2025年12月22日
商社の経営戦略 ―事業・人財ポートフォリオ― 阪和興業 中川洋一社長/供給網創造型商社に変革/グローバル人材の育成と活用強化
――2025年度上期の連結経常利益は前年同期比15%減の238億円だった。
「リサイクルメタル事業や海外販売子会社における取引拡大などによって売上高が2%増の1兆2791億円、売上総利益も2%増の675億円と増加した。中国の鋼材輸出の増加による国際市況の下落、米トランプ大統領の国益優先政策による先行き不透明感を背景とした需要の停滞に加え、人手不足やコスト増など市場環境が悪化する中、社員は工夫を重ねてよく頑張ってくれた。一方で人件費の増加、新規連結子会社の影響などによって販管費が7%増の398億円となり、営業利益は4%減の277億円にとどまった。営業外収入が18億円減少した一方で、営業外費用が12億円増加したため、経常利益の減少幅が広がった」
――主力の鉄鋼は売上高が7%減の5406億円にとどまる一方、経常利益は20%増の169億円と健闘した。
「鋼材の取扱量は421万トンでほぼ横ばいだったが、価格下落が響いた。建設資材の販売が好調で、過去に受注した好条件の物件の完工が続くなど国内建設分野が堅調に推移した。ただし、外部環境が悪く、下期は厳しい見通しだ。他に一部海外子会社の採算改善も寄与した」
――プライマリーメタルは34億円の利益から12億円の損失に転落し、リサイクルメタルは利益が14億円から2億円に大きく後退した。
「プライマリーメタルは、ステンレス、冷鉄源、ニッケル、クロム、マンガンなどの取扱量が14%減の150万トンに減少。南アフリカのサマンコール・クロムが、国営電力会社からの調達コストアップに国際クロム相場の下落等が重なって、持分法投資損益がマイナスに転じた。リサイクルメタルはアルミ、銅の採算悪化が主因」
――食品は利益が8億円から18億円に改善した。
「サケ、エビ、サバ・アジ、鶏肉などの取扱量はほぼ横ばいの5万トン弱だったが、相場変動が大きい商品のリスク在庫を縮小し、加工品の商売を阪和フーズに移管。稚内でホタテなど海産物を加工販売するマルゴ福山水産を子会社化。米国子会社のシアトルシュリンプが外食チェーン向けの安定したビジネスを開拓。事業構造転換が奏功し、収益回復基調に入った」
――エネルギー・生活資材は51億円から39億円に後退した。
「ウッドペレットやPKS(パーム椰子殻)などバイオマス燃料、舶用石油、軽油・ガソリン、化成品などの取扱量が25%増の260万トン に増加したが、前年同期にあった一過性のデリバティブ評価益の剥落などによって減益となった」
――海外販売子会社は。
「東南アジアにおけるスクラップ等の冷鉄源商売が大きく拡大し、新規連結子会社の投資効果もあって、鉄鋼製品・原料などの取扱量は1・5倍の220万トンに増加し、売上高は19%増の2453億円となったが、中国の安値輸出による影響で鉄鋼製品の採算が悪化し、利益は37億円から33億円に後退した」
――その他セグメントは利益が横ばいの10億円だった。
「木材など住宅資材は、欧州材市況軟化で減益となったが、産業機械分野の完工物件の増加で穴埋めできた」
――通期経常利益予想を550億円で据え置いた。
「上期は、サマンコールの持分法投資損失など営業外費用の増加影響もあったため、経常利益は進捗率が43%にとどまったが、トレーディングビジネスの実力値でもある売上高は49%、営業利益は50%だった。下期は建設分野を中心に市場環境の改善は見込みにくいが、食品が収益改善基調にあり、これまでに行った投融資の効果も引き出しながら、グループ企業の総合力を結集し、利益目標の達成に取り組む」
――「第10次中期経営計画」(23ー25年度)は最終コーナーに入った。
「経営基盤の強化、事業戦略の発展、投資の収益化の三つの基本方針を前中計から継承し、経常利益は700億円を目標に掲げた。経常利益は23年度482億円、24年度597億円と順調だった。25年度は外部環境が3年前の前提条件に比べ総じて悪化している。国内の鋼材需要は人手不足や物流問題などを背景に縮小を続け、中国の鉄鋼過剰生産による鋼材の安値輸出によって国内外の市場環境が悪化。さらに米トランプ大統領の過激な関税政策がモノの動きを鈍化させている。東南アジアや米州で先行投資を続けてきた自動車用二次電池原材料ビジネスが、欧米のEV政策転換によってペースダウンしたことも影響した」
