2025年7月11日

営業戦略を聞く/日本製鉄 廣瀬孝副社長/ニーズ捉え 新価値提供/グループ強み集め総合力拡充

――国内の鉄鋼市場が厳しさを増している。

「米国の関税政策の影響はまだ顕在化しておらず、不透明な状況は変わらない。建築分野は、人手不足、時間外労働規制の強化や諸コストの上昇、不透明感の増大などがあり、低調に推移している。土木分野は名目の予算額は高いが諸コストの上昇によって実際の工事量は増えず、鋼材需要になかなか結びついていない。自動車分野をはじめ製造業も概ねマイナスで推移。国内の鉄鋼需要は24年度は5000万トンを下回ったと想定しているが、米国の関税政策の影響が今後見込まれ、25年度の需要はさらに減少すると見ざるを得ない」

――輸入材の増加が続いている。中国の高水準の鋼材輸出が大きく影響しているが、輸入増の状況は今後も続く見通しか。

「国内需要が低迷する中、輸入材の増加による国内需給と鋼材市況の悪化は、深刻な事態と捉えている。さらに米国が鉄鋼・アルミ製品の関税を50%に引き上げたことで米国への直接・間接輸出の減少や各国の米国向け鋼材輸出が他地域に振り替わり、結果的に日本への鋼材輸入圧力がより増大することも懸念される。鉄鋼メーカーのみならず流通含めた日本国内の健全なサプライチェーンにも悪影響を及ぼすものであり、こうした状況は一層深刻だ」

「中国については、鉄鋼各社がかなり高い水準の生産を継続している。地方政府は雇用や税収などいろいろな目標を抱えており、自律的に生産をコントロールする形にはなりにくいと分析している。中国が鉄鋼の増産を続ける限り、市場の先行きを楽観視することはできない」

――国内外とも厳しい市場の中で生産・販売、収益を確保するために営業政策をどのように進める考えか。

「2024年度に鹿島地区の高炉1基と厚板、形鋼の各ミルの一貫休止をもって20年度から進めてきた生産設備構造対策の一つの節目を迎えた。能力の最適化の中で集約したラインの安定生産、安定供給に引き続き努めていく。25年度最終の中長期経営計画に基づいて品種高度化を継続する。顧客ニーズの多様化を踏まえた高付加価値品の拡充に向けて供給体制の強化を着実に進めている。エコカーの増加と性能向上に貢献できる駆動モータ用の電磁鋼板は20年比で5倍となる供給体制を27年度めどに八幡、広畑、阪神(堺)の3拠点で整える。電磁鋼板の能力増強は計画通り進めている。車体の軽量化ニーズに応えるため、超ハイテン材の供給体制の強化策として名古屋製鉄所で次世代熱延ラインを26年度第1四半期に立ち上げる予定だ。カーボンニュートラル(CN)や人口減少に伴う省力化・省人化など社会的ニーズに対し、需要が伸びると予想される天然ガス開発やCCS事業に使用される13クロム・ハイアロイ油井管や風力発電用の厚板、塗装工程省略などコスト削減と環境負荷低減に寄与する高耐食めっき鋼板スーパーダイマGBなどの戦略商品の供給を充実させている。商品開発だけでなく、お客様と連携を深めて用途拡大にも努め、販売の増加につなげていく。内需を捕捉するために品種高度化を中心とした高級鋼の取り組みに加え、建設分野向けなどに競争力のある電炉鋼の商品ラインアップを拡充しようと中山製鋼所との電気炉保有合弁会社の設立と業務提携を決めた。先々を見越して対策を進めており、本社だけでなく、グループ全体で対策に取り組んでいく」

――グループ会社統合など4月に事業再編を実行した。効果をどう引き出していくか。

「内需の減少と輸出の困難化に耐え得るスリムで強靭な体質の構築に向けて、最適生産を追求する生産構造対策とともに、受注構造の高度化の両面の取り組みを進めてきた。その枠組みの対象をグループ各社に広げて最適生産を追求する。グループ会社の強みを統合し、総合力の一段の強化・拡充を図る新たなフェーズに入っている。4月に旧日鉄ステンレスを合併し、旧日鉄鋼管のメカニカル鋼管事業を統合した。日鉄ステンレスとの統合によってステンレスの鋼板からシームレス鋼管にわたる高合金の知見を統合し、当社ならではの新商品の開発を加速できると考えている。国内電縫鋼管事業の生産構造を最適化し、製販一体化を図ることで競争力をさらに強化し、自動車の電動化や競合のグローバル化など市場の様々な構造変化に迅速に対応していく。山陽特殊製鋼を完全子会社化し、最適生産の計画を打ち出した。高清浄度鋼など山陽特殊製鋼の得意の技術と当社の圧延技術など両社の強みを組み合わせた商品開発や顧客提案力の強化など市場対応力を強くし、製品の拡販や企業価値の向上につなげる。互いに強い品種・商品メニューに鉄源を充当するあるいは鉄スクラップの調達など広く相乗効果を発揮していく」

――日鉄物産の連結子会社化で具体化しているシナジー効果はどのようなものか。

「各事業部門で商流や物流、加工、営業など商社・流通機能をグループで最大限活用し、SC全体での競争力を強化するための施策を実行し、着々とシナジーを発揮している。日鉄物産として24年度にNS建材薄板との合併による国内薄板事業のグループ力強化、戦略商品の電磁鋼板の流通対策として電機資材の子会社化を実施した。海外ではASEANの土木建材市場をターゲットとしてシンガポールの建材問屋Mライオン社に出資し、直近ではグリーン水素の製造に必要な水素電解装置を開発・製造するノルウェーのハイスター社への出資を決め、将来成長が期待できる分野への投資を行っている。米国のバイオカーボンの製造会社に出資するなどCN関連の原料調達や出資も進めている。引き続き日鉄物産としての成長投資を通じてお客様の価値向上につながるグループ連携の強化、SCの強化を追求していく」

「重要なビジネスパートナーである商社各社とは、より広範なフィールドでの取り組みを共同で進めている。CNなど新しい社会のニーズを捉えた商品・サービスの価値の明確化と共有を通じて拡販につなげていくために商社各社のそれぞれの強みを生かした取り組みを加速させたい。これから需要が減少し競争が厳しくなり、コストアップも見込まれるなかで市場の変化を先取りし、メーカーだけでなく流通まで含め一貫での強固なSCを築くことが肝要であり、流通各社においてもさらなる体質強化の取り組みも期待したい」

――米USスチールとのパートナーシップが成立した。同社の製造体制強化、米国や日系の需要家への販売など取り組むこととは。

「先進国で最大の鋼材需要かつ高級鋼の最大市場である米国と同時に、スロバキアのUSスチール・コシツェの取り込みによって、欧州においてもスウェーデンのオバコに続いて事業拠点を拡大することができた。今後USスチールとのシナジー最大発揮に向けて検討を加速させ、まずはUSスチールが取り組むべき主要経営課題を進めるために、当社社員を40人程度派遣する。USスチールの実力を評価し、強化すべきところに投資していく。米国市場で成長が続く高級綱分野に早期に展開するためにも、設備投資のみならず、歩留まりや生産性の改善なども進めていきたい。USスチールが持つ経営計画に当社の視点を加え、グローバルな観点から関与し、計画を策定していく」

――26年度開始の次期中期計画のテーマは。国内外の市場に対応したグループや事業のさらなる再編が求められるのでは。

「大きな方向性は変わらない。構造対策についてはグループ会社をスコープに入れたところで最適生産化や体質強化を進めていく」(植木 美知也)









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