2022年1月26日

鉄鋼新経営 新たな成長に向けて 日本金属社長 下川康志氏 タイムリーに販価適正化 マグネ関連設備の投資視野

――国内外のマーケット環境をどう見るか。

「新型コロナウイルス感染症、半導体不足などに伴う自動車の減産と生産リカバリーの動きが交錯し、またオミクロン型の感染急拡大もあって見通しを立てるのが難しいが、自動車をはじめ市場環境は堅調だ。半導体増産に向けた設備関連や、5Gなど情報・通信の高速化・大容量化に伴う電子機器などの需要が出ており、福島工場で手掛ける精密加工製品は好調。中国はステンレスモール材について現地材との競争が激しい。拡販強化エリアの欧州や、現地規格・BISを取得できたインドではモール材や注射針用材などの新規受注が増えている」

――収益改善に向けた下期の施策は。

「上期は上昇した原材料を使用するタイミングに比べ、製品値上げの売り上げへの反映が一時的に先行するタイムラグによって『差益』が発生したが、下期以降はこれが大きく縮小する。原材料価格上昇分の販売価格への転嫁時期が遅れたり、上昇幅を補うことができないケースや、原材料価格や市況が下落に転じた場合は『差損』が発生する可能性があり、懸念している。採算を維持して需要家への安定供給を継続するため、販売価格をタイムリーに適正化していかなければならない」

――その販売価格についての考え方は。

「ステンレス製品は素材価格の大幅アップを受けて、アロイサーチャージ分をはじめ鉄鋼原料価格、その他コストも増大していることから、ベース価格改定やエキストラ体系の見直しなどを含めて、販売価格を引き上げた。日本国内の需要家は当社を取り巻く環境について概ね理解している。海外の需要家にはマージン改善の遅れなど日本特有の状況に対する理解活動を進めているところだ。至近は鉄鋼原料や合金鉄など急激な資源高に伴うコスト負担が増しており、適正利益を確保するため、販売価格体系を抜本的に見直している。今期からパイプや型鋼などステンレス加工品の販売価格にアロイリンク方式を導入した。これまでは概ね半期単位の個別交渉。これをLMEニッケルやクロムなどの価格を指標とし、四半期単位ごとにスライド適用で販売価格を見直すもので、すでに上期で採算改善の効果が出ている。これでステンレス製品の全品種でアロイリンク方式を適用したことになる。一方、これまで適用できていない製品のエキストラ体系構築にも着手したい。例えばステンレスモール材は近年、広幅タイプの採用が増えている。プレス成型で製造する広幅タイプは、ロールフォーミングで手掛ける細幅タイプに比べて歩留まりが低く、相対的にコスト高になりやすい。広幅エキストラの設定を検討している。その他分野についても適正マージンの確保に動く」



――板橋工場の火災に関して。第三圧延工場の復旧進捗状況を。

「追加の土壌調査が必要になり、基礎工事を見直したことで、当初計画に比べて1―2カ月程度、進捗が遅れている。ステンレス一貫メーカーで中間圧延を手掛けてもらっており、当社の加工幅は小さくなっている。復旧の遅れは収益改善のタイミングがずれることを意味し、1―3月期で目指していたステンレス製品の黒字化は難しくなっている。遅くとも3月までには2フィート圧延機、コイルビルドアップライン、切断機を徐々に立ち上げる。本格稼働までの期間を短縮するため、同タイプの設備を活用して、オペレーターの事前訓練を行っている。圧延機を4フィートから2フィートタイプに切り替えることで生産性が一部上がる。圧延以降の工程はすべて2フィート対応のため、後工程との連携がスムーズになる」

――第11次経営計画第1フェーズの進捗と、これまでの評価。

「第1フェーズの最大目標である黒字転換は、連結ベースでは1年前倒しで達成できそうだ。単体ベースは当初見通しに比べて赤字幅が縮小し、来期黒字化に向けて大きく前進している。原材料のアロイリンク適用やベース価格改定をはじめ、エキストラ改定も進展。当面は火災復旧を優先するため、その他設備投資を抑制せざるを得ない状況にあり、最小限のコストで歩留まり改善と生産性向上に取り組んだ成果が出始めている。板橋工場と研究所が連携し、ステンレス製品の不良発生について原因究明と対策方法を探求し、歩留まりが1ポイント程度向上した。受注が回復している福島工場と岐阜工場は既存設備を改造して検査工程を自動化するなどの対策を講じた結果、最小コストで能力不足を解消し、収益増に寄与している。火災復旧のめどが立ち、製造基盤強化に向けた設備投資の優先順位付けを全社レベルで進めている。来期以降、ビジネスチャンスを逸しないタイミングで投資を推進していきたい」



