2020年11月5日

住友商事グローバルメタルズ 犬伏勝也副社長 新・鋼材本部長に聞く 市場俯瞰し戦略再構築 グローバル目線の提案力磨く

――本年4月、鋼板、自動車金属製品の2本部を鋼材本部に統合した。

「住友商事グローバルメタルズ(SCGM)の事業戦略をアップデートするのが狙い。自動車系と非自動車系に分かれていたわけだが、とくに海外を見据えた時に東アジア、ASEAN、西南アジア、欧米などの市場構造が異なり、鉄鋼需給も変化してきており、事業戦略を描き直すにあたり、まず市場を俯瞰することが重要と判断した。鋼材本部は、薄板、海外薄板、厚板建材、自動車鋼板第一、第二、メカニカル鋼管・特殊管、線材特殊鋼鋳鍛の7事業部あり、大変巨大な本部となるが、あくまでも戦略を描き直すための体制であり、組織のあり方についても検討を進めていく。約半年を経過し、コロナ禍で海外に出張できないのはもどかしいが、WEB会議システムなどのITツールを活用して各地と情報交換し、坂田社長、笹本副本部長と全体方針をすり合わせ、濃淡をつけながら進むべき方向性を描き始めている」

――国内は構造改革を推し進めている。

「市場が縮小するので機能を磨いて存在感を高めていく方針。戦略的事業会社を抱えているので、可能な分野は単独で、そうでない分野は他社とも連携して、マーケットリーダーのポジションを確保していく。住商メタルワン鋼管、NSステンレスは圧倒的なトップ企業となり、伊藤忠丸紅住商テクノスチールは2番手につけている。コイルセンター分野では、日鉄物産とともにサミットスチールとNSMコイルセンターに相互出資し、一方で自動車用コイルセンターでは、マツダスチールを伊藤忠丸紅鉄鋼との合弁で経営し、また折半出資で紅忠サミットコイルセンターを立ち上げた。関東でも伊藤忠丸紅鉄鋼、SUBARU、JFE商事との合弁で大利根倉庫を運営している」

――陣容は。

「約530人で、事務職が約190人、基幹職は約340人で、約70人が海外に駐在する」

――事業部の機能について。

「現在自動車関連については、自動車鋼板事業第二部がトヨタ向けを中心、第一部はマツダとSUBARU向けを中心に2事業部体制で対応しているが、グローバル戦略も見据えて一本化が必要だろうと考えている。海外薄板事業部は普通鋼、電磁鋼板、ブリキなどのトレードと亜鉛鉄板製造などの事業主管を行う。薄板事業部は国内の薄板を担当し、サミットスチール等の非自動車分野を主管する。厚板建材事業部は日本、韓国向け造船、並びに建機用厚板と、伊藤忠丸紅住商テクノスチールで対応する建材分野を担当し、同事業を主管している」

――メカニカル鋼管・特殊管事業部は。

「住商メタルワン鋼管の主管事業部。旧・住商鋼管、旧・メタルワン鋼管との統合によって全国規模のネットワークも構築できた。PMIが順調に進展し、期待通りのシナジーを発揮している」

――住商特殊鋼は、線材特殊鋼鋳鍛事業部に吸収した。

「リソースが無限大にあるわけではないので、市場構造や機能を考えて、住商特殊鋼は一部事業をUEXに譲渡した上で、線材特殊鋼鋳鍛事業部にて承継した」

――海外戦略をどう描き直す。

「基本は地域ごとに市場を深掘りしていく。米国、インドを重点戦略地域に位置付けて強化し、中国、ASEANは徹底的に合理化を図りながら戦略を組み立て直す」

――中国について。

「日系の電機メーカーの現地調達が加速し、購買担当者も現地化が進んでいる。天津、中山、南京、長春の自動車鋼板対応拠点は好調だが、それ以外は地場との競合も厳しくなっており経営戦略を見直す必要があると現状認識している。工具鋼では無錫、上海、佛山で流通事業を展開しており、将来を見据えた事業の合理化・高度化を目指す。コイルセンター機能では、ASEAN、中東も戦略の見直しを急いでいる。悩ましいのはタイ、インドネシア。1990年台には家電・電機対応でスタートしたが、需要構造の変化で2000年に入ってからは自動車中心の経営にシフトしてきたが成長はここに来て鈍化している。将来を見据えた追加対策が必要となっていると判断している」

