2021年6月8日

神戸製鋼所 新中期経営計画を聞く 山口貢社長 安定収益へ重点5施策 脱炭素、複線的アプローチで

――今年度開始の3カ年の中期経営計画で安定収益基盤の確立をテーマに掲げた。

「3年間で安定した収益基盤の確立を目指す。重点施策は以下5点であり、鋼材事業の収益基盤強化、新規電力プロジェクトの円滑な立上げと安定稼働、素材系事業での戦略投資の収益貢献、不採算事業の再構築、機械系事業での収益安定化と成長市場への対応だ。鋼材事業の収益基盤強化は中長期的に国内粗鋼生産が人口減少や需要家の海外現地生産化などで漸減していく見通しであり、当社の鋼材事業のメニューをみた時にどれほどの量を確保できるか。年630万トンの粗鋼生産を確保する中で安定的に収益を出す体質にしていく。製鉄所は一カ所で余剰なものはない中で固定費をいかに削減するか。限界利益率を上げるために変動費を削減し、一方で特殊鋼・ハイテンなど高付加価値製品にシフトしていく。中でもハイテン鋼板は加古川製鉄所で立ち上げた第3CGLを新たな武器として高付加価値品の比率を上げていく。販売価格の改善も進める。粗鋼が600万トンに減少しても黒字を出せる体質にしていく」

――ROIC(投下資本利益率)目標の23年度5%以上、将来8%以上の道筋は。

「いろいろなステージがある。まずは投下資本をさほど大きくしない。さらに投資は入口のところでしっかりと管理する。あとは利益をどう上げるか。また売上高利益率、資産の回転率、運転資金の効率化などどういう点を指標としていくか。いろいろな要素をさらに分解し、社員一人一人が取り組むべきことを分解してアクションにつなげることも大事だ。事業ポートフォリオ管理委員会を今回立ち上げ、一つ一つの取り組みをウォッチする。鉄鋼の戦略投資はおおむね完了し、刈り取りの段階に入る。アルミは真岡製造所の熱処理設備が立ち上がり、中計の3年間で行う投資に大きなものはない。23年度の経常利益予想は1000億円程度でうち電力400億円、鉄鋼230億円、その他で400億円弱。電力は安定的で、鋼材などボラティリティの高い事業も安定化が重要となる。全体として利益の振れ幅を小さくしていく」

――成長を期待する海外事業拠点は業況が好転している。

「米国のプロテックは新しいCGLを立ち上げた。中国の鞍鋼集団との鞍鋼神鋼冷延高張力自動車鋼板は高加工性のハイテン鋼板のニーズが増え、受注の増加につながっている。中国のアルミパネル工場も堅調なアルミパネル需要を受け生産が増えている。東南アジアの特殊鋼棒鋼線材拠点のコベルコ・ミルコン・スチールはお客様での品質承認が取得できており、確実に生産を増やしていく」

――自動車の電動化が進むが、事業にどう影響するか。

「エンジンがモーターに変わり、弁ばねの市場は縮小していくと想定しても、モーターの周辺などで新たな特性に寄与する軸受鋼など特殊鋼が出てくるので原単位はそれほど下がらないとみている。燃料電池車にはチタンが使われる。軽量化は燃費改善が主な理由だったが、電池の重量増への対応、操作性、衝突安全性などニーズは高まる。アルミ製品も電動車向けに新規の注文が増えてきている」

――2050年に向けてカーボンニュートラルに挑戦する。

「30年に製鉄プロセスでのCO2排出を30―40%削減する。高炉については定常的な省エネやAIを使用した高炉の効率的操業、それからHBIの高炉への装入だ。HBIの装入は技術的に実証できており、今後は装入量をどこまで増やせるか、コストをいかに下げられるかが重要になる。2030年の先となるとステージは変わる。電気炉やミドレックス、水素還元など複線的アプローチとなる」

――電気炉導入の可能性は。

「カーボンニュートラルの議論の進捗や将来の当社の生産量、電気炉で高級鋼が製造可能かどうか、電気炉やミドレックスの直接還元鉄と組み合わせなどいろいろな課題について検討を進める。30年代半ばに加古川製鉄所の高炉2基が改修時期を迎える際に上工程の在り方をどう選択するか考えていく必要がある」

――電力事業について。

「神戸発電所ではアンモニアの混焼率を拡大し、50年に向けて専焼へ挑戦する。日本の電源構成として火力はある程度必要となり、その中で生き残っていく」

――脱炭素の中で新たなビジネスチャンスがあるのでは。

「水素やアンモニアの利用が進むにつれ、当社グループの圧縮機や熱交換器などの引き合いが出てきている。その他にも高純度水素発生装置やバイオマス技術などグループとして経営資源を多く持っていることが強みになる。今の社会的な問題は一つの技術ではなく、いろいろな技術をミックスさせて解決する必要がある。横串機能を強化して総合力を発揮する。社会構造が変わる中だからこそチャンスがあり、積極的に働きかけていく」

