2025年12月17日
鉄鋼新経営 厳しさ増す市場に対応/王子製鉄社長/貴戸信治氏/異形平鋼など新需要開拓/二次加工強化し高付加価値化
――2025年を振り返って。
「25暦年は建設分野で人手不足や設計遅延、資機材価格高騰が重なって鈍化し、中・小規模物件は前年を下回る状況が常態化している。産業分野は全業態で前年を下回った。普通鋼平鋼需要は上期が想定どおり厳しくなり、下期も盛り上がりに欠け、上期に比べて2%減。月間ベースは5万1000トンと前年比3%程度の減少を予想している。新型コロナウイルス感染影響前の19年比では30%減になるものの、市場マインドは徐々に良化しており、全体として減少トレンドからの脱却が見え始めている」
――王子製鉄の販売はどうか。
「25年の販売量は平鋼需要と同様の動きになり、厳しい局面が続いた。群馬工場の稼働率は7割程度で推移している。1ヶ月の生産サイズ数は600を維持したが、1サイズ当たりの生産量が減少したため、生産性や諸原単位が悪化した」
――主原料・鉄スクラップ価格をはじめとする各種コスト状況を。
「鉄スクラップの国内価格は25年において、中国からの安価半製品が東南アジアに流入したことや円高で一時下落した後、海外需要の安定化と円安で値戻りしている。景気低迷による発生鈍化と需要低迷という脆弱な均衡が続いており、今後も一進一退の状況が続きそうだ。物流費が高止まりし、電力・ガスの値上がりによって製造コストは上昇圧力が続いている。10月契約分でトン3000円の値上げを実施したが、その後の鉄スクラップ価格上昇がこの値上げ幅を上回っており、製造コスト上昇分の販価への転嫁は未達である。高品質製品の安定供給を継続するため、現在のコスト状況を需要家に丁寧に説明し、理解を求めていきたい」
――群馬工場で推進している施策は。
「50年カーボンニュートラル(CN)に向けて省エネルギーを追求することでCO2削減に取り組むとともに、異形平鋼や特殊鋼、二次加工などで新規需要を開拓し、将来的な人手不足に備えてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。第2圧延工場の粗列スタンド増設は想定どおりの効果を発揮しており、第2圧延工場の直送率(HR率)は増設前に比べて10%を超える上昇率の実現が可能になっている。ただ、厳しい需要環境下で生産数量が減っていることから、今春から広幅サイズを中心に生産効率の高い第1圧延工場に生産を集約して連操化し、第2圧延工場は小断面平鋼に特化して3シフトから2シフト体制に再切り替えた。その結果、第1圧延工場のHR率が向上し、燃料原単位の削減に寄与している。市場環境を考慮すれば、現行シフトがしばらく続く可能性がある。製鋼の操業パターン最適化による電力原単位の削減も功を奏し、エネルギー原単位トータルでは省エネ法事業者クラス分け評価制度Sクラス相当の水準に到達。またグリーン電力の購入推進によって、25年のCO2削減目標30%は達成のめどが付いた。資機材価格上昇分は完全に吸収できておらず、引き続きコスト改善に努める」
――新規需要の開拓についてはどうか。
「第1圧延工場のオンライン断面形状測定装置は活用中。第1、第2圧延工場ともにオンライン寸法測定を実装し、異形平鋼を含めた寸法精度向上や試圧延時間の短縮を進める。24年に新設した市場開発課では異形平鋼や特殊鋼、二次加工品を一貫効率で提案し、顧客メリットを創出する。二次加工を委託しているグループ会社の王鉄興業と連携して能力増強計画を策定中で、自動化やコストダウンを図り、加工量を増やす。輸出は異形平鋼市場を含めて再リサーチしており、台湾などが主な向け先になってくる」
――DX化も着実に進んでいる。
「100%の使用率を達成したWEB発注システム『e―NET』上で契約残量や在庫量、圧延予定日を開示し、ミルシートのダウンロード機能を拡充したり、顧客からの納入依頼機能を追加するなど要望を聞きながらシステム構築を進めてきた。納入依頼システムの利用率は60%まで浸透した。納入依頼情報に基づく出荷指示の自動化を一部実装し、26年度末での完成を目指す」
――物流効率化や人材育成も重要テーマになる。
