2025年7月10日
鉄鋼新経営 描き挑む成長のビジョン/JFE条鋼社長/渡辺 敦氏/輸出の上方弾力性高める/設備DX化で低級原料活用強化
――2024年度決算は前年度比で減収減益となった。
「鉄スクラップやエネルギーの価格が高騰するとともに需要が低迷した結果、前年度比では減益となったが、第7次中期経営計画で目指した収益は確保できた。販売数量は5%程度減少し、厳しい1年になったものの、『量を追わず、価格重視』の販売姿勢を堅持した結果、メタルスプレッドは改善している」
――25年度から3カ年の第8次中期経営計画が始動した。
「人口減少が見込まれる中、中期的に国内鋼材需要のさらなる減少は避けられない。厳しい市場環境になると予想しており、品質や商品デリバリー、コスト競争力を高めながら、各地域の実情に合わせた販売戦略を組み立て、『お客様に信頼され選ばれるメーカー』になるよう、顧客との関係をより一層強化する」
――形鋼の方針を。
「24年度は国内販売で一部の品種エキストラを改定し、値上げを実施。造船向けや鉄塔向けなどひも付き分野はスクラップサーチャージを見直した。25年1月契約分から姫路製造所で最大32㍉の極厚平鋼の生産を開始した。輸出は韓国向け、台湾向けを主体とする既存需要家との関係深化や新サイズへの対応に注力するとともに、オーストラリア規格の認証取得に挑戦するなど、JFE商事をはじめ商社の力を借りながら新規向け先の拡大に取り組んでいる。25年度は前年度と同様に需要が減るとみており、ひも付き分野は労務費や販直費など物価上昇分について販売価格への転嫁を進める。国内販売が低調に推移する中、出荷能力の上方弾力性を高めるなど輸出による販売拡大に努める。8次中計では異形棒鋼を含めた輸出量が現行の月間1万8000㌧程度から2万㌧程度に増え、生産量の約2割を占めるとみている」
――異形棒鋼についてはどうか。
「全国的に需要量が減少する中、顧客との関係深化を図るべく、営業と製造所が共同で顧客を訪問して意見や要望をヒアリングする活動を強化しており、改善に向けたスピードが高まってきた。25年度は生コン価格高騰が異形棒鋼需要の下押し要因になる可能性があり、注視する。関東エリアでは東部製造所の細物サイズ、鹿島製造所のベースサイズを組み合わせればフルサイズを供給できるため、両製造所の連携を強化し、数量拡大を図る」
――設備投資計画を。
「8次中計では10年後を見据えた事業基盤の整備に取り組む。とくに稼働開始から30年が経過した鹿島と姫路、水島の3製造所で電気・制御品の更新タイミングを迎えることから、機械の老朽更新を含めて投資金額を増額し、実行する。投資金額は具体的にお話しすることができないが、3年間平均で7次中計期間に実施した約2倍を予定している。とくに大きな案件は水島に伊・ダニエリの次世代製鋼用電源システム『Q―ONE』を導入する。電気炉の炉体も更新し、過去に1号炉があった場所に置く。溶解電力削減などの省エネルギー効果や、コスト合理化を見込む。製鉄プラントメーカーは未定だが、炉前作業の自動化など最新機能が搭載した炉にする」
――DX(デジタルトランスフォーメーション)、AIの導入は。
「7次中計までの取り組みとして、DXは20年度から各製造所のデータ統合プラットフォーム構築を実行中。姫路では製鋼・圧延の操業履歴などデータ収集の準備が整い、クラウド上で見える化したデータの活用を開始した。その他の製造所もデータ収集基盤の構築を続けている。AIはEVERSTEELの鉄スクラップ画像解析システムなどで適用を始めており、25年度は鹿島と東部で鉄スクラップ等級判定を開始し、豊平製造所では異形棒鋼の出荷本数確認で活用している。このほか、表面欠陥検査の取り組みも行っており、寸法や温度、振動計などの各種制御・計測機器からのデータ活用を進めている。また、全社でDS(データサイエンス)成果改善発表大会を年2回開いており、電気炉精錬時間の短縮や、主成分分析手法による設備異常検知などで成果が出始めている。25年からDX担当技術主監を置いて、DXやDS教育の全社展開や、実務上の課題解決においてDS手法の適用をOJT教育するなど、土台となる人材育成面での全社的なレベルアップを目指す。事務系を含めたDSの利用者拡大を図るため、各部から対象者を選出し、約1年半教育するDS利用者向け教育を25年度から開始した」
――8次中計におけるDX、AI活用を。
