2020年8月24日

「変革する建設市場 未来のあり姿を見据えて」 鉄骨・鉄筋(上) 人手不足対応待ったなし 生産性向上、働き方改革へ

 国内普通鋼需要の約5割を占める建設分野。その中で鉄骨(S)造や鉄筋コンクリート(RC)造の鉄鋼系構造物の需要は直近数年間にわたり、好調を維持してきた。しかし、米中貿易摩擦の激化に伴う世界経済の成長減速に加え、新型コロナウイルスの発生もあり、需要の下振れなど再び厳しい見通しが強まっている。一方で鉄骨ファブや鉄筋加工業者は少子高齢化に伴う技能者、技術者の減少、高齢化への対応などが待ったなしの状態にあり、新たな工法やICTなどの導入による省人化、効率化にも迫られている。国民の生命と財産を守る鉄鋼系構造物業界を取り巻くさまざまな課題とその対応から、業界の将来像を検証する。

 【需要動向】

 2019年度の鉄骨需要量は456万6714トンと4年ぶりに500万トンを割り込み、鉄筋用小形棒鋼の国内向け出荷数量は730万4232トンと3年ぶりのマイナスとなった。本年夏に予定されていた東京オリンピック・パラリンピック向けの施設建設などが終了したことや、世界的な景気減速に伴う民間設備投資に絡んだ建築需要の低下などが主な要因だ。



 本年初めから深刻化してきた新型コロナウイルスの感染拡大に伴う影響は本年度後半から顕在化する見通しで、実際に工場やホテル、マンションなどの中小案件の計画延期、中止などが発生。また東京オリンピックの1年延期に伴い、その閉幕後から着工が本格化する予定だった、東京都内を中心とした再開発物件に対する影響も懸念されている。今後の需要見通しは減少傾向が指摘されており、20年度の鉄骨需要は前年度比10%減の400万トン程度と目され、鉄筋用小形棒鋼についても不透明な状況にある。

 【市況の動き】

 需要の減少に伴いゼネコン間の受注競争が厳しくなったことで、鉄骨や鉄筋の加工賃についても、「ゼネコンの買い指し値が厳しくなり始めている」(Hグレードファブ)、「以前のように、社会保険料も含めた全て込みの価格で値下げ要請をするゼネコンが出てきている」(鉄筋加工業者)などゼネコンからの値下げ圧力が強まっている。一方で「今、価格を崩せばいつ上げ戻せるか分からない。安易な安値受注は避けるべき」(前出Hグレードファブ)などと、安値への抵抗を示す鉄骨ファブや鉄筋加工業者は少なくない。

 【課題となる人材の確保】

 建設業界では現在、就労者の高齢化と若手を中心とした採用難が大きな課題となっている。足元では景気の急減速により大手企業を中心に採用者数が急減していることから、中小企業の採用環境が改善しているとみられるものの、「建築専門工事業に対する認知度は低く、3Kイメージは根強い」(Mグレードファブ)とされ、若手の採用が急速に進んでいくとは考え難い。

 働き方改革に伴う残業など労働時間の規制強化、有給取得の義務化などへの対応も課題となる。近年、建設業界全体でも推進している4週8休制(週休2日制)への勤務形態の見直しは必要で、「高校でもハローワークでも、週休2日でない企業は見向きもされない」(前出Hグレードファブ)というのが現状だ。

 建設工事の工期は余裕がない場合が多く、降雨などの天候の影響で現場施工が遅れた際には、専門工事業者は残業や休日出勤の必要に迫られる。受注の山谷が大きく、繁忙期と閑散期の差が激しいことも、鉄骨ファブや鉄筋加工業者の操業の濃淡、残業などの増加につながっている。

 【求められる生産性向上】

 若手の採用や働き方改革への対応、さらには建設コストの削減などの観点から、建設業の生産性向上がテーマとなっている。

 現在、建設業に従事する技能者のうち60歳以上の年配者が約4分の1を占めており、10年後にはその大半が引退する見通し。29歳以下の技能者は全体の10%程度となっており今後、人手不足がより深刻化するとの見方が強い。国土交通省は、現場でのICTの活用や設計から施工までのプロセスを3次元データでつなぐといった新たな建設手法、“i―Construction”の推進を掲げている。生産性を20%程度引き上げることで、技能者などの不足に対応するとともに、1人当たりの仕事量軽減や工事日数の削減による休日の拡大につなげていく考えだ。

 建設業界全体が大きなターニングポイントを迎え、コロナの感染拡大で需要量や質的な変化が見込まれる中、鉄骨、鉄筋加工業界は対応を迫られている。多くが中小企業である建設専門工事業者が、いかにこれらの課題に対応していくのか、次回はその動きを探っていく。

