2020年9月25日

鉄鋼新経営―2030年に向けて― 日本冶金工業社長 久保田 尚志氏 高機能材の強化継続 都市鉱山活用を追求

――新型コロナウイルス感染症で経済活動が停滞し、国内外産業がダメージを受けている。足元のステンレス業界を取り巻く環境は。

「20年度に入り、新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けている。国内ステンレス業界は東京オリンピック・パラリンピック施設関連や、インバウンド需要でホテル関連などの需要が旺盛になり、2017―18年度は堅調に推移した。19年度は米中貿易摩擦、消費税増税に伴って一転、市場が低迷し、冷延薄板を中心に市中在庫が積み上がった。そこへ20年に入り、新型コロナが直撃した。ニッケル系のみを生産・販売する当社にとって自動車メーカーの減産影響は軽微で、ステイホームニーズに関わる物流や食品、情報通信など各分野は堅調ながら、建設分野や産業分野は実需の冷え込みが大きく、川崎製造所は7割操業の継続を余儀なくされている。4―6月が受注量のボトムで、最悪期を脱したが、まだまだ回復は弱い。感染防止と経済活動の両立が始まり、下期には徐々に回復すると思う。高機能材は海外売り上げ比率が7割を超えており、その半分が中国向け。中国の需要家向け受注は2月で大きく落ち込んだものの、3月以降は回復し、4月からはほぼ通常ベースに戻っている。一方、中国以外の市場はなかなか先が見通せず、厳しい環境が続く。高機能材を伸ばすという中・長期的なフレームは変わらず、状況を睨みながら、いま出来る限りの対策を講じている。雇用調整助成金を活用し、5月から従業員1人当たり月4日程度の一時帰休を継続しており、10月以降も検討する」

――4―6月期決算は減収増益となった。

「コロナ影響などで販売数量が落ち込んだことで減収となった。増益は前年同期で10億円となっていた在庫評価損が4―6月期は3億円となり、7億円改善したことが大きい」

――新中期3カ年計画「中期経営計画2020」が始動した。

「当社は創立95周年で、25年に100周年を迎える。前中計は100周年に向けて体制を整備する1次中計。今回は2次中計になり、100周年を契機として、次の世代により良い形で繋ぐことができるようにする。目指す姿は高機能材、一般材ともに『業界トップレベルの品質・納期・対応力で信頼され続けるグローバルサプライヤー』になること。目標に掲げる地位を確立し、いかなる困難な状況に直面しても俊敏で強靭、回復力があるレジリエントカンパニーを目指す。数値目標はコロナ影響を踏まえて現在、見直しているところで、4―9月期決算発表時に公表する予定だ」

――その新中計の中で、販売戦略を。

「一般材の数量は追わず、引き続き高機能材を強化・拡充する。高機能材部門(高機能材と高付加価値材)の売上高比率が確実に4割を超えてきている。ニッケル合金鋼板は世界で4社がしのぎを削る中、中国向けSOxスクラバー、インド向けFGD(火力発電所排煙脱硫装置)が堅調で数量増に寄与し、当社の世界シェアは18年の3位から、19年で2位にアップした。コロナ影響もあり、新中計の数値目標は現在見直しているものの、高機能材部門は売り上げ比率4割以上をキープしたい。ターゲットは環境エネルギー分野。SOxスクラバー、FGDをはじめ、有機ELや二次電池、EGRクーラー、水素エネルギーなどの分野でさらなる販売数量増を目指す。一般材はベースカーゴであり、重要。輸入材の影響はあるものの、上工程から下工程までの一貫ラインを有する川崎の特長を生かし、きめ細かくニーズを捕捉することによって、お客様の期待に応えていきたい」

――戦略的設備投資で生産対応力を強化する。

「今中計の戦略投資は、前中計(3年間で合計164億円)と同じ規模を想定していたが、足元の状況を鑑み、内容や時期を再検討し、柔軟に対応する。目玉である川崎に導入する新電気炉設備関連工事は22年1月の稼働に向けて、スケジュールどおりに進捗している。新電気炉はエネルギーや電極の原単位削減、使用する原料多様化によるコストダウンを図ることができ、本格稼働初年度にあたる22年度は、前中計最終年度の19年度比で20億円のコスト削減効果を見込んでいる。なにより一般材と高機能材を溶解していた60トン電気炉2基を、70トン電気炉1基体制に切り替える集約効果が大きい。新電気炉導入で川崎の上工程投資が一巡し、これからの投資は精整工程など下工程が中心になる。品質・納期といったお客様により高い付加価値を提供するとともに、労働環境の変化を踏まえ徹底した省人・省力化を実現する。すでに具体的な検討に入っており、優先順位を付けて実行する。今中計策定当初は設備能力の上方弾力性確保と老朽更新を目的とした川崎の冷延設備増強、厚板精整設備更新を検討してきた。コロナ禍で投資判断をすることが難しくなっている。冷延設備は老朽化していることもあり、今中計期間内で投資判断を行っていきたい」