「DXは29年度末までに基盤整備を完了させて、製鋼・圧延の操業履歴や品質情報、設備の稼働状況など全国5製造所で集めたデータをクラウドに取り込み、『操業の見える化』などに繋げ、設備稼働率向上をはじめ操業指標改善や設備の予兆管理、品質向上、また社員の新たな価値創造を実現していく。AIは鉄スクラップ検収を全社展開し、作業の効率化や成分管理の厳格化によって、これまで多めに使ってきた上級スクラップの使用抑制を図り、低級スクラップの活用を増やす」
――資源リサイクル事業はどう展開する。
「鹿島と水島の東西2拠点体制での一般廃棄物と産業廃棄物の処理をさらに発展させる。水島は25年3月に製鋼電気炉による低濃度PCB廃棄物無害化処理に関する環境大臣認定を取得した。竣工検査を行っている段階で合格次第、実行に移す。鹿島は産廃処理認可を取得して以降、扱い量は順調に増えている。関東は廃棄物の発生量が多く、処理拡大を図る。8次中計ではEVをはじめ、太陽光や風力など新エネルギーなどで採用が進んだ新素材・複合素材といった一般焼却炉では処理が難しい『処理困難物』をより手掛ける。同時に処理技術の開発、必要な許可取得、処理能力向上に努め、資源循環型社会の構築や、埋め立て削減など環境保全に貢献してプレゼンスを高めていきたい」
――「物流の2024年問題」への対応を。
「製品出荷時の作業内容などの解析と見直しを行い、荷待ち時間と荷役時間の合計時間として、全製造所平均時間を2時間以内に短縮した。これを1時間に短縮するとともに、2時間超えを撲滅させる。製造所別で豊平は25年3月から出荷予約システム導入による受付車両を平準化した。鹿島は25年6月からスマートフォンを活用し、荷役者に対して車両受付情報を転送。姫路は25年9月までに幌付トレーラーを合計11台導入する。水島はミルエンド倉庫の出荷間口を増設し、QRコード検収による検品時間短縮に取り組んでいる。スクラップ荷受けの待ち時間短縮については、24年度中に4製造所で鉄スクラップ納入予約システムを採用し、水島は25年度内に導入する予定だ」
――次世代を担う人材の確保も重要になる。
「人材確保は事業の安定継続のための重要なファクター。労働市場がタイト化する中で人材を確保し、社員に継続的に還元するためには人への負荷に頼りすぎず、技術や設備などを生かした上での労働生産性『抜本的労働生産性』の向上が必要不可欠だ。継続的に人への投資を行い、従業員がさらにやりがいや働き甲斐を感じる会社を目指す。『清潔で働きやすい職場』、『ライフステージに応じた柔軟な働き方』、『仕事の成果を実感できる評価・処遇』などの環境を整える。また年間を通じてキャリア採用を行う。工場オペレーターの定期採用は高卒者だけでなく、大卒者も視野に入れる。8次中計では作業環境やオフィス環境の改善、デジタル化や効率化の推進などによる働き方改革や、総合職を中心とした人事制度の見直しなど総合的に進める。とくに福利厚生や作業環境改善の継続的な投資として、ES(従業員満足度)投資を新設し、年間2億円程度を投じる」
――JFEグループとの連携については。
「需要が長期低迷することも想定し、JFEグループとしての最適生産体制や、さらなる協業も検討したい。とくに27年度以降は国内高炉メーカーによる相次ぐ電炉建設が控えており、今後の鉄スクラップ需給バランスは大きく変化すると想定されることから、安定的な調達を実現するため、JFEグループ全体でのスクラップ購買戦略を強化する」
――カーボンニュートラルへの取り組みを。
「25年度は排ガス分析計やスクラップ小型破砕機など省エネルギー設備の戦力化を図り、データサイエンス技術適用による最大効果発揮を志向する。8次中計では新電源設備や排ガスダイナミック制御などの導入を計画し、次期の9次中計末までに日本政府による30年度のGX目標を超過達成する見込みだ」
――グリーン商材は。
「非化石電力を活用した鋼材は経済産業省グリーン鉄研究会の方針に従い、業界でガイドラインを検討・策定している段階。非化石化の投資コストが正しく上乗せされた非化石電力やPPA(電力購入契約)、自社内の取り組みなどによる非化石エネルギーを用い、その価値をブランド化した鋼材を流通することで非化石エネルギーの拡大に寄与することを目的に、業界ガイドラインを策定して運用の標準化を行い、実行に結び付けていきたい」
――JFEスチールグループと大和工業グループによるH形鋼事業の協業については。
「JFEスチールと大和工業で行っており、これから議論が進んでいくと思う」(濱坂浩司)
