2021年10月20日

三菱商事 金属資源グループの戦略/田中格知GCEO/成長の道筋は明確/価値高まる川上に注力

三菱商事の金属資源グループは社会課題を軸にポートフォリオを組み換える。脱炭素や電化、循環型社会に貢献する新たな成長を目指すという田中格知GCEOに方針を聞いた。

――グループの業績を。

「2020年度は19年度比マイナス1342億円の(純利益)781億円だった。期初予算に比べ151億円の上振れだった。原料炭市況の悪化を銅と鉄鉱石、トレーディング事業で補った。トレーディングはRtM中心だが20年度は127億円だ。過去最高益と同時に、三菱商事のトレーディング会社の中でも上位の業績だ。前中経、今中経とポートフォリオの優良化に取り組んでいる。収益性、成長性を加味した上で、一部事業を売却し、ケジャベコ銅山の権益の買い増しや開発の意思決定、今年の3月に合意した三菱商事初のボーキサイト鉱山への参画を実行した。将来に向けた成長投資も進めた。21年度の見通しは800億円だ。資源価格が復調前の前提で保守的な数字を置いたが、事業環境も変化している。最初の3カ月間は659億円と進捗率82%。足元の価格と乖離しているので、適切なタイミングで業績見通しを変更したい」

「21年度は今の中経の最終年度という位置付けと次の中経に向けての助走期間だ。次の中経に向けて三菱商事の資源ビジネスのポートフォリオを大きく組み換える。今は原料炭、鉄鉱石、銅とアルミという商品軸でポートフォリオを組成している。次の中経に向けて将来の社会課題に対応できるよう変えたい。1つは低・脱炭素、その後に来る水素社会。2つ目が電化。3番目は省資源化を含めた循環型社会の到来。発想の起点は事業環境の変化に尽きる。一番大きなのはESGを巡る動きの加速だ。2つ目は地政学で、一番大きなインパクトを与えたのが中国によるオーストラリアの原料炭の禁輸だ。米中の覇権争いは当面継続する。3つ目はデジタル化だ。業界全体でデジタル化の動きが特にコロナが起きて加速している」

――4つのコアは維持し、成長を模索する。

「原料炭と鉄鉱石は低・脱炭素ポートフォリオに入れる。CCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)を絡めたり、水素社会も見通して貴金属を考える。電化のポートフォリオは銅とアルミが軸になる。リチウムやニッケルについても投資も含めた新たなビジネスモデルを検討していく。循環型社会ではリサイクルと省資源化を軸に取り組む。今年度中にビジネスモデルまで昇華させたい。ニッケルと貴金属は過去にポートフォリオに入っていたので参入しやすい。リチウムとかリサイクルはまずはトレーディングでインサイダー化するのが正攻法と考えている」

「鉱山事業は従来の手法では、生産性を上げたりコストを削減するのは限界に近付いている。もう一段、操業を効率化するにはデジタルの活用が一番大事だ。BMA全体で一台当たり200―300トン程積める大型トラックが約400台走っている。デジタル施策の一環として、去年グーニエラ炭鉱で自動運転トラックの本格導入を開始し、全トラック80台超への切り替えに向けて想定通り進んでいる。今2番目のドーニア炭鉱で全トラック30台超を自動運転に切り替え、生産効率が上がった。引き続きデジタルを活用した操業効率化には不断に取り組みたい」

「トレーディング事業はかなりの収益基盤に育ってきた。今年も予算は110億円くらいだが、去年と同じレベルまでいってほしい。去年RtMチャイナを作って中国の市場を取り込むところにも注力している。ケジャベコは自社持分を三菱商事が売る契約になっている。30万トンくらいの4割なので12万トンをRtMが販売する。オールクンは最終FS中で来年以降の開発意思決定を目指している。権益持分30%のボーキサイトはRtMが販売する。保有資産の販売を手掛けることで資産価値の向上に貢献する。もう1つRtMの成長分野として、電池材とか低・脱炭素の後の水素社会に向けてトレーディング事業でどういう貢献ができるか見定める」

――ボーキサイトの事業は面白い。

「川上から川下までどこに価値があるかはポイントだ。かつては製錬事業だった。特定の地域の電力代が上がると製錬は中東辺りに場所を動かしていった。電力代が安いからだ。下流にあったマージンが上流に変遷していると分析した。我々の強みがある鉱山だ。今後、グリーンアルミなどの地金需要が伸びることが予想される。原料も当然必要となる。今まで培った鉱山事業の知見を活用していきたい。地金のトレーディングでは、RtMは世界でも三本の指に入るプレイヤーなので、その位置付けは維持したい」

