2022年6月16日

鉄鋼新経営 新たな成長に向けて/日本冶金工業社長 久保田 尚志氏/需要離れ・海外材動向注視/カーボンレスへ都市鉱山活用

――マーケットの現状から。

「ニッケル系ステンレス鋼板市況が2007―08年頃のニッケルバブル以来の水準に達しているが、足元の需要は底堅い。需要動向は、機械や半導体製造装置、食品設備、建築関連などが堅調。下期の見通しは不透明ながら、半導体や食品関連などが需要を下支えするとみている。一方、前期からニッケルやクロムをはじめとする原料価格や副資材、エネルギーコストが高騰し、アロイサーチャージやベースアップという形でステンレス製品価格の大幅な値上げを実施した。多くの顧客に理解を頂くことができている。3月に急騰したニッケル価格を受けて、5月も一段と値上げを実施した。ニッケルバブル時に問題となった需要家がステンレス以外の材料に移る『ステンレス離れ』は足元では起きていないが、今後の原料動向次第では懸念されるだろう。引き続き動向を注視していきたい。昨年以降、台湾や中国からの高水準のステンレス冷延鋼板の入着が目立つ。国内メーカー材との価格差は以前に比べて縮まっているが、需給バランスなど国内市場にもたらす影響を懸念すべきだと認識している。ステンレス協会が昨年、モニタリングを強化することを発表している。業界全体で引き続き対応していく課題だ」

――前期決算(2022年3月期)を振り返って。

「原料価格の高騰とステンレス価格の上昇が著しい中、ステンレス製品需要の回復が進んだことで、販売数量は一般材と高機能材で合わせて22万4000トンと21年3月期からおよそ2割伸びた。一般材と高機能材による販売増は営業利益ベースで50億円の増益要因となり、20年に策定した3カ年の中期経営計画で掲げている営業利益などの数値目標を超過達成した。高機能材は国内外の需要が底堅く推移し、売上数量と利益ともに当社の業績に貢献している。主に国内外で太陽光発電関連向けが中心に増えたほか、国内ではEGRクーラー向けや半導体関連が伸びた。カーボンニュートラルの潮流もあり、今後も高機能材需要は伸びてくると想定している。今年1月に本格稼働を開始した70トン電気炉は、立ち上がりと同時期に高機能材の受注残対応時期が重なり、加えて溶解プロセスなどの製鋼の最適条件習熟に時間がかかったため、1-3月はパフォーマンスを十分には出し切れなかったが、足元では手直しや対応もほぼ完了している。」

――今期は中計の最終年度にあたる。

「前期は想定していなかった原料価格の高騰に左右された一面もあったが、今期も目標達成に向けた取り組みを加速させる。営業は適正マージンの確保を、大江山製造所はカーボンレス・ニッケル製錬の実現に向けた取り組みを一層強化し、川崎製造所は新電気炉の効果を刈り取っていくなど、各部署でやるべき課題にチャレンジしていく」

――今期の設備投資について。

「来期以降にかけて川崎製造所の薄板工場に高効率冷間圧延設備を新設導入し、既設の冷間圧延設備を改造する。設備導入で高機能材による製造負荷を解消するなど生産性の向上を図り、高機能材の販売比率を一段と引き上げることができ、一般材の供給責任も果たす強靭な生産体制構築を目指す。現中計期間で大規模な設備投資決定は一通り終えたと考えている。一方で川崎製造所は老朽化した設備も多い。今後も優先順位を付けて設備を更新する必要があると認識している。合理化や生産性向上、カーボンニュートラルなど新たな付加価値をつけて弾力性を持たせながら、ポートフォリオを見極めた上で必要な投資を検討していきたい」

