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2024.10.30
2023年6月7日
商社の経営戦略/2030年以降を見据えて/阪和興業 中川洋一社長/実力利益500億円から上積み/電池材料、リサイクル含め資源確保
――2023年3月期連結経常利益は642億円となり、627億円だった前期の最高益を更新した。
「主力の鉄鋼は仕入れ価格の上昇に伴う利幅の縮小などで284億円(前期359億円)と減少した。一方、プライマリーメタルは戦略的投資先からの配当収入の増加、持分利益の増加などで139億円(72億円)に増加、エネルギー・生活資材も原油・石油製品価格の上昇、PKSやウッドペレットの需要増を背景に115億円(67億円)に増加。食品は9億円の損失(30億円の利益)に落ち込んだが、インドネシアやシンガポールの鋼材扱いが好調だった海外販売子会社は72億円(67億円)に増加した」
――今期予想を500億円と設定した。鉄鋼業を取り巻く環境は厳しくなっているが、実力ベースの利益をどう分析しているのか。
「ビジネスエリアが国内外に大きく広がっており、為替を含めて一過性の要素が増え、実力値を見極めることが難しくなっている。22年3月期は鋼材販売価格の上昇など追い風が強く、23年3月期は逆風も吹き始めた。今期は中国の不動産、米欧の金融引き締めなどのマイナス要因、本年3月に本格稼働した基幹システムの減価償却費用を織り込んでいる。実力値は500億円以上で、今期はさらに引き上げる」
――第9次中期経営計画(20―22年度)の経常利益目標は300億円で、30年ビジョンとして掲げた500億円も超過達成した。
「売上高は収益認識基準適用前で2兆1000億円の目標を大きく上回る3兆1000億円に達した。国内外で鉄鋼取扱量を伸ばし、資源高を背景に鋼材、非鉄金属、原油などの商品価格が高水準で推移した。経常利益は目標の2倍を超えたが、とくにASEANにおける鉄鋼販売網の拡大、ニッケル、クロムなどプライマリーメタルの戦略的投資の収益化などが寄与した」
――財務体質の改善を経営課題に掲げていた。
「利益剰余金の積み上げによって2000億円を目標としていた株主資本は2708億円に達し、有利子負債の圧縮によって1・3倍程度を目指したネットDEレシオも1・0倍程度に抑制。R&IとJCRからAマイナスの格付けも取得した」
――取引先、取扱量も拡大した。
「鉄鋼は、国内の『そこか』(即納・小口・加工)戦略、海外での『第二の阪和を東南アジアに』戦略を推進。累計5000社を目標に掲げた新規取引先は6400社を超えた。第9次中計以前に1000万トン規模だった鉄鋼取扱量は1459万トンと目標の1500万トンに迫った」
――「中期経営計画2025」(23-25年度)をスタートした。
「独立系商社として、『ユーザーのために』『ユーザーとともに』という基本スタンスを共有して臨む。経常利益を700億円に拡大し、ROE(株主資本純利益率)12%以上を目指すと同時に、更なる財務体質の強化にも注力する」
――初年度にあたる今期について。
「売上高2兆7000億円(前期2兆6682億円)、経常利益500億円、純利益360億円(515億円)を見込む」
――新たな指標DOE(株主資本配当率、配当総額÷期首株主資本)を導入する。
「財務基盤を強化しながら持続的成長に向けての『攻め』と『守り』をバランス良く実行し、併せて株主還元も強化する。DOE2・5%を下限に予見性ある安定的配当を実施し、機動的で柔軟な自己株式取得も検討する。今期は一株当たり年間配当170円(130円)、DOE2・55%を予想し、中計期間は累進的配当を計画する」
――投融資は積極姿勢を維持する。