「鉄スクラップやエネルギーの価格が高騰するとともに需要が低迷した結果、前年度比では減益となったが、第7次中期経営計画で目指した収益は確保できた。販売数量は5%程度減少し、厳しい1年になったものの、『量を追わず、価格重視』の販売姿勢を堅持した結果、メタルスプレッドは改善している」
――25年度から3カ年の第8次中期経営計画が始動した。
「人口減少が見込まれる中、中期的に国内鋼材需要のさらなる減少は避けられない。厳しい市場環境になると予想しており、品質や商品デリバリー、コスト競争力を高めながら、各地域の実情に合わせた販売戦略を組み立て、『お客様に信頼され選ばれるメーカー』になるよう、顧客との関係をより一層強化する」
――形鋼の方針を。
「24年度は国内販売で一部の品種エキストラを改定し、値上げを実施。造船向けや鉄塔向けなどひも付き分野はスクラップサーチャージを見直した。25年1月契約分から姫路製造所で最大32㍉の極厚平鋼の生産を開始した。輸出は韓国向け、台湾向けを主体とする既存需要家との関係深化や新サイズへの対応に注力するとともに、オーストラリア規格の認証取得に挑戦するなど、JFE商事をはじめ商社の力を借りながら新規向け先の拡大に取り組んでいる。25年度は前年度と同様に需要が減るとみており、ひも付き分野は労務費や販直費など物価上昇分について販売価格への転嫁を進める。国内販売が低調に推移する中、出荷能力の上方弾力性を高めるなど輸出による販売拡大に努める。8次中計では異形棒鋼を含めた輸出量が現行の月間1万8000㌧程度から2万㌧程度に増え、生産量の約2割を占めるとみている」
――異形棒鋼についてはどうか。
「全国的に需要量が減少する中、顧客との関係深化を図るべく、営業と製造所が共同で顧客を訪問して意見や要望をヒアリングする活動を強化しており、改善に向けたスピードが高まってきた。25年度は生コン価格高騰が異形棒鋼需要の下押し要因になる可能性があり、注視する。関東エリアでは東部製造所の細物サイズ、鹿島製造所のベースサイズを組み合わせればフルサイズを供給できるため、両製造所の連携を強化し、数量拡大を図る」
――設備投資計画を。「8次中計では10年後を見据えた事業基盤の整備に取り組む。とくに稼働開始から30年が経過した鹿島と姫路、水島の3製造所で電気・制御品の更新タイミングを迎えることから、機械の老朽更新を含めて投資金額を増額し、実行する。投資金額は具体的にお話しすることができないが、3年間平均で7次中計期間に実施した約2倍を予定している。とくに大きな案件は水島に伊・ダニエリの次世代製鋼用電源システム『Q―ONE』を導入する。電気炉の炉体も更新し、過去に1号炉があった場所に置く。溶解電力削減などの省エネルギー効果や、コスト合理化を見込む。製鉄プラントメーカーは未定だが、炉前作業の自動化など最新機能が搭載した炉にする」
――DX(デジタルトランスフォーメーション)、AIの導入は。
「7次中計までの取り組みとして、DXは20年度から各製造所のデータ統合プラットフォーム構築を実行中。姫路では製鋼・圧延の操業履歴などデータ収集の準備が整い、クラウド上で見える化したデータの活用を開始した。その他の製造所もデータ収集基盤の構築を続けている。AIはEVERSTEELの鉄スクラップ画像解析システムなどで適用を始めており、25年度は鹿島と東部で鉄スクラップ等級判定を開始し、豊平製造所では異形棒鋼の出荷本数確認で活用している。このほか、表面欠陥検査の取り組みも行っており、寸法や温度、振動計などの各種制御・計測機器からのデータ活用を進めている。また、全社でDS(データサイエンス)成果改善発表大会を年2回開いており、電気炉精錬時間の短縮や、主成分分析手法による設備異常検知などで成果が出始めている。25年からDX担当技術主監を置いて、DXやDS教育の全社展開や、実務上の課題解決においてDS手法の適用をOJT教育するなど、土台となる人材育成面での全社的なレベルアップを目指す。事務系を含めたDSの利用者拡大を図るため、各部から対象者を選出し、約1年半教育するDS利用者向け教育を25年度から開始した」
――8次中計におけるDX、AI活用を。
