トップ > 記事特集

縮小する鉛業界 (下)原料編

深刻な空洞化/1年で激変 輸出超過に

日刊産業新聞 2009年08月18日
 

【1年で需給逆転】

 今月初め、ペルーの鉛・亜鉛最大手会社のドゥ・ラン社が会社更生法適用を申請した。昨年の相場急落で資金繰りが悪化し、今年3月下旬から鉱石が購入できず製錬所を全面停止させていたが、4カ月余を経てついに倒産に至ったのである。

 このニュースが日本であまり取り沙汰されなかったのは、鉛の純輸出国に転じ、ペルーからの輸入依存から脱していたからだろうか。

 08年、日本のペルーからの鉛輸入が1万4000トンに上り、全体の56%を占める最大輸入先となっていた。しかし今年は1―6月に3万3700トンの鉛が輸出され、対中国だけで昨年のペルーからの輸入量を上回る1万6000トンが輸出された。ペルーからの鉛輸入は5月以降途絶しており、市中にドゥ・ラン社の供給不安を心配する声も聞かれなかった。

 国内需給が緩んだ理由は、需要の縮小に尽きる。鉛用途の約85%は自動車用バッテリーだが、昨秋から新車向け出荷がストップ。1―3月は鉛重量ベースで前年同期比49%減という、前例のない落ち込みとなった。製錬メーカーも大規模な減産体制を敷いたが、それでも過剰となった玉が輸出に回された。

 この1年で、日本の鉛需給構造は大きく変化したのである。

【廃バッテリー流出】

 輸出が増えているのは地金だけではない。製精錬の主力原料となる使用済み廃バッテリーの輸出も倍増している。08年は月平均で2819トン(液入り)が輸出されたが、今年に入って数量が増え、4、5月は約5700トンまで増加した。

 輸出先の97%は韓国。同国の精錬メーカーが高値オファーを提示しているため、国外流出を許しているのが現状だ。国内の二次精錬筋は有効な輸出抑制策も見当たらず、慢性的に原料が不足し、減産を強いられている。この問題は、地金の供給過剰状況が見えにくくしているのだろう。

 中国やペルーからの地金輸入が途絶えた今、いずれ需要が戻った将来に備えて、国内生産筋の供給責任は高まっている。しかし、原料確保すら保証されない二次精錬メーカーなどにとっては、後押しがないまま逆風は増すばかりだ。

 6月の韓国向けの廃バッテリー輸出は4738トン。製品輸入の4872トン(前月比122%増)と輸出入がほぼ均衡した。この輸出した廃バッテリーが、韓国メーカーに増産の余地を与え、製品となって戻ってきているとの見方もできる。

【今月から再び減産】

 新車用バッテリーの極度の減産が緩和され、補修用の夏季需要を見込んだ在庫補充ニーズも高まったことから、バッテリーメーカーは6月から減産体制を解消した。

 経済産業省の自動車用鉛バッテリー(四輪車用)の生産統計によると、6月は鉛重量ベースで1万3606トン。前年同月と比べると13%減だが、53%減だった2、3月からは減少幅を大幅圧縮した。余剰玉を輸出していたある製錬メーカーは「輸出も上半期で終わるだろう」と予測していた。

 しかし、長梅雨と冷夏の影響で、補修用バッテリー需要の出足は鈍い。「1000円高速道路で車の長距離移動が増えれば、バッテリー交換も増えるだろう」と挽回を期待する声もあるが、やはり夏季需要の思惑は外れたと言わざるを得ない。

 ある納入筋によると「8月からバッテリーメーカーの購入がガクッと落ちた」ことを明かす。操業日数の関係もあるが、バッテリーの通常生産は2カ月で終わり、再び生産調整に入った。バッテリーメーカーの買い気薄で、原料流出の機運が再来しそうな気配だ。

 「日本の鉛はもうダメだ」と口にする業界関係者もある。為すすべなく縮小を余儀なくされている今の鉛市場だが、原料から製品メーカーまでが業界を挙げて対策を講じなければ、歯止めが利きそうにない。そして、その対策の第一歩は、廃バッテリーの海外流出を防ぐことだろう。

・ 記事は、記事データベース検索サービス(有料)でも閲覧できます → 記事検索