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【アジアン・メタルマーケット】

タイ・鉄鋼編 <1>

自動車産業が投資拡大 好景気迎え鉄需増加

日刊産業新聞 2002/11/18

 東南アジア最大の鉄鋼需要地であるタイは、好景気を迎えている。1997年の通貨危機から立ち直り、02年のGDP成長率は4・5%の見通し。01年鉄鋼内需は754万トン。日本の約10分の1だが、伸び率はここ数年4―5%を維持している。日本からタイへの鉄鋼輸出は01年257万トン。韓国、中国に次ぐ第3位の輸出先で本年は前年比25%増の勢い。自動車産業は投資を拡大しているが半面、輸出・外資依存度の高い産業構造を持ち、輸出環境の変化に左右される。米景気の減速機運や政府景気対策の息切れなど下振れ懸念があり、不安を抱えつつ、さらなる成長に向かっている。

 ▼日本は最大の投資国

 「どん底だった」(日系商社)。通貨危機で経済活動が一挙に収縮。98年のGDP成長率はマイナス10・5%。IMFの支援を受け、00年4・6%、01年1・8%と回復軌道に乗っている。人口6350万人。GDP5兆1000万バーツ(約15兆円)、日本の約30分の1だが、輸出総額は654億米ドルで同5分の1。輸出産業がけん引し、輸出先は米国、日本、シンガポール、中国の順。米国依存度(20%)が高い。


SSIの熱延ライン
 輸入総額は日本がトップ(23%)。投資額も日本が最も多く、01年の海外直接投資額47億1300万ドルのうち、日本は18億7800万ドル(40%)。バンコク日本人商工会議所には、在タイの会議所中、最大の1160社が加盟(2位は台湾600社)し、海外の日本人商工会議所で最大規模。通貨危機で退出した企業は少なく、タイの日系企業は約3000社ともいわれている。

 ▼未発達な基礎産業

 60年代から日系自動車メーカーが進出したことで、自動車新興国の中国などに比べ部品産業の裾野は広い。税制など政府による外資誘導策と安定・良質の労働供給によって、強力な地盤が形成され、80年代から工業化が進んだ。自動車メーカー各社は、近年タイを輸出基地に位置づけ、投資を拡大。自動車生産台数は01年46万台、02年55万台以上、03年70万台予想と右肩上がりで推移している。

 しかし、最終製品の外資導入を進めてきたが故に、基礎産業の発達が遅れている。鉄鋼産業は高炉を持たず、鉄源は電炉および輸入が主体。タイの鉄鋼需要は、97年762万トンから98年383万トンに下落。99年633万トン、01年は754万トンと増え、本年は「5%ほど伸びている感触」(現地冷延メーカー)。品種別では熱延鋼板418万トン、小棒194万トン、冷延鋼板161万トン、パイプ80万トン、亜鉛めっき鋼板74万トン、ブリキ26万トン―など。

 粗鋼は213万トン。電炉(13社)の多くは小棒を生産。熱延鋼板メーカー3社は、2社が休止または断続的な稼働で実質的にはSSI1社(年産200万トン)。冷延は外資系3社。厚板は単圧2社、ステンレスは冷延のタイノックスのみ。地震がないため、鉄骨需要は少なく、特殊鋼は輸入に頼っている。

 01年の全鉄鋼輸入量は前年比3・0%増の738万トン。うち日本材は34・9%とトップシェア。日本材の02年1―9月輸入は前年比24・5%増の242万トン。日本からの全輸出の8・8%を占め、輸出先では米国、台湾をしのぐ(日本のASEANへの輸出はマレーシア151万トン、インドネシア97万トン)。

 ▼忍び寄る不安感

 政府は大型予算を組み、新空港、地下鉄、大型斜長橋など公共工事を積極的に進めている。03年にはASEAN域内の関税撤廃が予定され、AFTAの構築で域内貿易の活発化が期待されている。

 一方、不安要素も隠せない。家電産業は日本の消費低迷や中国製品の躍進、また日系企業の中国シフトに揺れている。米景気は不安視され、個人ローンの促進も債務不履行の懸念が広がっている。

 政府は、年初から鋼材輸入制限を実施。自国産業保護のためだが、需要産業への材料供給に影響を与えかねず、誘致してきた企業を苦しめることになる。急速に経済成長を推し進めてきた“ひずみ”がちらつく。