――老朽設備対策は。

「トラブルを発生させることなく、需要家に対する安定供給を果たすため、厳しい経営環境下ながら、設備の老朽更新は歯を食いしばっても着実に実行する。熱間圧延機は我々の心臓部でこの電気制御部品も更新する必要がある。この基盤強化関連投資は前中計が176億円で、今中計も同規模になるだろう」

――『メタラジーの追求による技術力の向上』を掲げ、このほど高機能材の新鋼種「NAS355N」を開発した。新鋼種や新商品の開発ターゲットを。

「ここでもターゲットは環境エネルギー分野になり、需要家がサンプルを評価する段階のアイテムもある。当社の強みを活かした耐熱合金、高強度材の開発も進め、逐次マーケットに投入する。太陽光や水素など新エネルギーの実用化が加速しており、例えば水素は水電解して精製するために純ニッケルを使い、至近でニーズが増えている。今回の電気炉集約に伴い、特殊合金等の溶解をチャンスフリーにすることで高機能材の生産性が一段と高まり、品質も向上し、高まるニーズを捕捉できる」

――大江山製造所の特徴をどう生かすか。

「大江山製造所は川崎で使用するニッケルルッペを製錬している。インドネシアは禁輸措置が講じられ、現在はニューカレドニアからのみニッケル鉱石を輸入しているものの、中国など輸出先の多様化などで産出国の発言力が高まり、以前ほど安価で調達することが難しくなっている。品位の高い鉱石が少なくなり、ニッケル含有量が2%を下回るなど品質が安定しない場面もみられる。これを受けて、鉱石依存度を引き下げるため、都市鉱山の活用を進めてきた。大江山のロータリーキルン炉にニッケルを含有した廃触媒などを装入し、ニッケル原料へ製錬する。これこそ原料のメタラジーである。廃触媒にはニッケル鉱石の10倍のニッケルが含まれるケースがあり、今では使用するニッケル原料全体に占める都市鉱山由来の割合は4割に到達している、今中計で4割を超える見通しだが、究極的には100%都市鉱山リサイクルで製錬するよう、発破をかけているところだ」

――グループ販売会社の再販基盤強化は。

「ナス物産とクリーンメタルは各種加工販売を手掛け、需要家に近い。当社川崎の精整工程の増強とリンクし、2社が持つ加工や精整機能をどのように組み合わせていくか、役割分担を見直す。商品の高機能化が進んだことで、ステンレスメーカーは品質保証やコスト、納期などの面できめ細かく対応する機能が求められるようになった。加工及び精整工程のグループ最適化を検討し、最適体制を構築する」

――中国・南京鋼鉄とのJVの活用を。

「JVパートナーである南京鋼鉄が保有する熱間圧延機は5㍍幅で圧延反力1万2000トン。川崎の熱間圧延機は2・5㍍幅で圧延反力4000トンになり、幅は川崎の2倍、圧延反力は3倍になる。JVでは、川崎において製造できない広幅・大単重の厚板(高機能材)を南京鋼鉄の圧延機を活用して製造する。ニッケル合金を圧延するべく、当社の技術スタッフを動員してきたが、19年度から受注実績が増え、収益にも寄与している。向け先は中国がメーンで、広幅材は溶接作業の削減に繋がり、プラント関連設備などでニーズが多い。川崎からスラブを供給し、JVで圧延後、中国の需要家にデリバリーするスタイルが出来つつある」

――日鉄ステンレスの誕生でクロム系ステンレス冷延鋼板のOEM供給を受けている。

「公正取引委員会の指導によって、日鉄ステンレスの誕生でニッケル系だけでなく、自動車向けクロム系冷延薄板も一部移管された。現在は日鉄ステンレスからOEM供給を受けているが、22年3月末までに日鉄ステンレスへの委託加工も含めて自社供給に切り替えなければならない。当社からのOEM製品の顧客への供給は品質認証の関係上、一時的に混乱したものの、商権譲渡に伴う問題はすべてクリアしている。22年3月末までに内製化し、当社のミルシートで販売する計画だ。当社は以前、クロム系鋼板の一貫生産から撤退したものの、生産・販売した経験はある。今中計の設備投資はクロム系鋼板の自社生産切り替え分は入っていないが、必要に応じ検討する」

――AI、IoTの活用はどうか。

「今中計では『予防保全』、『品質向上』、『最適生産』、『最適物流』、『安全環境』という5つの分野にカテゴライズし、検討を進めている。まずはアナログ情報をデジタル化するなど、準備を進めている」

――人材育成にも力を注いでいる。

「川崎に試験・研究部門施設の一部と福利厚生施設を集約した複合棟を建設し、19年1月から利用を開始している。これから社宅も建て替える。製造所内のダイバーシティを推進するなど、入社しやすく、働きやすい会社を目指す。技能伝承や技術者育成も大きなテーマであり、引き続き今中計でも取り組んでいきたい」(濱坂浩司)

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