――連結鉄鋼取扱量は1700万トンを目指していた。
「鉄鋼と海外子会社の両セグメントにおける取扱量は上期が707万トンで、24年度の1349万トンを上回るペースにあるが、目標達成は次期中計のテーマとなる」
――経営基盤を拡充する投融資については3年間800億円の計画。
「大和工業がインドネシアで立ち上げた電炉・形鋼ミルのガルーダ・ヤマト・スチールに15%を出資。マレーシアで直接還元鉄プラントを操業するグリーン・イー・スチールにも一部出資した。国内ではHKGトレーディングとその子会社の協和スチールと協和運輸、永和金属、建鋼社をグループ化し、鋼材や木材の加工機械メーカー、シンクスの株式100%を取得した。新基幹システムの構築も完了した。23年度から25年度上期までの累計投融資は578億円で、次期中計期間に実施がずれ込む案件もあるが、意思決定ベースでは800億円を超える可能性もある」
――経営基盤を支える財務面の手応えは。
「ネットDER(純負債資本倍率)は足下0・7倍で、目標の1倍以下を超過達成する見込み。自己資本は3900億円を超え、自己資本比率も34%を超えてきた。ゲームセンター事業を運営するハローズの全株式を譲渡し、23年度56億円、24年度46億円の政策保有株式売却を実施するなど資産の入れ替えも進めている。10次中計の大きなテーマであった財務基盤の強化は大きく進展する」
――ガバナンス強化については。
「スピーディな意思決定と取締役会のモニタリング機能の一層の強化を目的に取締役会のあり方を根本から見直し、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行を果たした。併せて監査等委員を含む社外取締役を女性取締役2人含めて取締役総数の半数に増やし、ガバナンスの強化を図った」
――リスクマネジメントも強化している。
「国内外で成長戦略投資を積極展開している。持続的成長の実現に向けて果敢に挑戦するためにも、取るべきリスクと取るべきでないリスクを的確に捉え、適切に管理する必要がある。そのためにリスクマネジメント部を設置した。在庫リスク、与信管理、カントリーリスク、デリバティブ取引に関わるリスクなどを従来の各セグメント別管理に加え横断的に把握しつつ可視化し、適切に管理・運用することで成長機会を逃さず、利益を引き上げていく」
――併行して株主還元を強化している。
「DOE(株主資本配当率)2・5%を下限とする安定配当方針を打ち出し、23年度185円、24年度225円の一株当たりの配当を実施。本年度は250円を予想しており、3%程度のDOEを維持する。24年度の20億円に続いて、本年度は50億円規模の自己株式取得を10月までに実施した」
――東証プライム上場企業に求められるPBR(株価純資産倍率)1・0倍は未達。
「株価は23年4月の4000円から7000円前後まで上昇してきたが、PBRは0・7倍程度にとどまる。11月に追加の50億円を上限とする自己株式取得を決定し、株主還元を加速する。併せて投資単位当たりの金額を引き下げることで株式の流動性の向上と、投資家層の拡大を目的に1対5の比率での株式分割を26年4月に実施することを決めた」
――2015年度から24年度までの約10年間で連結売上高を1兆5118億円から2兆5545億円に大きく拡大してきた。
「売上総利益は565億円から1406億円、営業利益が181億円から615億円、経常利益も154億円から597億円にそれぞれ拡大してきた。『そこか(即納・小口・加工)』戦略を打ち出し、『M&A+A(アライアンス)』を展開し、主力の鉄鋼ビジネスの付加価値を高めながら国内市場を深耕してきた。併せて国内鉄鋼需要の縮小を予測し、『東南アジアに第二の阪和を』構築する方針を打ち出し、インドネシアやシンガポールなどで『そこか』『M&A+A』を積極的に横展開し、加えて金属資源や二次電池材料、バイオマス燃料などへの投融資を重ねてきた」
――連結対象会社が24社から62社、単体の売上高も1兆2812億円から1兆8922億円に拡大、事業ポートフォリオも変化させてきた。
「そこか戦略や投資の効果に加え、新エネルギーや化学品分野に注力する一方で、ハローズを売却するなど事業の入れ替えも進めてきた。東南アジアの海外販売子会社は、『第二の阪和』戦略の下で、売上高が4000億円を超えており、経常利益100億円が視野に入っている」