「来年から3カ年の中経が始まる。主力の原料炭は短期的にインドとか東南アジアのインフラ需要は極めて旺盛だ。鉄鋼需要は底堅くて原料炭需要も堅調に推移しているので顧客への安定供給を継続したい。低・脱炭素の観点で原料炭を使わない技術があるが、短中期の時間軸では電炉では高品位の鋼材に不安があり、直接還元は小規模のため、世界の需要をまかなうことはできない。水素還元は水素のコストが高いので先の話だ。高炉による生産が主力なので原料炭の資産は継続的に優良化したい」

――優良化とは。

「BMAで保有している鉱区だけでまだまだ掘れる。各社が環境負荷を低減していくことが要求される中、高品位の原料炭を使うことでCO2削減効果に繋がる。高品位の原料炭を安定供給できるサプライヤーはそんなにいない。デジタルを駆使してBMAを優良化するのが大きな使命だ。今6300万トン 掘っていて海上貿易量の約3分の1を占める。1年間操業するだけで多額の投資が必要だ。不可欠な投資はしっかりやる。中国も今後ピークアウトして粗鋼生産量が下がっていくと思うので、需要を見極めながら適切な生産量を維持したい」

「銅は電化社会が加速するので、電化、省エネ化を支える基礎素材として重要性が高まり、中長期的には需給の引き締まっていく見通し。中国に加えて高い経済成長が見込まれるインドとかASEANを中心に需要の増加を見込んでいる。当社の銅のポートフォリオではアングロ・アメリカン・スールとエスコンディダとアンタミナとロスぺランブレス、来年始まるペルーのケジャベコだ。既存の鉱山には開発オプションがあり、拡大する需要を取り込む準備は万端にできているので、刈り取りをして収益化を図る。心配しているのは実は供給面だ。銅の鉱山は品位の低下が進み、生産量が減少する傾向がある。新規の銅の鉱山開発の案件は少ない。30万トン規模で新しい山はケジャベコなど限られている。供給面が将来、電化社会や再生可能エネルギーの普及のボトルネックになりかねない。同じような傾向はアルミも電池材のリチウムとかニッケルでもある。水素社会が来るときは触媒としてのPGM(プラチナ系金属)が不可欠だ。もしかすると銅以上に供給能力がないかもしれない。きちんとした品質、数量が見込まれる地域は南アフリカとロシアくらい。水素社会と言われるが、需要を支えられるのかという需給環境だ」

「もう一つ次の中経で挑戦したいのは省資源化、資源の回収率に関する新しい技術を使ったビジネスモデルだ。19年に参画して今年増資した案件で、ジェティというアメリカの会社だ。今まで銅の含有量が低く回収していなかったものから、ジェティの技術を使うと製品にできるだけの銅を回収できる。ある意味リサイクルの拡大版と捉えている」

――ジェティはどのくらいの規模か。

「商業規模での導入が完了しているアメリカの銅鉱山での結果が想定以上だった。これを2つ、3つやって自信を高めてから事業化だ。技術サービスプロバイダーというビジネスモデルがあるし、権益を保有している鉱山で導入して回収率を高めるとか、実証が進む過程で見極めたい。銅の回収率を上げる技術にはもう一つ出資している。本来のリサイクルはどこのプロセスに入っていくのか見定めているところだ。考えているのはトレーサビリティー。グリーンアルミへの需要が高まる中、その製品がグリーンなのかなど、知見を駆使してビジネス展開していくのが三菱商事らしいという気がしている」

「今の中経の間に会社に約束した資産の入れ替えはやり遂げる。並行的にケジャベコとかオールクンを次のコア資産にしていく。次の10年に向けた成長の道筋は明確に描かれている。資源は次の10年を見据えて手を打っていく長期の視点が必要だ。前中経、今中経は優良資産を厳選し、資産入れ替えを徹底した6年間だった。非中核資産を売却した後を描きながら進めた。18年にグループCEO直轄のビジネスインキュベーションユニット、19年にはローカーボンタスクフォースを作って、次の10年を見据えた取り組みを検討して必要に応じて少額出資した。ジェティはビジネスインキュベーションユニットが見つけた案件だし、ローカーボンタスクフォースではCO2からパラキシレンを造る新エネルギー・産業技術NEDO(総合開発機構)案件の組成などに加え、今年はカーボンキュアという会社に出資した。CO2を有効活用する産業に適したCCUSを進めたい」

――次の中経は成長に舵を切る。

「全社が10兆円くらい投資していて、うちのグループは1兆7000億円くらい。5分の1弱だ。収益は過去5年間を見ると全社の4割くらい。稼いだキャッシュを全部グループで使うとはならないが、今中経と前の中経のケジャベコやオールクンのように次の成長に投下したい。次の中経では成長軌道に乗せていく。売却から投資への転換期と思っている」(正清 俊夫、田島 義史)

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