2021年6月2日

阪和興業の経営戦略 コロナ後を見据えて 古川弘成社長に聞く 戦略投資の成果本格化へ M&A対象先を開拓、電池も強化

――2020年度は連結経常損益が前年度の125億円の赤字から288億円の黒字に転換した。

「19年度は南ア・サマンコール関連の350億円規模の減損を一括処理したため赤字となったが、一過性要因を除いた実力ベースは約230億円の黒字だった。20年度は新型コロナウイルス影響が続き、売上高は8%減の1兆7455億円にとどまったが、約800億円の売上総利益を維持。出張旅費や交際費など販管費が抑制されて、営業利益は7%増の292億円となった。実力ベースの経常利益は315億円程度と見ている」

――コロナ禍が続く中、バブル期を除く実質最高益255億円(17年度)を超えた。

「国内鉄鋼市場の縮小を見越して約10年前から国内の中堅・中小企業との取引拡大を経営課題に掲げ、加工、小口物流などを得意とする企業を子会社化し、各地の優良企業と業務提携する『M&AプラスA(アライアンス)』戦略を推進。『即納・小口・加工』などの流通機能を拡充する『そこか』戦略を具体化してきた。約10年間で6,000社以上の新規取引先を獲得し、子会社も88社に増えた。併行して『東南アジアに第二の阪和を』をキャッチフレーズにASEAN市場でも『そこか』戦略を展開し、シンガポールのコスモスチール、ベトナムのSMCトレーディング、タイ、マレーシア、インドネシアなど鉄鋼流通企業との資本提携も推進。インドネシアは現地一貫製鉄業への参画もあって地場取引が急拡大し、現地法人のローカルスタッフは200人規模に達している。さらに『特色ある資源投資』と銘打って、クロム、ニッケル、マンガン、リチウム、白金族など中国で需要が伸びるものの産出されない金属資源の権益を確保してきた。総合商社系やメーカー系ではない『ユーザー系商社』として勝ち残るための、一連の戦略投資がようやく実り始めた」

――21年度の連結経常利益予想は325億円。第9次中期経営計画(20-22年度)の収益目標300億円を前倒しで達成する。

「すでに実力値では突破している。21年度は単体が220―230億円、国内子会社が60―70億円、海外子会社が30億円で、持分利益が加わってくる」

――国際鋼材市況、原料相場が急騰している。

「中国の鋼材需要が拡大を続ける一方で、中央政府の環境規制強化によって供給サイドが急ブレーキを踏んでいる。政府は国内の供給不足を避けるため鋼材の輸出優遇税制を5月から停止した。中国発の過剰生産・過剰輸出による需給面の不安がなくなったことから、米国を含めて世界中で鋼材市況が急騰している。アジアでもホットコイルが1000ドルを越えて、さらに上昇するなど過熱気味ではあるので、揺り戻しはあるだろうが、原料高が続き、需給がバランスする限り、適正な価格水準は維持される。ベトナム、インドネシア、マレーシアなどで高炉や電炉が生産を拡大し、ASEANでは地産地消が加速する」

――次のステージとなる連結経常利益500億円が視野に入ってきた。

「『M&AプラスA』でグループ化してきた子会社の利益が積み上がり、人材も育ってきた。第9次中計では『そこか』戦略を加速し、ESG経営を本格化する。世界主要国が脱炭素社会に舵を大きく切り、コロナ禍も加わって、市場構造は大転換期を迎えている。新年の社内挨拶で阪和興業、日本鉄鋼業はそれぞれターニングポイントを迎えており、大きなチャンスが目の前に広がっているとのメッセージを発信した。この10年間の戦略投資の成果が本格化するのはこれから。10年先としていた500億円をさらに前倒しできるように『事業開発推進チーム』『電池チーム』を4月に立ち上げた」