「25年8月に製品ヤードの屋外に1600平方㍍の大屋根を設置した。これによって固縛やシート掛けの屋外化や雨天時対応など積み込み時間短縮や熱中症対策、安全環境対策を実現した。積み込みシステム改良とあわせて、荷役時間短縮や安全対策で効果を発揮している。人材育成は製造現場の班長や組長を対象に指導力向上研修を継続しており、スタッフも全課長や係長クラスに階層に応じた上司力や企画立案力の強化などの研修を行った。さらに現場・スタッフ・役員合同の内部統制研修を通じて、コンプライアンスの重要性とともに、上司の役割や責任、職場統率についての理解を深めた。従来業務の重点化や効率化、社横断的なスタッフ生産性向上に取り組む。このほか福利厚生の一環として、コロナ禍以来、7年ぶりに家族見学会を開催した。49世帯・126人が参加し、家族が働く職場を見学することができ、好評だった」
――26年の取り組みは。
「マーケット予想について、建設分野は一部で新規建築計画の中止・遅延が散見されるが、都市部の再開発や半導体工場の新・増設、IRの本格化やインバウンド関連、インフラ整備などの計画は旺盛。自動車生産は全体的に復調しており、需要の広がりに期待している。産業分野全体も米国との関税問題が沈静化し、円安で輸出に追い風が吹いており、政府の経済対策にも期待している。その反面、需要回復の足かせが残っており、大きな改善は見込みにくい状況。平鋼需要は中・小建築案件の減少が著しく、市場全体の回復は時間を要し、25年と比べて横ばいもしくは微増になると予測する。厳しい環境下においても顧客ニーズに正面から向き合い、高品質・短納期・安定生産で製造実力ナンバー1を確固たるものにする」
「鉄スクラップ動向は需要、供給ともに大幅な改善が見込みにくく、為替の変動も加わって、不安定な市況が続くだろう。一方でCNに向けた電炉生産の拡大や海外需要の高まりを受けて、構造的には需要が拡大し、タイト化が進むとみている。製造コストは調達品価格が高止まりし、労務費の増加が続くほか、為替やエネルギー価格の変動が直接的、間接的にコストに影響するため、不確実性を内包している。上昇分は適時、丁寧な説明を心掛け、理解を求めていく」
――26年度から新中期5カ年計画が始動した。
「取り組む施策として、『付加価値向上による新規拡販のさらなる推進/価値に見合った価格の維持』『2030年度CO2排出量の可視化および50%削減』『DXの進化によるスタッフ労働生産性向上』を掲げている。次期中計では大型投資を予定していない。付加価値向上による新規拡販の一環として、二次加工を強化する。穴開けなど顧客段階での工程省略化や、コストダウン・ワンストップ納入に照準を合わせ、定尺品から加工販売への拡大と切り替えに取り組むため、自動化や夜間無人操業なども視野に入れ、ニーズとシーズの両面から検討している。現行10%程度である製品出荷に占める加工込みの比率を高める。また26年度内に高機能材の生産体制を整備し、降伏点0・2%を確保しながら衝撃値も満足させる高規格平鋼を実現してニーズに応える。異形平鋼のアピールも進める。特殊鋼や異形平鋼に対応した品質保証体制を確立するため、熱間裏面疵判定装置の導入を検討するなど、品質保証機器の拡充と品質の見える化を推進する」
「CO2排出量削減については、社内で排出するスコープ1~3のCO2の可視化を25年度内で完了し、次期中計期間内で出荷製品にひも付け可能なシステム化を図る。省エネと省CO2化を推進するにあたってはアルミ灰など安価原料を使用する。アルミ発熱を活用することで電力を低減するほか、カーボン代替品を用いることでカーボンパウダーの使用を減らす。またスラグドアを新設して電気炉密閉操業法を確立するとともに、連続鋳造設備からの直送圧延を再び導入して加熱炉レス操業化に注力する」
「DXは『e―NET』を介した送り状や受領書の電子化を進め、需要家の受領作業の効率化を実現し、二次加工製品の進度情報も展開する。またAI分析の実現に向けて、操業データベースを充実化することで、無駄な入力・確認作業の削減や設備異常の早期発見を可能にし、スタッフを中心とした労働生産性の向上を図る」
「これまで実行が難しかった課題に正面から取り組むには、従来と同じ考え方では達成できない。一人一人が失敗を恐れず、何をすべきかを考え、実行してこそ、初めて達成が可能になる。『Swing the Bat』(自らバッターボックスに入り、バットを振っていく)をスローガンに社員全員が挑戦を継続し、『真の製造実力世界一の電炉メーカー』へ着実に歩みを進める」(濱坂浩司)