鉄骨・鉄筋(下) 若手が入る魅力的な業種に 自動化進め職場環境改善



 新型コロナウイルスの感染拡大が全世界の経済活動に影響を及ぼし、国内景気も急激にマイナストレンドが強まっている。国内建設需要についても、民間設備投資に絡む工場や店舗などのほか、マンションやオフィスビルへの影響が生じるとの見通しが出ている状況だ。需要環境の厳しさが増す中、鉄骨、鉄筋加工業界では、就労者の高齢化や働き方改革、生産性向上などへの対応も課題となっている。新たな時代への適応を目指した業界の取り組みを紹介する。

 【若手人材の確保】

 鉄骨、鉄筋加工業界が直面している課題は多い。その一つが、若手人材の確保・育成だ。建設業就労者の4分の1が60歳以上となっている状況下、若手の採用は喫緊の課題だが、そのためには若い人材にとって魅力的な業種となることが重要となる。

 鉄骨ファブの全国組織、全国鉄構工業協会はアニメなども取り入れた動画やDVDなどの作成で、若者や女性に鉄骨製作業の魅力などを訴えている。全国鉄筋工事業協会は鉄筋工の全国王者を決めるイベント「TETSU―1GRANDPRIX」の開催や、機関誌の発刊などで業界をアピールしている。また各団体で新入社員研修や資格取得に向けた講習会などの制度を整え、企業各社のOJTだけでなく業界全体で採用後の育成にも力を注いでいる。

 【労働条件の改善】

 若手就労者の確保に対する障壁として“3K職場”のイメージや休みの少なさなど、労働環境や条件の問題が上げられる。それに対し、建設業界全体が4週8休(週休2日)制への移行を推進しており、鉄骨ファブでは一昨年ごろから、土日休日を採用するところが増えている。人手不足や人材採用難の傾向が顕在化する中で、「週休2日は若い人が求める最低条件」(Hグレードファブ)としてその対応を進めている。鉄筋加工業者では、全鉄筋が2018年10月の定例会で「全ての工事現場において7月から9月の全ての土日を休工する」との方針を掲げ、各地域、各社ごとに働きかけを行うなどの取り組みを進めてきた。

 【作業の生産性向上】

 就労人口の減少や建設コスト低減などに向けた建設業の生産性向上もテーマになっている。このため、鉄骨ファブ、鉄筋加工業者ともに工場での加工設備の自動化を推進。鉄骨では鋼材一次加工設備の自動化や、溶接用ロボットの普及が進んでおり、鉄筋加工業者でも近年、従来の切断機や曲げ加工機などに加え、切断から曲げ仕分けなどを全自動で行う自動加工設備の導入が進み始めている。

 これらの加工設備は、パソコンの加工データと連動したCAD・CAMシステムとなるもので、設計関連図面とともに加工図などのデータ作成が大きなポイントとなる。その意味では現場作業は残るものの、CADや自動設備のオペレーターといった、現在の若手が希望する職種で働くことができる機会が増え、現場作業の負担軽減につながる。

 建設現場でも鉄骨溶接ロボットの活用が普及し、鉄筋構造ではプレハブ化やロールマット工法など、鉄筋の配筋・結束作業を工場などで行い、現場作業の削減を図るといった工法が取り入れられており、工場や現場での省人化、生産性の向上が進められている。

 このような取り組みが、「従来に比べ若者が働きやすい職場環境となり、3Kイメージからの脱却や女性の活用など担い手の幅拡大につながる」(同)と職場環境の改善策として期待されている。

 さらに、CADの活用は国土交通省が進める設計から施工までのプロセスを3次元データでつなぐ設計手法の“i―Construction”の推進にも通じ、BIM(ビルディング・インフォーメーション・モデリング)による意匠から構造、設備までを含んだ設計、施工を効率的かつ高い精度で行う取り組みに対応していくことができる。現在、大手ゼネコンなどでは積極的にBIMの活用を進めており、鉄骨ファブでも対応を図る企業が出てきている。

 【建設専門工事業の新たな時代】

 建設業全体を取り巻く環境が変化する中、専門工事業者に求められる対応も変わっていく。ある鉄骨ファブでは、「ゼネコンはファブにサブコン的な役割りを求め始めているが、その対応は難しい。ただ、鉄骨のスペシャリストとしてさまざまな提案などを積極的に行い、建築物の品質向上や工期短縮などに貢献していく必要がある」と今後の展望を話す。

 また鉄筋加工業者では、「人手や資金力の問題もあり今後の鉄筋加工業者は、自動加工機などの先端設備を活用した工場加工を進めていく企業と、現場への技能者の派遣などを行う企業とに、それぞれ特化されていく時代になる。中途半端な事業形態が許されなくなっていくのでは」との見方を示しており、新たな時代のニーズに則した機能をいかに提供できるか、その追求が重要になっていく。

(安江 芳紀)

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