「前中計は3年間500億円と設定した枠を大きく超える628億円の投融資を実行した。今中計はネットDEレシオを1・0倍以下に抑えるなど財務規律を維持しつつ、配当後の連結基礎営業キャッシュフロー内で800億円規模の投融資を展開し、持続的成長軌道を確かなものにする。阪和興業ならではのチャレンジ精神を発揮して『攻め』の経営スタンスを維持する。ただ米国の銀行に続いて、クレディ・スイスが救済合併され、金融不安の火種はくすぶり続けている。中国は経済成長が鈍化し、多くの不安材料を抱えている。中国系企業とのビジネスを維持・強化しながら、分散投資の視点も加えていく。また投資・撤退基準を見直し、コーポレート部門による社内横断的な審査体制も強化した上で案件を厳選。投資実行後もモニタリングを定期化し、リスクを徹底して抑制していく」
――事業戦略について鉄鋼事業から。
「現物にこだわり、ユーザーの課題解決に取り組み、産業の持続的発展に貢献していく。海外は地産地消型サプライチェーンの拡充に注力。国内は『そこか』事業の発展を目指し、昨年の阪和ダイサン設立、田中鉄鋼販売の連結子会社化など東日本における地上戦の強化策に続いて、半導体関連の大型建設投資が続く九州地区にも力を入れていく。同時に『そこか』事業における加工度をさらに高めることで、高い付加価値を持つ加工品を販売する『パーツ商社』の機能確立を目指す。さらに設計・施工会社とのアライアンスも視野に鉄骨工事、防熱工事など包括的なソリューション機能を提供。ユーザーとの共存共栄を志向し、25年度に向けて鉄鋼取扱量を250万トン増やし、1700万トンに引き上げていく」
――海外販売子会社事業が扱うASEANの鉄鋼戦略は。
「一部出資するインドネシアの高炉メーカー、徳信鋼鉄の半製品・製品販売を域内で広げており、ASEAN子会社の原料を含む鉄鋼販売量は前中計期間で年間300万トン規模に拡大した。徳信鋼鉄が3基目の高炉を稼働させることも踏まえて、ASEAN版『そこか』機能を強化するために輸送・加工・在庫ネットワークを広げていく。鉄鋼業の脱炭素化に対応して、鉄スクラップやHBIなど冷鉄源の調達ソースを拡充。今中計では鉄鋼販売量を450万トンに拡大していく」
――プライマリーメタル事業の戦略を。
「鉄鋼メーカー、非鉄金属メーカーへの安定供給を図るため、『出資を通じた資源の確保』と『需要地における在庫・即納機能』をテーマに掲げている。インドネシアでニッケル銑鉄からステンレスホットコイルを一貫生産する青山実業集団が電池材料、電池生産へと事業を拡大しており、ビジネスチャンスが大きく広がっている。南アフリカでは、フェロクロム最大手のサマンコールや白金・ニッケル・銅精鉱を生産するウォーターバーグJVリソーシズに出資。マレーシアでは水力発電によるグリーン電力で合金鉄を生産するOMホールディングスに出資。欧州では、オランダで金銀などEスクラップの回収・再利用事業を行う三菱マテリアルのMMメタル・リサイクリングに一部出資。フィンランドでは、高品質フェロクロムを生産するAFARAKグループに出資している。引き続き埋蔵量、競争力、地政学リスク、グリーンメタルなどを判断基準に資源投資を積極的に進めていく」
――「電動化グローバルグループ」を4月1日付で発足させた。
「一昨年4月に立ち上げた『電池チーム』の機能を高めるため、世界中の情報が集まるシンガポールに拠点を移し、グローバル体制に組織を再編成した。東京本社で電池チームのリーダーも務めていた伴野理事が4月1日付でシンガポール現地法人の社長に就任しており、電動化グローバルグループのリーダーも兼務する。偏在する電池資源の確保を急ぎ、需要家との連携を強化する。昨年9月、本田技研工業とEV電池の重要資源であるニッケル、コバルト、リチウムなどレアメタルの安定調達に向けた戦略的パートナーシップ契約を締結した。EV化による電池需要は世界規模で急増する見通しであり、日本の自動車メーカーもEV化を本格化する。ニッケルはインドネシア、南アフリカ、リチウムはメキシコ、アルゼンチン、コバルトはインドネシアなどで資源を確保しているが、電池材料のリサイクルを含めた資源確保に注力する。ニッケル、コバルト、リチウムなど正極材の原料に加えて、負極材の原料となるグラファイトについても豪州、マダガスカル、モザンビークなどで資源確保を具体化している」
