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『顧客ハードルを越えろ』 日新製鋼の戦略 <1>

総論/ニッチ・トップを走れ

日刊産業新聞 2007/7/23

  高炉を止めろ――。

  鉄鋼マーケットが低迷し、日本全体で設備削減が必要との意識が高まっていた、いまから4年前。日新製鋼・呉製鉄所の高炉改修計画が具体化した。過剰能力問題の議論が盛んになされる中、高炉の存続は外部からの“風圧”を受け、日新は厳しい決断を迫られたが、改修計画は実行に移された。


呉製鉄所の高炉
  2003年11月、呉の第2高炉は資金的な問題などもあり1年間の延期を経て改修工事を完了。炉容積は1650立方メートルから2080立方メートルに拡大し、95年にリプレースした第1高炉(2650立方メートル)との新鋭高炉2基態勢で新たなスタートを切った。折しも鉄鋼マーケットが好転し、結果として高炉2基はその能力をいかんなく発揮することとなった。

  「取り巻く環境は厳しかったが、高炉の改修にあたり迷いはなかった。当社の手がけるさまざまな商品の素材を、自社でつくるより安く、安定的に、外部から確保できる保証はどこにもなかったからだ」。経営幹部は当時を振り返りこう語る。

  量を追うためではない。

  ニッチ分野でトップを走る――。

  そのための素材を競争力ある形でどうつくり込むかは、日新の生命線にかかわる部分だ。加えてニッチ・トップ商品だけでは企業として生きてはいけない。量を追わないとはいえ、やはり一定の規模は必要となる。一定の規模を維持しつつ、ニッチ分野でトップ商品をとりそろえていく。日新の生きる道はそこにある。

■市場に聞け

  呉と周南製鋼所の両鉄源で年間粗鋼MAX400万トン、これは変わらない。その中で、どういうアイテムを選択するかがポイントになる。

  マーケットに聞け――。答えはそこにある。

  「マーケットから物事を考え、商品化していく。顧客の求めるものを把握し、製造部門にフィードバックする。それにより自ずと品種構成が決まってくる。マーケットの方向から物事を決める、それが日新のあり様だ」(経営幹部)。

  そのために営業部隊、商品開発部隊の担う役割は大きい。顧客の懐に深く入り込み、的確にニーズをつかむ必要がある。しかも顧客ニーズの移り変わりは激しい。「富山の置き薬」よろしく、顧客に頻繁に顔を出し、ニーズを汲み取り実現する、地道なスタイルを継続していく必要がある。

  またそれを受ける製造現場に迅速性、柔軟性がなければならない。「人と設備と技術力」。その土台がしっかりしていてはじめてニッチメジャーは成立する。製造部門は今後、いわゆる団塊世代が定年退職し、大幅な人の入れ替えを生じる。人材育成・技能伝承が重要なポイントになる。それが商品開発力にも影響してくる。合理化時代に採用を控えたことによる年齢構成のアンバランス、これをいかに解消していくかも課題といえる。

■開拓精神ありき

  日新はニッチメジャーをめざすうえで、ステンレス、特殊鋼、特殊めっきを戦略商品と位置づけ、拡充に努めてきた。前期末で全販売量に占める戦略商品のウエートは41%に達したが、戦略商品で100%埋めることはできない。逆に現状6割は汎用品であるわけで、建材向けの薄板が多く含まれる。国内建材分野は先行きパイが縮小傾向にあるとはいえ、その中で活路を見いだしていかなければならない。いまある建材商品に新たな機能を付加する、建材の中でも独自商品を生み出すなどの取り組みが不可欠だ。

  これはグループ企業にもいえることだ。日新のグループ会社は建材周りが多い。06年度を起点とする次期中期3カ年計画ではグループ一貫利益の最大化が大きなテーマとなるが、その意味でもグループの加工度をあげ、商品の高度化を図る努力を進める必要がある。

  また戦略商品といえどもすべてが高収益、高付加価値というわけではない。「ステンレス、特殊鋼、特殊めっきを別々に考えるのではなく、例えばステンレスに表面被覆するなど複合で考えるのが真の意味での戦略商品化。複合効果をもたらす商品を増やしていくことが大切だ」とある幹部はいう。複合化すればするほど、より戦略商品化できる。つまりそれぞれの製品のバックにある技術の“掛け算”だと強調する。

  一定の規模を維持しつつニッチ・トップを走っていくのは容易なことではない。日新は08年に創業100周年、09年に発足50周年を迎えるが、その歴史の中で培われた開拓精神、改善精神。それを維持できるかが重要だ。どんな技術もいずれは陳腐化する。「常に他社より、半歩でも一歩でも前へ」という精神をなくして、守りに入れば、会社の勢いは衰える。国内、そしてアジア、さらに世界でニッチ・トップをめざすには、攻めの姿勢を絶えずもち続けなければならない。シリーズのタイトル「顧客ハードルを越えろ」は、絶えず顧客と向かい合い、顧客ニーズという「ハードル」を越えていく開拓精神の重要性を示している。