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検証
危機から2年 新生・泰和商事の“いま”
拡大路線、評価損が直撃

日刊産業新聞 10/09/09
 リーマン・ショックに端を発した金融危機から間もなく2年がたとうとしているが、非鉄スクラップ輸出業界にはいまだ各所に傷跡が残る。関東の大手スクラップ商社、泰和商事(株)(本社=東京・八丁堀、中上鉄男社長)は世界経済に逆風が吹き荒れる中で経営危機に直面し、昨年10月に会社を分割。新設分割会社がスクラップ事業と社名を継承し、新生泰和商事として一歩を踏み出した。同社の2年間と、新会社のいまを検証・リポートする。

 ◇予想を超える金融危機の打撃

 2008年9月までの泰和商事の月間取扱量は1万トンを超えていた。08年3月期決算は、売上高156億円、経常利益2億1000万円を計上。08年9月中間期は売上高70億円弱、経常利益1億円強と、前年業績を若干下回るペースながら順調に推移していた。

 しかし9月末のリーマン・ショックを境に状況が一変した。金属相場の急落により、在庫評価額が10月のわずか1カ月で3分の1に縮小。大規模な評価差損により、積み上げた黒字が一気に赤字転落した。

 また、市況暴落や中国の金融引き締めによる信用供与の大幅な縮小を背景に中国筋の買いが止まり、10月から09年2月の取扱量は4000トン以下に急減。赤字在庫の換金もできなかった。2月以降は単月黒字化したが取扱量は5000―6000トンにとどまり、抜本的な会社再建策を講じるため金融機関と話し合いに入った。

 ◇会社分割を決定

 08年秋時点で同社の借入額は約40億円であり、内訳は中国の大豊工場(江蘇省)の設備投資を中心に借り入れた長期借入金と短期借入金がほぼ半分ずつ。債権者は金融機関のみで、取引先への債務はなかった。東京都中小企業再生支援協議会などに相談した結果、事業再建するためには会社分割しかないとの結論に至った。

 そして昨年10月23日の金曜日、借入先の大手都市銀行が1億5000万円の動産担保に対する仮処分を東京地裁に申し立て、東京、千葉など4営業所の在庫が仮差し押さえとなった。他行にも連鎖すれば事業停止を免れないと判断して会社分割を決定。土日で必要書類を作成し、26日の月曜日には分割手続きを終え、金融機関に説明するとともに理解を求めた。仮差し押さえは後に解除された。

 こうして事業・設備・在庫・人員を引き継いだ新設分割会社、泰和商事(株)(資本金1000万円、中上鉄男社長)が発足。従来の泰和商事は(株)八十八商会(資本金6800万円)に改名し、5月に自己破産申請すると、6月に破産手続き開始が決定した。

 ◇取扱量優先の薄利商売のリスク

 中上社長は、「40億円の借入額は、当時の経営規模からすれば極端に多すぎる額ではなかったと思う。ただ、あのような世界的な経済危機は誰もが予測できなかった」と振り返る。

 泰和商事が経営危機に陥った要因はどこにあるのか。「拡大路線を敷く中で取扱量を追求し、在庫が過大になったことで市況急落時の評価損が大きくなった。在庫の効率運用、資金の効率運用、与信管理など経営管理面にも問題があった」(中上社長)。

 各社が規模を優先することで過当競争が起こり、輸出スクラップ市場は「薄利多売」の商売が恒常化した。昨年以降はスクラップ発生の低迷が続き、「薄利少売」という厳しい環境に置かれている。こうした状況で規模の拡大を中心に経営することのリスクの高さを今回の事例は示している。

 ◇新たな一歩を踏み出した泰和商事

 泰和商事は事業基盤は旧会社から事業を引き継ぎ、足元の月間取扱量は7000―8000トンに。中上社長は「与信問題があっても取引を継続してくれた顧客に感謝している。無理して量を追わず堅実な経営を続けていきたい」と話し、従来の経営スタイルから変化が見られる。

 東北から沖縄まで展開する国内事業9拠点(提携先含む)はそれぞれ採算ラインを維持しており、集約はいまのところ考えていない。一方、中国拠点は上海工場の操業を停止し、大豊工場に集約する方針だ。

 旧泰和商事から引き継いだ設備・在庫などの評価額は十数億円になる見通しで、これを分割で支払う返済計画を、債権者の7銀行と話し合っている。10年9月決算は売上高が70億―80億円で経常黒字となる見込み。

 同社は2年前まで、ウェブサイトにスクラップの買い取り相場情報を掲示していた。金融危機を境に閉鎖してきたが、顧客の要望もあって再開する。適正な価格水準を守りながら、「ユーザーが取引しやすい態勢を整えていきたい」(中上社長)と気持ちを新たにする。

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