――エネルギーは、バイオマス燃料ビジネス拡大に注力している。
「脱炭素社会に対応する燃料転換の流れを捉え、バイオマスやリサイクルエネルギーの事業拡大に注力している。PKS(パーム椰子殻)は、専用船を3隻に増やし、輸入品国内トップシェアをキープしている。ホワイトペレット(木質ペレット)、ブラックペレット(木質炭化ペレット)も東南アジア中心に調達先と供給網の整備を進めている。廃プラスチックや古紙などから作られ、石炭代替燃料として注目されているRPFやタイヤチップのサプライチェーン構築にも取り組んでいる」
――成長戦略投資を積極展開しつつ、財務体質の強化も図ってきた。
「総資産が5996億円から1兆1658億円、純資産は1561億円から3894億円に拡大。自己資本比率が25・8%から32・9%に上昇し、ネットDERは1・4倍から0・8倍に改善している。配当も一株当たり18円(現在の一株換算で90円)から225円まで引き上げてきた」
――業容拡大に併せて人的資本も強化してきた。
「阪和興業にとって人材が最も重要な経営資本であり、グループ全体の人材戦略を強化している。グローバルな視点を持ち、現地の文化や商慣習を理解しながら、商売や事業を開拓していく人材の育成が不可欠。企業内大学『Hanwa Business School』を開設し、貿易実務や財務分析、営業ノウハウ、投融資管理など商社パーソンとして必要な知識とスキルを習得できる環境を整えており、中堅・若手が積極的に活用している。国内MBAの取得支援、海外語学留学研修なども整備している」
――陣容を拡大している。
「連結従業員は15年度の2977人が24年は5688人に拡大。単体も1216人から1745人に増強しており、男性は750人から913人、女性が466人から832人にそれぞれ増加している」
――高水準の採用を続けている。
「新卒者は23年度119人、24年度129人、25年度98人で、26年度は70人を予定。中途採用は23年度118人、24年度76人で、25年度は70人を予定し、毎年100人超の採用を続ける」
――定着率は。
「離職率は、23年度が5・0%、24年度は6・6%。社会や価値観の変化もあり、離職者は増えている」
――「流通のプロ」を目指している。
「時代と市場の変化に迅速に対応し、『流通のプロ』として顧客の多様なニーズに応え、広く社会に貢献していくことを経営理念とし、サステナビリティ基本方針の一つにも、多様な個性が響き合い、高め合う職場づくりを目指すとしている」
――求める人材像、人材ポートフォリオは。
「マネージメント、プロフェッショナル、グローバルがキーワードで、経営人材の強化、高度専門職を含むコーポレート人材およびグローバル人材の育成とその人材を活かす組織態勢強化に取り組んでいる」
――人事評価制度は社員のモチベーションを大きく左右する。
「幅広く事業を展開しているため、一律的な評価では不公平感が生じる。そこで事業部門ごとの特性を考慮しつつ、ROIC等に関しては『改善幅』を評価軸として、相対的に評価することで、公平性とモチベーションの両立を図っている」
――女性社員の登用は。
「総合職採用に占める女性比率は30%前後を維持している。女性管理職は23年度7人、24年度10人で、管理職に占める比率は2・1%、2・6%。総合職入社、一般職からの総合職転換、転職者を含めて候補者を育成し、女性管理職を増やしていく。産休・育休明けの復職率は95%に達し、ちなみに男性社員の育休取得率も直近3年平均で60%を超えている」
――社員の成長が、グループ全体の競争力強化に直結する。
「執行役員以上が全員参加し、部門の枠を越えて適材適所を検討する『人材会議』を設け、将来のリーダー候補には現場力や経営管理力を会得してもらうため国内外のグループ会社を含めた横断的な部門異動を行うなど、キャリア形成支援を行っている」
――統合報告書では外国籍社員の活躍を伝えている。
「日本の大学を卒業して入社した社員、海外のナショナルスタッフから本社に移籍してきた社員など多様なルートで外国籍社員が入社しており、単体ベースの外国籍社員は38人。中国、トルコ、ウズベキスタン、英国など多国籍で、語学やバックグラウンドなど特性を活かして様々な職場で活躍している。グローバルビジネスの拡充に向けて、ナショナルスタッフを育成し、積極的に登用していく」