「DXは29年度末までに基盤整備を完了させて、製鋼・圧延の操業履歴や品質情報、設備の稼働状況など全国5製造所で集めたデータをクラウドに取り込み、『操業の見える化』などに繋げ、設備稼働率向上をはじめ操業指標改善や設備の予兆管理、品質向上、また社員の新たな価値創造を実現していく。AIは鉄スクラップ検収を全社展開し、作業の効率化や成分管理の厳格化によって、これまで多めに使ってきた上級スクラップの使用抑制を図り、低級スクラップの活用を増やす」
――資源リサイクル事業はどう展開する。
「鹿島と水島の東西2拠点体制での一般廃棄物と産業廃棄物の処理をさらに発展させる。水島は25年3月に製鋼電気炉による低濃度PCB廃棄物無害化処理に関する環境大臣認定を取得した。竣工検査を行っている段階で合格次第、実行に移す。鹿島は産廃処理認可を取得して以降、扱い量は順調に増えている。関東は廃棄物の発生量が多く、処理拡大を図る。8次中計ではEVをはじめ、太陽光や風力など新エネルギーなどで採用が進んだ新素材・複合素材といった一般焼却炉では処理が難しい『処理困難物』をより手掛ける。同時に処理技術の開発、必要な許可取得、処理能力向上に努め、資源循環型社会の構築や、埋め立て削減など環境保全に貢献してプレゼンスを高めていきたい」
――「物流の2024年問題」への対応を。
「製品出荷時の作業内容などの解析と見直しを行い、荷待ち時間と荷役時間の合計時間として、全製造所平均時間を2時間以内に短縮した。これを1時間に短縮するとともに、2時間超えを撲滅させる。製造所別で豊平は25年3月から出荷予約システム導入による受付車両を平準化した。鹿島は25年6月からスマートフォンを活用し、荷役者に対して車両受付情報を転送。姫路は25年9月までに幌付トレーラーを合計11台導入する。水島はミルエンド倉庫の出荷間口を増設し、QRコード検収による検品時間短縮に取り組んでいる。スクラップ荷受けの待ち時間短縮については、24年度中に4製造所で鉄スクラップ納入予約システムを採用し、水島は25年度内に導入する予定だ」
――次世代を担う人材の確保も重要になる。「人材確保は事業の安定継続のための重要なファクター。労働市場がタイト化する中で人材を確保し、社員に継続的に還元するためには人への負荷に頼りすぎず、技術や設備などを生かした上での労働生産性『抜本的労働生産性』の向上が必要不可欠だ。継続的に人への投資を行い、従業員がさらにやりがいや働き甲斐を感じる会社を目指す。『清潔で働きやすい職場』、『ライフステージに応じた柔軟な働き方』、『仕事の成果を実感できる評価・処遇』などの環境を整える。また年間を通じてキャリア採用を行う。工場オペレーターの定期採用は高卒者だけでなく、大卒者も視野に入れる。8次中計では作業環境やオフィス環境の改善、デジタル化や効率化の推進などによる働き方改革や、総合職を中心とした人事制度の見直しなど総合的に進める。とくに福利厚生や作業環境改善の継続的な投資として、ES(従業員満足度)投資を新設し、年間2億円程度を投じる」
――JFEグループとの連携については。
「需要が長期低迷することも想定し、JFEグループとしての最適生産体制や、さらなる協業も検討したい。とくに27年度以降は国内高炉メーカーによる相次ぐ電炉建設が控えており、今後の鉄スクラップ需給バランスは大きく変化すると想定されることから、安定的な調達を実現するため、JFEグループ全体でのスクラップ購買戦略を強化する」
――カーボンニュートラルへの取り組みを。
「25年度は排ガス分析計やスクラップ小型破砕機など省エネルギー設備の戦力化を図り、データサイエンス技術適用による最大効果発揮を志向する。8次中計では新電源設備や排ガスダイナミック制御などの導入を計画し、次期の9次中計末までに日本政府による30年度のGX目標を超過達成する見込みだ」
――グリーン商材は。
「非化石電力を活用した鋼材は経済産業省グリーン鉄研究会の方針に従い、業界でガイドラインを検討・策定している段階。非化石化の投資コストが正しく上乗せされた非化石電力やPPA(電力購入契約)、自社内の取り組みなどによる非化石エネルギーを用い、その価値をブランド化した鋼材を流通することで非化石エネルギーの拡大に寄与することを目的に、業界ガイドラインを策定して運用の標準化を行い、実行に結び付けていきたい」
――JFEスチールグループと大和工業グループによるH形鋼事業の協業については。
「JFEスチールと大和工業で行っており、これから議論が進んでいくと思う」(濱坂浩司)












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