「25暦年は建設分野で人手不足や設計遅延、資機材価格高騰が重なって鈍化し、中・小規模物件は前年を下回る状況が常態化している。産業分野は全業態で前年を下回った。普通鋼平鋼需要は上期が想定どおり厳しくなり、下期も盛り上がりに欠け、上期に比べて2%減。月間ベースは5万1000トンと前年比3%程度の減少を予想している。新型コロナウイルス感染影響前の19年比では30%減になるものの、市場マインドは徐々に良化しており、全体として減少トレンドからの脱却が見え始めている」
――王子製鉄の販売はどうか。
「25年の販売量は平鋼需要と同様の動きになり、厳しい局面が続いた。群馬工場の稼働率は7割程度で推移している。1ヶ月の生産サイズ数は600を維持したが、1サイズ当たりの生産量が減少したため、生産性や諸原単位が悪化した」
――主原料・鉄スクラップ価格をはじめとする各種コスト状況を。
「鉄スクラップの国内価格は25年において、中国からの安価半製品が東南アジアに流入したことや円高で一時下落した後、海外需要の安定化と円安で値戻りしている。景気低迷による発生鈍化と需要低迷という脆弱な均衡が続いており、今後も一進一退の状況が続きそうだ。物流費が高止まりし、電力・ガスの値上がりによって製造コストは上昇圧力が続いている。10月契約分でトン3000円の値上げを実施したが、その後の鉄スクラップ価格上昇がこの値上げ幅を上回っており、製造コスト上昇分の販価への転嫁は未達である。高品質製品の安定供給を継続するため、現在のコスト状況を需要家に丁寧に説明し、理解を求めていきたい」
――群馬工場で推進している施策は。
「50年カーボンニュートラル(CN)に向けて省エネルギーを追求することでCO2削減に取り組むとともに、異形平鋼や特殊鋼、二次加工などで新規需要を開拓し、将来的な人手不足に備えてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。第2圧延工場の粗列スタンド増設は想定どおりの効果を発揮しており、第2圧延工場の直送率(HR率)は増設前に比べて10%を超える上昇率の実現が可能になっている。ただ、厳しい需要環境下で生産数量が減っていることから、今春から広幅サイズを中心に生産効率の高い第1圧延工場に生産を集約して連操化し、第2圧延工場は小断面平鋼に特化して3シフトから2シフト体制に再切り替えた。その結果、第1圧延工場のHR率が向上し、燃料原単位の削減に寄与している。市場環境を考慮すれば、現行シフトがしばらく続く可能性がある。製鋼の操業パターン最適化による電力原単位の削減も功を奏し、エネルギー原単位トータルでは省エネ法事業者クラス分け評価制度Sクラス相当の水準に到達。またグリーン電力の購入推進によって、25年のCO2削減目標30%は達成のめどが付いた。資機材価格上昇分は完全に吸収できておらず、引き続きコスト改善に努める」
――新規需要の開拓についてはどうか。「第1圧延工場のオンライン断面形状測定装置は活用中。第1、第2圧延工場ともにオンライン寸法測定を実装し、異形平鋼を含めた寸法精度向上や試圧延時間の短縮を進める。24年に新設した市場開発課では異形平鋼や特殊鋼、二次加工品を一貫効率で提案し、顧客メリットを創出する。二次加工を委託しているグループ会社の王鉄興業と連携して能力増強計画を策定中で、自動化やコストダウンを図り、加工量を増やす。輸出は異形平鋼市場を含めて再リサーチしており、台湾などが主な向け先になってくる」
――DX化も着実に進んでいる。
「100%の使用率を達成したWEB発注システム『e―NET』上で契約残量や在庫量、圧延予定日を開示し、ミルシートのダウンロード機能を拡充したり、顧客からの納入依頼機能を追加するなど要望を聞きながらシステム構築を進めてきた。納入依頼システムの利用率は60%まで浸透した。納入依頼情報に基づく出荷指示の自動化を一部実装し、26年度末での完成を目指す」
――物流効率化や人材育成も重要テーマになる。