――「事業開発推進チーム」の狙いから。

「従来の『M&AプラスA』は、後継者がいない企業からのアプローチを待つ、ウェイティングのスタンスだった。日本鉄鋼業においては、内需縮小と輸出減を見据えた大手メーカーが設備集約に着手し、自動車など需要産業の構造変化も急ピッチで進む。リーマン・ショック後と同様、コロナ後の日本経済に対する不安も高まっている。後継者難に限らず、先行きの不安を抱える中堅・中小企業と一緒に『そこか』戦略を広げていく好機にある。そこで金融機関、M&A関連企業、投資ファンドなど外部の情報ソースも活用してM&A対象先を開拓し、新たな事業分野も開発していく。第2次『そこか』戦略では西日本、中部から東日本にエリアを広げて鉄鋼流通としての機能を拡充。グループ企業間の機能・拠点のシェアリングも進め、地場流通と共存しながら国内市場を広く深耕していく。キャッチフレーズは『3Mプラス2A(Much More M&A+Aggressive Alliance)』。鉄鋼に限らず、幅広い分野で収益機会を追求していく」

――「電池チーム」の目指すところは。

「二次電池の正極材分野ではニッケル、コバルトの圧倒的シェアを握る『黒子』としてビジネスを広げてきた。EVの時代がこれほど早く到来するとは考えていなかったが、主要国が脱炭素社会に舵を切り、世界にブームが一気に広がった。EV向けを含めた二次電池材料の急速な需要拡大を見込み、川上から川下、さらにリサイクルという視点で総合的な取り組みに特化する横断的組織として『電池チーム』を発足させた。電池サプライチェーンの国際標準化やエコシステム構築に取り組む目的で4月に設立された一般社団法人『電池サプライチェーン協議会』にも住友金属鉱山など約30社とともに加入した」

――今後の「電池」戦略を。

「ニッケル、コバルト、リチウム、マンガンに加えて、シリコン、グラファイトなどの主要原料、正極材のみならず負極材、電解液、セパレータなどの主要部材、半製品、バッテリー、さらにリサイクル原料や製品のリユースまでのサプライチェーンのすべての局面で、既存権益や商社機能も発揮しつつ、事業機会を創出していく。南豪州にグラファイト鉱山を保有し、環境に配慮したかたちで負極材向けの球状化黒鉛の製造を計画するリナスコール・リソーシズとMOUを3月に締結し、23年の稼働に向けて協議を進めている。リチウムイオン電池に不可欠とされるコバルトは、主要産出国のコンゴ民主共和国が児童労働などの人権問題を抱えており、資源確保が課題となっている。『特色ある資源投資』の一環として事業参画した中国の青山実業集団によるインドネシアでのニッケル銑鉄プロジェクトは、世界最強のコスト競争力を持つステンレス事業に発展し、さらに高純度ニッケル・コバルト化合物を鉱石から一貫製造するQMB事業に展開。QMB社は、青山実業、世界最大の車載用リチウムイオン電池メーカーである中国CATL社の子会社、中国の総合リサイクル最大手のGEM社との合弁で、硫酸ニッケルを年産15万トン、ニッケル純分換算5万トン規模、硫酸コバルトを2万トン、コバルト純分4千トン規模で22年に生産を開始する。一方で青山実業は、ニッケル銑鉄製造プロセスを応用して電池材料にも使用可能なニッケルマットの製造技術を確立し、商業生産を10月に開始する予定となっている。またメキシコでは、Bacarona Lithium社による高純度炭酸リチウム製造事業に出資しており、23年に工場を稼働させる予定となっている。さらに南アフリカでは、白金族やニッケル、銅など電池材料を生産するウォーターバーグ・プロジェクトに現地のインパラ・プラチナム、日本のJOGMEC、カナダの鉱山開発企業プラチナム・グループ・メタルとともに共同出資し、24年の稼働開始を見込んでいる」

――南アではサマンコールの収益も回復している。

「サマンコールは、中国の国営金属資源大手のシノ・スチール(中鋼集団)が事業主体となって収益構造改革が進展。クロム鉱石は、世界の埋蔵量の7割が南アに偏在しており、サマンコールは最大の権益を保有している。中国は、南アから調達した低品位のクロム鉱石を内蒙古で製錬していたが、環境規制によって生産できなくなった。この結果、クロム相場が上昇。さらに世界最大の鉄鋼メーカーとなった中国の宝武集団がステンレス事業強化を目的に中鋼集団を傘下に納めており、サマンコールは安定販売先も確保した。当社は減損処理も完了しており、今後の収益貢献に大きな期待を寄せている」

――合金鉄ではマンガンの権益も保有する。

「豪州上場企業で南ア、豪州にマンガン鉱山を保有するOMホールディングスに出資している。OMHはマレーシアに合金鉄プラントを建設し、水力発電所から供給される安価な電力でフェロシリコンやマンガン系合金鉄を生産している。東南アジアで高炉が相次ぎ稼働したことで需要が急増し、フル操業を継続している」

