとある台湾の拠点、独フランクフルト事務所を軸にした欧州諸国からのリサイクル原料の回収などだ。2つ目は顧客からスクラップを回収するクローズドの分野。これは販売に応じたボリュームになるのでそれほど大きな数量は見込めないが取り組む必要がある。最後は三菱商事さんと組んだJX金属サーキュラーソリューションズの活用だ。三菱商事さんはリサイクルのプラットフォーマーを目指しているので、鉄やアルミ、プラスチックなど銅製錬以外の観点で回収する原料もあるが、銅製錬に投入できる原料はわれわれが引き取る」

――レアメタル資源で伯ミブラ鉱山に投資している。相乗効果や収益面での貢献はあるのか。

「収益も当然生んでいるが、ミブラの投資目的の一つはタンタルの確保だ。中央アフリカの問題の多い地域に偏在しておりサプライチェーンが脆弱なため、少しでも安定的に原料を確保できるポジションを取っておきたい。同じ金属材料といってもベースメタルとレアメタルでは資源開発も製錬の仕方も違う。レアメタルの製錬はグループの独タニオビス社が持っているので問題ないが資源開発の知見を持っておきたい。豪コピプロジェクトも材料の確保だけでなく経験を積むためのものでもある。こういった案件を積み重ねて本当にレアメタルをサプライチェーン上で確保できるだけの技術を独自に整えていきたい」

――資源人材は今後も採用を続けるのか。

「これまでのベースメタル中心ではなくレアメタル分野を中心に人を配置しようとしている。地域的にも例えばレアメタルでわれわれが狙ってるもので考えると南米やオセアニア、そしてアフリカがターゲットになるので資源人材は引き続き必要だ」

――アフリカの資源開発から撤退した歴史がある。

「政治的なリスクも含めて企業としてリスクマネジメントは当然考えないといけない。ただしわれわれの会社だけでなく日本全体を考えても(資源確保で)アフリカを無視するのは難しい」

――半導体材料の将来的な能力増強について。

「建設中のひたちなか新工場(茨城県)は追加の用地も取得しているので、今後の拡張余地は十分にある。用地を確保して建屋を建てた状態で最後にユーティリティを導入するだけにしておけば、能力増強が必要になった時にはスピード感を持って対応できる。当面は半導体ターゲットの能力増強を行う予定だがターゲットにこだわらず、その時に必要な事業をここに入れていく。半導体ターゲットは後工程の米国工場もあるので色々な選択肢を検討して柔軟に対応していく」

――米国工場で後工程以外も行う計画はあるのか。

「基本方針はキーとなる製造プロセスは日本で持つ。ただし高い関税が課せられるなど合理的でない理由が別に出てくれば、米国内での生産を増やすなど柔軟に対応する」

――インジウム・リンの需要拡大が続いている。

「われわれが供給できる量を超えるような引き合いがきている。生産能力を25年比で1・5倍に増やす計画を発表しているが、それでも足りないと認識している。近いうちにプラスアルファの投資を発表することになるだろう」

――新規分野として医療や防衛に期待している。

「当社は非常に広範な材料を持っている。例えば医療用カテーテルには圧延銅箔、カドミウム・ジンク・テルル基板は医療や防衛分野で放射線検知用途に使われる。そういう分野に直接アクセスしてこなかったので一つのマーケットとしてきちんと分析して働きかけをしようというのが狙いだ」

――次世代半導体分野のCVD/ALDプリカーサ材料の需要が伸びている。

「データサーバー関係にけん引されている。データサーバーの中の記録材としてはハードディスクドライブ(HDD)もあればSSDもある。HDDにはわれわれの磁性材料が、SSDはプリカーサ材料が使われるため伸びている。今回マーケットに出したモリブデン系のプリカーサ材料が収益化するタイミングは26年の後半になると考えている。30年頃には10億円以上の事業に成長させたい。プリカーサ材料はモリブデン系以外の材料も開発している。色々な開発要求もあるので、これらの品揃えを合わせて強化して将来は半導体ターゲットのように100億円を超えるような事業に育成したい」

――株価上昇に対する評価を。

「株価はマーケットにおける評価であることは事実だと思う。ただし株価のその時の値動きに一喜一憂はしない。やらなければならないのは、経営の方向性を明確にして実績を出していくことだと考えている。その上で誤った情報が憶測で判断されないように正しく情報発信していくことが大切だ」

――東邦チタニウムとの親子上場の解消などグループ体制の見直しはどうか。

「上場前から指摘されている話でもあり親子上場に関する課題は認識している。事業環境の変化も踏まえながらあるべき体制を検討していく」

――上場で会社の認知度は上がったか。

「上場したばかりで会社としての認知度はそれ程高くないと思っている。日本の企業の中でもJX金属の名前を聞いたときに、今までは1万人に1人あるいは10万人に1人しか知らなかったかもしれないが、せめて1000人に1人ぐらいは知っている人がいて、そのうちのさらに100分の1の人はJX金属を理解しているような会社に少しでも近づけたい」

――スポンサーになっているサッカーの水戸ホーリーホックがJ1に昇格した。

「非常に嬉しく思う。これまで26年間ずっとJ2にいたホーリーホックが優勝してJ1に上がったというのは、われわれがIPOした年でもあるので、何かの縁があったと考えている」(増田正則)









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