――『機能強化製品の販売増強』、『新アイテムの獲得・事業化』の取り組みはどうか。

「代表的な機能強化製品である黒加飾ステンレス鋼の『FineBlack(ファインブラック)』はようやく量産ベースに乗り、実績のある日産自動車のスカイライン以外でも採用が拡大。国内だけでなく、海外ブランド車にもアプローチしている。月間40トンの販売目標に対して、23年時点で30トン弱を想定しており、今後も販売伸長を見込んでいる」

「新事業アイテムは、主に次世代自動車や次世代電池向けに試作評価が進んでおり、採用が内定した案件もある。ただ、新アイテムの大半は25年前後に立ち上がるため、新規設備投資や量産の判断は本年以降になる見通し。リチウムイオン電池に代わるマグネシウム電池の開発が注目され、負極材などでマグネシウム新合金の採用が検討されており、期待度は大きい。常温加工を可能にするなど、マグネシウムの採用にあたってネックとなっていた加工性を改善したことで、需要家の問い合わせは増えている。マグネシウム関連はいずれ能力を上回る受注水準に達するとみており、圧延機増強も視野に入れる。一方、極薄電磁鋼帯は高速回転・小型モーターをターゲットにしており、家電製品や医療機器で新規採用が決定。ステンレス鋼とPEEK樹脂との複合パイプはコイル製品の量産化を実現し、成約が増えている。またアルミや銅など非鉄金属の引き合い増を背景に異形鋼成形ライン導入を進めており、非鉄金属加工も積極的に取り組んでいきたい」

――重点課題の1つに掲げている働き方改革、人材育成について。

「コロナ禍で実施した施策の中で、働き方改革で効果が期待されるものを継続する。本年中にパソコンをデスクトップ型からノート型に切り替え、フリーアドレスや在宅勤務、ペーパーレス、WEB面接などで使う。オフ・ピーク通勤を常態化することも検討中だ。人材育成は専門技術とリーダーシップの強化に重点を置く。社内専任講師による定期的な研修会のほか、外部講習も積極的に活用し、キャリアアップを支援するため、資格取得で一時金などを支払う『資格取得奨励金制度』、取得費用を補助する『資格取得支援制度』、キャリアに係るカウンセリングを行う『セルフキャリアドック』、本人の希望をヒアリングしながら育成する『10年育成プラン』などを導入。OJT中心の工場技術職員の教育方法を見直し、トップレベルの技能保持者のスキルを効果的に伝承する教育システム導入や、VRや動画を用いた教育プランも検討中だ」

――脱炭素社会に向けた動きへの対応は。

「地球環境を保全するため、全世界でCO2削減に向けた動きがより活発化し、市場ニーズが大きく変わってきている。この環境下において、社内の生産工程におけるCO2排出削減などの取り組みを進めるとともに、当社が有する技術・製品の環境貢献度を評価し、『エコプロダクツ』の販売比率を増やすことも目標に掲げる。また開発方針のキーワードとしている、最終製品形状に近い複雑な成形加工を実現する『Near Net Shape』、最終製品に要求される性能を素材・部材で実現する『Near Net Performance』は社会的要請にマッチしており、ユーザーの工程省略や歩留まり向上を通じて、省資源・省エネルギーなど地球環境改善に貢献する技術・製品開発と拡販を加速させる。同時に異形鋼やファインパイプなどの加工品はさらなる複雑形状に挑戦し、ステンレス鋼や特殊鋼など鋼帯製品は金型寿命を改善する『L・Diel(ル・ディール)』や、導電性を改善する『L・Core(ル・コア)』など、表面処理や熱処理の独自技術を深化させる」

「50年カーボンニュートラル達成を目標とした専門組織を22年中に発足させる。4月の東京証券取引所による市場区分の再編でプライム上場を選択しており、プライム企業に求められるSDGs(持続可能な開発目標)や気候変動リスクへの対応などを事業計画に織り込み、企業価値向上を推進して、カーボンニュートラルの実現に寄与していきたい」(濱坂浩司)

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