――2030年を見据えた長期ビジョンを描いている。
「サプライチェーンを創造し、すべての『ほしい』をつなげることで、持続可能な社会の実現に貢献する商社を目指し、『鉄鋼商社からサプライチェーン創造型商社への変革』を推し進めている」
――第3フェーズとなる第11次中計のテーマは。
「第10次中計では、『そこか』戦略の次のステージとして、トータルソリューション型ビジネスへの事業領域の拡大に取り組んでいる。顧客の要求や課題に対して、ワンストップでソリューションを提供するため、現場に深く入り込み、社内ネットワークを活用しながら、知恵を絞っている。第11次中計では、本社の新・基幹システム稼働を受けて、グループ全体で在庫・加工・物流に関する情報・データの共有化を進めており、連結経営の効率化、管理の徹底・強化を進めていく。現在、次期中計の策定作業を進めており、来年5月には発表する予定だ」
――海外市場については。
「北米、欧州のビジネス開拓を進め、経済成長が期待される南米、アフリカへのビジネス展開の基盤を構築したい。現時点では米国は金属スクラップや合金鉄のトレードが中心で、米国とカナダでブラックマスなど二次電池関連ビジネスを拡充している。その他、食品部門は食品に特化した子会社を保有し販路を拡大している。鉄鋼はサンディエゴでコイルセンターを保有するのみだが、日本の鉄鋼メーカー、製造業のビジネス拡大をチャンスと捉えて、幅広い視野で投資機会を探っていく」
――中国は経済成長が鈍化し、地産地消も進展し、日本企業の撤退が続いている。
「中国リスクを背負っているように見られているかも知れないが、現地における日系企業とのビジネスから、大明国際など現地の大手企業をパートナーとする国内で完結型のビジネス中心になっている。青山鋼鉄など高い国際競争力を持つ中国企業とはインドネシアなど中国外でのビジネスを拡充しており、中東やアフリカでのチャンスも窺っていく」
――財務面の目標は。
「次期中計にて現在の外部環境を考慮した新たな目標を打ち出し、PBR1倍以上を目指す。PBRについては、安定的で累進的な配当政策、自己株取得、株式分割などの手法を重ね合わせながら、IRをより充実させ、成長投資を含めた経営方針の株式市場への理解を求めていく」(谷藤 真澄)
「リサイクルメタル事業や海外販売子会社における取引拡大などによって売上高が2%増の1兆2791億円、売上総利益も2%増の675億円と増加した。中国の鋼材輸出の増加による国際市況の下落、米トランプ大統領の国益優先政策による先行き不透明感を背景とした需要の停滞に加え、人手不足やコスト増など市場環境が悪化する中、社員は工夫を重ねてよく頑張ってくれた。一方で人件費の増加、新規連結子会社の影響などによって販管費が7%増の398億円となり、営業利益は4%減の277億円にとどまった。営業外収入が18億円減少した一方で、営業外費用が12億円増加したため、経常利益の減少幅が広がった」
――主力の鉄鋼は売上高が7%減の5406億円にとどまる一方、経常利益は20%増の169億円と健闘した。
「鋼材の取扱量は421万トンでほぼ横ばいだったが、価格下落が響いた。建設資材の販売が好調で、過去に受注した好条件の物件の完工が続くなど国内建設分野が堅調に推移した。ただし、外部環境が悪く、下期は厳しい見通しだ。他に一部海外子会社の採算改善も寄与した」
――プライマリーメタルは34億円の利益から12億円の損失に転落し、リサイクルメタルは利益が14億円から2億円に大きく後退した。
「プライマリーメタルは、ステンレス、冷鉄源、ニッケル、クロム、マンガンなどの取扱量が14%減の150万トンに減少。南アフリカのサマンコール・クロムが、国営電力会社からの調達コストアップに国際クロム相場の下落等が重なって、持分法投資損益がマイナスに転じた。リサイクルメタルはアルミ、銅の採算悪化が主因」
――食品は利益が8億円から18億円に改善した。
「サケ、エビ、サバ・アジ、鶏肉などの取扱量はほぼ横ばいの5万トン弱だったが、相場変動が大きい商品のリスク在庫を縮小し、加工品の商売を阪和フーズに移管。稚内でホタテなど海産物を加工販売するマルゴ福山水産を子会社化。米国子会社のシアトルシュリンプが外食チェーン向けの安定したビジネスを開拓。事業構造転換が奏功し、収益回復基調に入った」
――エネルギー・生活資材は51億円から39億円に後退した。