――重点戦略地域のひとつ、米国市場対応について。

「コイルセンターのサミットホールディングスはテネシー州、オハイオ州の2拠点のみで、自動車メーカーの南下対応がテーマになっていた。シカゴ駐在時に拠点の拡充を検討していたが、昨年のマジックスチール買収で、アラバマ州、ミシガン州を加えた4拠点体制となり、鋼製家具分野にポートフォリオも広がった。日本製鉄のカルバート対応も可能となった。アルセロールミッタルのカナダ工場(旧ドファスコ)の加工扱いも少なくないので、理論上はミシガンのセンターも有効活用できる。メキシコはケレタロ、モントレー、サラマンカの3拠点を持つ。米国は加工・流通サービスの対価が認められる市場で、コイルセンターの機能はなくならない。米州一体運営の視点でM&Aも活用しながら拠点をさらに拡充していく」

――豊田通商と折半合弁のブランキング工場を建設中。

「トヨタ・マツダの新組立工場のオンサイトで来年央の稼働を予定する」

――インド戦略は。

「二輪車、四輪車を含めて製造業は発展途上であり、幅広い分野で積極果敢に挑戦を続けていきたい。ムカンドとの特殊鋼合弁をまずは軌道に乗せ、追加の施策も検討していきたい。ムカンドは、二輪車大手のバジャジグループの企業で、現地の販路・ネットワークを持っている。インドは現地鉄鋼メーカーが薄板の一次加工を内製しており、デリー近郊のコイルセンターでは、金型の設計・製造機能を持って、プレス加工を行い、日系企業向けに部品供給している。現地スタッフも育ってきており、日本同様の品質・サービスをセールスポイントに現地パートナーを加えた多面展開の可能性を探っていきたい」

――自動車分野について。

「乗用車はEV化、ハイブリッド化が加速し、バス・トラックでも燃料電池車が導入されて環境対策車両が一定量までは増えるのだろうと予想している。エンジン回りの部品はその分減少することになるが、マクロとしての生産台数は増加すればボディや足回り関連などの鋼材需要もある程度確保できるのではないかと期待する。また、環境車需要の拡大により、バッテリーケース、水素燃料タンクなどの需要も拡大するので同分野での取組には注力していく」

――最後に新本部長としての決意を。

「入社以来、30年以上にわたって、鉄鋼製品を扱ってきた。住友商事グループの6事業部門、グループ戦略事業会社のネットワークをフルに活用して市場を開拓し、需要を創出していく。世の中は常に多くの課題を抱えて走っている。市場を歩き回り、社会や取引先が抱える課題を集めてくることがビジネスの第一歩となる。鋼材ビジネスはSCGMで展開する舵を切った。複数ある鉄鋼商社において、際立つ存在感を確立しなければならない。全社員と共に社会と向き合い、グローバル目線での課題解決力、提案力を磨いて企業としての成長を続け、そして日本鉄鋼業を盛り上げていきたい」(谷藤 真澄)

▽プロフィル

犬伏勝也(いぬぶし・かつや)氏=86年慶大法卒、住友商事入社。タイのCSメタル、シンガポールのパンダイスチール、ベトナムのハノイスチールセンター勤務を含めて国内外の薄板畑を歩んできた。15年からの3年間はシカゴ店長兼米州鋼材・非鉄金属グループ長、18年からの2年間は中部支社長として視野と人脈を大きく広げてきた。19年4月執行役員、20年4月同・鋼材本部長、SCGM副社長。週末は歩くゴルフで運動不足を解消、「乗り物好き」で旅行に出かけてご当地ものの食材や料理でストレスを発散している。妻と中学3年生の一男との3人家族。1963円10月28日生まれ、東京都出身。

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