「25年8月に製品ヤードの屋外に1600平方㍍の大屋根を設置した。これによって固縛やシート掛けの屋外化や雨天時対応など積み込み時間短縮や熱中症対策、安全環境対策を実現した。積み込みシステム改良とあわせて、荷役時間短縮や安全対策で効果を発揮している。人材育成は製造現場の班長や組長を対象に指導力向上研修を継続しており、スタッフも全課長や係長クラスに階層に応じた上司力や企画立案力の強化などの研修を行った。さらに現場・スタッフ・役員合同の内部統制研修を通じて、コンプライアンスの重要性とともに、上司の役割や責任、職場統率についての理解を深めた。従来業務の重点化や効率化、社横断的なスタッフ生産性向上に取り組む。このほか福利厚生の一環として、コロナ禍以来、7年ぶりに家族見学会を開催した。49世帯・126人が参加し、家族が働く職場を見学することができ、好評だった」
――26年の取り組みは。
「マーケット予想について、建設分野は一部で新規建築計画の中止・遅延が散見されるが、都市部の再開発や半導体工場の新・増設、IRの本格化やインバウンド関連、インフラ整備などの計画は旺盛。自動車生産は全体的に復調しており、需要の広がりに期待している。産業分野全体も米国との関税問題が沈静化し、円安で輸出に追い風が吹いており、政府の経済対策にも期待している。その反面、需要回復の足かせが残っており、大きな改善は見込みにくい状況。平鋼需要は中・小建築案件の減少が著しく、市場全体の回復は時間を要し、25年と比べて横ばいもしくは微増になると予測する。厳しい環境下においても顧客ニーズに正面から向き合い、高品質・短納期・安定生産で製造実力ナンバー1を確固たるものにする」
「鉄スクラップ動向は需要、供給ともに大幅な改善が見込みにくく、為替の変動も加わって、不安定な市況が続くだろう。一方でCNに向けた電炉生産の拡大や海外需要の高まりを受けて、構造的には需要が拡大し、タイト化が進むとみている。製造コストは調達品価格が高止まりし、労務費の増加が続くほか、為替やエネルギー価格の変動が直接的、間接的にコストに影響するため、不確実性を内包している。上昇分は適時、丁寧な説明を心掛け、理解を求めていく」
――26年度から新中期5カ年計画が始動した。「取り組む施策として、『付加価値向上による新規拡販のさらなる推進/価値に見合った価格の維持』『2030年度CO2排出量の可視化および50%削減』『DXの進化によるスタッフ労働生産性向上』を掲げている。次期中計では大型投資を予定していない。付加価値向上による新規拡販の一環として、二次加工を強化する。穴開けなど顧客段階での工程省略化や、コストダウン・ワンストップ納入に照準を合わせ、定尺品から加工販売への拡大と切り替えに取り組むため、自動化や夜間無人操業なども視野に入れ、ニーズとシーズの両面から検討している。現行10%程度である製品出荷に占める加工込みの比率を高める。また26年度内に高機能材の生産体制を整備し、降伏点0・2%を確保しながら衝撃値も満足させる高規格平鋼を実現してニーズに応える。異形平鋼のアピールも進める。特殊鋼や異形平鋼に対応した品質保証体制を確立するため、熱間裏面疵判定装置の導入を検討するなど、品質保証機器の拡充と品質の見える化を推進する」
「CO2排出量削減については、社内で排出するスコープ1~3のCO2の可視化を25年度内で完了し、次期中計期間内で出荷製品にひも付け可能なシステム化を図る。省エネと省CO2化を推進するにあたってはアルミ灰など安価原料を使用する。アルミ発熱を活用することで電力を低減するほか、カーボン代替品を用いることでカーボンパウダーの使用を減らす。またスラグドアを新設して電気炉密閉操業法を確立するとともに、連続鋳造設備からの直送圧延を再び導入して加熱炉レス操業化に注力する」
「DXは『e―NET』を介した送り状や受領書の電子化を進め、需要家の受領作業の効率化を実現し、二次加工製品の進度情報も展開する。またAI分析の実現に向けて、操業データベースを充実化することで、無駄な入力・確認作業の削減や設備異常の早期発見を可能にし、スタッフを中心とした労働生産性の向上を図る」
「これまで実行が難しかった課題に正面から取り組むには、従来と同じ考え方では達成できない。一人一人が失敗を恐れず、何をすべきかを考え、実行してこそ、初めて達成が可能になる。『Swing the Bat』(自らバッターボックスに入り、バットを振っていく)をスローガンに社員全員が挑戦を継続し、『真の製造実力世界一の電炉メーカー』へ着実に歩みを進める」(濱坂浩司)














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