――不採算事業の再構築を進める。

「低収益の事業を放置しておくわけにはいかない。鋳鍛鋼事業は国内の造船メーカーが厳しい状況にあり、事業構造に合わせたダウンサイジング、合理化をせざるを得ない。チタン事業は航空機関連がしばらく低迷する見通しから品種構成を改善する。21年度は黒字になる予想。航空機用の大型鍛造品は固定費を削減しているが、需要動向を見極める必要がある。足元は燃料電池用のチタン箔を量産し、収益に貢献しているが、中期計画の先をみていく。クレーン事業はコロナ禍後も需要は増えない見通しの上に東南アジアなどで競争が激しくなっている。クレーンの事業規模を見直し、それに合わせて固定費を削減するなどスリム化し、22年度の黒字化を目指す。低収益の事業は黒字化の時期を明確にし、その先をどうするかを明確にして進捗を管理する。ユニット単位で収益を管理し、不採算を改善し、黒字にならなければ収益貢献していないことになり、今後の方向性を見極める必要がある」

――人材育成も重要テーマに据えた。

「時代の変化が激しい中でどのような人材が必要か。どう育成し、評価していくか。女性や外国人の活躍もより重要になる。海外拠点のローカルスタッフをいかに登用していくかも大事になる」

――20年度最終の前中計を振り返ると。

「加古川製鉄所に上工程を集約したが、米中貿易摩擦や原料高・製品安の影響や、生産の上方弾力性を確保するために固定費が高止まりした。成長の新たな柱として自動車軽量化戦略を打ち出し戦略投資を進めたが、需要が当初思っていたような立ち上がりではなく、後ろ倒しになっている。増産の設備投資を行ったが、ものづくりの面で課題があり機会損失が生じた。電力は新規プロジェクトを進め安定的に収益を作り出し、建機は中国事業を再構築して全体的に安定度を高めた。安定して収益を出している機械はさらに可能性を求め、特に圧縮機を拡大した。新中期計画では再度収益の安定化を図る」

――20年度は2期ぶりに黒字化した。

「前半は自動車の生産台数が減少し、当社の特に鉄鋼の生産量が減少した。中国がいち早く回復し、昨年半ば以降は国内の自動車生産が回復基調となり、上期の経常損益350億円程度の赤字から下期は黒字を達成し、年度でも経常利益160億円程度の黒字となった。当期利益も黒字を確保し、2期連続の赤字を避けることができ、復配にもこぎつけた」

――21年度は利益改善を進める。

「鋼材中心に生産量の回復が続く見通しのもとに21年度は450億円の経常利益を予想している。鋼材や自動車関連のアルミ板、アルミのサスペンションや押出材の数量が回復していく。全体の数量構成影響は素材系を中心に20年度比で480億円を見込んでいる。一方、機械系は受注と売上にタイムラグがあり、20年度は製造業の設備投資意欲の減退で受注高が停滞したため、21年度は減益の見込み。電力は20年度の電力需給ひっ迫対応の反動や、真岡発電所の法定点検もあり、減益となる」

――20年度下期の連結経常利益は500億円強。21年度の利益予想は上に振れてもよいのでは。

「鉄鋼の21年度は在庫評価影響を除くと、粗鋼660万トンで140億円の利益を予想するが、機械や電力は下期への利益偏重と受注が減少した反動がある。緊急収益対策の一部解除も影響する。需要については自動車や缶材、IT・半導体関連は堅調。建築は、物流倉庫などは底堅いが住宅は振るわず、全体では20年度並み。造船は下げ止まったがなお厳しく、航空機関連はしばらく低迷が続く。機械は受注回復の傾向がみえている。鋼材の製品価格については、鉄鉱石の価格が高騰しているのでいかに製品価格に転嫁していけるかが重要となる。ご理解いただくよう値上げの努力を続けていく。エキストラについても理解を得ていきたい」

「戦略投資は需要の立ち上がりが遅れているのと、ものづくりの面の問題があり、コストが上がるなどがあったが、めどがついてきた。アルミ板は缶材やIT・半導体用の厚板、ディスクがあり、全体としては20年度も黒字なので引き続き利益を確保していく。アルミのサスペンションと押出は需要が好調で数量が増え、22年度に黒字化のめどを立てている。銅板は半導体関連や車載搭載用の端子など伸長が期待でき、確実に利益を出していける」

――昨年4月に組織改編を行った。

「自動車軽量化の観点でみるとワンストップになり、効率的とお客様から評価をいただいている。鉄鋼とアルミ・銅を2つの事業部門に再編したうえで、ユニット制としたことで、ユニットごとに収益意識が向上した。かみ合った歯車が中期計画に入り、回り出していく感触だ」(植木美知也)

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