――カーボンレス・ニッケルに取り組むことを発表した。改めて狙いを。

「国内で唯一ニッケル製錬からステンレス製鋼、圧延まで一貫して手がけるメーカーとして、世界的な脱炭素の潮流にCO2削減で貢献することが求められている。一方で、ニッケル鉱石調達を取り巻く環境は、世界各国の資源ナショナリズムの高まりを受け、調達ソースが狭まっている。当社が大江山製造所で製錬を続けるために、バッテリーなどの高純度ニッケルが含まれたリサイクル原料『都市鉱山』の利用に着目した。ニッケル原料全体に占めるリサイクル原料の割合はすでに40%に達しているが、将来的には100%も可能とする体制に向け、大江山製造所の既設ロータリーキルン炉を活用した研究を進めている。大江山製造所向けのリサイクル原料の引き合いも増えるなど追い風も吹いている。川崎製造所でも還元炉を有効活用し、リサイクル原料使用比率を高めている。2030年度のCO2排出量46%削減(13年度比)に向け、カーボンレス・ニッケルの実現と当社全体でリサイクル循環を目指す」

――高機能材の開発などの進捗を。

「当社はニッケル合金をはじめとする開発を進めている。顧客の求める素材のニーズとともに、当社の技術力に基づくシーズを前提とした開発が特長だ。20年に発表したNAS355Nは、従来の高合金ではオーバースペックになってしまう用途をターゲットにするなど、需要を開拓し提案を進めてきた。当社の高機能材は川崎製造所だけではなく、広幅材を中国JVの南京鋼鉄で圧延し、現地需要に応えるなど、顧客の要求に合わせた対応も可能としている。3㍍を超える超広幅プレートの製品化にも成功した。足元の高機能材売上高は全体の4割を越えているが、中計で掲げた45%達成まであと一歩。顧客のニーズに応え、国内外での拡販を進めたい」

――グループ会社の再販基盤を刷新した。

「ステンレス鋼板加工流通のクリーンメタルを完全子会社化し、梱包材や金属加工品販売を手がけていたナスクリエートは当社への吸収合併と梱包材事業をナス物産に譲渡するなどの再編を行った。これにより、ナス物産は店売りなどのステンレス鋼販売やコイルセンター機能などに梱包資材などの販売が加わった。クリーンメタルは鋼板の曲げや切断加工、加工品販売に特化する体制となっている。クリーンメタルは元々、経営破綻したステンレス流通から事業を承継する形で発足し、ナス物産系の流通としてスタート。再販基盤体制を構築する中で、クリーンメタルとナス物産で役割が明確になった。これらの状況を踏まえ、ナス物産傘下から当社の完全子会社とすることを決めた。グループの再編は一段落したと考えている。今後は設備や販売拠点の在り方、再販基盤のさらなる強化についても検討する余地はある。次の中計策定時の一つのテーマになるだろう」

――JVの南京鋼鉄について。

「南京鋼鉄は19年に黒字化を達成するなど事業は好調だ。製造可能範囲が広がったことで、川崎製造所で対応できない広幅サイズなどの拠点として、中国国内のニーズに応え続けている。太陽光発電パネルの原料の一つ、多結晶シリコンの製造設備向けなどが好調だ。6月に入り中国国内のロックダウンが解除されており今後の需要増に期待したい。」

――クロム系ステンレス冷延鋼板のOEM供給について。

「22年3月までとなっていた日鉄ステンレスからのOEM供給は2年延長させて頂くこととなった。24年3月までの間、内製化などさまざまな選択肢を含めて検討を重ね、継続して供給出来る体制へ切り替えをおこなう」

――最後に、次期中計についての方針は。

「現在策定している中計は23年度を初年度とする3カ年ではあるが、脱炭素社会の加速と2030年度のCO2排出量を13年度対比で46%削減を意識したものとなるだろう。また、コロナ禍や近年多発する自然災害、そしてウクライナ情勢をめぐる問題で想定していなかった資材不足などの課題が浮き彫りになった。調達の多様化やBCPをさらに細かく策定することも必要だと考えている」(北村康平)

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