――インドネシアではQMBが稼働を開始した。
「リチウムイオン電池の製造に不可欠な高純度ニッケル・コバルト化合物を鉱石から一貫して製造するQMBニューエナジー・マテリアルズは青山実業などとの合弁事業で、22年8月に本格稼働に入った」
――リサイクルメタル事業は。
「リサイクル・トランスフォーメーションを推進し、既存の回収・加工拠点を軸に日本最大規模の金属リサイクル事業に発展させる。昭和メタルが特殊金属、レアメタル、チタンなど高機能スクラップの回収・選別・加工・在庫機能を川崎と直江津に保有している。正起金属加工は、アルミ脱酸材の製造・販売、アルミ缶リサイクル事業を群馬、愛知、大分で展開。昭和メタルズは大阪市でステンレス・アルミ・銅スクラップ事業を運営。日興金属は北九州で特殊金属の低品位スクラップ、銅スクラップの事業を行っている。阪和本体のトレーディング機能をベースにグループ間のコラボレーションを深化させながら集荷・物流網を拡充し、リサイクル技術を磨きながら、太陽光パネルや二次電池のリサイクル事業も視野に入れて、販売先を巻き込んだかたちでのクローズドループを構築していく」
――エネルギー・生活資材事業の戦略は。
「PKSは輸入品国内トップシェアをさらに引き上げるため、安定調達先を拡大し、専用船を1隻から3隻に拡充する。ホワイトペレット、ブラックペレットについてもASEANでの植林事業などを通じて調達先と供給網の整備を急ぐ。タイヤなどリサイクルエネルギー事業も加速する」
――食品事業は事業再構築に取り組む。
「前期は円安による仕入れコスト増の価格転嫁が進まず、米国によるロシア産カニの輸入禁止措置、巣ごもり需要の縮小などに伴うカニの相場下落もあって赤字に転落した。今中計では、M&Aも視野に原料から加工まで手掛ける垂直統合型ビジネスモデルを構築し、エンドユーザーから選ばれる商社を目指す。ニシン、ホッケ、カニ、エビ、サバ、サケ・マスなど得意商品のトレーディングも強化し、東日本フーズ、ハンワフーズ、丸本本間水産など加工機能を持つグループ会社との連携を一層強化していく」
――海外販売子会社事業については。
「『第二の阪和を東南アジアに』戦略を鉄鋼のみならずプライマリーメタル、食品、エネルギーなどで幅広く推進し、ASEANでのプレゼンスを高めていく」
――その他事業は。
「木材事業は売上高が1200億円を超え、食品を上回る規模に成長してきている。国内外から木材を調達し、一次加工の製材、二次加工にあたるプレカット・集成加工を加えて、住宅メーカーなどへ供給する、木材版『そこか』機能を構築。住宅メーカーにはユニット鉄筋、フェンス、門柱などの鉄鋼製品を供給する体制も整えていく。機械事業は、『レジャー施設部』を『ライフ・アミューズメント部』に名称を変更し、遊園地アトラクション、プールやアスレチック施設の制作・施工・設置から子会社のハローズが扱うアミューズメント施設やフィットネスクラブフランチャイズの運営までを幅広く扱う総合アミューズメント事業を展開していく」
――2030年以降を見据えた成長戦略を。
「第9次中計スタートに併せて描いた長期ビジョン『Run up to HANWA 2030』で、未知のエリアに設定していた経常利益500億円を超過達成した。今中計はキャッチフレーズを『未知への挑戦』から『未知への飛翔』に置き換え、25年度目標700億円を達成し、1000億円に向けて持続的成長を図っていく。30年以降の経営環境を想定することは難しいが、国内の需要減少、物流などの『2024年問題』を背景とした鉄鋼流通の構造変化が加速し、資源ナショナリズムの高揚、EV用電池リサイクル市場の発展、Eスクラップの需要増なども想定される。国内外に共通するキーワードはESG、SDGs。独立系商社の強みを活かし、阪和興業ならではの商売感覚とデジタル技術を融合させることで専門化と標準化を同時に追求。より高い付加価値を提供し、すべてのユーザーとの共存共栄を図っていく」(谷藤 真澄)