――青山実業とのインドネシア事業は、高炉一貫ビジネスにも発展した。

「青山実業グループと徳龍鋼鉄グループが、インドネシア・スラウェシ島に新設した高炉一貫普通鋼メーカーの徳信鋼鉄に10%を出資した。徳信は昨年3月に第1高炉が火入れし、コロナ影響で遅れていた第2高炉も本年2月に出銑を開始し、年産350万トン体制となった。第1高炉はビレット、丸棒・線材、第2高炉はスラブも生産。第3高炉が22年末に稼働すると600万トン体制を構築する。徳龍は天津鋼鉄を傘下に収め、中国本土で年産3000万トン体制にあるが、徳龍によるとコスト競争力は徳信の方が高い。操業開始1年半で黒字化し、足下の国際市況急騰で収益が急拡大している。稼働中の高炉2基ともに順調で、3基体制では700万トンの生産が見込める。さらに青山グループ、徳龍グループはインドネシア政府と年産1400万トンの高炉一貫製鉄所プロジェクトで合意し、建設用地の最終検討を進めている。中国政府が環境規制を強化したため、中国国内の高炉一貫生産は増加が抑制される。新規の大型プロジェクトは中国における半製品ニーズに対応するもので、販売先に困ることはない」

――冷鉄源市場は拡大する。

「インドネシアの徳信鋼鉄が生産するビレット、スラブなど半製品の販売を拡大する。徳信向けの合金鉄販売も伸ばしていく。冷鉄源は、日本のスクラップを中国、ベトナム、インドネシア向けに輸出している」

――非鉄リサイクル事業も拡張している。

「アルミ、銅、亜鉛、鉛、ニッケルなど非鉄・特殊金属リサイクル事業では、一定のポジションをキープしている。国内では正起金属加工が製鋼用アルミ脱酸材を製造。レアメタル・リサイクル最大手の昭和メタルは、阪和メタルズ、日興金属などとネットワークを形成。インドネシアでは現地のプリマ・グループと非鉄リサイクル事業を展開しており、拡張計画も進めている。タイではUACJとアルミのリサイクル工場が間もなく完成する。オランダでは三菱マテリアルと金銀滓などEスクラップのリサイクル事業も行っている」

――事業ポートフォリオが広がっている。

「20年度のセグメント利益(調整前343億円)は鉄鋼が189億円で55%を占めるが、プライマリー原料38億円、リサイクル原料7億円、食品21億円、エネルギー・生活資材55億円、海外販売子会社17億円とそれぞれが収益の柱に育ってきている。食品は、サケ、エビ、カニがトップクラスで、その他事業に区分けしている遊戯機械もトップ。住宅用の輸入木材もトップシェアで、東欧、ロシア、カナダ産を調達し、アジア向けの三国間取引も軌道に乗っている」

――組織改編したエネルギー・生活資材事業(旧石油・化成品事業)が好調。

「石油業界再編による市場縮小を見越して、事業構造転換を加速する。鉄鋼、化学、紙パルプなどの幅広い国内産業に重油・軽油などを供給。船舶用燃料、石油製品の輸出入にも注力している。また合成樹脂原料、ポリエチレン製等のプラスチック製品、産業用紙販売など紙料ビジネスも推進している。需要が伸びるバイオマス燃料は、専用船『MIDORI』を活用してインドネシア、マレーシア、タイからのPKS(パームヤシ殻)の輸入を拡大しており、国内シェアは約30%となっている。木質ペレットも合わせて100万トン規模に拡大していく」

――配当政策について。

「17年度は年間125円、18年度は150円の配当を実施し、配当性向を30%から40%超まで引き上げてきたが、19年度は減損によって2000億円を超えていた純資産が1660億円に減少した。株主資本2,000億円回復を目指しており、20年度は年間配当を60円に抑えたため配当性向は12%となった」

――本年度も増益基調を維持するが、配当は年間60円の予定。

「自己資本比率20%は本年度に達成するが、今後も投資の可能性があり、徳信鋼鉄の拡大など大きな資金需要も見込まれるため、自己資本を厚くしていきたい」(谷藤 真澄)

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