「ウッドペレットやPKS(パーム椰子殻)などバイオマス燃料、舶用石油、軽油・ガソリン、化成品などの取扱量が25%増の260万トン に増加したが、前年同期にあった一過性のデリバティブ評価益の剥落などによって減益となった」
――海外販売子会社は。 「東南アジアにおけるスクラップ等の冷鉄源商売が大きく拡大し、新規連結子会社の投資効果もあって、鉄鋼製品・原料などの取扱量は1・5倍の220万トンに増加し、売上高は19%増の2453億円となったが、中国の安値輸出による影響で鉄鋼製品の採算が悪化し、利益は37億円から33億円に後退した」
――その他セグメントは利益が横ばいの10億円だった。
「木材など住宅資材は、欧州材市況軟化で減益となったが、産業機械分野の完工物件の増加で穴埋めできた」
――通期経常利益予想を550億円で据え置いた。
「上期は、サマンコールの持分法投資損失など営業外費用の増加影響もあったため、経常利益は進捗率が43%にとどまったが、トレーディングビジネスの実力値でもある売上高は49%、営業利益は50%だった。下期は建設分野を中心に市場環境の改善は見込みにくいが、食品が収益改善基調にあり、これまでに行った投融資の効果も引き出しながら、グループ企業の総合力を結集し、利益目標の達成に取り組む」
――「第10次中期経営計画」(23ー25年度)は最終コーナーに入った。
「経営基盤の強化、事業戦略の発展、投資の収益化の三つの基本方針を前中計から継承し、経常利益は700億円を目標に掲げた。経常利益は23年度482億円、24年度597億円と順調だった。25年度は外部環境が3年前の前提条件に比べ総じて悪化している。国内の鋼材需要は人手不足や物流問題などを背景に縮小を続け、中国の鉄鋼過剰生産による鋼材の安値輸出によって国内外の市場環境が悪化。さらに米トランプ大統領の過激な関税政策がモノの動きを鈍化させている。東南アジアや米州で先行投資を続けてきた自動車用二次電池原材料ビジネスが、欧米のEV政策転換によってペースダウンしたことも影響した」
――連結鉄鋼取扱量は1700万トンを目指していた。
「鉄鋼と海外子会社の両セグメントにおける取扱量は上期が707万トンで、24年度の1349万トンを上回るペースにあるが、目標達成は次期中計のテーマとなる」
――経営基盤を拡充する投融資については3年間800億円の計画。
「大和工業がインドネシアで立ち上げた電炉・形鋼ミルのガルーダ・ヤマト・スチールに15%を出資。マレーシアで直接還元鉄プラントを操業するグリーン・イー・スチールにも一部出資した。国内ではHKGトレーディングとその子会社の協和スチールと協和運輸、永和金属、建鋼社をグループ化し、鋼材や木材の加工機械メーカー、シンクスの株式100%を取得した。新基幹システムの構築も完了した。23年度から25年度上期までの累計投融資は578億円で、次期中計期間に実施がずれ込む案件もあるが、意思決定ベースでは800億円を超える可能性もある」
――経営基盤を支える財務面の手応えは。
「ネットDER(純負債資本倍率)は足下0・7倍で、目標の1倍以下を超過達成する見込み。自己資本は3900億円を超え、自己資本比率も34%を超えてきた。ゲームセンター事業を運営するハローズの全株式を譲渡し、23年度56億円、24年度46億円の政策保有株式売却を実施するなど資産の入れ替えも進めている。10次中計の大きなテーマであった財務基盤の強化は大きく進展する」
――ガバナンス強化については。
「スピーディな意思決定と取締役会のモニタリング機能の一層の強化を目的に取締役会のあり方を根本から見直し、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行を果たした。併せて監査等委員を含む社外取締役を女性取締役2人含めて取締役総数の半数に増やし、ガバナンスの強化を図った」
――リスクマネジメントも強化している。
「国内外で成長戦略投資を積極展開している。持続的成長の実現に向けて果敢に挑戦するためにも、取るべきリスクと取るべきでないリスクを的確に捉え、適切に管理する必要がある。そのためにリスクマネジメント部を設置した。在庫リスク、与信管理、カントリーリスク、デリバティブ取引に関わるリスクなどを従来の各セグメント別管理に加え横断的に把握しつつ可視化し、適切に管理・運用することで成長機会を逃さず、利益を引き上げていく」
――併行して株主還元を強化している。