「主力の鉄鋼は仕入れ価格の上昇に伴う利幅の縮小などで284億円(前期359億円)と減少した。一方、プライマリーメタルは戦略的投資先からの配当収入の増加、持分利益の増加などで139億円(72億円)に増加、エネルギー・生活資材も原油・石油製品価格の上昇、PKSやウッドペレットの需要増を背景に115億円(67億円)に増加。食品は9億円の損失(30億円の利益)に落ち込んだが、インドネシアやシンガポールの鋼材扱いが好調だった海外販売子会社は72億円(67億円)に増加した」
――今期予想を500億円と設定した。鉄鋼業を取り巻く環境は厳しくなっているが、実力ベースの利益をどう分析しているのか。
「ビジネスエリアが国内外に大きく広がっており、為替を含めて一過性の要素が増え、実力値を見極めることが難しくなっている。22年3月期は鋼材販売価格の上昇など追い風が強く、23年3月期は逆風も吹き始めた。今期は中国の不動産、米欧の金融引き締めなどのマイナス要因、本年3月に本格稼働した基幹システムの減価償却費用を織り込んでいる。実力値は500億円以上で、今期はさらに引き上げる」
――第9次中期経営計画(20―22年度)の経常利益目標は300億円で、30年ビジョンとして掲げた500億円も超過達成した。
「売上高は収益認識基準適用前で2兆1000億円の目標を大きく上回る3兆1000億円に達した。国内外で鉄鋼取扱量を伸ばし、資源高を背景に鋼材、非鉄金属、原油などの商品価格が高水準で推移した。経常利益は目標の2倍を超えたが、とくにASEANにおける鉄鋼販売網の拡大、ニッケル、クロムなどプライマリーメタルの戦略的投資の収益化などが寄与した」
――財務体質の改善を経営課題に掲げていた。
「利益剰余金の積み上げによって2000億円を目標としていた株主資本は2708億円に達し、有利子負債の圧縮によって1・3倍程度を目指したネットDEレシオも1・0倍程度に抑制。R&IとJCRからAマイナスの格付けも取得した」
――取引先、取扱量も拡大した。
「鉄鋼は、国内の『そこか』(即納・小口・加工)戦略、海外での『第二の阪和を東南アジアに』戦略を推進。累計5000社を目標に掲げた新規取引先は6400社を超えた。第9次中計以前に1000万トン規模だった鉄鋼取扱量は1459万トンと目標の1500万トンに迫った」
――「中期経営計画2025」(23-25年度)をスタートした。
「独立系商社として、『ユーザーのために』『ユーザーとともに』という基本スタンスを共有して臨む。経常利益を700億円に拡大し、ROE(株主資本純利益率)12%以上を目指すと同時に、更なる財務体質の強化にも注力する」
――初年度にあたる今期について。
「売上高2兆7000億円(前期2兆6682億円)、経常利益500億円、純利益360億円(515億円)を見込む」
――新たな指標DOE(株主資本配当率、配当総額÷期首株主資本)を導入する。
「財務基盤を強化しながら持続的成長に向けての『攻め』と『守り』をバランス良く実行し、併せて株主還元も強化する。DOE2・5%を下限に予見性ある安定的配当を実施し、機動的で柔軟な自己株式取得も検討する。今期は一株当たり年間配当170円(130円)、DOE2・55%を予想し、中計期間は累進的配当を計画する」
――投融資は積極姿勢を維持する。
「前中計は3年間500億円と設定した枠を大きく超える628億円の投融資を実行した。今中計はネットDEレシオを1・0倍以下に抑えるなど財務規律を維持しつつ、配当後の連結基礎営業キャッシュフロー内で800億円規模の投融資を展開し、持続的成長軌道を確かなものにする。阪和興業ならではのチャレンジ精神を発揮して『攻め』の経営スタンスを維持する。ただ米国の銀行に続いて、クレディ・スイスが救済合併され、金融不安の火種はくすぶり続けている。中国は経済成長が鈍化し、多くの不安材料を抱えている。中国系企業とのビジネスを維持・強化しながら、分散投資の視点も加えていく。また投資・撤退基準を見直し、コーポレート部門による社内横断的な審査体制も強化した上で案件を厳選。投資実行後もモニタリングを定期化し、リスクを徹底して抑制していく」
