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構造改革に挑む/<4>総論 世界の鉄鋼再編(3)

どうなる米国鉄鋼業

日刊産業新聞 2002/4/ 4

 米国の高炉一貫メーカーが抱える最大の問題は、退職者に対する年金、健康医療費の積み立て不足。まだ余力があったころから受け継いだ、いわゆるレガシーコスト(L・C)だ。鉄鋼労働者15万人に対して60万人の退職者と扶養家族がのしかかる。L・Cは総額100億ドルを超え、1トン当たりの負担は40ドルとも50ドルともいわれる。最大手のUSスチール(USS)で現役1人に対して5人だが、受給者の比率は合理化や、リストラをすればするほど大きくなる。

 しかし、長年の懸案だったL・Cの打開に、わずかだが曙光が見えてきた。LTVが事業継続を断念、資産売却する過程で、買収したWLロスは、L・Cを引き継がなかった。新会社は、870万トンの能力に対し、400万トンを目標に掲げており、結果的に設備廃棄にも結びつくとみられている。

 ベスレヘム・スチールはL・Cの政府支援が受けられないとみると、USスチール(USS)との合併をあきらめ、合弁相手を探し始めた。ブラジルのCSNとの間で、スパローズ・ポイント製鉄所を運営する合弁事業を設立する交渉を進めている。L・Cはベスレヘムに残し、合弁事業とは切り離す計画だ。バーンズ・ハーバーでも複数のグループとの間で合弁の交渉中だという。

 ベスレヘムは、L・Cをまかなうには政府の支援が必要だというが、政府が引き受ける保証はない。年金は制度として、政府が引き継ぐ仕組みがあるものの、健康医療費は受け皿がない。結局、L・Cは踏み倒すしかないという見方もある。

 従来、高炉大手は高コスト体質をよそに、不振の原因を鋼材の輸入増大に転嫁して問題を先送りしてきた。しかし、問題は輸入を防げば解決するわけではない。

 直近では、98年以来AD提訴を乱発してきたものの、組合を持たず、L・Cもない電炉が、高炉領域を侵食する形で躍進する追い風になった。今回の輸入制限は電炉トップのニューコアが最大の受益者とみられている。

 景気後退の2001年、USSは営業赤字に転じたが、ニューコアは利益を確保した。昨年、ニューコアは粗鋼生産1231万ネットトン(9・3%増)と、米国内生産で100年間トップを守ったUSSを抜いた。ニューコアは買収や新工場の立ち上げを進め、今後も量的に拡大する見込みだ。

 高炉は輸入鋼材および電炉との競合で収益が悪化し、LTVなど大手が次々と破産した。高炉は再度、輸入を標的に政府の介入を求めた。ブッシュ政権は輸入制限、世界の過剰能力削減を打ち出す一方、米業界にも合理化を促した。USSは高炉の大合併構想を公表したが、前提条件としていたL・C負担に対する政府支援は受けられず、再編の焦点は設備の部分的な統廃合に移った。

 一方、破産会社の操業停止や、輸入の減少で、熱延薄板スポット価格は第2・四半期に300ドルと、年初比100ドル上昇する見込み。電炉が収益を上げる一方、損益分岐点が高く、長期契約価格にしばられる高炉の収益回復には、なお時間がかかるとみられる。問題先送りは限界にきている。

 旧LTVの再生やベスレヘムの合弁事業には、組合から譲歩を引き出すという課題があるが、レガシーコストを回避する手法は高炉再編の突破口になり得る。L・Cの切り離しに加え、非効率な設備の廃棄や、海外の資本・技術の導入で抜本的に、競争力を強化する道が開ける。快進撃のニューコアを筆頭とする電炉メーカーとは対照的に、後退し続けてきた高炉メーカーの構造改革がようやく見えてきた。