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[アジアン・メタルマーケット]

上海編 

<2>世界一のハードが揃う 宝山製鉄所

日刊産業新聞 2002/7/4

 上海宝鋼集団公司の中核企業、宝山鋼鉄は粗鋼1100万トンの中国最大の製鉄所。「ペアクロス、6―HIGHをはじめ世界一のハードを取り揃える」(日本の高炉関係者)最新鋭ミルである。中国政府の第10次5カ年計画に沿って、200億元(3000億円)規模の設備投資計画を推進中。これにより06年までに炉容4000立方メートルの高炉4基、粗鋼年産1400万トン態勢を確立。自動車用の冷延・表面処理鋼板の生産を拡大、厚板市場への参入も果たす。宝山鋼鉄の01年業績は売上高292億元(00年309億元)、税引前利益37億元(44億元)だった。

▼第4高炉を建設

 宝山鋼鉄は中国改革開放の歴史の象徴のひとつである。

 中国共産党は文化大革命を経て、70年代後半に改革開放政策を打ち出した。そのシンボルとして上海宝山製鉄所は78年に設立された。技術、設備、資金を海外から調達し、近代的臨海製鉄所を建設するという方針に沿って全体構想がまとめられた。原料・焼結は新日本製鉄の大分製鉄所、高炉・転炉などは同・君津製鉄所がモデルとなっている。

 85年9月に第1高炉が操業を開始。「第1高炉(炉容4063立方メートル)は新日鉄に発注、第2高炉(4063立方メートル)は川崎製鉄との合作、第3高炉(4350立方メートル)は内製」(広報)。94年の第3高炉火入れによって高炉3基、粗鋼1100万トン態勢を確立した。

 第1高炉は99年に1次改修を終え、第2高炉(91年火入れ)が近く改修期を迎える。高炉3基ともにフル稼働中であるが、「製鋼―熱延に余力を残す」(謝企華・宝鋼社長)ことから、第4高炉(4000立方メートル)の建設計画が進んでいる。

 35万キロワット×3基の発電設備を持ち、「電力は100%自家発電、一部をグループ企業に供給する」(広報)。

▼第2・3冷延ラインは並列

 宝山製鉄所は上海特別市の北東、揚子江河口に位置する。敷地面積は「19平方キロでマカオとほぼ同じ」(広報)。新日鉄の主力製鉄所、君津製鉄所(12平方キロ)の1・5倍以上の広さである。

 所内では至るところで造成、建設工事が進む。「整地中の第4冷延ライン建設予定地は旧・動物園の敷地。福利厚生の一環として9ホールのゴルフ場も造成中」(同)という。

 製鋼以降は、連続鋳造2ライン、熱延2ライン、冷延3ラインの態勢。第2、3冷延ミル(CM)は一つの建屋内に並列する。ロールショップの共用などによる合理化効果を狙った配置。「第4CMは第1CMに並列するかたちで建設する」(同)。第2CMは独SMS製のローモ対応ミルで、98年9月の操業開始。第3CMは日立製作所製の電磁鋼板対応ミルで、00年3月に稼働した。

 表面処理設備は、溶融亜鉛メッキライン(CGL)、電気亜鉛メッキライン(EGL)、ブリキラインと一式取り揃える。カラーライン(CCL)は、このほど完成した新ラインと合わせて2ラインで、第3ライン建設も決定している。

▼高級鋼対応を推進

 宝山製鉄所の薄板設備には「ペアクロス、6―HIGH(日立製作所のHC―MILLをはじめ薄板形状をコントロールするすべての最新鋭設備が盛り込まれている」(高炉関係者)。これらのハードをオペレートするノウハウを蓄積中の段階にあるが、「間違いなくソフト面でも数年内に世界トップ水準に達する」とみられている。

 自動車用鋼板では、冷延鋼板で供給実績を積み重ねる。上海VWの新・旧サンタナ向けでメジャーサプライヤーの地位を確立。上海GMから2部品で品質認定を受け、伊フィアット向けの輸出も開始。また一汽集団、東風汽車、南京汽車などが宝鋼材を採用。とくに中国の代表的国産車である中国一汽の「紅旗」は100%宝鋼材とされる。

 宝山鋼鉄は、自動車対応として第4CM(1880ミリ幅)、2本のCGL新設計画を進行中。造船材対応の厚板ミル(5000ミリ幅)も建設する。これでハードの一層の充実を図るとともに、鋼板類の能力増強を具体化する。

 現在は大半を輸入鋼材に依存する外資系の自動車、家電メーカーも資材の現地調達を指向する。ソフト面の向上と一連の設備投資を経て、中国市場における宝山鋼鉄の存在感はさらに際立つことになりそうだ。