――事業戦略について鉄鋼事業から。
「現物にこだわり、ユーザーの課題解決に取り組み、産業の持続的発展に貢献していく。海外は地産地消型サプライチェーンの拡充に注力。国内は『そこか』事業の発展を目指し、昨年の阪和ダイサン設立、田中鉄鋼販売の連結子会社化など東日本における地上戦の強化策に続いて、半導体関連の大型建設投資が続く九州地区にも力を入れていく。同時に『そこか』事業における加工度をさらに高めることで、高い付加価値を持つ加工品を販売する『パーツ商社』の機能確立を目指す。さらに設計・施工会社とのアライアンスも視野に鉄骨工事、防熱工事など包括的なソリューション機能を提供。ユーザーとの共存共栄を志向し、25年度に向けて鉄鋼取扱量を250万トン増やし、1700万トンに引き上げていく」
――海外販売子会社事業が扱うASEANの鉄鋼戦略は。
「一部出資するインドネシアの高炉メーカー、徳信鋼鉄の半製品・製品販売を域内で広げており、ASEAN子会社の原料を含む鉄鋼販売量は前中計期間で年間300万トン規模に拡大した。徳信鋼鉄が3基目の高炉を稼働させることも踏まえて、ASEAN版『そこか』機能を強化するために輸送・加工・在庫ネットワークを広げていく。鉄鋼業の脱炭素化に対応して、鉄スクラップやHBIなど冷鉄源の調達ソースを拡充。今中計では鉄鋼販売量を450万トンに拡大していく」
――プライマリーメタル事業の戦略を。
「鉄鋼メーカー、非鉄金属メーカーへの安定供給を図るため、『出資を通じた資源の確保』と『需要地における在庫・即納機能』をテーマに掲げている。インドネシアでニッケル銑鉄からステンレスホットコイルを一貫生産する青山実業集団が電池材料、電池生産へと事業を拡大しており、ビジネスチャンスが大きく広がっている。南アフリカでは、フェロクロム最大手のサマンコールや白金・ニッケル・銅精鉱を生産するウォーターバーグJVリソーシズに出資。マレーシアでは水力発電によるグリーン電力で合金鉄を生産するOMホールディングスに出資。欧州では、オランダで金銀などEスクラップの回収・再利用事業を行う三菱マテリアルのMMメタル・リサイクリングに一部出資。フィンランドでは、高品質フェロクロムを生産するAFARAKグループに出資している。引き続き埋蔵量、競争力、地政学リスク、グリーンメタルなどを判断基準に資源投資を積極的に進めていく」
――「電動化グローバルグループ」を4月1日付で発足させた。
「一昨年4月に立ち上げた『電池チーム』の機能を高めるため、世界中の情報が集まるシンガポールに拠点を移し、グローバル体制に組織を再編成した。東京本社で電池チームのリーダーも務めていた伴野理事が4月1日付でシンガポール現地法人の社長に就任しており、電動化グローバルグループのリーダーも兼務する。偏在する電池資源の確保を急ぎ、需要家との連携を強化する。昨年9月、本田技研工業とEV電池の重要資源であるニッケル、コバルト、リチウムなどレアメタルの安定調達に向けた戦略的パートナーシップ契約を締結した。EV化による電池需要は世界規模で急増する見通しであり、日本の自動車メーカーもEV化を本格化する。ニッケルはインドネシア、南アフリカ、リチウムはメキシコ、アルゼンチン、コバルトはインドネシアなどで資源を確保しているが、電池材料のリサイクルを含めた資源確保に注力する。ニッケル、コバルト、リチウムなど正極材の原料に加えて、負極材の原料となるグラファイトについても豪州、マダガスカル、モザンビークなどで資源確保を具体化している」
――インドネシアではQMBが稼働を開始した。
