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世界鉄鋼地図に地殻変動

日刊産業新聞 2002/2/21

 過去5年間における世界鉄鋼国別生産推移(別表)をみると、大きな地殻変動が起こっていることが分かる。中国をはじめ、後発または中進製鉄国が大きく伸びているのに対し、英国・米国など先進国が低迷、これに続く、日本・ドイツなども低迷している。

▼先進国低迷・中進国が躍進

 IISI(国際鉄鋼協会)のデータによる世界99カ国の粗鋼生産は1997年7億9890万トンであったが、2001年には8億3970万トンへ。この間408万トン、5・1%の着実な増加を示した。5年間トップの中国から30位のスロバキアまで主要30カ国の全体に占める割合は94・1%(97年は93・9%)。トップ10カ国のシェアは5億9610万トン、71・0%(97年5億5000万トン、68・8%)で、上位国への収れん傾向がうかがえる。

世界の粗鋼生産(主要30カ国) 単位100万トン
No  
97年
98年
99年
00年
01年
97/2001
1 中国
108.9
114.6
124.0
127.2
143.3
131.6%
2 日本
104.5
93.5
94.2
106.4
102.9
98.5%
3 米国
98.5
98.7
97.4
101.8
90.1
91.5%
4 ロシア
48.5
43.8
51.5
59.1
57.5
118.6%
5 ドイツ
45.0
44.1
42.1
46.4
44.8
99.6%
6 韓国
42.6
39.9
41.0
43.1
43.9
103.1%
7 ウクライナ
25.6
24.4
27.5
31.4
33.1
129.3%
8 インド
24.4
23.5
24.3
26.9
27.3
111.9%
9 ブラジル
26.2
25.8
25.0
27.9
26.7
101.9%
10 イタリア
25.8
25.7
24.7
26.7
26.5
102.7%
11 フランス
19.8
20.1
20.2
21.0
19.4
98.0%
12 台湾
16.0
16.9
15.4
16.9
17.1
106.9%
13 スペイン
13.7
14.8
14.9
15.8
16.7
121.9%
14 カナダ
15.6
15.9
16.2
16.6
15.1
96.8%
15 トルコ
14.5
14.1
14.3
14.3
15.1
104.1%
16 英国
18.5
17.3
16.3
15.2
13.7
74.1%
17 メキシコ
14.2
14.2
15.3
15.7
13.5
95.1%
18 ベルギー
10.7
11.4
10.9
11.6
10.8
100.9%
19 南ア
8.3
8.0
7.9
8.5
8.8
106.0%
20 ポーランド
11.6
9.9
8.8
10.5
8.8
75.9%
21 イラン
6.3
5.6
6.1
6.6
6.9
109.5%
22 豪州
8.8
8.9
8.2
7.1
6.9
78.4%
23 チェコ
6.8
6.5
5.6
6.2
6.3
92.6%
24 オランダ
6.6
6.4
6.1
5.7
6.0
90.9%
25 オーストリア
5.2
5.3
5.2
5.7
5.9
113.5%
26 スウェーデン
5.1
5.2
5.1
5.2
5.5
107.8%
27 ルーマニア
6.7
6.4
4.4
4.8
4.9
73.1%
28 カザフスタン
3.9
3.1
4.1
4.8
4.7
120.5%
29 アルゼンチン
4.2
4.2
3.8
4.5
4.1
97.6%
30 スロバキア
3.8
3.4
3.6
3.7
4.0
105.3%
  30カ国計
750.3
731.6
744.1
797.3
790.3
105.3%
  その他
48.6
45.6
44.2
49.9
49.4
101.6%
  世界計 (99)
798.9
777.2
788.3
847.2
839.7
105.1%
  EU15
159.9
159.9
155.1
163.3
158.8
99.3%
順位は2001年データによる
 過去5年間、世界全体の伸び率を上回る増加を示したのは、30カ国の内、7カ国。中国(31・6%増)、ロシア(18・6%増)、ウクライナ(29・3%増)、インド(11・9%増)、スペイン(21・9%増)、オーストリア(13・5%増)、カザフスタン(20・5%増)――というメンバー。

 ロシア、ウクライナ、カザフスタンは、もともと旧ソ連邦の重要構成国として、世界最大の鉄鋼生産国の実績があり、旧ソ連として大体1億6000万トン程度の粗鋼生産は行っていた。90年代初頭のソ連邦解体とともに、国内需要の脆弱な構造が露呈し、壊滅的打撃を受け、一時は、アジアや米国に超安値輸出を強行し、ひんしゅくを買っていた。ここへきて再び生産面で、回復基調をたどっているわけで、輸出市場でのビヘイビアを注視する必要があろう。

 インドは、中国の急成長ぶりに刺激を受け、猛ダッシュをかけようとしている。インド国内には直接貢献していないが、イスパット・グループの世界的活躍も国内メーカー関係者には刺激となっている可能性がある。

 スペインはかつて「鉄鋼国」というイメージはなかったが、アルベド(ルクセンブルク)・アセラリア・グループの急伸長と軌を一に伸びてきた。来月には仏ユジノールと統合し、「アルセロール」として、粗鋼生産4500万トンの最大メーカーの一翼を担う国の一つとなる。

 オーストリアは、フェスト・アルピーネが元気であり、一方、ドイツが停滞しているため、間隙を縫って伸びてきているという印象だ。

 次に、過去5年間、5%以上減少した国は7カ国。米国(8・5%減)、英国(25・9%減)、ポーランド(24・1%減)、豪州(21・6%減)、チェコ(7・4%減)、オランダ(9・1%減)ルーマニア(26・9%減)――いずれも鉄鋼先進国である。

 米国は構造改革の立ち遅れ、英国以下各国は内需不振、輸出競争力の不足に尽きるといえよう。

 このほか、堅調推移(微増横ばい)しているのは、(1)韓国(2)ブラジル(3)イタリア(4)台湾、トルコ(5)ベルギー(6)南ア(7)イラン(8)スウェーデン(9)スロバキア――というところだが、トルコ、イランの堅調はやや意外であろう。

 逆に、停滞基調(微減横ばい)なのは、(1)日本(2)ドイツ(3)フランス(4)カナダ(5)メキシコ(6)アルゼンチン――の6カ国。内需低迷、輸出先の米国の規制強化、国内構造改革の対応遅れなど、共通複合要因が指摘される。

 総じて、英米など鉄鋼先進国の沈滞、日独などこれに続くグループの停滞、後発・中進製鉄国の躍進が、このわずか5年間の推移から見ても読み取れるのである。