「DOE(株主資本配当率)2・5%を下限とする安定配当方針を打ち出し、23年度185円、24年度225円の一株当たりの配当を実施。本年度は250円を予想しており、3%程度のDOEを維持する。24年度の20億円に続いて、本年度は50億円規模の自己株式取得を10月までに実施した」
――東証プライム上場企業に求められるPBR(株価純資産倍率)1・0倍は未達。
「株価は23年4月の4000円から7000円前後まで上昇してきたが、PBRは0・7倍程度にとどまる。11月に追加の50億円を上限とする自己株式取得を決定し、株主還元を加速する。併せて投資単位当たりの金額を引き下げることで株式の流動性の向上と、投資家層の拡大を目的に1対5の比率での株式分割を26年4月に実施することを決めた」
――2015年度から24年度までの約10年間で連結売上高を1兆5118億円から2兆5545億円に大きく拡大してきた。
「売上総利益は565億円から1406億円、営業利益が181億円から615億円、経常利益も154億円から597億円にそれぞれ拡大してきた。『そこか(即納・小口・加工)』戦略を打ち出し、『M&A+A(アライアンス)』を展開し、主力の鉄鋼ビジネスの付加価値を高めながら国内市場を深耕してきた。併せて国内鉄鋼需要の縮小を予測し、『東南アジアに第二の阪和を』構築する方針を打ち出し、インドネシアやシンガポールなどで『そこか』『M&A+A』を積極的に横展開し、加えて金属資源や二次電池材料、バイオマス燃料などへの投融資を重ねてきた」
――連結対象会社が24社から62社、単体の売上高も1兆2812億円から1兆8922億円に拡大、事業ポートフォリオも変化させてきた。
「そこか戦略や投資の効果に加え、新エネルギーや化学品分野に注力する一方で、ハローズを売却するなど事業の入れ替えも進めてきた。東南アジアの海外販売子会社は、『第二の阪和』戦略の下で、売上高が4000億円を超えており、経常利益100億円が視野に入っている」
――エネルギーは、バイオマス燃料ビジネス拡大に注力している。
「脱炭素社会に対応する燃料転換の流れを捉え、バイオマスやリサイクルエネルギーの事業拡大に注力している。PKS(パーム椰子殻)は、専用船を3隻に増やし、輸入品国内トップシェアをキープしている。ホワイトペレット(木質ペレット)、ブラックペレット(木質炭化ペレット)も東南アジア中心に調達先と供給網の整備を進めている。廃プラスチックや古紙などから作られ、石炭代替燃料として注目されているRPFやタイヤチップのサプライチェーン構築にも取り組んでいる」
――成長戦略投資を積極展開しつつ、財務体質の強化も図ってきた。
「総資産が5996億円から1兆1658億円、純資産は1561億円から3894億円に拡大。自己資本比率が25・8%から32・9%に上昇し、ネットDERは1・4倍から0・8倍に改善している。配当も一株当たり18円(現在の一株換算で90円)から225円まで引き上げてきた」
――業容拡大に併せて人的資本も強化してきた。
「阪和興業にとって人材が最も重要な経営資本であり、グループ全体の人材戦略を強化している。グローバルな視点を持ち、現地の文化や商慣習を理解しながら、商売や事業を開拓していく人材の育成が不可欠。企業内大学『Hanwa Business School』を開設し、貿易実務や財務分析、営業ノウハウ、投融資管理など商社パーソンとして必要な知識とスキルを習得できる環境を整えており、中堅・若手が積極的に活用している。国内MBAの取得支援、海外語学留学研修なども整備している」
――陣容を拡大している。 「連結従業員は15年度の2977人が24年は5688人に拡大。単体も1216人から1745人に増強しており、男性は750人から913人、女性が466人から832人にそれぞれ増加している」
――高水準の採用を続けている。
「新卒者は23年度119人、24年度129人、25年度98人で、26年度は70人を予定。中途採用は23年度118人、24年度76人で、25年度は70人を予定し、毎年100人超の採用を続ける」
――定着率は。
「離職率は、23年度が5・0%、24年度は6・6%。社会や価値観の変化もあり、離職者は増えている」
――「流通のプロ」を目指している。