「リチウムイオン電池の製造に不可欠な高純度ニッケル・コバルト化合物を鉱石から一貫して製造するQMBニューエナジー・マテリアルズは青山実業などとの合弁事業で、22年8月に本格稼働に入った」
――リサイクルメタル事業は。
「リサイクル・トランスフォーメーションを推進し、既存の回収・加工拠点を軸に日本最大規模の金属リサイクル事業に発展させる。昭和メタルが特殊金属、レアメタル、チタンなど高機能スクラップの回収・選別・加工・在庫機能を川崎と直江津に保有している。正起金属加工は、アルミ脱酸材の製造・販売、アルミ缶リサイクル事業を群馬、愛知、大分で展開。昭和メタルズは大阪市でステンレス・アルミ・銅スクラップ事業を運営。日興金属は北九州で特殊金属の低品位スクラップ、銅スクラップの事業を行っている。阪和本体のトレーディング機能をベースにグループ間のコラボレーションを深化させながら集荷・物流網を拡充し、リサイクル技術を磨きながら、太陽光パネルや二次電池のリサイクル事業も視野に入れて、販売先を巻き込んだかたちでのクローズドループを構築していく」
――エネルギー・生活資材事業の戦略は。
「PKSは輸入品国内トップシェアをさらに引き上げるため、安定調達先を拡大し、専用船を1隻から3隻に拡充する。ホワイトペレット、ブラックペレットについてもASEANでの植林事業などを通じて調達先と供給網の整備を急ぐ。タイヤなどリサイクルエネルギー事業も加速する」
――食品事業は事業再構築に取り組む。
「前期は円安による仕入れコスト増の価格転嫁が進まず、米国によるロシア産カニの輸入禁止措置、巣ごもり需要の縮小などに伴うカニの相場下落もあって赤字に転落した。今中計では、M&Aも視野に原料から加工まで手掛ける垂直統合型ビジネスモデルを構築し、エンドユーザーから選ばれる商社を目指す。ニシン、ホッケ、カニ、エビ、サバ、サケ・マスなど得意商品のトレーディングも強化し、東日本フーズ、ハンワフーズ、丸本本間水産など加工機能を持つグループ会社との連携を一層強化していく」
――海外販売子会社事業については。
「『第二の阪和を東南アジアに』戦略を鉄鋼のみならずプライマリーメタル、食品、エネルギーなどで幅広く推進し、ASEANでのプレゼンスを高めていく」
――その他事業は。
「木材事業は売上高が1200億円を超え、食品を上回る規模に成長してきている。国内外から木材を調達し、一次加工の製材、二次加工にあたるプレカット・集成加工を加えて、住宅メーカーなどへ供給する、木材版『そこか』機能を構築。住宅メーカーにはユニット鉄筋、フェンス、門柱などの鉄鋼製品を供給する体制も整えていく。機械事業は、『レジャー施設部』を『ライフ・アミューズメント部』に名称を変更し、遊園地アトラクション、プールやアスレチック施設の制作・施工・設置から子会社のハローズが扱うアミューズメント施設やフィットネスクラブフランチャイズの運営までを幅広く扱う総合アミューズメント事業を展開していく」
――2030年以降を見据えた成長戦略を。
「第9次中計スタートに併せて描いた長期ビジョン『Run up to HANWA 2030』で、未知のエリアに設定していた経常利益500億円を超過達成した。今中計はキャッチフレーズを『未知への挑戦』から『未知への飛翔』に置き換え、25年度目標700億円を達成し、1000億円に向けて持続的成長を図っていく。30年以降の経営環境を想定することは難しいが、国内の需要減少、物流などの『2024年問題』を背景とした鉄鋼流通の構造変化が加速し、資源ナショナリズムの高揚、EV用電池リサイクル市場の発展、Eスクラップの需要増なども想定される。国内外に共通するキーワードはESG、SDGs。独立系商社の強みを活かし、阪和興業ならではの商売感覚とデジタル技術を融合させることで専門化と標準化を同時に追求。より高い付加価値を提供し、すべてのユーザーとの共存共栄を図っていく」(谷藤 真澄)
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