2016年4月15日

【第3回】非鉄戦略 課題と展望 ■アルミ圧延品 付加価値創出が重要 新たな発想で差別化

どうすれば需要家が対価を払うような「付加価値」を生み出せるのか――。圧延を中心とする日本のアルミ業界は長くこの課題に直面してきた。圧延業界の歴史はその問いの答えを見いだそうとメーカー各社が模索を続けてきた歩みだともいえる。ある企業は川下の加工品事業の強化に動き、ある企業はスケールメリットの追求に動いた。だが利益面から見れば、いずれもまだ十分な成果を上げ切れてはいない。これまでの延長線上ではない発想や戦略が必要だ。

国内アルミ圧延5社の2014年度の売上高営業利益率は3―4%台。極端に低いとまでは言えないものの、鉄鋼(単圧メーカーを含む)や化学メーカーと比較すると見劣りする。もともと圧延品の販売価格はLMEに基づく地金価格に圧延メーカーの利益となる加工賃(ロールマージン)を加えて算出しており、地金部分の値段が誰にでも分かりやすい構造。さらに原料の地金を顧客から支給されることも多いため、利益を生みにくい構造になっているのは確かだ。一方で顧客が対価を支払うような付加価値を十分に生み出せていない面があることも否めない。

それでも缶材で顕著なように、日本の圧延メーカーは国内需要家と深い関係を築いているため、00年代初頭ごろまでは業績の大幅な落ち込みを心配しなくてもすんだ。だが少子高齢化によって国内市場の縮小が進行。近年の圧延品の国内生産は年間200万トン前後で推移している。過去最高だった96年度(約250万トン)から比べると2割ほどの量が「蒸発」した格好だ。

缶や自動車を中心に、一部の需要家は成長を求めて海外に生産拠点を移しているが、その海外では価値の高い製品分野では欧米企業が強く、汎用品の分野では中国メーカーが最新鋭設備の導入と大量生産で存在感を増している。圧延品の場合、安価な中国材が東南アジアなど世界中の市場に流入している問題も加わる。国内にとどまることも、海外に打って出ることも困難を増しているのが現状だ。 国内の同業他社との、あるいは欧米勢や中国勢との競争で生き抜くためには、相手以上の付加価値を実現して差別化を図る必要がある。日本の圧延各社もこの問題をめぐって知恵を絞り、具体的な手を打ってきたが、めざましい成果を挙げたとは言い難い。

例えば川下展開の強化。軽圧品という「素材」に加工を加えることで付加価値をつけようという戦略だ。ただ問題なのは、加工分野でも他社にはできない付加価値をつけるのが容易ではない点。このため過去にディスク材などで見られたように、各社が同時期に似た設備を導入して加工を手掛けることで価格の下落を招き、結果的に事業から撤退する社が相次ぐ事態が起きがちだ。

あるいは再編・統合による規模拡大。工場ごとに品種を集約することでコスト競争力を高めることができ、重複を省いて浮いた人員を従来できなかったような独自技術や製品の研究など、付加価値の創出に充てることも可能になる。海外で工場建設や他社買収などに投資をし、現地の成長を取り込むことも可能だ。実際、そうした意図のもとに13年には旧古河スカイと旧住友軽金属工業が統合してUACJが誕生した。

ただ統合によって生まれた付加価値が、企業の利益に結びついたかという意味では、同社の試みはまだ道半ば。14年度のUACJの売上高営業利益率は約4%で、他社と比べて特別高いわけではない。統合から約2年、国内の生産再編も完了しておらず、タイに建設した板工場の収益貢献もこれからの段階で判断するのは早計だが、少なくとも現状では1プラス1が3や4になってはいない。

製錬など川上分野に進出してビジネスモデルでの差別化を図るべきではという意見も根強くあった。ただ多額の資金が必要で現実味が小さい上、近年のように中国の増産でアルミ地金価格が下落し、米国や豪州などで製錬所の縮小・撤退が相次いでいる状況ではますますメリットが見いだしにくくなっている。

とはいえ何もしなければ現状維持もおぼつかないのは事実。例えば米アルコアのように、チタンなどアルミ以外の分野を扱うことで総合提案力を高め、付加価値の創出につなげる方法も理論的にはある。日本の圧延メーカーには従来とは不連続の施策と実行力が求められている。