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東工取・金市場開設20周年

金の価値見直し機運

日刊産業新聞 2002/3/25

 東京工業品取引所に金市場が開設されてから、先週23日で20周年を迎えた。この間、世界の3大金市場の一つに成長した東工取だが、金の価値は長期下降トレンドの中でかつての魅力を失っていた。しかし、米国同時多発テロや4月のペイオフ(定期預金など払戻保証額を元本とその利息までとする措置)解禁を控え金の価値を見直す動きが強まっている。リスクヘッジや公正な価格形成の機能を果たしてきた東工取の役割が一段と重要性を増している。

 ▼世界3大市場へ

 東工取に金の先物市場が開設されたのは82年3月23日。金の輸出入が完全に自由化されてから4年後のことだった。この自由化によって、日本国内で金の流通量が飛躍的に拡大。国民にとって身近な商品として浸透し、金に対する投資意欲が高まりつつある時期だった。

 ただ、金の年間出来高は当時約8万枚。国際価格の指標となるニューヨーク商品取引所(NYMEX)との単純な出来高ベースで比較すると、その比率は1対99と極東の一金市場としての存在でしかなかった。さらに、円ベースでの取引は、ドル中心の金市場にとっては使い勝手の悪さを指摘する声もあった。

 それが20年後、年間出来高は約979万枚へ、当時から122倍の規模へ拡大し、NYMEXとの比較でも59対41と逆転。世界の3大金市場の一つとして評価されるまでに成長したことは、東工取がリスクヘッジや公正な価格形成の場としての機能を果たしてきた結果と言える。

 ▼価格半値以下に

 ただ、出来高の拡大とは対照的に、この20年間の金価格は下落の一途をたどった。東工取の取引の中心である先限の初値は2641円。この年に瞬間的に4326円に上昇したが、2年後の84年の最高値は3203円と1000円以上も低い水準だった。さらに86年には2000円の大台を割り込み、その後の円相場の急騰や欧州各国の中央銀行の金準備売却懸念、鉱山会社のヘッジ売りなどから、99年には一時836円に下落。23日時点でも1245円と、上場当初から半値以下の水準にある。

 ▼金ブーム再燃

 長期下降トレンドの中で金の魅力が失われつつあったが、上場開始から20周年を迎えた今年、金市場の環境に変化が起きている。

 昨年9月に発生した米国での同時多発テロを契機に「有事の金買い」として金の価値を見直す動きが世界的に強まっている。さらに国内では、円安傾向や4月のペイオフ解禁を控え、定期預金の満期を迎えた個人投資家の資金が金市場へ向かっている。

 この影響で、国内製錬メーカーの個人投資家向け金地金は、2月が前年同月比で4―5倍の販売量を記録した。3月に入ると円安傾向が一服したことで若干、売れ行きが鈍っているものの、前年同月比ではまだ高い水準で推移している。

 東工取の金価格も回復傾向にある。99年の836円から00年908円、01年947円と徐々に下値を切り上げ、さらに今年に入ると1000円の大台を回復して推移している。

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 極東の一金市場から世界の3大金市場の一つに成長した東工取。節目の年を迎え、世界的な価値の見直し機運という追い風の中で、リスクヘッジや公正な価格形成の場を提供するという役割が一段と重要性を増している。