「時代と市場の変化に迅速に対応し、『流通のプロ』として顧客の多様なニーズに応え、広く社会に貢献していくことを経営理念とし、サステナビリティ基本方針の一つにも、多様な個性が響き合い、高め合う職場づくりを目指すとしている」
――求める人材像、人材ポートフォリオは。
「マネージメント、プロフェッショナル、グローバルがキーワードで、経営人材の強化、高度専門職を含むコーポレート人材およびグローバル人材の育成とその人材を活かす組織態勢強化に取り組んでいる」
――人事評価制度は社員のモチベーションを大きく左右する。
「幅広く事業を展開しているため、一律的な評価では不公平感が生じる。そこで事業部門ごとの特性を考慮しつつ、ROIC等に関しては『改善幅』を評価軸として、相対的に評価することで、公平性とモチベーションの両立を図っている」
――女性社員の登用は。
「総合職採用に占める女性比率は30%前後を維持している。女性管理職は23年度7人、24年度10人で、管理職に占める比率は2・1%、2・6%。総合職入社、一般職からの総合職転換、転職者を含めて候補者を育成し、女性管理職を増やしていく。産休・育休明けの復職率は95%に達し、ちなみに男性社員の育休取得率も直近3年平均で60%を超えている」
――社員の成長が、グループ全体の競争力強化に直結する。
「執行役員以上が全員参加し、部門の枠を越えて適材適所を検討する『人材会議』を設け、将来のリーダー候補には現場力や経営管理力を会得してもらうため国内外のグループ会社を含めた横断的な部門異動を行うなど、キャリア形成支援を行っている」
――統合報告書では外国籍社員の活躍を伝えている。
「日本の大学を卒業して入社した社員、海外のナショナルスタッフから本社に移籍してきた社員など多様なルートで外国籍社員が入社しており、単体ベースの外国籍社員は38人。中国、トルコ、ウズベキスタン、英国など多国籍で、語学やバックグラウンドなど特性を活かして様々な職場で活躍している。グローバルビジネスの拡充に向けて、ナショナルスタッフを育成し、積極的に登用していく」
――2030年を見据えた長期ビジョンを描いている。
「サプライチェーンを創造し、すべての『ほしい』をつなげることで、持続可能な社会の実現に貢献する商社を目指し、『鉄鋼商社からサプライチェーン創造型商社への変革』を推し進めている」
――第3フェーズとなる第11次中計のテーマは。
「第10次中計では、『そこか』戦略の次のステージとして、トータルソリューション型ビジネスへの事業領域の拡大に取り組んでいる。顧客の要求や課題に対して、ワンストップでソリューションを提供するため、現場に深く入り込み、社内ネットワークを活用しながら、知恵を絞っている。第11次中計では、本社の新・基幹システム稼働を受けて、グループ全体で在庫・加工・物流に関する情報・データの共有化を進めており、連結経営の効率化、管理の徹底・強化を進めていく。現在、次期中計の策定作業を進めており、来年5月には発表する予定だ」
――海外市場については。
「北米、欧州のビジネス開拓を進め、経済成長が期待される南米、アフリカへのビジネス展開の基盤を構築したい。現時点では米国は金属スクラップや合金鉄のトレードが中心で、米国とカナダでブラックマスなど二次電池関連ビジネスを拡充している。その他、食品部門は食品に特化した子会社を保有し販路を拡大している。鉄鋼はサンディエゴでコイルセンターを保有するのみだが、日本の鉄鋼メーカー、製造業のビジネス拡大をチャンスと捉えて、幅広い視野で投資機会を探っていく」
――中国は経済成長が鈍化し、地産地消も進展し、日本企業の撤退が続いている。
「中国リスクを背負っているように見られているかも知れないが、現地における日系企業とのビジネスから、大明国際など現地の大手企業をパートナーとする国内で完結型のビジネス中心になっている。青山鋼鉄など高い国際競争力を持つ中国企業とはインドネシアなど中国外でのビジネスを拡充しており、中東やアフリカでのチャンスも窺っていく」
――財務面の目標は。
「次期中計にて現在の外部環境を考慮した新たな目標を打ち出し、PBR1倍以上を目指す。PBRについては、安定的で累進的な配当政策、自己株取得、株式分割などの手法を重ね合わせながら、IRをより充実させ、成長投資を含めた経営方針の株式市場への理解を求めていく」(谷藤 真澄)












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